第61倭 イウェンテㇷ゚棲みし都
ウガヤの任務に同行したミチヒメとオオトシは…
「カニシカ…一世…ですか?」
「うむ…。クスターナの民と共に協力に向かって欲しい。あくまでロルンペを停める、もしくは余計な犠牲が出ぬ為にな」
「もしかして相手は…カムイでしょうか?」
オオトシはやや険しい顔つきで伏犠に尋ねた。
「朕達同様のシ=パセ=カムイではないが…少なくともお主たち同様の強さは持ち合わせていると聞く」
「待って下さい! アヨーディヤーって! ラーマさまのモシリの都じゃありませんか!」
驚いたミチヒメは伏犠に食ってかからんばかりの勢いで尋ねた。
「…文献に残るあの…エカンナイのコーサラ=ルーガル、ラーマの事であるか?」
「え? エカンナイ…の? わたしラーマさまにお逢いしたの季節一廻り前ですよ?」
頭上に巨大な疑問符を浮かべながら不思議そうにしているミチヒメを見かねたモノが声をかける。
「…ミチヒメ…実はな…言ってなかったことがあるトラ…」
ビャッコが口を切り獣王達は告白をし始めた。
「ナムワッカ=シリ=オタ=ルで貴女に出逢い…」
「修行の旅路の中…一度ガンダーラのタクシャシラーに訪れ…そこにある…ウパスクマ=エ=テメン=アンキに寄ったであろう?」
「うん。一度中に入って…塔主さまに会って…お話聞いてすぐ出たよね?」
「…彼之塔刻巡行自在可能。故、道比女刻逆行我々時代連行…」
「…実に数百の刻逆戻りし…。そこより我等はそなたを誘ったのだミチヒメ…」
「え、ええええ~! じゃ、じゃ、あの刻のコトって…!」
「…ウエペケㇾになっているくらい昔だトラ…」
「…じゃぁ…あなたたちは…自分の時代の全てと別れて今わたしのそばにいてくれているの?」
「貴女についていく方が…先々の生をより楽しく観じられる気がしましてね♪」
「現状我々はミチヒメ、そなたに根付いた形になっているので、な」
「否土地之契約、一個体依代化」
「ま~そんなワケで…オレらのチセみたいなもんだし、一緒ならオモシロソ~だし…オマエもオレタチいないと大変トラ? ミチヒメ?」
「うんうん! 本当にありがとう! 最後の辺りおぼろげなのは…大きな刻の流れがあったからなのね」
ミチヒメはまるで違う時代に連れていかれていた事よりも、事を終えた後もそこを捨ててまでついて来てくれたことに感動した。
「少々逡巡いたしたがあの機を逃すと次跳べるのはしばらく後になった故…」
申し訳なさそうに青龍がそう言う。
「も~ろ~としていてうまくしゃべれないまんまラーマさまとのお別れもみんなにどうするかもちゃんと言えなくってごめんなさいね…」
「そ~いやラーマさまに…跳ぶ直前のまんまのミチヒメのポトキを作っておいてとお願いしたけど…この時代に残っているトラ?」
「むこーのモシリで後で見に行って皆で大笑いするからソックリそのまんまでお願いしていましたわね♪」
スザクが楽しそうにそう応える。
「ええ~!? そ、それって…最後コッチ戻ってくるときのわたし? そんなにエパタイなカンジだったの?」
「現状以上未熟道比女《ニヒョウイシタタメ》為憑依、故過負荷状態也」
「あ…じゃぁ…ウブ=イキネイペカの刻みたいに…」
「うん? あ、あんなモンじゃない位のだらし…モゴモゴ」
「そーですわね、そんな感じで朦朧としている状態でしたが…門が閉じる前に連れてきてしまいましたの…すみません」
ビャッコの口を塞ぎながらスザクは少しだけ申し訳なさそうに応える。
「…い~のよ! そうか…もっとずぅっと昔のコトだったんだ…。あの後ラーマさまは幸せに暮らせたのかな?」
「朕の聞き及びし処では…妻シーターを大切にし子宝にも恵まれ…緋徒として幸せに生き抜いたそうであるぞ」
「そうか…よかったぁ~! ラーマさまってなんかこう…緋徒っぽくなさすぎと言うか…自分のイレンカより使命を平然と優先したりとか…ラムはとっても緋徒離れしていたと言うか緋徒基準で観たらとっても未熟でいつも心配だったから!」
「…独りのマッカチとの出会いにより、ラムのまま、イレンカの赴くままに生きる事を学びし…遺されしカㇺピソㇲにはそう書かれておるぞ♪」
花が咲いたように明るい表情の笑みを携えてミチヒメが応える。
「まぁ♪ ラーマさまがそう言ってくれていたならよかったわ♪」
「…その後コーサラの王は独りの覚者輩出せしシャーキヤ=モシリに妃を求め、彼等の高慢な自尊心故の策略が火種となり、己が血に連なる次王ヴィドゥーダバにより殲滅させられ、程無くコーサラもマガダに併合されたらしい。このマガダを治めるモノが…どうやら緋徒と獅子の間に生まれしモノであり、エカンナイ=ルーガル、ラーマの祖先たるカルマ・シャパーダを名乗り、彼の王同様緋徒、ウタラを好んで食すらしい。その悪政より救わんとする為、カニシカ殿は兵を挙げると言うのである」
「…あの美しいコーサラが…今は…そんななのね…そして緋徒を、ウタラを食べる…とんでもないわ! わたしが一発で倒してみせます!」
「伏犠さま…もしや今回の相手…イウェンテㇷ゚、ではないでしょうか…?」
「…さすがオオトシ…良く観抜いたな! 左様である、カルマ・シャパーダは恐らくイウェンテㇷ゚…もしや最悪の場合は…イウェンテㇷ゚=ルーガルの一柱やもしれぬ。だが、メル=ストゥ=マェ、もしくはそれに準ずるチカラは届く故、其方等なら立ち向かえるので参ってもらったのじゃ!」
「我はラムハプル=ヌプルされぬば…」
「カニシカ殿はヌプルに長けた方、心配ない」
「ならば我が槍もお役に立てるでありましょう!」
「…行ってくれるであるか?」
「もちのろん!わたしとラーマさまの…大切な思い出のあるアヨーディヤーに平和を取り戻します!」
「頼んだぞ! 若きラㇺ=エトㇰ=コㇿ=クㇽ達よ!」
「はは!」「御意!」「ま~かせて!」
三人は大型万能船に乗り雒陽郊外の瞬時に旅する門に向いそこからクスターナへと跳んでいった。
例の森を抜け一旦純陀の店へ向かう。
「おお! ミチヒメ! 一足遅かったさ~。今しがたヤチホコ達はイヅモさ戻ったさ!」
「そ~かっ! じゃぁ…ハルマヘラへ行くんだね!」
「んだべさ!ないだってアビヒコのケゥエさをマニィとアンナで管理しておきながらアンナのチカラでそばさいるキクリ達は様子を観れるらしいべさ? 我ながらすんばらしいヤツさ造ったべや♪」
「ほんっとう~♪ チャチャはスッゴイ♪」
ミチヒメは心底感心してそう言った。
「…んで…オメーさん方は…あれか? カニシカさまの…」
「ええ、マガダのルーガル、カルマ・シャパーダ殿の暴行を止める協力を伏犠さまより賜りまして…」
純陀に聞かれ応えるオオトシに続いてウガヤも言う。
「…話通じるならば良いが…さもなくばこれで語るしかなかろう」
ウガヤは手に持つ巨大な槍を軽くゆすった。
「ひょ~。アンタの体躯でそいつを見舞われちゃたとえイウェンテㇷ゚=ルーガルでもただじゃすまないべさ!」
「…此度はウタラが被害に遭っていると聞き及んでいる。生くる為を大きく超えし事も」
同じ国を統べるモノに対して故か静かな憤りを交えウガヤは応えた。
「その通りです。生きる為…でしたらお話のしようはあったかもしれません。緋徒にもウタラにも悪しきモノは少なからずおりますので、そのモノ達の行く末と言う交渉もあったかもしれませんが…無作為、無軌道、無差別で大量すぎます。実際にお会いしてみません事には断定は出来かねますが、今の所トゥムンチ自体が目的かと思われます…」
オオトシも少なからず感情を交え述べている様である。頷きながら純陀も応える。
「まんず、カニシカさまさ合流してからだべな…っと、そうだべさ! ここクスターナのドゥム=ルーガル、ヴィジャーヤ=キールティさまもご同行するって伝えておけって言われてたさ! この後チャシさ行って確認すっ…」
「…純陀、その必要は無いぞ。余なら既にここにおる!」
「ありゃ! ドゥム=ルーガルさま!」
そこには良く日に焼けた褐色の肌にゆるく波打つ金色の髪をまとめた美しい長身の若者が立っていた。
「良くぞ参った! 余がクスターナのドゥム=ルーガル、ヴィジャーヤ=キールティである。汝らの同行感謝いたす!」
「お初にお目にかかりますドゥム=ルーガル、私はナ・ラはヤマトゥㇺ=モシリのルーガルでございます」
「我は伽耶のルーガル、当代ウガヤフキアエズ、遥かエチュㇷ゚カより馳せ参じ申した」
「わたし…ミチヒメ。よろしくね…ヴィジャーヤ…さま?」
「これは素晴らしきピリカメノコであるな。そなたは…朝貢されに行くの…っ!」
言い終える前にミチヒメの一撃がヴィジャーヤに炸裂した。
「…しっつれいですね! わ・た・し・も! ロルンペを止めに行くモノですよ、おーじさま!」
そう言いながら王子の口の両端に親指をかけ真横に開く。
(…おかしい…? 先の一撃もコレも…避けようとしたはずである…?)
「わ・た・し・の方が速いからに決まってますわ♪ おーじさまっ♪」
そう言って両拇指を弾くように離す。ヴィジャーヤは両の頬を抑え驚いた表情でミチヒメを見つめていた。
「すまぬ…。其方素晴らしきケゥエ=エイキであるな。これは余の眼が曇っておったわ! 見事なり♪」
「最初からフツ~に観てくれればわかる眼力をお持ちのよ~でしたのに、ヨケ~な思い込みで痛い目見ちゃいましたね! せっかくキレーな眼をしてるのにね♪」
言の葉には皮肉がこもっているがミチヒメは既に心では許していた。
「殿下も…ある程度“使える”方との認識で宜しいのですね?」
「ああ! このニーロ=ウトパラの眼こそヴァイシュラヴァナの末裔たるクスターナ王家の証!」
澄み渡る深き青色の双眸を輝かせ応える王子を観てウガヤ驚きながら応える。
「まことであるか? それは頼もしき!」
「ヴァイシュ…毘沙門天さま…。…。…! クベーラさまですか!」
「その通りである! その直系が祖王の名と”眼”を継ぎし祖母クスターナであり、カニシカさまの母君であらせられる」
「え! じゃぁカニシカさまってあなたの…」
「叔父、である。故に此度参戦仕る。帯同する班勇殿もこの西域諸国をまとめし優れた武将である!」
「…お褒め預かり恐悦至極。亡き父の様にはなかなかいきませぬが…」
「…班勇殿か…ウガヤと申す。この地での活躍は帝より聞き及んでおりまする。…噂に違わずかなりの使い手と見受ける」
「これは…上伽耶将軍! 噂はかねがね聞いておりますぞ!」
班勇はそう言って一礼してきたのでウガヤもそれに対し言の葉を続けた。
「忝き! 時にお二方、メル=ストゥ=マェ使う事叶うであろうか?」
「ヴァイシュラヴァナに連なるモノならば生まれながらに可能である!」
「…さすればカニシカ殿も…?」
「当然である! 大叔父は…強いぞ! その上でシ=パセ=アンペ=ソネプへのイレンカも篤いなり!」
その言の葉を聞いてヤチホコが言う。
「まるでおとうさま…スサノヲさまの様ですね!」
「スサ=パセ=ルーガル! 聞き及んでいるぞ! 仁慈の名君で素晴らしくそして凄まじきカムイであると!」
「存じておりましたか…! そうでございましたら私もミチの名に恥じぬ様アリキキノご助力させて頂きます」
「父王より授かりしトゥムと膂力、有事の際は十全に発揮致そう!」
「え~と、いちお~わたしのエカシらしいので…頑張ります♪」
「某もメル=ストゥ=マェはまだなれど、ハィヨクペに付与していただければ負けはせぬ! もっとも、ミチヒメ殿…其方には何をどうやっても叶わぬであろうがな! はっはっは! 大したメノコじゃ!」
「…班勇殿さすがですね。メル=ストゥ=マェはまだなれどその眼は中々に深きを見抜くようですね」
班勇は少し照れくさそうにしながらもオオトシの期待に応えんが為に言の葉を続けた。
「…総じてはオオトシ殿、刹那はミチヒメ殿、実の撃はウガヤ殿と観たが?」
「まさにその通りです! 慧眼恐れります…!」
「余が捉えられぬ動きである、間違いなかろう!」
「皆様準備さ出来たかい? っと、コッチさくるべ…! お二人のラムハプル=ヌプル…こいつも出来るっけ連れてってけれ!」
「そ~ね! イリチはヌプルの扱いがとっても上手だもんね♪」
「!? 左様か? 其方が言うならば間違いはなかろう。傍に参れ」
イリチはヴィジャーヤの傍に歩み寄った。
「…ほう…このノカン=クル…なんと…クスターナ玉であったか! これまた見事な…純陀か?」
「んだべさ。ワシの造ったモノだべさ」
「この子がいれば皆己が事に専念出来ようぞ! イリチとやら、ついて参れ!」
「うん。ミチヒメたちと一緒に行くよ」
「よろしくねイリチ♪」
ミチヒメはそう言うとイリチを抱きすくめて額に唇を押し当てた。
「そーゆーヒト懐っこいところ変わんないなミチヒメ」
「そ~よ♪ わたしイレンカは素直に表現するの♪」
「して、この、イリチとやらは…日に何回程ラムハプル=ヌプル出来るのであろうか?」
「んだな…ウガヤさまへの付与で…日におよそ6~7回はいけるべか?」
「十分! 素晴らしきなり! ではウガヤ殿、班勇殿、お二人共存分にチカラ貸してもらうぞ!」
「御意!」「わかり申した!」
「では門より大叔父の待つガンダーラのタクシャシラーへ参ろうか。」
「ハイ!」
一同王子に連なりクスターナの森の奥にある、瞬時に旅する門へと向かった。
魔都と化したアヨーディヤーへ向かう為カニシカのもとへ。
※王子の名は「Vijaya kirti」。これには読みが色々ありましたが「ヴィジャーヤ=キールティ」に統一しましたm(__)m
用語説明ですm(__)m
・イウェンテㇷ゚=ルーガル 悪魔+王→「魔王」としました。
「カミヤシ」は「化け物」の意味でしたので、「魔」の単語を魔物、悪魔の意味の「イウェンテㇷ゚」に変更しました。
・ドゥム=ルーガル 「王子」 シュメール語です。そのまんまです。
・ニーロ=ウトパラ 現代サンスクリット語で「青蓮華」が「ニーロートパラ」ですので、古代の音はこうであったろうとして設定しました。




