第6倭 カムイキリサム=コラムヌカラの章(其の参)
今回はちょこっと長めですが、話の流れの都合です(^_^;)
「…素晴らしいであるな…!皆残ったであるか…!最後は…わしとの組み手…比武である!まずは…キクリ、ミズチ参るが良い…!わしの身体に一撃でも入れられればそなた等の勝ちである!」
比武台に降り立ったミズチはにこやかに言った。
「オオクニのおじいちゃん、おもいっきりいくよ~!」
キクリも不適に笑みを浮かべながら言う。
「…全力でアタシを試させて…もらうわ!」
「…よろしい…では参れ…!」
オオクニも笑みを浮かべながらも纏う空気の様相を変えて答えた。
その場でいきなり全力でトゥムを解放しミズチは叫ぶ!
「やあ~!いけぇ~ところ=かむい=そ~!」
叫び声と共に多量の水が湧き上がり、シ=モシリ=コロ=クルの眼前で跳ね上がる。
軽やかに距離をとる彼の元めがけて上空より勢い良く巨大な幅広の滝が龍のあぎとの如く襲いかかる。
「おお!まだほんのポンヲノコなのに大したモノである!…ふふ…ではかえすであるぞ…♪」
上空より襲いかかる水龍のあぎとを左手で受け止めその瞬間いなして背を透し右手より打ち返した。
「…!岩鎧断崖(鎧と化して全てを防ぐ岩壁)!」
キクリが叫ぶと地面がせり上がり防壁となって水龍を防いだ。
「…危なかったわ…!…これはまず動きを封じないと…だわ!…地縛岩鎖(罪人を縛鎖する岩の大地)!」
オオクニの足元の土が絡みつき岩と変化し動きを封じようとする。
「おお、やりおる…!だがこの程度では…!」
造作もなく封を解こうとしたその時…!
「…食らうが良いわ!重圧大地(重く潰す大地)!」
見る見るうちにオオクニを中心に地面がすり鉢状に陥没していく…!
「おお…!これは…地の属性のかなり高度な…!」
並のモノなら大地に抱擁され身動きできない重圧の中オオクニはその場に仁王立ちのまま感心しながらそう言った。
「…これでヘーキで立っていられるなんて悪い冗談だわ…!でも…良いわ♪ミズチ!」
「うん!こんどはちからをしぼって…ところ=かむい=ことぅいえ=いぺおぷ!」
槍と化した水龍がオオクニめがけて勢い良く飛んでいく。
「…動きを鈍くしてからの連携…見事である!…ぬん!」
両足を封じられ重圧により動きを制限された状態でオオクニは飛来する水龍の槍をいなして逸らした。
「…おしかったであるな…!だがとても良い攻撃であった!さぁ…こちらからも数手…参るぞ…!」
未だ重圧のかかる中、オオクニは歩いて近づいてくる。
「な、ナニヨソレ~!なんでそんなフツーに動けるのヨ~!」
キクリは余りに想定外の事に大きくイレンカを乱してしまった。
「…イレンカ乱るるば…解けてしまうであるぞ…?ぬん!」
オオクニを抑えていた重圧の結界が解かれてしまった。
「…ではしばし戯れようではないか…!」
軽く地面を蹴ったかと思うと瞬時にミズチの眼前に顕れた。
「す、すいりゅ…!」
「…まだ幼き故やむを得ぬが…此の距離ならば…体術で凌がぬと…な!」
緩やかにオオクニの手が動いたかと思った直後、ミズチは音もなく比武台の外へはじき飛ばされてしまった。
「う~ん…やられちゃったぁ~!」
「さあ…キクリよ…後はそなただけであるな…!」
「アタシはそうカンタンには捕らえられないわ…!」
そう言うやキクリは比武台の上を縦横無尽に駆け回る。
「岩石角柱!やややや!」
四方より同時に岩柱がオオクニめがけてせり上がる!
「ほほう…ならば空に逃れぬとな…!」
そう言ってオオクニは上空に飛び上がった。
「~!ミズチのお返しだわ!食らうと良いわ!全貫地龍槍!」
大地より隆起した岩が龍と化しその身を捩りながら鋭い槍へと変貌していく。
「やぁー!」
キクリのかけ声と共に上空のオオクニめがけて凄まじい勢いで飛翔する。
「…!これはかなりのトゥムを秘めているであるな…!」
「ミズチもきぃちゃんたすける…!ラムハプル=ヌプル!やりよカムイとなりてすべてをつらぬけぇ!」
「む!…目覚めたであるか…大したものよ!」
オオクニは己に襲いかかる地龍槍を例によっていなそうとした…が…?
「ほう…これは…付与により並半では捌けぬか…!ならば…ぬん…!」
オオクニの手掌が俄に輝き出したかと思うと、先ほど同様左手で受け止めたそれを右手より投げ返した。
「な…!さ、さっきのアタシのよりもさらに速…!」
凄まじい衝突音が鳴り響く。土煙の中見えてきたのは…岩鎧を纏ったタカヒコであった。
「…おれはオオトシ殿ほど即座に此の力まとえぬのでな…!先から万一を考え纏っておいたのだ。…同質故受くるは易かったが…すばらしい技であったぞ…!」
「…あのヨーカイおじいさまがさらに強くしたから…だわ!」
軽く首を振ってタカヒコは言う。
「…確かにミチの力もあるだろうが…それを差し引いても…だ!」
タカヒコはそう言ってキクリ達を褒めた。
「…比武は負けだけど…良いわ。…タカヒコさま…ありがと!」
「ミズチもまけちゃったけど…たのしかったからいいや!」
「ああ。…二人とも良くやった!」
「左様…。比武はわしの勝ちであるが…見事なり!」
納得した顔でキクリとミズチは比武台を後にした。
暫くして比武台が整えられた後にオオクニが言った。
「…次は…ミチヒメとアビヒコ…参るが良い…!」
「…はい!…ここで出来る全力で…いきます!」
「ぼくも…ミチヒメのお父さんであっても…今出せる力…全部出します…!」
「…そうであったな…。そなたらはこの比武の取り決めの中では本来の力出し切れぬであったな…。ふむ…。しからばまずは此のしきたりの元…参るが良い…!」
そう言ってオオクニは後ろ手に手を組んだまま鳥の羽の如く足音一つたてずに遙か下方の比武台へ降り立った。
「…身のこなしも…今のわたしよりもさらに上ね…!…望む所よ!アビヒコ!」
「ああ!ヌプルを…!」
アビヒコからヌプルを受け取るとミチヒメからトゥムが吹き上がった。
「…くやしいけどぼくのヌプルじゃミチヒメの力をここまでしか引き出してあげられないや…!」
「…じゅ~ぶんよアビヒコ♪…あとは…技と…闘いようよ!」
念のためアビヒコに少しだけトゥムを渡した後、ミチヒメは身構えて言った。
「シ=モシリ=コロ=クル…おとーさん…参ります…はぁ!」
両足を交差させて深く沈み込み同時に激しく踏み込んだ力と振り出した前足で跳躍すると同時に拳を突き出して突進していく。
「箭疾翔!」
「あ!すごいです!あの間合いを一足飛びに!」
「ホント!そっかぁ~、ああするともっと跳べるのかぁ!」
ヤチホコとスセリはそれぞれに感心してそう言った。
ヒト十人分以上あろうかという間合いをミチヒメは目にも止まらぬ迅さでオオクニめがけ突撃する。
飛び込んでくるミチヒメに対しオオクニはゆるりと右手を前に出し上肢水平挙上、肘関節軽度屈曲回外位、手掌を己に向け軽く肘を曲げた状態で構える。
「いっけぇ~!」
オオクニが自身の前腕をミチヒメに合わせ捻ったかと思った直後平手でたたく音が鳴り響いた。
「いったぁ~い!…えぇっ?」
「ふっふ…背後が隙だらけであるぞ…」
ミチヒメの突きに対し前腕を急激に回内、肘関節伸展動作で綺麗に受け流すと同時に歩を進め背後をとり体幹の捻りと連動させ撓らせた左手掌で臀部を叩かれた模様である。
「…まだまだ母には及ばぬであるな…!」
「ちょっち待って!何をどこをおかーさんと比べているのよ!もぉホントいやらしい!」
「…娘の生長を図りおるだけであろう…」
「そ~ゆ~とこの生長は見なくて良いですよ~だ!」
「…仮にもわし…そなたの父で…ナ・ラ所属の此のモシリ…ヲウ・ナの王なのであるが…」
「おとーさんには変わりないし…ヘンなとこ叩いたこともホントじゃない!」
「…もう良いわ…解ったであるから次手を見せるが良い…」
意宇国貴は呆れたようにため息をつきながらそう言った。
「そ、そうだったわね!…よぉし!じゃぁ…行くよ!」
そう言うと大きく構え体幹に捻りを加え踏み込んだミチヒメは勢い良く滑りながら突進していく。
「滑歩頂肘!」
現在で言うところの挑打、もしくは攪打頂肘であろう。
それらと違うのは凄まじい勢いで地面を滑走しながら突進するところである。
「…今度は捌けぬな…!」
そう言いながら片足を後方に引いて半身になり意宇国貴はかわした。
かわされた瞬間ミチヒメはそのまま前方に手を着き両足を大きく開き右足で意宇国貴の頭部を蹴り込む。
「…やれやれ下帯が丸見えであるぞ…はしたな…!」
ミチヒメは開脚した足と頭部への蹴撃に一瞬気を取られた隙に反対の左脚で足払いをかけ、踏みとどまった反動で上体を引き寄せ両手で足を絡め取り蹴り込んだ脚を振り戻す勢いで意宇国貴を倒した。
「アビヒコっ!」
気配を消してそっと忍び寄っていたアビヒコは先ほどミチヒメより受け取っていたトゥムを拳に込めて倒れ込んだ意宇国貴に打ち込む!
「…惜しかったであるな…!こちらも真似をさせてもらうとしよう!」
その状態からアビヒコの拳を半身にひねりかわした勢いで手刀を放ち、再度倒れ込む勢いで足元のミチヒメを放り投げた。
「…素晴らしき攻めであったな…!良い…!二人共…全力を出すが良い…!岩壁牢(固く堅牢な岩壁)!」
意宇国貴が叫ぶと見る間に比武台の周囲から岩壁がせり上がり半球状に覆い隠してしまった。
「あ!あれでは…中がまったく見えませんね…!」
「ホント!…見たいのに…!見せられないコト…あるのかな?」
そんなヤチホコたちをよそに…中からは激しい打突音や轟音が鳴り響く。
「…!……!」
なにやらアビヒコがミチヒメに向かって叫んでいるようだが、岩壁のせいで良く聞き取れない。
暫くしてミチヒメのかけ声らしきモノが聞こえるもこちらも聞き取れない。
「…ただの岩壁ではありませんね…?」
ヤチホコの推測の証拠といえるのが、激しく戦っている音ははっきり聞こえるのに…トゥムもヌプルもまったく感じられないのである。
何かが岩壁に衝突し激しい音が振動と共に鳴り響く!
しばし後、半球状の岩壁に亀裂が入りはじめ崩れ去ると…打を放った姿勢の意宇国貴とそれを間一髪かわしているであろうミチヒメが見えてきた。
「…勝負ありで…あるな…」
「…まだよ!わたしはおとーさんの返しを避けられている!」
そう言うミチヒメの身体を意宇国貴は困り笑いしながら指さす。
「…当たっておるであろう…?」
見るとミチヒメの胸元の衣が破け慎ましくなだらかながらも確実に存在する対を成す膨らみと共に肌が露出していた。
「な!…衣をかすめただけで避けられているもん!」
「…左様であるか…?」
意宇国貴は少し不思議そうな面持ちでそう言った。
「…ぼくたちの…負けだよ、ミチヒメ…!」
後方で倒れていたアビヒコが顔を上げてそう言った。
「…力が戻る間際…みたんだ…オオクニさまは…わざと一瞬返しを…遅らせていたんだよ…!」
その言葉を聞くと意宇国貴は微笑んで言った。
「…よくぞ…刮目したであるなアビヒコ!」
「え、えぇ~!…た、たしかに…ホントは避けきれないと思ったのよね…そ~ゆ~ことか!~!くやしい~!」
今の数合を思い出しながらミチヒメも気づき悔しがる。
「…わたしたちの…負けね…!でも…次こそゼッタイ…!」
悔しさで目からこぼれ落ちそうな雫を堪えてミチヒメはそう言った。
「…その意気である…!さぁ…アビヒコに手を貸してやるが良い…」
その言葉に目頭を拭い軽く頷いてミチヒメはアビヒコの元へ駆け寄った。
「…負けちゃったケド…アビヒコは良くやったゾ♪」
そう言ってミチヒメはアビヒコの頭を撫でて抱きすくめた。
「ちょっまっ…!ミ、ミチヒメ…!」
抱きしめたアビヒコの顔が当たる辺りが見る見る紅に染まっていく。
「あ!アビヒコ!大丈夫?どこかひどいケガしたのね!」
自分から離してアビヒコを見やると…両の鼻より多量の出血があった。
「タイヘン!おとーさんこんなにきつくアビヒコを打つなんて!」
「…それは…打によるモノでは無かろう…ミチヒメ…そなたのせいであろうに…」
オオクニは一本指で頭をかきながら困り笑いを浮かべた。
「ほぇ?…あ、ありゃりゃ…アビヒコちゃぁ~ん…ゴメンね♪」
ミチヒメも指一本で頭を掻きながら困り笑いを浮かべてそう言った。
「…あんなコトされましたら…ヲノコなら誰でもああなりますよね…♪」
ヤチホコがそう言うとどっと会場に笑いが起こる。その声にミチヒメはここがどこだったかを思い出したらしく…少し頬を赤らめて舌を出し、なだらかながらも美しい双丘をそっと手で隠した。
「…一番堪えたよ…コレが…」
そうぼやくようにアビヒコは独り言を漏らした。
「フン…くだらん…!負けたのなら早々に比武台より下がるが良い…!」
苛立ちを露わにミケヒコはそう言った。
「ちょっとそれはないんじゃない~?アビヒコもめいっぱい頑張ったのに!キミはイチイチかわいげがないね~!」
ミチヒメはミケヒコの言に少し感情的に反論した。
「オレは当たり前のことを言った…だけ…だ…!」
眼前まで歩み寄ってきたミチヒメを前に最後の方は語気が窄んでしまった。
「~!オマエ!破れた衣くらいどうにかしろ!」
その言葉に不適な笑みを浮かべながらミチヒメは言う。
「あら~♪ミケヒコくぅ~んお年頃になって来ちゃったかな~?」
「うるさい!オレはメノコの肌なんぞ興味はない!邪魔だから速く下がれと言っているのだ!…大体そんなあるんだかないんだかわからぬモノに何もヲモヒ抱くことなんぞ…ぐはぁ!」
「なぁによぉ!わたしのぜっさんせいちょう中のティティちゃんになんてコトゆ~のよ~!」
「…打ち込んでから言うんじゃない!このエパタイが!」
「にゃぁ~にお~!…避けられない方が弱くてニクネプでしょ♪」
「…オレが弱いだと~!…ならば試してみるかオレの本気を!」
「良ぃ~わよぉ~!わたしが勝つと思うけどね♪」
「…言ったな…マッカチが…!もう後にはひけ…!」
二人の間にすぅっと入り込んだのは…紅蓮と化したオオトシであった。
「二人ともおやめなさい…ここは神聖な比武の場です…!引かないのでしたら…二人まとめて退場していただきます…!」
相変わらず表情は穏やかと言うよりも…変化に乏しいが…吹き上がるメル=ストゥ=マゥエが本気であることをありありと伝えていた。
「はぁ~い♪オオトシさまがそうおっしゃるならわたしはやめまぁ~す♪」
「~!…今は…引いてやる…!オマエ…今度無礼あった刻は覚悟しろ!…オオトシ…さまも…くそっ…!いつか…オレもそこまで至ってみせるぞ!」
「…覇気のある事は大いに結構です…。ですが…向ける先を違えてはなりません…!」
二人ともそれぞれに違うヲモヒあれど同時に深く頭を下げた。
「…よいであろうか…?で、あれば…ミケヒコ、ヒメ…参るが良い!」
「おう!望むところ!」
ミケヒコは勢い良く比武台へと降り立った。
「…ふう…これでやっとミケヒコの番ですね…!ミケヒコならもしかして…!あ…そう言えばお義父さま…連戦で大丈夫なのでしょうか…?」
「…ヤチホコよ…わしの心配をするには…まだまだ早かろう…?」
そう言って意宇国貴はトゥムを吹き上げると何事もなかったように比武台へ軽やかに飛び降りていく。
「…オレは年長のモノだろうと加減せんからな!覚悟!」
「…良い良い。そなたに加減されるほどわしも老いてはおらぬ故…!」
普段の意宇国貴らしからぬ挑発めいた言の葉であった。
「…言ったな…!後悔しても遅いぞ!」
「せぬ…参れ…小さきモノよ…!」
「もう…戻れぬぞ!おおおっ!」
ミケヒコはあらん限りのトゥムを吹き上げた。
「…ヒメ!」
「…かしこまりました…!ラムハプル=ヌプル!剣よカムイとなりて敵を討ち祓い給え!」
先ほどの倍はあろう炎の剣を携えミケヒコは突進して斬りかかっていった。
「…そのヲモヒや…良し!」
意宇国貴は笑みを浮かべて構えた。
「おおおっ!猛ケル炎龍ノ爪撃!」
肩に担ぐように構えた剣に突進力を乗せて放つ!
「…岩鎧甲…!」
両腕が見る間に強固な岩に覆われていく。
ヲオナムチは両手を回旋させはじめたかと思うと、右手の回旋で剣撃を受け流すと同時にその勢いを左手に伝えミケヒコ同様の打ち下ろしを手刀で繰り出した。
左脚で地面を蹴り飛ばしミケヒコは間一髪半身に捻り全力でかわした。
「…ほう…コレをよけるであるか…素晴らしき也!」
ミケヒコは間合いの外で意宇国貴を見据えたまま滑りながら着地した。
「…いとも易くいなされるとは…!ヒメ!次撃の備えを!」
「かしこまりました…ラムハプルヌプル…!」
「そのままオレの目となり道を示せ…!」
「承知いたしました…。…。…。…!相手の踏み込みと共に…右へ伍…後ろ壱…左弐…前参…振り向きざま斬撃…!」
「…わかった!ではオレに流れを観せ続けろ!」
「はい…!」
「…良いであるかな…?であるならば…そろそろ参るぞ…!」
そう言ってヲオナムチは激しく踏み込んできた。
「…今です!」
「おう!右伍…!」
ヒメの声に応えミケヒコは右に五たび飛びかけていく。
「ひ…ふ…みぃ…よ…いつ…追いついたであるぞ…!」
同様にヲオナムチも追いかけてきて拳を放ってきた。
「後ろ壱!…左弐!前参!」
ミケヒコは一歩、いや半歩下がり寸でで拳を躱しすぐさま左へ二回、前へ三回飛びかけていく。
「おお!迅いであ…!」
そう言いかけた瞬間、ヲオナムチに水平に薙ぎ払うように炎の斬撃が襲い掛かる!
「…惜しかったであるな…!良い斬撃であったぞ…!」
その声ははるか上空より聞こえてきた。
「あの一瞬で…!くそっ!」
ミケヒコは追撃するように跳躍していく。
「…それは今のそなたには悪手である…!」
そう言った途端ヲオナムチの足元、何もない宙空に一瞬岩塊が顕れ、それを足場にミケヒコ左方より突撃してきた!
「…虚空箭疾翔!」
「~!」
ミケヒコは全力で体を捻り躱す。
「…弐之撃!参之撃!…肆之撃!」
瞬時に足場を造り右方、下方、そして上方からとヲオナムチを三度目まで躱して凌いだが…遂に四撃目で捉えられてしまった。
ミケヒコははるか上方より比武台目掛け打ち落とされた!
轟音とともに土煙が舞い上がり…視界がひらけると巨大なすり鉢状の隕石孔の如き窪みの中央に剣を構えたまま地面に埋没しているミケヒコが見えてきた。
「…さすがクシナダ殿の髪を五たび躱すだけの事はある…!見事なり!」
もはや言葉など全く届かないであろうミケヒコに向かってヲオナムチは言った。
「ミケヒコ…!…いけませぬこれは…!お待ちくだされ…!」
ヒメはそう言って慌てて駆け寄ると呪を唱え始め、何やらしようとしかけた所で半球状の岩壁に覆われてしまった。
「…これで心置きなくできるであろう…」
「お心遣い…かたじけのうございます…」
その言葉を最後に完全に沈黙した。
しばしの刻が流れた後…亀裂が入り岩天蓋が砕け二人が顕れた。
「…ぷはぁ!…ここは…?オレ…は…?…!ヲオナムチ…さま…!そこか!」
「…お待ち下され…もう…終わりました故…」
立ち上がって周囲を見渡すと…巨大な半球状に窪んだ地形の底にいる事がわかり、それがヲヲナムチの攻撃によるモノと理解した。
「く…くそ…!剣で受けしもここまで押されるとは…!」
「ヒメの呪なくば危うかったであるぞミケヒコ…?」
そう言われ横を見やると…憔悴しきって立てなくなっているヒメが視界に入ってきた。
「…あれを使ったのか…!…そこまで押し返されるほどの撃を喰らわされたのか…!く、くそっ…!」
「勝負としては…ミケヒコ…そなたの勝ちであるぞ…?」
そういうヲオナムチの言葉に驚いて勢いよく振り向いてみてみると…脇腹の衣の一部がかすかに焦げていた。
「わしに一撃入ったであるぞ…あっぱれである…!」
「~~!!!そんなモノ…入れた内に勘定できぬわ~!!!」
悔しさのあまり逆上してミケヒコは叫んだ。
「…微かであろうとも…当てし事には変わらぬ…。齢をヲモヒ考めぐらせば見事としか言い様が無い…!」
嫌味なく心底のヲモヒにて感心されているのを感じた為、ミケヒコもそれ以上は口を噤んだ。
「…次こそは…誰の目にも…何よりオレ自身が納得行く形で決着をつけてみせるぞ…!」
「…なるやもしれんな…!弛まず精進…励むが良い…!」
其の言葉に彼我の差を観じ取り…ミケヒコは一礼して比武台(コラムヌカラ=ミンタラ:比武を行う広場 )を後にした。
ちょこっと解説
オオクニヌシと呼ばれる神様の名称、「オオクニヌシ」は役職だったと言われています。
戦国時代の各藩主や、現在の都道府県知事にあたるのではないかと言われています。
オオナムチも同様で、意宇国(オ ウ ナ:古代の言葉で、ラ、マ、ヤ、ナはすべてクニを表す語だという説を踏襲)の高貴な方=意宇国王の意だという説になぞらえて書いております(^^)
このあたり興味のある方は…「真説 日本古代史」を読まれていただけたらと思いますm(__)m
同名の書籍ではなく、籠神社という元伊勢と呼ばれる神社ゆかりの方の書き記した文章で…
僕の日本古代史観の根幹をなす一つとなっております。
http://www2.plala.or.jp/cygnus/k1.html
ここですm(__)m
用語説明ですm(__)m
・オピッタ=コトゥイエ=クㇳコロ=カムイ=イペオプ:全て+自分の意思を通す+断崖の神+槍
→「全貫地龍槍」としました。
・ティティ:乳房部、おっぱい シュメール語(ti-ti)です。日本語の古語の「ちち」、アイヌ語の「トット」と似ていますね…♪ ちなみに「おっぱい」は幕末ごろから使われた言葉ですm(__)m
響きが可愛らしいのでミチヒメ達が言う刻はこれで(笑)