第57倭 ヤマタイにてイタク告げるパセ=トゥスクル
上陸後何度か日が廻りし後…一行は帆掛け舟を海に浮かべハルマヘラを後にした。
「…キクリちゃん…そちらで観れた通りだったよ…」
「ええ…わかったわ…! お兄ちゃんは姿を変えて…モノスゴく修行を積んでいたのね! 負けてられないわ!」
キクリは様々なヲモヒを内包した面持ちで決意新たにしていた。
「…そうだね…あのトゥムとヌプルの使いこなしっぷりは…オオトシさまを超えるモノがあったからね…!」
スクナヒコナと変化したアビヒコも今までの出来事を振り返り応えた。
「何故かアタシのこと覚えていないみたいだったケド…きっと逢えばエシカルンするに決まっているわ!」
「ぼくもそう思うよ。そしてそれはもう近い…彼は…アマムさんはもうじき九千九度のはずだから」
「イイわ! とっても! こっちに来たらアタシとアンナだけでもきっとどこにいるかわかるはずだわ!」
「そうだね。もしもの刻はまたぼくも手伝うからラム=シリネして」
「そーね、その刻は…お願いするわ!」
「まかせて!」
今回の旅でアビヒコもさらに色々学び自信をつけてきたようである。
「…ところでアビヒコ達…スワンナの門からじゃなく…何でワザワザアトゥィから帰ってくるワケ?」
「ここからちょうど潮がナ・ラへ流れていて…数度日が廻るほどで着くと伝えたら…それならのんびりロクンテゥでパイェ=カイするって…」
「相変わらずののんびり屋さんねヤチホコ…」
アビヒコの返答に対し皮肉と好意半々にキクリが応えた。
「そこがきっとヤチホコの良い所なのかもしれないな…あせりすぎず、頑張り、出来なくてもあきらめず、自分の方が劣っていても相手をほめれど決してねたまず…」
「確かにそーよね! その辺りは…見習うトコあるわ!」
「ぼくもそう思う。今回も、アマムさんのおかげだけどメル=ストゥ=マェまで身につけてきちゃったし…」
「負けてられないわ! 帰ってきたらヤチホコつかまえてコツを問いたださないとだわ!」
「はは、そーだね♪ 今までぜんぜん出来なかったからこそうまく教えてくれるだろうね!」
「そー思うわ! 楽しみだわ♪ …しかしナニこの二人…自分たちがしたかったのにこのモコロっぷりってどーなの?」
「…外のキクリちゃんたちにはせいぜい数回スクス=トイとシリ=クンネが廻った程度だろうけど…実はぼくらは数十以上の昼と夜の間あそこで暮らして修行していたんだよ」
「そーなの!? そっか…ポㇰナ=シリ…刻の流れもぜんぜん違うのね…!」
「うん。と言うことは…」
「父様住まうトコと同じ…そーゆーことね!」
「そう。スサノヲさま住まうストゥ=モシリもきっと…」
「そーね! え? 待って…、と、言うことは…父様…もしかして…」
「…そうかもしれないね…。少なくてもケゥエはないのかも」
「ケド…いつも顕れるアレは…間違いなく実の存在あるケゥエ。一体…?」
「スサノヲさまのことだからきっとぼくらの知らない呪法を使われているのかもね」
「そーね。父様は大概なんでもアリだからあり得るわ!」
微笑みながら賛同するように頷いた後スクナヒコナのアビヒコはキクリに言う。
「…じゃぁしばらくそちらに着くまであまりに無防備な二人を守る結界に専念するから…」
「わかったわ! ナ・ラで待ってるわ! …ありがと!」
「うん…じゃぁナ・ラで!」
スクナヒコナに守られながらの穏やかな航海を終え、ヤチホコ達を乗せた帆掛け舟は上陸した後ナ・ラと反対方向へ進んでいた。向かう先は“トゥスクル=モシリ”にあるヤマタイであった。
「…なんででしょうか、何となくパセ=トゥスクルさま…おかあさまに会ってご報告した方が良い気がしまして…」
「イイと思うよ♪ ひさびさだし♪」
「ぼくもそれが良いと思う。キクリちゃんには言っておくし、ヤマタイの門からすぐ跳べるだろうしね」
「あ、そ~ですよね♪」
(実際何て便利なのでしょう♪)
ヤチホコのヲモヒ顕すかのような心地良い風の中、帆掛け舟をヤマタイへと進めた。
その間にキクリに対しスクナヒコナに念話で説明してもらっておいた。
「…おかえりなさいヤチホコ、スセリ。…あなたは…アビヒコなのですね。…かわいらしくも…頼もしきチカラ備えられておりますね…」
(…相変わらず会った瞬間全部わかっちゃいますねおかあさまは♪)
ヤチホコは驚きながらも関心の面持ちで大日霊女たるムカツヒメの言の葉を聞いていた。
「で、ですね、ムカツヒメさまそのモシリで…」
小さきアリの世界での出来事をムカツヒメに伝えると暫く思案を廻らせ言の葉を紡ぎ始めた。
「…アメ…シンノ=パセ…ヴァイシュラヴァナ…そして…マタ=チロンヌㇷ゚ことアマム…彼等は近いうち…こちらに来られる事でしょう…」
「そうなのですか♪ あ、確かにめ…アメさんはすでに緋徒? になっていましたしね♪ でもあの…モシリを愛するニン=ルーガルたるアメさんが…?」
「…緋徒に…。それなのに…留まられているのですか…」
「ニン=ルーガルとしての責任感と言いますか…ムカツヒメさまの様にウタラ全ての母…のイレンカだからかなと思いました♪」
(…アメ…随分変わられましたね…あのお方と共に戦いし頃に比べ…)
ムカツヒメは穏やかな表情で感慨深そうにしていた。
「おかあさま…何か観じられましたか?」
「ええ…。各々が課せられし試練に向き合い其々に必死に立ち向かう様に…その素晴らしさに…。それはあなた方も同様でございますよ…ヤチホコ、スセリ、そして今はスクナヒコナ…」
ムカツヒメのその言の葉に嬉しさを隠せず少し上ずった声でヤチホコは話を続けた。
「あの、それでですね、ムカツヒメさま…」
「愛すべき我が子ヤチホコや…母と呼んで構いませんよ…♪」
「…おかあさま…僕、頑張れましたか…?」
「…ええ、とても♪ 今まで成し得なかった事を二つも身に着けて来られたではありませんか♪」
「あ、あは♪ ええと…それでは…その…あのですね…」
「ふふ、ヤチホコや…さぁおいでなさい…」
ヤチホコはその言の葉を聞いた途端晴れやかな表情になりムカツヒメの元へ歩み寄った。
ムカツヒメはヤチホコを優しく抱きしめて頭を撫でた。
「…大変頑張られましたね…とても良く…出来ました…」
(…あぁ…嬉しいです…おかあさまに褒められるのは本当に嬉しいです…♪)
ヤチホコの頬を感極まったヲモヒを顕すかの如く一筋の滴が伝う。
ムカツヒメはそれをそっと指ですくい唇を押し当てて優しく語り掛けた。
「これから先も…道は険しさを増すばかりです…。今でしたら…まだ…サスィシㇼ=ラマトゥへ持ち越す事も叶います…」
「…きっと本当に大変なのでしょうね…この先は…。でも…僕、決めたんです。何があっても…進んでみせますと!」
「頼もしきイタクでございますね。そのイレンカ喪わない限り…たとえどんな困難に遭い打ちのめされようとも、辛くて逃げ出してしまおうとも…必ずや目的の場所へ辿り着く事叶うでしょう…。再度申し上げます。ラム折れぬ限り叶わなきイノンノイタクはございません」
「…はい! これからも頑張ります♪ これでも少し強くなりましたから♪」
そう応えてヤチホコは抱きしめてくれているムカツヒメをそのまま抱え上げた。
「ほら♪ そして…トゥムとヌプル…ウカムレ=エトゥッカ出来る様になりました! 観ていて下さいね…ふぅ…はぁあ…!」
「お、お待ちなさいヤチホコ…ここではなく外で…!」
(そう言えば…空のトゥムで行うのははじめてでしたね…)
「マズい! ぼくはさっきまでの結界でもうあんまりチカラが…!」
スクナヒコナのアビヒコは焦燥感を露わにしていた。
「おかあさま! ボクにヌプルを! レラよ! モィして 守りの盾と成れ!」
ムカツヒメは即座に世界に遍くヌプルをスセリへ集束させ注ぎ込んだ。
「あわせて…ねりあげて…で、できるカモ!」
光り輝く等身大の竜巻がヤチホコを覆う。当の本人はチカラの解放へ集中しきっていてまったく気付いていない。
「…観えた! このカンジ! ここにトゥムを…やぁぁー! レラよ! カタもポㇰもふさいで!」
その言の葉で球状に変化した竜巻から閃光が迸る!
「と、止まれー!」
巨大な重量物の落下時同様の地響きが起きた。
「ど、どうですムカツヒ…ったぁ!」
「こぉのエッパタ~イ! カムイ=チセがプスチャカしちゃうトコだったよ!」
「あたたた…あ、痛くないですね、衝撃はありますが…あ! そ、そ~でした…と言いますか…そうだったのですね…」
「ミチヒメちゃんやオオトシ兄見てればわかりそーなモノだよ! もぅ~」
「たいてい外で、でしたので…すみません…。…。…! ス、スセリちゃん! その僕のメル=ストゥ=マェ、ど~やって封じたのです?」
自分の迂闊さに消沈した以上に驚いてヤチホコはスセリに尋ねた。
「そばにおかあさまいたから何とかなったケド…ボク一人じゃホントアブなかった!」
「ああ! おかあさまからヌプルを…で合わせて…すごいですね♪」
「イチかバチかでできて良かったよ…。もぅ…」
「…スセリ…先ほどは素晴らしきチカラの使い方でしたね」
「うん! これのキホンとしてポタラ=メル=アカムを…ヤチからヌプルもらってそれをボクのトゥムとあわせてアカムにして放つ技を…きっとアマム兄から教えてもらってきたんだよ! でもジブンでメル=ストゥ=マェにするのは…できてホント良かったー!」
「マタ=チロンヌㇷ゚さんは確かにアマムです…。大分修練を積まれている様ですね!」
「うん! ろーし…アマム兄は…これをイレンカのまんま使いこなしていたよ!」
「そ~です! 技だけ見てもものすごい練り上がり方でしたね!」
「技のみでも…。そうでしたか、それは本当に努力されたのでしょう…!」
「ミチヒメも自分の得意技をおかあさまのケゥエ=エイキで放てるようになっていてですね…空のトゥム解放していても僕ふっとばされてしまいました…」
「皆それぞれ相当に錬を積まれている様で素晴らしいです。良く頑張られましたね」
ムカツヒメはそう言いながら二人を優しく抱きしめた。
(ヤチホコ…今世の貴方は自然体で健やかにそこまで習得されたのですね…)
「次にウパスクマ=エ=テメン=アンキへ向かいし刻は…オオトシの他…ヤチホコ、あなたも挑む事叶うでしょう。…もしかしたら…スセリ、貴女も。」
「え? ボクも? ジブンでできたワケじゃないしホントまぐれだと思うケド…?」
「今はまだそうでしょう。無自覚で出せし己が御しきれぬチカラでしょう…。それが己がモノになり得れば…です」
「一回できたし、それがいっつも出来たらイイってコトだよね?」
「ええ、その通りでございます。頑張られて下さいね♪」
「うん! ボク頑張る!」
ムカツヒメに向かって言う事でスセリは己の中で習得せんと試みる事を誓った。
「…ではムカツヒメさま…この辺りで僕らはナ・ラのイヅモへ戻ります」
「はい、オオクニさまにもよろしくお伝えくださいませ。…今回一番の手柄はアビヒコ、あなたでしたね。そのチカラ有りません事には…ポㇰナ=シリに行く事すら叶いませんでしたからね」
「そう言ってもらえたらとても嬉しい…です! 良い経験になったと思うし」
「僕も…緋徒の…ウタラのイレンカのチカラを…何となくですがそのスゴさの一端を観じられた気がします」
「ソーだね! みんなの姿…あれもイレンカによるんでしょ?」
「拝見しておりませんがポㇰナ=シリと言うことからも恐らくそうなのでしょう」
「ろーし…アマム兄もまんまチロンヌㇷ゚だったし! サㇻも九本もあってとっても大きな…」
そこまでスセリが話した刻、ムカツヒメは急に表情を変え言の葉をさえぎった。
「チロンヌㇷ゚…そして九尾…まさかと思いますが毛の色はいかがでしたか…?」
「レタンノでキレーだったよ♪」
「レタㇻ…。左様でございますか…」
(再び出逢い重なりし刻…タアン=ラマトゥはどの様になるのでしょうか…)
ムカツヒメは神妙な面持ちで幾重にもヲモヒ廻らせている様に観えた。
「…おかあさま…ボク何かいけないコト言った?」
その言の葉にムカツヒメは我に返り、努めて穏やかに応える。
「そんなことはありませんよ、ただ少しだけ考え事をしてしまっただけですよ」
「そっか。ならいいんだ。おかあさまはきっといっぱい考えるコトあると思うし♪」
「ありがとうスセリ。…せっかくですから一晩休まれてからでもよろしいのですよ?」
「そー言われると弱いケド、キクリちゃん待ってるし、ボク、行ってくるね!」
「…それでは旅の無事を祈っておきますね」
「夜、さびしかったら…門で跳んできてもいい?」
「いつでも歓迎いたしますよ愛しき我が子スセリや…」
満足げで晴れやかな表情で頷いてスセリはヤチホコとスクナヒコナと共に瞬時に旅する門よりイヅモへ跳んでいった。
(…移動はこれでほぼ自在となりましたね、本当に大きくなりました…。次なる試練…耐え難き事に直面せし刻もどうか諦めず歩めます様…この世全て司りし理に対しお祈り申し上げます…)
ムカツヒメは三人を見送った後神殿にて大いなる真理へと彼らの無事を真摯に祈願した。




