第52倭 悪しきラクㇻ祓えし二人
消沈し傷心のオオトシを追ってミチヒメは…
(…ミチヒメ…ちょっと…さびしいです…)
(…ヤチホコくんゴメンね…でも…今日は…)
そうヲモヒながら見やる先には…生気なく歩くオオトシの姿があった…。
(ど~にかしないと…! でも…ど~しよ~…?)
ミチヒメは出来る限り考えてみた…しかし良い案は浮かばなかった…。
(…ねぇみんな…ど~したらイイと思う…?)
ミチヒメはこっそりと獣王達に尋ねてみた。
(…優しくなぐさめたら良いトラ!)
(…ど~やって?)
(そりゃーまー、なんだ…ヲノコをなぐさめると言ったらよー!)
(…や、やっぱ…そ~かな…?)
(…約束の場所でお話されてみたら?)
スザクはそう提案してきた。
(そ~ね…あそこでお話したらまた違う…かな?)
(…オオトシ殿程のモノがあれ程消沈される出来事…それを伺ってみるのが良策と思われるが…?)
青龍はその様に提案してきた。
(…そ~ね青龍…そこはとっても気になるトコロよね…)
(…彼地全実行良策…現状一番)
(…げ、玄武ハッキリ言うわね~! まぁ…ケッキョクそ~なんだろうけどね…)
(…自身過去超越的試練為意予想…)
普段憶測で話さない玄武らしからぬ意見である。
(…うん…ど~にかしてあげたいケド…やっぱり…オトナのヲノコは…こわい…の…)
(まーまずアレだ!話を聞け! というか話させるトラ!)
(…酒家に立ち寄って少しずつお話を始めると良いですわ、呑ませながら…ね♪)
(…うん、わかった! …やってみる!)
意を決したミチヒメは素早くオオトシの腕に絡みついて切り出した。
「…オヌマン=イペ夕をあそこ…じゃなくって…こちらでとりましょ♪」
「…ええ…そうですね…」
危うく旅立つ前の夜に皆で話し合った茶館の方へ向かう所であった…。
(…あっちじゃヨケーにラムが痛むトラ…)
(だよねだよねだよね!あっぶな~)
四匹同時の大きな溜息を背にするもミチヒメはめげすに酒家へと向かった。
「オオトシさまお疲れでしょ? 何でもど~ぞ♪」
「あ、あとこれを盃二つ用意してお願いします♪」
「…私はそんな…今日はとてもそんなものを口にする気には…」
「まーまー…わたしにお付き合いして下さい♪」
ミチヒメは笑みを浮かべ両手を合わせ目配せしてお願いする。
「…わかりました…。ではお付き合いいたしましょう…」
(え、ええ!わたしのミリョクバッチシ通じちゃってる~? わわ! な、なんとか…なる…なる…?)
良く観るとまだ酒を嗜んでもいないのにオオトシは頬を赤く染めていた…。
(いや~ん、ちょっとイイヨマプカって思えてきちゃったかも♡)
(…ミチヒメ…実はヲノコはメノコよりラムの育ちが緩やかなのですわ…ですので…ラムにおいては…実はあなたよりもポン=クルとも言えるのですわ…)
(…スザクそれすごぉい納得♪ アチャポ程はなれているとさすがにだけど、確かに今のオオトシさま…いいえオオトシさまのイレンカとラム…ヤチホコくん達と大差ないよね♪)
現代では一説には女性は10歳前後で、脳が合理的・効率的な働きを始めるが、男性は20歳頃になるまでその働きをしない。つまり、男女の精神年齢は約10年の差があると言われている。この様に男女の精神年齢に開きがある事は知られているが、彼らの世界では我々と違い若年の頃より大役を担う事も多く、否応なく一人前の大人として振る舞わねばならなかった。オオトシも我々の感覚では恐らく大学生から新社会人程度の年齢と思われるが、その齢で一国の王としての責任が双肩にかかるのである。
どんな恵まれし才覚の持ち主であろうとも…使命感と責任感で必死にやりこなしてきたのであったと…
今のミチヒメにはそれがありありと観じ取れた。
(…そっかぁ…ヲノコは…きっとウガヤのアチャポや…おとーさんでさえも…実は…イイヨマプカ…のかな?)
(其即正答。虎見聞一目瞭然。)
(ヤイコラ玄武! ズイブンな物言いだトラ!)
(あ! た、たしかに…ね♪)
(ぬぁ~ミチヒメオマエまで~!)
(うふふっ♪ なぁ~んか、こわがる必要なんて…なかったんだね♪ ヲノコは…みんないつまでも…イイヨマプカなポンヲノコ♪)
(…恥ずかしながら左様であると思われる。繕うか繕わぬかの差しか…あらぬ、とな)
(うん! ホント、そ~なんだね♪)
その刻ミチヒメから黒い靄の様なモノが噴き出る様に抜けていった…。
「あ~♪ あら? なぁ~んか…すっごいラムがかぁるいな♪」
「…年端もいかずに嗜もうとされるからです…もうそんなに…回られましたか?」
「…♪ そ~なんですぅ~♪ あ~よっこいっしょっと♪」
ミチヒメはそう言いながらオオトシに思いっきりもたれ掛かって抱きついた。
「ミ、ミチヒメさん…倒れて眠る前に帰りまし…!」
オオトシの言の葉はミチヒメの唇によって遮られてしまった…。
(…ミ、ミチヒメ…さん…)
身体を硬直させたままのオオトシからヲモヒが流れ込んでくる。そのヲモヒに合わせてミチヒメはオオトシの頭を、身体を優しく撫でまわした。
「オオトシさま…ありがと♡ …うれしいです♡」
ミチヒメは己のヲモヒを籠めて言の葉を伝えた。
「な、何を…? …。…。…! まさか…観じられる…のでしょうか…我が…イレンカ…?」
オオトシは一瞬狼狽してしばしの沈黙の後観づいたらしくミチヒメその様に尋ねた。
ミチヒメは優しく嬉しそうに頷いた。
柄にもなくオオトシは頭を掻きむしり、大きく息をつき、応えた。
「…何が起きたか…何を観てきたのか…聞いて頂いてもよろしいでしょうか…?」
「…もちろんです♪ そのイタク…ずっとお待ちしていました♪」
「…すみませんミチヒメさん…。私はあまりに衝撃を受けたとはいえ…自分を見失っていたようですね」
「いえ!…オオトシさま程のお方がそこまでになる様なご経験、一体どの様な事だったのでしょうか?」
オオトシは一部始終包み隠さず事細かに話し始めた…。
それは凡そ理解の範疇を超越するモノであった…。
「先の…モシリ…別の…モシリ…その…め、滅亡…! そんな…まさか!」
「…私が体験してきた事としては…それが…事実…です…」
「でも…そんなとんでもない出来事が…オオトシさまの選択にかかっているなんて…」
「…試練…だったの…でしょうね…。しかし…それを理解していながらも…私は…私は…どうしても許せませんでした…! 今エシカルンしてみれば…彼も犠牲者でしたのに…!」
オオトシはまた髪を掻きむしり頭を抱えて項垂れてしまった…。
「…オオトシさま…」
ミチヒメはそっと後ろから抱きすくめる。
「…私は…穢れた上に…罪深い過ちを…」
「…誰であってもその状況で…許すことを選べは…しないですよ…」
「…そこで…選んでこそ…真のルーガルであると…波旬さまは言いたかったのでしょうね…」
そこまで言うとオオトシはまた落ち込んでしまった。
「…いいんです! 出来ない事があっても、いいんです! …だって…だからわたし…わたし達…今…こうして…緋徒をしているんじゃないですか! 出来てるならとっくにカムイになってますよ!」
ミチヒメのその言の葉にオオトシは我に返り己が何のためにこの辛い絶望を味わっているのかを再認識した。
「…そうでした…そうでありましたね…私は…随分と思い上がっていた様ですね…。ルーガルと言えど所詮は緋徒。ポロ=モシリの伏犠さまたちとは同じルーガルでも全く意味が違いましたね…。そうです、私は真のルーガルとなるが為、カムイへの道に挑戦したのでした! むしろ失敗は当然であり、更なる錬磨の後幾度も挑戦していくモノでしたね!」
「そーです! そ~ですよオオトシさま! 今回の“なぜ”を考えて、踏まえて次回挑戦したらきっとうまくいきますよ♪」
(…あぁ…ウソみたいにオオトシさまのラムのラクㇻが晴れていく…)
「…本当にすみませんでした! …簡単な事です…。自分がどの様な目に遭おうとも…皆の為に動かんとするイレンカ…それさえあれば何を逡巡する事があるのでしょう…!」
「ですです♪ ちょぉっち…許しがたいケド…きっと…彼が…そうなってしまった…元凶を突き止めて…わかったら…もしかしたら…許せる…かも…?」
「…そう思います…。そしてあの彼の背後より顕れるあの…」
そう言いかけた所でオオトシは急に取り乱し全身を戦慄かせ、急激に冷たい汗が噴き出て、顔は青ざめ、、呼吸が乱れ始め現在で言うショック症状を呈しはじめた。
「オオトシさま…大丈夫、大丈夫です!」
先ほどまでと違いミチヒメは全くヲモヒ乱さずにそう言い放ってオオトシを強く抱きしめた。
「…わたしが…わたしと…その記憶とイレンカ…正しく塗り替えていきましょう!」
「…それは…ミチヒメ…さん…?」
「…オオトシさまは…本当の“契り”を知らずに…辛さばかり味わったから自分が穢れたと観じられたのだと思います。でも…本当は…“契り”は、エラマスな相手に…それこそイタクに出来ない程のウォラムコテとウコサムペ=ピリカのイレンカを伝える為の…とても素晴らしい事なんです! だから…わたしのこのイレンカ…受け取って下さい!」
「…ミチヒメさん…まさかそれは…」
ゆっくり、深くしっかりとミチヒメは頷いた。
その顔は立派に実ったカリンパニの実の様に紅く染まっていた。
「…カムイ=スス…してきます…先に…トゥㇺプへ…」
ミチヒメはそう言って裏手の川へ小走りに去っていった。
川辺にある浴場で身を清めながらミチヒメは…
(…ど~しよ~ど~しよ! こっちからさそっちゃった~! た、たしかヲノコからじゃなきゃダメっておかーさんが言っていたよ~な…? あ、でもそれってシオンを授かるカムイ=トゥスの刻だけだったっけ? でもこれって本来その為の大切な儀式であって~…あ゛ぁ~アタマぐちゃぐちゃで何が何だか良くわからないしとっても恥ずかしいケド…不思議と…こわくないし…う、うれしい…かな?)
「…ペㇳのワッカなくなるトラ…」
「仕方ありませんよぉ♪ は・じ・め・て♪ ですから♪」
「…しかし何やら途中からミチヒメのトゥムが変化した様であったが…?」
「呪縛解放覚醒至。現状自由奔放状態本来道日女也。本来恐怖対照存在不可。」
(…それってつまり…なんだ…本当のミチヒメってのはすっごいムテキなヤツトラ?)
(創世神威比肩可能性保有存在…。我等比較場合尚卓越潜在力保有。)
(…確かに先の二、三割であの強さであるならば…トゥムの大きさならばカムイに比肩するモノであるな…)
「…ふぅ…♪ スッキリした♪ さて、と!」
意を決してミチヒメは酒家の上、宿をとった一室に向かって行った。
「…入ります…」
オオトシも身を清めた後らしく、布一枚羽織っているだけであった。
意を決してミチヒメはオオトシの元へ…!
途中、二人から何やら悪いモノが抜け出ていましたね…アレは一体誰の仕業か…?
用語説明ですm(__)m
・カムイ=スス:神の+水浴び→「禊:みそぎ」としました。
・カムイ=トゥス:神の+神おろし、巫術→二人の間に新たな存在を宿す為の「神聖な契り」という意味も含め「神降ろし」としました。