第49倭 シ=ヤィピラ観てきたモノ
オオトシの前に…?
「…もしも…オオトシ兄でも…でしたら…それはそれは…一所懸命修練しないと…なのでしょうね…♪」
冗談半分で笑いながらヤチホコは言った。
「そりゃそーだわ! アタシだって今のオオ兄様程出来てはいないわ…!」
「そのトキはミヅチももっともっとがんばる~!」
「…努力の範疇ならば…助かるであるな…」
「な! ウガヤ兄まで僕に合わせてイラムモッカを♪」
「…アチャポ…?」
その表情は真剣そのものであり、先の言も冗談の類は一切なしの意見であった。
「…それも部分的に正解である…。努力に依らず通常ならば不可能なモノも…この中に…何名かおる…」
「え!…もしかしてこれって…出来る緋徒の方が少ないってワケかしら…?」
キクリは思わず口より言の葉として出してしまった。
「…大丈夫だよ! ボクも盟主とのケイヤク…ホントは出来なかったみたいだし…。これから緋徒を大きく超えるモノとどーにかしていくんだから…少しくらいキセキ起こさないと!」
「…それも正解…。イレンカは無限に可能性を広げうる…」
「では…やはり何事も出来が悪く刻がかかろうともあきらめずに歩めば…!」
「そのイレンカこそシ=パセ=アンペ=ソネプとラムハプル=ヌプルする為に不可欠なモノである。この先…あらゆる方向よりそのイレンカ、打ち砕かれるであろうとも…決してあきらめずに前へ進むが良い!」
「は、はい!」
「うん! ボク…もっとがんばる!」
「やりますやりまーす! わたしの可能性は…ムゲンだもん♪」
「ぼくだって…やってみせる…! あ…! そ、そう言えば…ぼくのとうさんかあさんが…ぼくを見れなくなるくらいに色々重なったのって…!」
「…正解である…。隣のモシリに忍び込みし道化師の仕業なり」
「…じゃぁ…ゼッタイに一発お返しできるようにならないとだな!」
「…塔主よ…我が…ヌプルを己で自在に御する事…叶うであるか?」
ウガヤは己の不安と懸念を真っすぐにぶつけてみた。
「…この道化師を追う過程で機会が訪れるであろう…。努々見逃さぬ様…そしてどの様な事であろうとも怯むでないぞ…」
「承知いたした! 忝い!」
「…ヤチホコとミチヒメ以外は…程度の差こそあれ苦難の果てに道は開く。精進せよ!」
「う、うん!」
「え? わたしとヤチホコくんは…みんなよりカンタンなの?」
「…他のモノと違いイノトゥを賭してとまではいかずに得られるであろう…」
「あ、そう言う事ですね♪ やはり僕たちもすいすいとはいかないのですね…」
「…残念ながら当然の帰結であろう…」
「ま~なんだかんだ言っても…ラムはウタラと一緒、だもんね♪」
「…そう言う事だ。すべてムカツヒメを見習い…その先へと歩を進ませるのだ…」
「…おかあさまを…わかりました!」
一同努力の果てに望みは叶うと聞いて安堵していた。
その頃まさしくオオトシは四大王たちと相見えていた。
「…オオトシよ…緋徒として生を受けし後、随分と精進を重ねたと見受ける」
「そなたのイレンカ、ラマトゥ…我らは上を目指すに異論はない…さあ…進むが良い…」
「…ありがとうございます…。次はどちらへ伺えばよろしいのでしょうか?」
「…伺わずとも良い…。久方ぶりの挑戦者よ…余自ら出向いてやろう…」
上空から声が響いたかと思うと…瞬時に暗雲が立ち込め、激しい衝撃と轟音が鳴り響いて一筋の雷が眩い光とともに降り注いだ。
粉塵の中降り立ったその存在は…四大王を遥かに凌ぐモノである事しか理解できなかった。
「…余はハジュン…。イワン=アン統べしモノなり…!」
四大王はいつの間にか両脇に跪いていた。
「…成程…清らかな訳であるな…。しかしそれでは緋徒として…生きとし生けるモノとして未熟で不完全! 余の試練…受けに来たと申しておったな…良い…望み叶えてやろう…。オオトシよ…準備は良いか?」
「何故貴方様が直々にご降臨賜られたかは存じかねますが…その為にこの地へ足を運ばせて頂いた身。無論です!」
「…地…畜…餓…修…人…天…!お主は…先の世で味わうが良い…」
突如地面に六芒星が出現し円柱状に光が立ち昇りその結界の中にオオトシは封じ込められた。
「…波旬さま…これは一体…?」
「余のチカラで時空を超越し試練を受けて来るが良い! イワン=ル=カリ=ラマトゥ!」
光の柱が極限まで輝きを増し天を貫いたかと思うとオオトシの姿は消え去っていた…。
「罪業を背負いし後も清廉たらしめるか? 若き緋徒の王よ…?」
その言の葉を遺し景色に溶け込む様に波旬は消えてしまった…。
「…全てを得ずにいきなり跳ばされてしまうとは…」
「それだけの資質であったか…」
「もしや…いやそんなはずはない…で、あるな…」
残された四大王達は口々にそう話していた。
「…あまり余計な事を言うと…クベーラの二の舞いであろうて…」
「そうであったなドゥリタラーの…忝い…」
「我等も所詮遣われし身故…」
「あやつの様に過ぎた真似すれば…」
「…こうなる訳であるな…」
四大王の内一神だけ全く会話しないモノがいた。
皆が話し終えるとその場に背を向け己の持ち場へ戻っていった。
「…門番はチカラを込めたポイシオン=イノカで十分か…。我等の判断など関係ないのであろうな…」
どうやら現在のクベーラと呼ばれしモノは…チカラを与えられた人形らしい…。
話から前任者は何らかの処罰を受け解雇されたと読み取れる。
「…オオトシよ…久方の同胞と成り得るモノよ…。無事に還らん事を我は願う…阿伽禰 伽禰 瞿利 乾陀利 旃陀利 摩蹬耆 常求利 浮楼莎柅 頞底…!
(あきゃね きゃね くり けんだり せんだり まとぅぎ じょうぐり ぶろしゃに あっち)」
残った三神は持国天…ドゥリタラーシュトラに続きそれぞれに己の神呪を唱えオオトシの無事を祈願した。
(…イノトゥは奪われない…が、死した方が楽と思える試練が降りかかるのは幾度となく観てきた…。先のクベーラも…あの様な世界であの様な姿にされ…正気でいるのであろうか…?)
その頃ヤチホコ達はカㇺピソㇲ=トㇺプで寛いでいた…。
一通りの答えは貰い、諦めなければ…と一縷の希望を得、気分を新たに頑張ろう、そう各自意を決しこれからの事を考えていた矢先、扉が開きオオトシが戻ってきた…。
「あ! オオトシ兄! はやかったですね!」
「オオトシ兄おかえり!」
「オオ兄様…?」
「どーしたのオオにい?」
「…むう…?」
「…本当に…オオトシ…さま…?」
皆がオオトシの姿を見て次々と声をかける中、ミチヒメは愕然として瞬時に抱きとめに行った。
何処にもケガはない。氣力もさほど消耗していない。…が、異常な霊力の消耗と…ラマトゥに色濃く映る陰りが佇まいにも顕れていた…。
霊力に疎いミチヒメだが、誰よりも心配して集中していた為か異変をいち早く観じ取った様である。
「え、ええ! えええ~! ナ、ナニコレ! 本当にオオ兄様? このラマトゥの闇い影って…かなりの罪業無いとフツーこんなのないわ!」
霊力を解放して観てみたキクリもそう言って驚きを露わにする。
「…ぼくとちがって魔力で暝いわけじゃない…」
アビヒコも驚いてそう言う。
「え? あ? 試練でお疲れなの…では…?」
「ヤチ、どー観てもフツーじゃないよ!」
「…やはりそーですか…そーですよね…」
「あの誰よりもキレーなオオ兄様が…」
「…信じられぬ…オオトシ程のモノを以てしても…」
ウガヤまでその光景にヲモヒ揺らぎそうになりそう言いかけたが、すぐさま遮る声が起こった。
「…チガウ! アチャポそれ以上はイタクにしちゃダメ!」
ミチヒメであった。声こそ大きくはなかったが…心の底では絶叫するヲモヒで言っていた。
「…もしかして…道は果てしなく遠いのでしょうか…?」
「ヤチ! アンタはホントにもう!」
「…みんな忘れちゃダメ! 塔主さまは言ったよ! イレンカのチカラはムゲンだって! きっと今、この状態もきっと…!」
「…そう…なのですね…。オオトシ兄のこの状態も…」
「そう言うことか…これは本当にようしゃないな!」
「…これすらも試練である…そう言う事であるか…」
ヤチホコ、アビヒコ、ウガヤも気付いてそれぞれに言う言の葉を聞き深く頷いてミチヒメは応える。
「うん! きっとそう! だからゼッタイあきらめちゃダメ!」
ミチヒメは全員を見据えあらん限りのヲモヒイレンカを籠めて言の葉を放った。
「…こ、ここは…カㇺピソㇲ=トㇺプ…地上へ…現世へ…還ってこれたのでしょう…か…?」
あらん限りの慈しみの気持ちを込めて抱きしめながらミチヒメは応えた。
「おかえりなさいオオトシさま! お疲れさまでした!」
「…ミチヒメ…さん…。みなさん…では…本当に戻ってこれたのですね…」
「よく…ご無事で…!」
「…ありがとうございます…しかし…無事にとは…言い難いかもしれません…あの世界…あそこで私は…ああ…あああ~~~~~~!!!」
オオトシは誰もが本人とは認識しがたい絶叫を上げ半狂乱に取り乱す。
ミチヒメは涙ながらに抱きすくめて言い続けた。
「大丈夫…もう大丈夫です…ここは地上…平和です!」
何度も繰り返し言い続けている内にオオトシはやっと落ち着いてきた。
「はぁ…はぁ…。わ、私は…王として取り返しのつかない事を…」
「オオトシさま…それは試練の中のお話です、今ここの世界は何ともなってないし、大丈夫です!」
オオトシはミチヒメのその言の葉を聞いて辺りを見回す。
「…これは…おめおめと私だけ逃げ戻ったと言う事なのでしょうね…情け有りません。何が王でありましょうか!」
「…オオトシよ…何が有りしかは凡そ見当もつかぬ…が、其方を以てして敵わぬ事であるならば…致し方なかろう…」
ウガヤは同情ではなく、オオトシの才覚から冷静に判断してそう述べた。
「いいえ! 難しくはなかったのです! ただ…私には…許せませんでした…ただそれだけの事…そしてその為に…!」
「オオトシさま…もう考えるのは一度お休みしましょう…そして帰る道すがら…街々でゆっくり休みましょう…」
ミチヒメはその様に静かに優しくオオトシに伝えた。
「そうですね! 今回の目的は果たせましたし…一旦皆で帰りましょう! 帰った後しなければならない事も伺いましたしね」
「さんせ~い! ボクかなーりがんばんなきゃだし!」
ヤチホコとスセリはその様に発言して皆を促した。
「…この塔に辿り着けしモノは…“ニサㇷ゚=パィエカィ=ソィ”を用いて特定の所へ瞬時に旅する事叶うぞ…」
「…瞬時…とな?」
「ポロ=モシリ、ローランジュン…ナ・ラのヤマタイ…イヅモ…お主らに関わりある所で言うならばこの辺りであるか…」
「ええ? そ、それならみんなすぐに帰れますね♪」
「パミールやクスターナは?」
「クスターナは可能である…」
「あの…この…ニサㇷ゚=パィエカィ=ソィと言うのは…こちらから目的の所へ行けるようですが…反対にこちらへ戻って来たり他の門同士でも行き来は出来ないのでしょうか?」
「この塔に辿り着いた最大の恩恵が実はこの門かもしれんな。ヤチホコよ…其方の申した通りである…戻れ、門同士の移動も叶う。そなたらは問題ないが…一定以上のトゥム、もしくはヌプルを有するモノしか反応せぬ為、他のモノ…ウタラなどは…単なる形骸化した過去の建造物にしか観えぬであろう…」
「…それなら…わたし、クスターナに寄ってから帰ります。…イリチもきっと完成してると思うから…」
「私はイヅモへ…」
「オオトシさま! オオトシさまも一緒にイリチの事観てあげて下さい!」
「しかし…私は…しなければならない事が…」
「…きっと少し休んでからの方がうまくできると思います♪」
ミチヒメは言の葉と裏腹に決死の覚悟で訴えていた。
(…なんか…このままオオトシさまを帰すのは…ゼッタイダメな氣がするの…!)
あらん限りの優しいヲモヒを籠めてミチヒメはオオトシに微笑みかけた。
「…わかりました…。貴女と共にこのウパスクマ=エ=テメン=アンキを護られた存在ですものね。…何かの学びがあるかもしれません。…ご一緒いたしましょう」
「やた! ありがとうございます♪ わたし、とっても嬉しいです♪」
ミチヒメは少しだけ大げさに嬉しさを解りやすく伝えた。
「あ、それなら僕もクスターナに…いたた!」
「ボクと一緒にクスターナによって帰る…だね?」
「あ、は、はい…」
(もぅ~! イマは二人のジャマ、ダメー!)
(え? あ…う~んと…?)
(今のオオトシ兄を元気にできるのはミチヒメさんだけ! まかせてジャマしないよーにしておかないと!)
(あ! はい…。今わかりました…りょーかい!)
(もぅ~。ホントにニブいんだから!)
(すみません…)
「きぃちゃんじゃぁ…ミヅチたちもクスターナよってかえろ?」
「もちろん! アタシの玉も出来ているだろうから…ね!」
「ウガヤ兄とアビヒコは?」
「…我はヤレパチプをそのままにする訳には行かぬ故…乗りて皆の後を追うとしよう」
「ぼくは…」
「あらん♡ マニィと一緒にパミールのファティマ=カムイワッカに入っていこ♡」
「…ウガヤさますみません…パミールからクスターナまでご同行よろしいでしょうか?」
「…かまわぬ、皆で乗る方が速いであるからな」
「ありがとうございます!」
「…今後も何かの知を得んと欲する刻、遠慮なく訪れるが良い…」
「塔主さまありがとうございました!」
「うむ。ここで得た事…努々忘れずにい行くが良い」
「はい!」
ヤチホコ達は現在可能な限りの知りたかった事を得、それぞれパミールとクスターナへ向かって行った。
希望の知識と絶望の結果と…そしてそれすらも試練の一環…だとしたら…厳しいですね…(^-^;
用語説明ですm(__)m
・ニサㇷ゚=パィエカィ=ソィ:急に+旅する+門→「瞬時に旅する門」としました。
・シ=ヤィピラ:真に+がっかりする、落胆する→「絶望」としました…。