第48倭 カムイ=モンタサ=クル述べしイタク
残された一行は…
「…いっちゃったね…」
「カムイの世界…!どんなところなのかしら?…さすがに気になるわ…!」
「ボクも次はきっと行ってみせる!」
「ぼくも…いつか自力でウカムレさせて…かならず昇ってみせる!」
「ふふん♡その意気よん♡それまではマニィが手取り足取り教えてあげちゃうわん♡」
ミヅチ、キクリ、スセリに続きアビヒコがそう誓った所にマニィが応え絡みついてきた。
「わわわ!動きにくいってば!」
「あらん♡だれかさんの前だからかしらん♡」
「…エ、エパタィ…」
アビヒコは頬を紅潮させてしまいその様に言うも、例によって語尾は小さすぎて聞きとり難かった…。
(…そして…ミチヒメにほめてもらって…わわわ!…本当…なんだねアビヒコ…)
「僕も長い目でまず自力でヌプルを使いこなすところからですね…」
(…この子はいっつも焦らないわね~。…のんびりやさんね♪)
「…自力で…ヌプル…精進せねば…」
(あ、あら?アチャポ…観える…?…何々…オオトシがうらやましい…自分も挑みたかった…無念…?なぁるほど…らしいわね♪)
「…残されしモノ達よ…他に知りたき事あらぬのか?」
「…主と呼ばれる方…は…本当に僕たちを…全てをお創りになられたのでしょうか…?」
「…そうだ…。主と…主より生み出されし創世のカムイ達によって今の世、生きとし生けるモノはある…」
「では塔主様もその頃に…?」
そうヤチホコが尋ねると…再び笑いながら館主は応える。
「…くく、我も其方ら同様ただの緋徒である…」
「ええ?で、でもその気配…先の御使いさま達と同じ様な…?」
「本来のここの主、ブラフマー殿より全権を任されている故…我が業にあらずとも…我がチカラと業はカムイとなる」
「…成程…聞く所の“カムイ=モンタサ=クル”である…漢の順帝殿と…チカラは大きく違えど…同様である、な?」
「いかにも。ウガヤ王、其方は存外にスサ=パセ=ルーガル殿より教えを受けている様であるな。…我は…千の季節廻るほど前よりカムイ=モンタサ=クルを任命されしモノ…。
先の大乱時はまさかあの様な目に遭うとはな…あの刻はミチヒメに助けられたであったな…」
「ま~…殆どラーマさまが…だと思うよ?ぜんぜん覚えてないしね、ははは…」
そう言いながらミチヒメは頭を一本指で掻きながら苦笑いを浮かべた。
「…ラムの…イレンカの…生長により…己によって全てのチカラ解放し得る刻もいつか訪れる事であろう…!」
「はい、ありがとうございます♪…それが…もしかして…境涯でしょうか?」
塔主は大きく頷いて応えた。
「いかにも。緋徒を超えし後、遥か上方まで広がる天界同様の果てしない道程ではあるが…全ての存在は…そこに至れる無限の可能性…シンノ=レンカィネを秘めておる。幾星霜の刻を廻りし果てであろうとも…あきらめなければ…到達し得る…」
「オオトシ兄の向かったカンナ=モシリって…そんなに果てしない世界なのですね…!」
「うむ…通常緋徒のままで足を踏み入れられるのが…イワン=コカナ=アンと呼ばれる処までである。その上は…真の解脱の果て…カムイ=ケゥエ携えしモノしか足を踏み入れる事叶わぬ。故に先のオオトシも、現状は最上でイワン=コカナ=アンまでであろう」
「その一番上ってどういうトコロなの?」
キクリはその様に尋ねた。
「アヌン=ヤィカㇻ=ピリカ=アンと言い、その名を冠する|イウェンテㇷ゚=ルーガル《魔を統べし王》棲みし処なり」
そう塔主が述べるのを聞き驚いてキクリは言う。
「ええ!イウェンテㇷ゚=ルーガルって…イウェンテㇷ゚って…アイヌ=モシリの下の世界にいるんじゃ…?」
「…全ての存在のラマトゥの錬磨の試練として存在するが本来のイウェンテㇷ゚であり、|イウェンテㇷ゚=ルーガル《魔を統べし王》である」
「…敢えて穢れ役を買って出ているカムイ…そう言う事であろうか?」
「ウガヤ王その通りである。故にイワン=コカナ=アンを統べるイウェンテㇷ゚=ルーガル…イワン=アン=ルーガルの試練超えし刻、はじめてカムイへと至る」
「では…おとうさまや伏犠さまたちも…その試練を…」
「左様。それでかのモシリでは世を治める王の事を“天子”と呼ぶのである。
その他にも元々カムイである存在が地上に降りてくる場合がある。本神が降りる刻は普通にシセイペレだが、稀である。一部のみ、ウサラィエ=ラマトゥの降臨が分体、即座にシセイペレし直すのが“再構成体”、そして我の様に…そのカムイのチカラの行使権のみを賜る場合を“代行”と言う。この場合は必要あってカムイのチカラのみ降ろす行為とも言えよう。」
「あ、では塔主様の場合も必要だから代行に選ばれた…そう言う事ですね!」
成程と納得した様にヤチホコは言った。
「うむ…この塔の管理神たるブラフマーの代わりである。」
「…そう言えば!そのフシギなイス!それってまさか…」
ナニカに気付いた様にミチヒメが言うと笑みを浮かべて館主が応えた。
「ミチヒメ、やっと気づいたか。左様、彼の…“ブラフマー名乗りしモノ”が使用していたモノである。もともとここの塔主専用の…イス…であったが…何故か外界に持ち出されアヤツの手に渡り起こったのが先の乱である」
良く観ると地面より浮いている。操縦者を覆う構造であり、何やらあちらこちらに外?の様子が映し出されていた。
「…これは…遍くモシリに点在するチカラと繋がる為のモノ…そしてこのカㇺピソㇲ=トㇺプの全ての叡智と繋がれるモノ…」
「…では…普段はブラフマーさまが座られているのですか?」
「…ブラフマー本神は斯様なモノなど無くとも先に述べし事など容易い。これは代行となりしモノをたすくエイワンケㇷ゚なり」
納得した表情でヤチホコはさらに尋ねた。
「なるほどですね!…では、もしかして僕が座っても…この世の叡智を垣間見れたりするのですか?」
「…残念ながら代行者専用だ…他のモノでは何も反応すらせぬ…」
それを聞いたミチヒメが不思議そうに尋ねる。
「…じゃぁ…あの刻はなぜ…?」
「…我が調べ得る限りでは…代行者の交代、もしくは追加がなされていた事しか解りえぬ…。今一つ確実なのは…その期間我はどうやら何者かに眠らされていたようである事…」
今度はそれを聞いたヤチホコが不思議そうに尋ねる。
「…ブラフマーさま同様のチカラが使える塔主さまを…封じた…と言う事でしょうか…?」
塔主は軽く頷いて応える。
「…ブラフマーより高位の存在のチカラ働きし証左となるであるな…」
「まさか!それがあの…道化師!?」
ミチヒメが反射的に応えた。
「…我もそれを一考したが…それはあり得ぬ…境涯が違う故あの道化師では我に手出し不可能である…ブラフマーは“初禅”…輪廻を超えしカムイなり…。…彼の道化師は…この地上の上…イワン=コカナ=アンの間の存在なり…」
塔主はその様に応えた。
「…あ、では…緋徒を超えしモノであるのは間違いないのですね…!」
「左様。故に現状の其方等では一矢すら報いれぬ…」
「…じゃぁ…少なくても…この塔に入って…イワン=コカナ=アンの一番上まで昇れて…まお~さまの試練ってのを超えられないと…アイツに…痛みと辛さは伝えられない…そ~ゆ~事ね!」
「ミチヒメよ左様である…。同等、もしくは上位の境涯へ到らぬ限り神威への干渉は罷らぬ」
「…塔主よ…して今、件の道化師はいずこに?」
「ここより遥か北西へ向かいし処にある…四柱の御使い治めしゲルマニア付近にいると思われる」
「四柱の!?…そこへは一体どんな理由であの道化師は向かったの?」
「ゲルマニアでは…モシリに住まうモノ達が信望する存在として四柱の御使いの提示・擁護せしカムイメノコ…“ネルトゥス”を崇める部族と…“すべてのゲルマンの民の祖先”と呼ばれているカムイ…“トゥイスコー”を崇める部族たちがおり、それぞれの信仰の元に暮らしている。おそらく彼らに対し何らかの策を弄し対立や諍いを起こさんが為向かったと思われる」
「トゥイスコー…もしかしてラーマさまのモシリの…シ=パセ=カムイ、“ヴィシュヴァカルマン”さまが地上に具現化された刻の存在…“トヴァシュトリ”さまのこと…かな…?すべてのモノを創りだしたって言われている…?」
「左様である、よくわかったであるなミチヒメ…。他のモシリではプロメテウスとも…そしてその源流たる本神は…“真理への導き手”と呼ばれしモノである…」
「あ!それってぼくの住んでいるルースに祀られている…!?」
「…アビヒコとやら…左様である…住まう民によって名は変われど、同じモノを指し示すなり…」
「…それならどちらのウタラもどちらのカムイを奉っていても問題ないですよね?あの道化師は何でわざわざ…?」
カムイ達の素性が解ったヤチホコはそう疑問を投げかけた。
「ソイツ…争いやもめごとがホントに好きなのね…!」
「…そのせいで…わたしのモシリ…下伽耶も…高句麗も…みんな…!」
「…争いや諍い、もめ事を煽って楽しんでいるとしか思えませんね…!」
「…緋徒を…超えていて…非道い…ま、まさか…!」
「アビヒコ…正解である…。あやつも…イウェンテㇷ゚である…」
「我々が正答に至れり刻はじめて応える事叶う…その様な枷がどうやら塔主殿にはかけられていると見受けられるであるな…」
「まさしく。故に彼の道化師については…助言は延べられども正答をはじめから語る事叶わぬのである…」
「…そろそろオオトシがイネ=シ=ルーガル=アンへ至るはず。イネ=シ=ルーガルの許し受けられれば更なる上を目指す頃であろう」
「オオトシさま…」
ミチヒメは信頼しているヲモヒありつつも自然と両手を重ね無事を祈る所作をした。
天界へ行ったオオトシはさて…
用語説明ですm(__)m
・カㇺピソㇲ=トㇺプ:本、書物+部屋、個室→「書物の間」としました。(~ウシより変更です)
・イワン=コカナ=アン:六の+欲しがる+天→「六欲天」としました。
・アヌン=ヤィカㇻ=ピリカ=アン:他人+変化する+幸せ+天→他人の変わる楽事を己の幸せとする境涯(天)→「他化自在天」としました。六欲天の最上です。
・イウェンテㇷ゚=ルーガル:悪魔、魔物+王→「魔を統べし王」としました。(ルーガルはシュメール語です)※2025/3/7修正
・|ウサラィエ=ラマトゥ:分ける、別々にする+たましい→「分御魂」としました。
・シセイペレ:(セミや蝶などが)殻を破って出てくるところから転じて、生まれ変わる、ここから「転生」としました。
・イネ=シ=ルーガル=アン:四の+偉大なる+王+天→「四大王衆天」としました。天界の一番最初、入り口となる処です。
※~天は、実際の仏教の天界の名称ですので、興味がありました調べてみてください♪