第45倭 それぞれのアン=フスコトイ
この日の夜の他のみんなは…?
街よりはなれ少し上流の河原にて。
「さっきのアレ、またなってみて?」
キクリにそう言われたアビヒコは頷いてマニィを見やる。
「準備いいわよん♡ アビヒコちゃん、いくわよん♡」
マニィに後ろから抱きすくめられて念じると、自身の内なる白と黒が溶け合い混ざり合いながら強い輝きを放っていく。
「…やった…また、出来た!」
「当然よん♡元々アビヒコちゃんの持つチカラだもん♡」
「…ぼくの…チカラ…あ、そうか!」
アビヒコは自身の暴走時に出ずるナニカを思い起こした。
(…扱いきれなくて出てきてしまうアレを…自分のモノに出来ているのが今のこの…)
正気に返り眼を開くと、巨大な岩が上空より迫ってきていた。
「は、はや…よけられ…!」
無謀にも手で振り払おうとしてしまった動作に合わせ水流が迸り滑らせるように巨岩の進路を変え受け流した。
キクリは感嘆の声をあげる。
「やるわね!アレを凌ぐのは…ヤマタ…ううん…ヤィ=モ=トーヤ様の祝福を受けているミヅチ並だわ!」
咄嗟の事に当の本人であるアビヒコは全く気付いておらず、キクリの声を聞きそっと目を開けると…自分は助かり岩は大きく横に逸れていた。
「でも…今までちゃんとトゥムが使えなかったせいか、ケゥエ=エイキがぜんっぜんダメだわ…!アタシが組み手の中で教えてあげる…わっ!」
そう言うや否やキクリはアビヒコめがけ突撃してきた。
「左手を流れに逆らわず外にひねりながら受け、そのまま把持し勢いを利用して引き寄せると同時に踏み込んで打ち抜く!」
今でいう交差(叉)法である。両上肢の連動による効率的な体幹の回旋により増幅された重心力を踏み込みでさらに加速させ左上肢と連動で自然に肩関節内旋肘関節回内させながら右拳に乗せキクリの腹部を打ち抜いた!
…観るとなんと本当にキクリの背部からアビヒコの拳が突出していた…!
「~~!あ、あ、あ~~!」
現状を把握したアビヒコは驚きのあまり絶叫した。
「…よく出来たわね…」
そう言うとキクリと思しきモノはさらさらと崩れていった…。
「えぇ?あ…ええと…?」
「アタシがトィにトゥムを籠めて造ったポイシオン=イノカよ♪やるじゃない♪」
木の陰からひょこっと顔を出したキクリはそう言ってアビヒコを褒めた。
当然まったくの無傷である。
「そ、そういう事か…!トゥムが同じだから全く気付かなかったけど…良かったぁ…」
「ちょっとイラムモッカが過ぎたけどその調子だわ…♪次は解りやすくカミヤシっぽいカンジで造るから…指示の通り動いてみて!」
「うん!よし…来い!」
山肌の岩がめくれ上がり見る間に形を成していく…。
岩石の巨人といった風体である。
「今度はトィじゃなくてチス…。アタシの分身より何倍か強いから…さっきの要領で躱しながら打つようにね!」
巨人はアビヒコを認識すると大きく振りかぶり、アビヒコ自身の倍はあろう拳という名の岩塊を振り下ろしてきた。
(右足ナナメ後ろに引き、すぐさま左足で踏み込む。相手の横の陣地が取れたら攻撃が伸び切ったトコロで全トゥムを掌に集め右足で踏み込んで打ち込む!)
大筒を放った様な音と共に掌から背中までこちらにも強い反動が返ってきた。
(はねかえりを観じた刻はすぐさま全身のトゥムを爆発させさらに踏み込んで肘で打ち込む!)
キクリは思念を飛ばし会話している為アビヒコは受け取った瞬間すべてを観じ取り即座に実行していた。
それはほぼ己自身で考え行うに等しい実行速度であった。
(当たった瞬間ソコに全集中!)
全身の輝きが肘一点に収束し巨人を打ち…いや…穿ち抜いた…!
激しく身震いしたかと思うと巨人は被弾個所から無数にひび割れ崩れてしまった…。
「す、すごい…。キクリちゃん…どうやってこんな技を?」
「もちろん父様と…あと…お兄ちゃん…から教えてもらったわ…!アタシもケゥエのチカラないけどトゥムは強いから…。これってある程度以上トゥムが強いモノ向けの技なんだって。慣れたら遠くから相手に触れなくても打てるわ…!」
キクリは当時を思い出しながらそうにこやかに説明した。
「本当にありがとう!…これでまたきっと…」
「…ミチヒメに褒めてもらえる…かしら、あは♪」
瞬間アビヒコは顔から火が出た様に真っ赤になってしまった。
「エ、エパタイ!ちが…ちがわない…。いつかきっと…ぼくがミチヒメを守ってみせる…!」
「ふっふ~ん♪どっかでよぉく聞きなじんだセリフだわ♪」
「そうだよ!ミヅチはきぃちゃんをまもってみせるんだから!」
「楽しみにしているわ、二人ともね♪あはは♪」
少しだけからかい気味に、しかし心底そうなって欲しいヲモヒを籠めてキクリは言った。
(…いつかきっと…そして…伝えて…認めてもらうんだ…)
「うふん♡ステキよアビヒコちゃん♡アタイも絶賛おーえんするわん♡」
手を広げ抱きついてしてきて柔らかな感触の提供と共にマニィはそう言ってきた。
「あ、ありがとうマニィ…♪」
(…この柔らかさ…これがイコロ=タㇰだなんてほんと、信じられないな…)
そう思うとアビヒコは改めて認識してしまい少し恥ずかしくなるもその感触に癒されている自分がいる事に思う処はあったが…素直に喜ぶことにした。
同時刻の別の場所にて。
「…おいおい…なぁーんか一緒に歩いているだけで舞い上がってるトラ?」
「そりゃぁそーですわ♪常々聞かされていました…」
「例の御仁…」
「彼大歳故至極当然」
四聖獣達の言の葉の通り、まさに地に足つかず…いや本当に跳ねて浮いて歩くミチヒメの姿があった…。
「…この辺りでしたら万一の場合でも安全でしょう」
オオトシはそう言うと同時に滑らかに輝く根源の力を纏った。
「さぁ…これで通常のトゥムなら問題ありません、新しい技、放ってみてください」
言い終えた瞬間纏う光子力の強さが跳ね上がった。
その吹き上がるチカラにあてられて正気に戻ったミチヒメは…
(…は!そ、そ~でした…新しい技の修練に来たんだった…)
頭を一本指で掻きながら苦笑いを浮かべ氣を取り直し四聖獣から霊力をもらい氣力を練り上げていく…。
(…せっかくオオトシさまがお相手して下さるのだから…良いとこみせなきゃ!)
「…はい!行きます!疾如白虎!徐如青龍!侵掠如朱雀!不動如玄武!…獣王究極発勁!!!!はぁぁぁっ!!!!」
(ふむ…ミチヒメさんの極め技ですね…。…!そ、そこからさらに踏み込み、打ち手を鋭く…!!!)
先のヤチホコとは大きく違い、自然体のまま打撃面に氣力を集束させて待ち構える。
金属的な衝撃音がしばらく鳴り響き粉塵が舞う。
(…三…四…五…!かなり集めないとなりませぬ…!)
煙が晴れると…そこには微動だにせず手も使わず受け止めきっているオオトシの姿があった。
「す、すごーい!…ヤチホコくんはかな~り飛んでっちゃったのに!さっすがオオトシさま♡」
「…さすが、は貴女ですよミチヒメさん…成程…技の…ケゥエ=エイキの極みですねこれは…!」
打撃面にオオトシが集束させた氣力観ると…穿つ様に螺旋状に亀裂が入っていた。
「…今の私に僅かながら衝撃が来ました…。通常考えられない事です…。…。…。ミチヒメさん…次は本気で放たれてみてください!」
「えっ…。…は、はい!…じゃぁ…みんな、行くよ!」
「まかせるトラ!」
「了解しましたわ」
「任せるが良い」
「…承知。現在的限界解放開始。」
「はぁぁ…!ここからもう一段…いっけぇ~!」
四聖獣より現状の限界まで霊力を注がれ、それに応じた氣力を解放・融合して変身していく…。
四体が布状に変化し身体に巻き付き覆っていく。
「オオトシさま…。これが…今のわたしの全力です…!」
現状傍から見るにつけオオトシよりも力強く輝く根源の力メル=ストゥ=マェが吹き上がっている様に観える…!
それを観たオオトシは…手掌に交感神経優位時に起こる精神性発汗によってアポクリン腺からの分泌、そして額と背中の体温調節汗腺であるエクリン腺より間脳の視床下部の前方部分にある体温調節中枢からの命令と重複した為に過剰に発汗が起こり、気化熱で蒸散せず液体として流れる無効発汗によって冷感を伴う汗が伝うのを感じた。
それでもそのまま微笑を携えてミチヒメに言う。
「…素晴らしいですね…。では…私も限界まで練り上げます!」
言うや否やオオトシの全身より紅蓮の炎が吹き上がる。
極限まで吹き上がった炎が今度はオオトシめがけて集束していく。
爆発音と共に顕れたのは…真紅に輝く姿のオオトシであった。
「…アペのトゥム用いてウカムレさせました…。これが現在の私の全力です」
激しく吹き上げるミチヒメと対照的にオオトシは身体の周囲に薄い膜の様に光子力を纏う。
その薄さと裏腹に強烈なチカラが伺える…!
「…あれなら全力で大丈夫トラ…。あいつ、すごいトラ!」
「うん…!わたしにもビリビリ伝わってくるよ…!」
「さすが…ミチヒメがイレンカ寄せる殿方ですわね♪」
「な!エ、エパタイ、なにを…。…いんにゃ…まちがってないです…」
顔から火が噴き出そうな程に真っ赤になり俯く。
「そのイレンカは賛同し尊重するモノであるが…我らのこの状態…長くはもたぬぞ?」
「…約八十計測後解除予定…」
「…でした!よぉっしみんな!今度こそ…いくよ!」
ミチヒメは強く真剣な眼差しでオオトシを見つめ大きな声で伝える。
「オオトシさま!お待たせです!…いざ参ります!」
霊力と氣力を融合発動させた光子力を現状限界まで高めて技を放つ。
「行きます!究…極…発 勁!」
地面に蹴り足で大穴を開け弾け跳ぶ様に瞬時に間合いを詰め動作に入る。
誰が見ても解る程に具現化されたチカラが竜巻の様に螺旋を描き両脚から右拳に駆け昇ってゆく。
更なる加速をさせんと前足に捻りを加え行う踏み込みに引きずられ身体ごと飛び込む様に再加速した上で肩関節最大内旋近位橈尺関節最大回内遠位橈尺関節最大回内により回転力を加え鈀子拳に絞り込んだ拳に全てのチカラを集束させて打ち込んだ!
対しオオトシは全力でミチヒメの拳と逆回転に光子力を放出させ相殺し受け止めようと試みる。
ミチヒメは抵抗を感じながらも突き破って打ち抜こうとした。
「やぁぁ…ぁぁあ!」
ミチヒメの身体より輝く根源の力がさらに竜巻状に吹き上がりオオトシのチカラの膜と衝突し合う。
激しい衝突が暫く続いた後、一瞬両者のチカラの渦が止まったかの様に観えた後…オオトシのチカラの渦が逆回転し始めミチヒメが再度突撃していく。莫大なチカラの奔流がオオトシを飲み込んでゆく。
「っぐはぁ!」
落雷時の如き衝撃が起こり渦は遥か彼方まで突き抜けてゆく。
粉塵が晴れると…地面も遥か先まで半円状にえぐられていた…。
数十歩ほど離れた所に腕を十字に組み構え立つオオトシが観えた。
「…!オオトシさま!大丈夫ですか!」
「…ええ…。何とか…ですが…。極限までチカラを集束させて受け止めましたので損傷や消耗はそれ程ありませんが…あれを戦いの最中…誰かとの連携で放たれたのでしたら…構えていても受け止められはしないでしょう…信じ難い威力です…素晴らしき技でありました…!」
そう言い終えたオオトシを良く観ると…先の変化は解け上半身の衣は裂けてなくなり受け止めた腕は皮下出血により紫斑が出ていた。
「…!青龍!お願い!」
変身を解きミチヒメがそう叫ぶと青龍と呼ばれし小さき龍ポン=トコロ=カムイより優しい氣力トゥムが放たれていく。
「…ワッカは万物を癒すチカラ…」
見る見るうちにオオトシの腕の腫脹が軽快していく。
「…恐れ入ります…どうやら見た目以上にケゥエに衝撃が徹っていた様です…」
その言の葉を聞いてミチヒメはオオトシの背中を観てみる…すると背部は前腕以上に腫脹と皮下出血班が見受けられた…。
僧坊筋下部線維、最長筋をはじめ至る所での筋挫傷、そして胸椎棘突起と第7~10肋骨の局所的粉砕骨折が現在の診断であろう。
我々ならば立つことも会話すらも不可能であろうが、彼らは肉体を氣力、霊力で強化して動ける故にこうしていられるのである。
このままでも驚くべき事にある程度は動けるが、現世での実体となる肉体の大きな損傷を抱えては如何なオオトシと言えども闘う事は困難である。
(…これは…何と言う…)
青龍はチカラを注ぎながら観えてくるオオトシの身体の状態に驚愕していた。
(良く観ずれば…手足の先まで螺旋状に破壊されているではないか…発勁の衝撃を帯びたチカラの奔流…!これはあの渦に掠るだけでもただ事では済まぬ…。もし…これでチカラの集束極めし刻は…)
「青龍殿のご推察の通りです…。およそこの世の存在は敵わぬチカラとなるでしょう…。理を超えし存在すら脅かす程の…」
莫大なトゥムによる光子力…それを受け止めきれる持って生まれた強靭な肉体…現状は三割までであるが…それがミチヒメが生来授かったモノである。
「未だ未熟なれど…」
「極めし刻も…今のままのあの子でいて下さればと…そう願います…」
「うむ…。…さぁ、これで如何であろうか?」
青龍がそう言うとオオトシは身体を動かして確認してみた。
「…チカラの消耗はあれど普通に動けます…!青龍殿…ありがとうございます」
「よ、良かった~!青龍ならいっつも瞬時に治してくれるのに…もの凄く時間かかっていたから心配しました!」
いつの間にか抱きすくめてきたミチヒメはそう言った。
「オイ!…ミチヒメ!オマエ今…!」
「いいじゃありませんか♪」
「…そうであったな…」
「…現状無着衣状態…」
「…え…?あ…あぁ~!」
思えば上半身開けたオオトシの感触が事細かにつぶさに観じ取れる…?
(あ、あちゃ~!あの姿になるとアミㇷ゚破けちゃうから…!)
「変化時回収済…」
玄武が珍しく呆れた様なヲモヒをまじえて言った。
ミチヒメはそぉっと見上げオオトシの顔を見てみる…するとこれまた珍しく頬を赤らめて目を中空に泳がせていた。
「え?あ、うそ!オオトシさま…照れてらっしゃいます…?」
「…正直メノコの肌がこれほど心地良く、肌を合わせし刻には…これ程までにイレンカ溢れ出てくるモノとは…はじめて知りました…少々照れますが…私はミチヒメさんに…どうやらとてもイタクでは顕し切れない程のイレンカがあったようです…」
赤面しながらも誠実に自分のヲモヒを伝える辺りがとてもオオトシらしかった。
そしてこの端正な面持ちでその様に伝えられたミチヒメは…
「あの…あの…わたし、わたしも…オオトシさまが…エラマス!」
言うや否やミチヒメは背伸びして唇を重ねた。
(…ミチヒメさん…。本当に尊敬に値いたします…そして…キンラ=ピリカ=レカで…ウォラムコテ…です…!これが…緋徒の…ウタラの…互いに交し合うイレンカでしたか…)
何度も重ねては離れ…しばし後互いに見つめ合いながら微笑む。
そしてそっと身体を離したミチヒメの一糸まとわぬ姿を見て…オオトシは今までになく胸が高鳴るのを感じた。
ミチヒメは少し恥ずかしそうに頬を赤らめたまま伏し目がちに少しだけ視線をそらすも、包み隠さずオオトシへすべてをさらけ出していた。
なだらかで慎ましやかながらも確かに丸みを帯び膨らみを感じる双丘、程よく引き締まった腹部、まだ未成熟でこぶりな腰つき、しなやかで子鹿を思わせるような足…こうして観るとこの上なく可憐なメノコであるのにあの強さ…それを身につける為に幾多の試練を乗り越えてきたであろうそのヲモヒの強さ…凄惨な過去に負けず向き合えるその健やかさ…。
およそミチヒメを構成するすべての要素が愛おしくてたまらないヲモヒで胸中が埋め尽くされ…なお溢れる程に湧き出ていた…。
「…ミチヒメさん…私は…」
ミチヒメは軽く頷いてそっと寄り添い、その場に横になった。
「オオトシ…さま…」
オオトシはゆっくりとそのまま体を預ける。自分の身体にとても柔らかなモノが吸いついて来るのを感じる。
限りなく優しく唇を重ね、静かに話しゆっくりと優しくミチヒメに伝える。
「…このイレンカ…試練乗り越えし刻に…貴女にお伝えしたいです…」
オオトシの身体の重さや…イレンカの顕れの硬さも感じながらミチヒメは優しく微笑んで頷いた。
離れて見ぬふりをしていた玄武から衣を受け取り身に着けてから再度強く抱きすくめて背伸びをした…。
「…オオトシさまだったらきっと大丈夫です…!ですから…この旅の帰り…また…この空の下で…」
「はい…必ずや胸を張りこのイレンカを貴女へ…」
オオトシはそう言いながら優しくミチヒメを抱え上げて背伸びしなくても重なり合えるようにした。
「…ちょっとだけ怖いイレンカあるけど…きっと大丈夫…!」
オオトシの首に手を絡め軽く重なってからミチヒメはそう応えた。
眼を閉じるとまだあの凄惨な光景が蘇る…。
己は何も出来ずクニの…村の仲間達が蹂躙されていく光景…。
敵の首領も…それを操る黒幕も降伏させた。
皆は精霊神となりいつもそばにいる。
高句麗…神聖城国の王とも話は着いた。
それでも未だ胸をえぐるモノが拭い切れた訳ではない。
故にオオトシがミチヒメ自身が自ら触れた唇以外に触れてこなかったのには内心安堵していた。
ヤチホコ達の様な子供相手には何ともないのだが…。
(…あの刻の無力さ、悔しさをチカラにしてここまで鍛えたけど…この…怖さは…それでもまだ消せないんだね…)
そうヲモヒ巡らせていると気づかぬ内に頬を伝い滴が落ちていた。
「…ミチヒメさん…?…!」
オオトシは何かに観づいた様にミチヒメをそっと下ろし優しく抱きしめて頭を撫でた。
「貴女は…まごう事無き伽耶の…アンもキも…カタもポㇰもすべてを照らすトカㇷ゚チュㇷ゚=トゥスクル。そのラムもケゥエもすべてがキンラ=ピリカ=レカです。貴女がいつものミチヒメさんである限り…トカㇷ゚チュㇷ゚=カムイは貴女と共にあります…!」
その言の葉を聞いた途端、心の中の何かが外れた様に止めどなく涙が溢れ出てきた。
「わたし、わたし…何も出来なかった!衣をはぎ取られ、押さえつけられ、いつもヌプルをくれるみんなが…全員斃されるまで…私自身もいつでもカリ・ラマトゥ状態のまま…目を背けることも出来ずに…うわぁぁああ~!!…大人のヲノコが…怖い…!自分のおとーさんでさえ…。アチャポだけは不思議と平気だったの…。ウォラムコテなオオトシさまならきっと…そう思ったけど…」
「…わかっております…。ですから…今ではないのです…」
優しく撫でながらオオトシは応えた。
「すっごく嬉しいのに…すごくしたいのに…くやしい…!この…過去に勝てない自分自身に対してくやしい…!」
「すべてのモノは前の世よりなすべき事を引き継いできます。ミチヒメさんのそれもきっと大切な意味がある筈です!無理せずともラム=シリネ出来るその刻まで…いつまでも一緒にいます…皆の声に耳を傾け、あまり自分を責めないで下さい…」
オオトシはそう言ってミチヒメに霊力を注ぐ。優しいチカラがゆっくりと入ってくる。
(…ヒメ…ミチヒメ…大丈夫…ラマトゥは…不滅…ボクらはみんな生きているよ…いつも見ているから…そんなに泣かないで…)
「…みんな…そうだよね…つい忘れちゃうけど…いるんだよね…!」
方々より応えるヲモヒが聞こえてきた。
(…良く観て…目の前の方を…貴女に対しウォラムコテとウコサムペ=ピリカのラムとイレンカだけを寄せてくれているのよ…ほら…)
一体の精霊神がミチヒメに目隠しをして…しばらくしてそっと手を離した。
(…ほら観てごらん?)
そう言われて観てみると霊力とヲモヒが手に取る様に観えた。
「…あぁ…!ほんとう…!こんな純粋なイレンカ…はじめて…」
それは子供達と同様素直できれいなヲモヒであった。
(…でも立派なクルなのにどうしてこんなにも純粋なの?アチャポみたいに親として子供に接する以外だと他に観たコトない…?多い少ないはあってもウェンイレンカも観じるモノなのに…おとーさんでさえ…わたしと…ってイレンカがほんのちょっちだけど観えちゃったから…離れていたんだよね…こうしてもらわないと観えないのが…今までは良かったけど…オオトシさまとなら…このイレンカなら…ずっと観えていた方が良い…かな?)
(…わかったわ…では…ミチヒメにイレンカ寄せる方だけ…いつでも観える様にしておくわ…)
そう告げた後精霊神と化した下伽耶の仲間達はそれぞれ挨拶して去っていった…いや、不可視化したと言うのが正解かもしれない。
「…ミチヒメさん…大丈夫でしょうか…?」
(…本当に心配して下さる…♪)
「オオトシさまありがとうございます♪もう大丈夫です♪」
満面の笑みと共にそう言の葉を返すと、オオトシは赤面しながら嬉しそうに言った。
「それは良かったです…。貴方の苦しみは直接彼等にイタクを頂くのが一番だと思いました…」
(安心…喜び…あ!笑顔がステキですって…もう♡)
ミチヒメはオオトシのそのヲモヒが嬉しくてそのまま抱きついて唇を重ねてしまった。
こうしてそれぞれのクスターナの長い夜が更けていった…。
ミチヒメは過去に色々とあった様ですね…。
現実でもつらい過去を持っている方が…
明るく元気に振る舞っていたりする場合もありますよね。
過去を乗り越え切れていて…なら喜ばしい事だと思います。
…ミチヒメも本当の意味でそうなると良いですね♪
用語説明ですm(__)m
・メル=ストゥ=マェ:輝く+根源+チカラ→「輝く根源の力」=「光子力」としております。
・シ=イコロ=タㇰ:最高の+宝+玉→「如意宝珠」で、マニィの事なのですが…
アビヒコは「イコロ=タㇰ:宝の玉」としか認識できていないようです(^-^;