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第45倭 それぞれのアン=フスコトイ

この日の夜の他のみんなは…?

 (ポロ=コタン)よりはなれ少し上流の河原にて。


「さっきのアレ、またなってみて?」


 キクリにそう言われたアビヒコは(うなず)いてマニィを見やる。


「準備いいわよん♡ アビヒコちゃん、いくわよん♡」


 マニィに後ろから抱きすくめ(ウコ=ラィパ)られて念じると、自身の内なる白と黒が溶け合い混ざり合いながら強い輝きを放っていく。


「…やった…また、出来た!」


「当然よん♡元々アビヒコちゃんの持つチカラだもん♡」


「…ぼくの…チカラ…あ、そうか!」


 アビヒコは自身の暴走時(ぼうそうじ)()ずるナニカを思い起こした。


(…扱いきれなくて出てきてしまうアレを…自分のモノに出来ているのが今のこの…)


 正気に返り(ヤイヌパ)眼を開くと、巨大な(チス)が上空より迫ってきていた。


「は、はや…よけられ…!」


 無謀(むぼう)にも手で振り払おうとしてしまった動作に合わせ水流が(ほとばし)(すべ)らせるように巨岩の進路を変え受け流した。

 キクリは感嘆(かんたん)の声をあげる。


「やるわね!アレを(しの)ぐのは…ヤマタ…ううん…ヤィ=モ=トーヤ(鏡水顕導神)様の祝福を受けているミヅチ並だわ!」


 咄嗟(とっさ)の事に当の本人であるアビヒコは全く気付いておらず、キクリの声を聞きそっと目を開けると…自分は助かり岩は大きく横に()れていた。


「でも…今までちゃんとトゥムが使えなかったせいか、ケゥエ=エイキ(身体操作)がぜんっぜんダメだわ…!アタシが組み手の中で教えてあげる…わっ!」


 そう言うや(いな)やキクリはアビヒコめがけ突撃してきた。


「左手を流れに逆らわず外にひねりながら受け、そのまま把持(はじ)し勢いを利用して引き寄せると同時に()み込んで打ち抜く!」


 今でいう交差(こうさ)(叉)法である。両上肢(りょうじょうし)の連動による効率(こうりつ)的な体幹(たいかん)回旋(かいせん)により増幅された重心力(じゅうしんりょく)を踏み込みでさらに加速させ左上肢と連動で自然に肩関節(けんかんせつ)内旋(ないせん)肘関節(ちゅうかんせつ)回内(かいない)させながら右拳に乗せキクリの腹部(ふくぶ)を打ち抜いた!

 …()るとなんと本当にキクリの背部(はいぶ)からアビヒコの拳が突出(とつしゅつ)していた…!


「~~!あ、あ、あ~~!」


 現状を把握(はあく)したアビヒコは驚きのあまり絶叫(ぜっきょう)した。


「…よく出来たわね…」


 そう言うとキクリと思しきモノはさらさらと崩れていった…。


「えぇ?あ…ええと…?」


「アタシがトィ()トゥム(氣力)()めて(つく)ったポイシオン=イノカ(人形)よ♪やるじゃない♪」


 木の陰からひょこっと顔を出したキクリはそう言ってアビヒコを()めた。

 当然まったくの無傷である。


「そ、そういう事か…!トゥムが同じだから全く気付かなかったけど…良かったぁ…」


「ちょっとイラムモッカ(いたずら)が過ぎたけどその調子だわ…♪次は解りやすくカミヤシ(化け物)っぽいカンジで造るから…指示の通り動いてみて!」


「うん!よし…来い!」


 山肌の(チス)がめくれ上がり見る間に形を成していく…。

 岩石の巨人といった風体である。


「今度はトィ()じゃなくてチス()…。アタシの分身より何倍か強いから…さっきの要領で(かわ)しながら打つようにね!」


 巨人はアビヒコを認識すると大きく振りかぶり、アビヒコ自身の倍はあろう拳という名の岩塊(がんかい)を振り下ろしてきた。


(右足ナナメ後ろに引き、すぐさま左足で踏み込む。相手の横の陣地(じんち)が取れたら攻撃が伸び切ったトコロで全トゥムを(てのひら)に集め右足で踏み込んで打ち込む!)


 大筒を放った様な音と共に掌から背中までこちらにも強い反動が返ってきた。


(はねかえりを(かん)じた(トキ)はすぐさま全身のトゥムを爆発させさらに踏み込んで肘で打ち込む!)


 キクリは思念(イレンカ)を飛ばし会話している為アビヒコは受け取った瞬間すべてを観じ取り即座(そくざ)に実行していた。

 それはほぼ己自身で考え行うに等しい実行速度(じっこうそくど)であった。


(当たった瞬間(しゅんかん)ソコに全集中(ぜんしゅうちゅう)!)


 全身の輝きが肘一点に収束し巨人を打ち…いや…穿(うが)ち抜いた…!

 激しく身震(みぶる)いしたかと思うと巨人は被弾個所(ひだんかしょ)から無数にひび割れ(くず)れてしまった…。


「す、すごい…。キクリちゃん…どうやってこんな技を?」


「もちろん父様と…あと…お兄ちゃん…から教えてもらったわ…!アタシもケゥエのチカラないけどトゥムは強いから…。これってある程度以上トゥムが強いモノ向けの技なんだって。慣れたら遠くから相手に触れなくても打てるわ…!」


 キクリは当時を思い出し(エシカルン)ながらそうにこやかに説明した。


「本当にありがとう!…これでまたきっと…」


「…ミチヒメに()めてもらえる…かしら、あは♪」


 瞬間アビヒコは顔から火が出た様に真っ赤になってしまった。


エ、エパタイ(バ、バカ)!ちが…ちがわない…。いつかきっと…ぼくがミチヒメを守ってみせる…!」


「ふっふ~ん♪どっかでよぉく聞きなじんだセリフだわ♪」


「そうだよ!ミヅチはきぃちゃんをまもってみせるんだから!」


「楽しみにしているわ、二人ともね♪あはは♪」


 少しだけからかい気味(イラムモッカ)に、しかし心底そうなって欲しいヲモヒ(イレンカ)()めてキクリは言った。


(…いつかきっと…そして…伝えて…認めてもらうんだ…)


「うふん♡ステキよアビヒコちゃん♡アタイも絶賛(ぜっさん)おーえんするわん♡」


 手を広げ抱きついて(コテムサイネ)してきて柔らかな感触の提供と共にマニィはそう言ってきた。


「あ、ありがとうマニィ…♪」


(…この柔らかさ…これがイコロ=タㇰ(宝の玉)だなんてほんと、信じられないな…)


 そう思うとアビヒコは改めて認識してしまい少し恥ずかしくなるもその感触に(いや)されている自分がいる事に思う処はあったが…素直に喜ぶことにした。


 同時刻の別の場所にて。


「…おいおい…なぁーんか一緒に歩いているだけで()い上がってるトラ?」


「そりゃぁそーですわ♪常々(つねづね)聞かされていました…」


「例の御仁(ごじん)…」


「彼大歳故至極当然」


 四聖獣達(しせいじゅうたち)の言の葉の通り、まさに地に足つかず…いや本当に()ねて浮いて歩くミチヒメの姿があった…。


「…この辺りでしたら万一の場合でも安全でしょう」


 オオトシはそう言うと同時に滑らかに輝く根源の力(メル=ストゥ=マェ)(まと)った。


「さぁ…これで通常のトゥムなら問題ありません、新しい技、放ってみてください」


 言い終えた瞬間纏う光子力(メル=ストゥ=マェ)の強さが跳ね上がった。

 その吹き上がるチカラにあてられて正気に戻ったミチヒメは…


(…は!そ、そ~でした…新しい技の修練(しゅうれん)に来たんだった…)


 頭を一本指で()きながら苦笑いを浮かべ()を取り直し四聖獣から霊力(ヌプル)をもらい氣力(トゥム)()り上げていく…。


(…せっかくオオトシさまがお相手して下さるのだから…良いとこみせなきゃ!)


「…はい!行きます!疾如(トクコト)白虎(ビャッコノゴトク)徐如(シズカナルコト)青龍(セイリュウノゴトク)侵掠如(シンリャクスルコト)朱雀(スザクノゴトク)不動如(ウゴカザルコト)玄武(ゲンブノゴトシ)!…獣王(ジュウオウ)究極発勁(キュウキョクハッケイ)!!!!はぁぁぁっ!!!!」


(ふむ…ミチヒメさんの()め技ですね…。…!そ、そこからさらに踏み込み、打ち手を(するど)く…!!!)


 先のヤチホコとは大きく違い、自然体のまま打撃面に氣力(トゥム)集束(しゅうそく)させて待ち構える。

 金属的な衝撃音(しょうげきおん)がしばらく鳴り(ひび)粉塵(ふんじん)()う。


(…三…四…五…!かなり集めないとなりませぬ…!)


 煙が晴れると…そこには微動(びどう)だにせず手も使わず受け止めきっているオオトシの姿があった。


「す、すごーい!…ヤチホコくんはかな~り飛んでっちゃったのに!さっすがオオトシさま♡」


「…さすが、は貴女(あなた)ですよミチヒメさん…成程(なるほど)…技の…ケゥエ=エイキ(身体操作)(きわ)みですねこれは…!」


 打撃面にオオトシが集束させた氣力(トゥム)観ると…穿(うが)つ様に螺旋状(らせんじょう)亀裂(きれつ)が入っていた。


「…今の私に(わず)かながら衝撃が来ました…。通常考えられない事です…。…。…。ミチヒメさん…次は本気で放たれてみてください!」


「えっ…。…は、はい!…じゃぁ…みんな、行くよ!」


「まかせるトラ!」


「了解しましたわ」


「任せるが良い」


「…承知。現在的限界解放開始。」


「はぁぁ…!ここからもう一段…いっけぇ~!」


 四聖獣より現状(げんじょう)限界(げんかい)まで霊力(ヌプル)を注がれ、それに応じた氣力(トゥム)解放(かいほう)融合(ゆうごう)して変身していく…。

 四体が布状に変化し身体に巻き付き覆っていく。


「オオトシさま…。これが…今のわたしの全力です…!」


 現状傍から見るにつけオオトシよりも力強く輝く根源の力メル=ストゥ=マェが吹き上がっている様に観える…!

 それを観たオオトシは…手掌(しゅしょう)交感神経(こうかんしんけい)優位時(ゆういじ)に起こる精神性発汗(せいしんせいはっかん)によってアポクリン腺からの分泌(ぶんぴ)、そして額と背中の体温調節(たいおんちょうせつ)汗腺(かんせん)であるエクリン腺より間脳(かんのう)視床下部(ししょうかぶ)の前方部分にある体温調節中枢からの命令と重複(ちょうふく)した為に過剰(かじょう)発汗(はっかん)が起こり、気化熱(きかねつ)蒸散(じょうさん)せず液体として流れる無効発汗(むこうはっかん)によって冷感(れいかん)(ともな)う汗が伝うのを感じた。

 それでもそのまま微笑を携えてミチヒメに言う。


「…素晴らしいですね…。では…私も限界まで練り上げます!」


 言うや否やオオトシの全身より紅蓮(アラフレ)の炎が吹き上がる。

 極限まで吹き上がった炎が今度はオオトシめがけて集束していく。

 爆発音と共に(あらわ)れたのは…真紅に輝く姿のオオトシであった。


「…アペ()のトゥム用いてウカムレ(融合)させました…。これが現在の私の全力です」


 激しく吹き上げるミチヒメと対照的にオオトシは身体の周囲に薄い膜の様に光子力(メル=ストゥ=マェ)(まと)う。

 その薄さと裏腹に強烈(きょうれつ)なチカラが(うかが)える…!


「…あれなら全力で大丈夫トラ…。あいつ、すごいトラ!」


「うん…!わたしにもビリビリ伝わってくるよ…!」


「さすが…ミチヒメがイレンカ寄せる殿方(とのがた)ですわね♪」


「な!エ、エパタイ(ば、ばかぁ)、なにを…。…いんにゃ…まちがってないです…」


 顔から火が()き出そうな程に真っ赤になり(うつむ)く。


「そのイレンカは賛同(さんどう)尊重(そんちょう)するモノであるが…我らのこの状態…長くはもたぬぞ?」


「…約八十計測後解除予定…」


「…でした!よぉっしみんな!今度こそ…いくよ!」


 ミチヒメは強く真剣な眼差(まなざ)しでオオトシを見つめ大きな声で伝える。


「オオトシさま!お待たせです!…いざ参ります!」


 霊力と氣力を融合発動(ウカムレ=エトゥッカ)させた光子力を現状限界まで高めて技を放つ。


「行きます!究…極…発 勁(はぁっけぇい)!」


 地面に()り足で大穴を開け(はじ)()ぶ様に瞬時(しゅんじ)に間合いを()め動作に入る。

 誰が見ても解る程に具現化(ぐげんか)されたチカラが竜巻の様に螺旋(らせん)を描き両脚から右拳に()け昇ってゆく。

 更なる加速をさせんと前足に(ひね)りを加え行う踏み込みに引きずられ身体ごと飛び込む様に再加速した上で肩関節(けんかんせつ)最大内旋(さいだいないせん)近位橈尺(きんいとうしゃく)関節最大回内遠(かいない)位橈尺関節最大回内により回転力を加え鈀子拳(バァジィクゥァン)(しぼ)り込んだ拳に全てのチカラを集束させて打ち込んだ!

 対しオオトシは全力でミチヒメの拳と逆回転に光子力を放出させ相殺し受け止めようと試みる。

 ミチヒメは抵抗を感じながらも突き破って打ち抜こうとした。


「やぁぁ…ぁぁあ!」


 ミチヒメの身体より輝く根源の力(メル=ストゥ=マェ)がさらに竜巻状に吹き上がりオオトシのチカラの膜と衝突(しょうとつ)し合う。

 激しい衝突が(しばら)く続いた後、一瞬両者のチカラの渦が止まったかの様に観えた後…オオトシのチカラの渦が逆回転し始めミチヒメが再度突撃していく。莫大(ばくだい)なチカラの奔流(ほんりゅう)がオオトシを飲み込んでゆく。


「っぐはぁ!」


 落雷時の如き衝撃が起こり渦は(はる)か彼方まで突き抜けてゆく。

 粉塵(ふんじん)が晴れると…地面も遥か先まで半円状(はんえんじょう)にえぐられていた…。

 数十歩ほど離れた所に腕を十字に組み構え立つオオトシが観えた。


「…!オオトシさま!大丈夫ですか!」


「…ええ…。何とか…ですが…。極限までチカラを集束させて受け止めましたので損傷や消耗はそれ程ありませんが…あれを戦いの最中…誰かとの連携(れんけい)で放たれたのでしたら…構えていても受け止められはしないでしょう…信じ難い威力(いりょく)です…素晴らしき技でありました…!」


 そう言い終えたオオトシを良く観ると…先の変化は解け上半身の(アミㇷ゚)は裂けてなくなり受け止めた腕は皮下出血(ひかしゅっけつ)により紫斑(しはん)が出ていた。


「…!青龍!お願い!」


 変身を解きミチヒメがそう叫ぶと青龍と呼ばれし小さき龍ポン=トコロ=カムイより優しい氣力トゥムが放たれていく。


「…ワッカ()万物(ばんぶつ)(いや)すチカラ…」


 見る見るうちにオオトシの腕の腫脹(しゅちょう)軽快(けいかい)していく。


「…恐れ入ります…どうやら見た目以上にケゥエに衝撃が(とお)っていた様です…」


 その言の葉を聞いてミチヒメはオオトシの背中を観てみる…すると背部は前腕以上に腫脹と皮下出血班が見受けられた…。

 僧坊筋下部(そうぼうきんかぶ)線維、最長(さいちょう)筋をはじめ至る所での筋挫傷(ざしょう)、そして胸椎棘(きょうついきょく)突起(とっき)と第7~10肋骨(ろっこつ)局所的(きょくしょてき)粉砕骨折(ふんさいこっせつ)が現在の診断であろう。

 我々ならば立つことも会話すらも不可能であろうが、彼らは肉体を氣力(トゥム)霊力(ヌプル)で強化して動ける故にこうしていられるのである。

 このままでも驚くべき事にある程度は動けるが、現世(うつしよ)での実体となる肉体の大きな損傷を抱えては如何(いか)なオオトシと言えども(たたか)う事は困難(こんなん)である。


(…これは…何と言う…)


 青龍はチカラを注ぎながら観えてくるオオトシの身体の状態に驚愕(きょうがく)していた。


(良く(かん)ずれば…手足の先まで螺旋状に破壊されているではないか…発勁(はっけい)の衝撃を帯びたチカラの奔流…!これはあの渦に(かす)るだけでもただ事では済まぬ…。もし…これでチカラの集束極めし刻は…)


「青龍殿のご推察の通りです…。およそこの世の存在は敵わぬチカラとなるでしょう…。(ことわり)を超えし存在すら(おびや)かす程の…」


 莫大なトゥムによる光子力…それを受け止めきれる持って生まれた強靭な肉体…現状は三割までであるが…それがミチヒメが生来授かったモノである。


「未だ未熟なれど…」


「極めし刻も…今のままのあの子でいて下さればと…そう願います…」


「うむ…。…さぁ、これで如何であろうか?」


 青龍がそう言うとオオトシは身体を動かして確認してみた。


「…チカラの消耗はあれど普通に動けます…!青龍殿…ありがとうございます」


「よ、良かった~!青龍ならいっつも瞬時に治してくれるのに…もの凄く時間かかっていたから心配しました!」


 いつの間にか抱きすくめて(ウコ=ラィパ)きたミチヒメはそう言った。


「オイ!…ミチヒメ!オマエ今…!」


「いいじゃありませんか♪」


「…そうであったな…」


「…現状無着衣状態…」


「…え…?あ…あぁ~!」


 思えば上半身(はだ)けたオオトシの感触が事細(ことこま)かにつぶさに観じ取れる…?


(あ、あちゃ~!あの姿になるとアミㇷ゚()破けちゃうから…!)


「変化時回収済…」


 玄武(ゲンブ)が珍しく(あき)れた様なヲモヒをまじえて言った。

 ミチヒメはそぉっと見上げオオトシの顔を見てみる…するとこれまた珍しく頬を赤らめて目を中空(ちゅうくう)に泳がせていた。


「え?あ、うそ!オオトシさま…照れてらっしゃいます…?」


「…正直メノコの肌がこれほど心地良く、肌を合わせし刻には…これ程までにイレンカ(あふ)れ出てくるモノとは…はじめて知りました…少々照れますが…私はミチヒメさんに…どうやらとてもイタク(言の葉)では顕し切れない程のイレンカがあったようです…」


 赤面しながらも誠実に自分のヲモヒを伝える辺りがとてもオオトシらしかった。

 そしてこの端正な面持ちでその様に伝えられたミチヒメは…


「あの…あの…わたし、わたしも…オオトシさまが…エラマス(大好き)!」


 言うや否やミチヒメは背伸びして唇を重ね(エコプヌレ)た。


(…ミチヒメさん…。本当に尊敬に(あたい)いたします…そして…キンラ=ピリカ=レカ(神がかり的な美しさ)で…ウォラムコテ(愛おしい)…です…!これが…緋徒(ヒト)の…ウタラの…互いに(かわ)し合うイレンカでしたか…)


 何度も重ねては離れ…しばし後互いに見つめ合いながら微笑む。

 そしてそっと身体を離したミチヒメの一糸まとわぬ姿を見て…オオトシは今までになく胸が高鳴る(エサムペルイルイ)のを感じた。

 ミチヒメは少し恥ずかしそうに頬を赤らめたまま伏し目がちに少しだけ視線をそらすも、包み隠さずオオトシへすべてをさらけ出していた。

 なだらかで(つつ)ましやかながらも確かに丸みを()(ふく)らみを感じる双丘(エウコポヌプカ)、程よく引き()まった腹部(ふくぶ)、まだ未成熟(ウェウェク)でこぶりな腰つき、しなやかで子鹿(ポン=ユㇰ)を思わせるような足…こうして観るとこの上なく可憐(かれん)なメノコであるのにあの強さ…それを身につける為に幾多(いくた)の試練を乗り越えてきたであろうそのヲモヒの強さ…凄惨(せいさん)な過去に負けず向き合えるその(すこ)やかさ…。

 およそミチヒメを構成するすべての要素が愛おしくてたまらないヲモヒで胸中が埋め尽くされ…なお溢れる程に()き出ていた…。


「…ミチヒメさん…(わたくし)は…」


 ミチヒメは軽く(うなず)いてそっと寄り添い、その場に横になった。


「オオトシ…さま…」


 オオトシはゆっくりとそのまま体を預ける。自分の身体にとても柔らかなモノが吸いついて来るのを感じる。

 限りなく優しく唇を重ね(エコプヌレ)、静かに話しゆっくりと優しくミチヒメに伝える。


「…このイレンカ…試練乗り越えし刻に…貴女にお伝えしたいです…」


 オオトシの身体の重さや…イレンカの顕れの硬さも感じながらミチヒメは優しく微笑んで頷いた。

 離れて見ぬふりをしていた玄武から(アミㇷ゚)を受け取り身に着けてから再度強く抱きすくめて(ウコ=ラィパ)背伸びをした…。


「…オオトシさまだったらきっと大丈夫です…!ですから…この旅の帰り…また…この空の下で…」


「はい…必ずや胸を張りこのイレンカを貴女へ…」


 オオトシはそう言いながら優しくミチヒメを抱え上げて背伸びしなくても重なり合えるようにした。


「…ちょっとだけ怖いイレンカあるけど…きっと大丈夫…!」


 オオトシの首に手を絡め軽く重なってからミチヒメはそう応えた。

 眼を閉じるとまだあの凄惨な光景が(よみがえ)る…。

 己は何も出来ずクニ(モシリ)の…(コタン)の仲間達が蹂躙(じゅうりん)されていく光景…。

 敵の首領(しゅりょう)も…それを(あやつ)黒幕(くろまく)降伏(こうふく)させた。

 皆は精霊神(ヤオヨロズ)となりいつもそばにいる。

 高句麗…神聖城国(パセ=コル=モシリ)の王とも話は着いた。

 それでも(いま)だ胸をえぐるモノが(ぬぐ)い切れた訳ではない。

 故にオオトシがミチヒメ自身が自ら触れた唇以外に触れてこなかったのには内心安堵(あんど)していた。

 ヤチホコ達の様な子供(ノカン=クル)相手には何ともないのだが…。


(…あの刻の無力さ、悔しさをチカラにしてここまで(きた)えたけど…この…怖さは…それでもまだ消せないんだね…)


 そうヲモヒ巡らせていると気づかぬ内に頬を伝い(しずく)が落ちていた。


「…ミチヒメさん…?…!」


 オオトシは何かに観づいた様にミチヒメをそっと下ろし優しく抱きしめて頭を撫でた(ヤイ=コ=ルイェ)


「貴女は…まごう事無き伽耶の…アン()()も…カタ()ポㇰ()もすべてを照らすトカㇷ゚チュㇷ゚(太陽の)トゥスクル(姫巫女)。そのラム()ケゥエ(身体)もすべてがキンラ=ピリカ=レカ(神々しく美しい)です。貴女がいつものミチヒメさんである限り…トカㇷ゚チュㇷ゚(太陽)=カムイ(の神)は貴女と共にあります…!」


 その言の葉を聞いた途端、心の中の何かが外れた様に止めどなく涙が溢れ出てきた。


「わたし、わたし…何も出来なかった!(アミㇷ゚)をはぎ取られ、押さえつけられ、いつもヌプルをくれるみんなが…全員(たお)されるまで…私自身もいつでもカリ・ラマトゥ(輪を廻れる)状態のまま…目を背けることも出来ずに…うわぁぁああ~!!…大人のヲノコが…怖い…!自分のおとーさんでさえ…。アチャポ(おじさま)だけは不思議と平気だったの…。ウォラムコテ(愛おしい)なオオトシさまならきっと…そう思ったけど…」


「…わかっております…。ですから…今ではないのです…」


 優しく撫でながらオオトシは応えた。


「すっごく嬉しいのに…すごくしたいのに…くやしい…!この…過去に勝てない自分自身に対してくやしい…!」


「すべてのモノは前の世よりなすべき事を引き継いできます。ミチヒメさんのそれもきっと大切な意味がある(はず)です!無理せずともラム=シリネ(安心する)出来るその刻まで…いつまでも一緒にいます…皆の声に耳を傾け、あまり自分を責めないで下さい…」


 オオトシはそう言ってミチヒメに霊力(ヌプル)を注ぐ。優しいチカラがゆっくりと入ってくる。


(…ヒメ…ミチヒメ…大丈夫…ラマトゥ(たましい)は…不滅(ふめつ)…ボクらはみんな生きているよ…いつも見ているから…そんなに泣かないで…)


「…みんな…そうだよね…つい忘れちゃうけど…いるんだよね…!」


 方々より応えるヲモヒが聞こえてきた。


(…良く観て…目の前の方を…貴女に対しウォラムコテ(愛おしさ)ウコサムペ=ピリカ(慈しみ合う)のラムとイレンカだけを寄せてくれているのよ…ほら…)


 一体の精霊神(ヤオヨロズ)がミチヒメに目隠(めかく)しをして…しばらくしてそっと手を離した。


(…ほら観てごらん?)


 そう言われて観てみると霊力とヲモヒ(イレンカ)が手に取る様に観えた。


「…あぁ…!ほんとう…!こんな純粋なイレンカ…はじめて…」


 それは子供達と同様素直できれいなヲモヒであった。


(…でも立派なクル(成人男性)なのにどうしてこんなにも純粋なの?アチャポみたいに親として子供に接する以外だと他に観たコトない…?多い少ないはあってもウェンイレンカ(悪想念)も観じるモノなのに…おとーさんでさえ…わたしと…ってイレンカがほんのちょっちだけど観えちゃったから…離れていたんだよね…こうしてもらわないと観えないのが…今までは良かったけど…オオトシさまとなら…このイレンカなら…ずっと観えていた方が良い…かな?)


(…わかったわ…では…ミチヒメにイレンカ寄せる方だけ…いつでも観える様にしておくわ…)


 そう告げた後精霊神と化した下伽耶(アラカヤ)の仲間達はそれぞれ挨拶して去っていった…いや、不可視化(ふかしか)したと言うのが正解かもしれない。


「…ミチヒメさん…大丈夫でしょうか…?」


(…本当に心配して下さる…♪)


「オオトシさまありがとうございます♪もう大丈夫です♪」


 満面の笑みと共にそう言の葉を返すと、オオトシは赤面しながら嬉しそうに言った。


「それは良かったです…。貴方の苦しみは直接彼等にイタクを頂くのが一番だと思いました…」


(安心…喜び…あ!笑顔がステキですって…もう♡)


 ミチヒメはオオトシのそのヲモヒが嬉しくてそのまま抱きついて唇を重ね(エコプヌレ)てしまった。

 こうしてそれぞれのクスターナ(王子に授乳せし大地)長い夜(アン=フスコトイ)が更けていった…。

ミチヒメは過去に色々とあった様ですね…。

現実でもつらい過去を持っている方が…

明るく元気に振る舞っていたりする場合もありますよね。

過去を乗り越え切れていて…なら喜ばしい事だと思います。

…ミチヒメも本当の意味でそうなると良いですね♪


用語説明ですm(__)m

・メル=ストゥ=マェ:輝く+根源+チカラ→「輝く根源の力」=「光子力」としております。

・シ=イコロ=タㇰ:最高の+宝+玉→「如意宝珠」で、マニィの事なのですが…

アビヒコは「イコロ=タㇰ:宝の玉」としか認識できていないようです(^-^;


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