第39倭 イコロ=タㇰ求めクスターナへ
最初のナムワッカ=シリへ…
ここは…このオタ=ヌプカ=ケナスの険しき道程でわずかに点在するナムワッカ=シリである。
泉湧きし地以外は砂漠か岩石砂漠で構成されている険しき道のりであるが、ガンダーラまで最短かつ最速故困難な道程でありながらも貿易にも使われている。
遠回りになるが…砂丘続く平原の北側をナムワッカ=シリ沿いに通る“テンリ・タグ=ピタカ=スㇳ=クスル”や、さらに北側、テンリ・タグの北の麓を通るテンリ・タグ=マㇳナゥ=スㇳ=クスル…こちらは難所になりつつあるパミールと最近呼ばれている高原を通らなくても良いので、ウタラの多くはここを通る。
方向は違えど一番無理がないのは北の道のさらに北にある…“ムン=トゥム=クスル”である。現在で言うステップ…特にこの場合はユーラシアステップと呼ばれる地域を通るので、水や食料の心配がなく、一番古くから交易に使われている所である。
「…最近また高くなってきているみたい。そのうちヤレパチプでいけなくなるかも」
古に伝え聞く“ウェンルイ=モシリ=ヤㇲケ=シルトゥ” の影響で今なお隆起し続けている所がある。
このオタ=ヌプカ=ケナスを越えてガンダーラへ向かう旅の最後の難所パミール…そして周辺の山々も苛烈なる世界の裂動以来日々高度を増しているそうである。
「…しばらくしたら…わたし達でもモシリ=キタイと観じるよ~になりそうね…」
我々の知る同名地域に比べ気候が大分温暖な為彼女たちも助かっているが、現在の地球では氷河が存在するような所である…。
「通り抜けるのちょっちタイヘンなんだけど~でもでも途中にとってもステキなカムイワッカがあるのよ~♪」
ミチヒメはエシカルンしながら嬉しそうに言った。
「その前にクスターナに立ち寄ってステキなイトムを手に入れましょ♪あそこにしかないイコロ=タㇰがあるの♪」
「え♪ナニそれボクもみてみたーい!」
スセリはミチヒメの話すイコロ=タㇰの話に食いついた。
ピリカ=スマ磨き造るラマトゥ=タㇰは…イレンカのもとにトゥムを籠めると下手なハイヨㇰペより身を守るモノと化す。それだけで並のアィエなど寄せ付けなくなるのである。同様にヌプルを籠めれば今度は観えざるモノ退けるモノとなる。中にはヤチホコのセレマク=アカムの様に己のチカラをセレマクしながらもすべての加護を備えるモノもある。
その様なイトムの素材の中で最高のモノがクスターナで入手できるのであった。
クスターナより遥か遠いヤチホコ達の住む倭のナ・ラにまで話が伝わるほどの素晴らしさであると聞いていた。
「これでまた一段上のコト出来るよぉになるね♪」
ミチヒメのそのイタクを受けキクリも続ける。
「アタシもそれが手に入れば…したいことが出来そうだわ…!」
「きぃちゃん、ナニかしたいことあったの?」
「…うん。…お兄ちゃんの行方を…探せるわ…!」
キクリのユポ アマムは六つ季節廻りし前…修行の旅に出たきりらしい…。
「きっとステキでラム=エトクなヲノコになっているはずだわ…!」
「しかし不思議ですね…おかあさまやクシナダさまなら探せそうな気もしますが…?」
「なんでも特殊な結界の中での修行らしくって…母様でも探せないらしいわ…!」
(あのクシナダさまでも…果たしてそれは本当に結界なのでしょうか…もしかして…シンナ=モシリかもしれませんね…)
キクリのイタクを聞いたヤチホコはそう思い尋ねた。
「そんな状態でも…クスターナで手に入るイコロ=タㇰで探せるようになるのですか…?」
「アタシもフナラ=エカㇺケするの得意なの、でも…。だけど、そのチカラ高めてくれるモノがあれば…きっと…!」
「…たしかに…ぼくもとくいだけど…キクリちゃんと似たフミは…他に観じたことないもんね」
キクリに共感する様にアビヒコも応えた。
「…そう。だからちょっとチパ=チパだわ!」
「そうと解れば早く行きたいですね、そのクスターナに!」
ヤチホコは今からまさに行くようなイレンカ籠めてそう言った。
「急ぐ分には問題ありません…ですが、油断も無茶も禁物です。今日はしっかり休み、明日の朝少し早めに向かいましょう」
オオトシが優しく諭す様にそう応えた。
「賛成で~す!じゃぁみんな、早く休んで明日に備えましょ♪」
ミチヒメはオオトシの意見に賛同した上で皆を促し、みつけた宿へ向かい各自準備に取り掛かり、いつもより早めに床に就いた。
「…おきて…ヤチ!おきて!」
昨晩の稽古が響いたのか…いつもより早く出立する事も忘れたかの様にひとり眠りに耽るヤチホコであった…。
「…これは…例の…であるか…。このまま連れて行くとしよう…」
ウガヤはそう言ってヤチホコを担ぎ、皆はヤレパチプに乗り込んだ。
「今日も天気は良い。スクス=トイには否が応でも起きるであろう…」
そうウガヤは言いながらヤレパチプにヤチホコを優しく寝かしつけ出発した。
(…いずれ近いうち…相まみえるだろう…)
心地良く揺れるヤレパチプの中、タカㇻか現か…誰かがそう語りかけてきたのをヤチホコは聞いた…。
(…タカㇻ…? だとしても…どなたでしょう…か…?)
微睡みから目覚めたヤチホコが甲板に出てみると…なんと皆でオタラ于ス=トゥニンハラム(砂ニ潜ミシ龍ノ如キミミズトカゲ)と応戦中であった。
一般のウタラなら大事であるが…ウガヤ等には丁度良い腕慣らしの様である。
彼らは…音に反応し、常に生体の持つ水分を求めている。
性質は獰猛であり、そのケゥエは非常に大きく、頭部は地中掘削に適応し非常に頑健である。
基本的には相手のトゥムを感知し自分以上の場合は攻撃を避けるが…水分渇望の際は本能に支配され今回の様に襲い掛かってくることも稀にある。
これもありウタラの多くは時間がかかれど天山北麓通りし道を使うか、草原通りし道から大きく迂回してガンダーラに向かうことが多い。
「わ! こ、こんな状態の中僕は寝ていたのですか…!」
「いったん…あの眠りに入ると…もぅ~ホント起きないもんねヤチは」
攻撃をかわしながらこちらに振り向いたスセリがそう言う。
「“空”のトゥムはケゥエの疲れかたが大きいのかな?けっこう良くねてるよねヤチホコって」
射程外まで下がりながらアビヒコもそう話しかけてきた。
「そ、そう言われれば…確かにそうですよね。消耗しやすいのでしょうかね…? もっと練り上げないとなりませんね!」
アビヒコに対しヤチホコがそう応えると遥か上の方から声が聞こえてきた。
「そ~ね~ヤチホコくん♪ もっと長くもつよぉにしてもらわないと…こっちも持て余しちゃうから…ねっ!」
そう言いながらスザクのチカラで舞い上がった上空からスワンヌして両足揃えて踏みつける!あまりの衝撃によりオタラ于ス=トゥニンハラムの動きが止まった…!
「…あちらでオタ=アㇺサㇻ=ウスぺでも狙うが良かろう…ぬぅん!」
そう言うとウガヤはその巨大なモノのサㇻを掴み…体幹の回旋動作で放り投げてしまった…。
他にも潜んでいた個体がいたようだが投げる刻のウガヤのトゥムの大きさと激しさを探知し砂中深くに逃げ潜った様である…。
(二人ともさすがですね…♪ しかし…オオトシ兄以外ですと…空のトゥムを持つ僕しかミチヒメの技を普通に受けれませんのでいつもお相手しますが…今の…彼女は…本気出しましたら…ウガヤ兄の相手の方がラクかも…という状態ですね…)
ミチヒメは先の戦い以来完全に(それでも本来の3割であるが)メル=ストゥ=マェを解放し自在に動けるので、ヤチホコはいわばラマトゥカリしないですむ的である…。
廻らずに受け止められるも豪快に吹き飛ばされてしまうのである。
ヤチホコも全解放した場合はどうやらまともに組み手が出来る様だが、そこまで開け放つとカムイ=ヘセの祝福受けていてもなお先程の…眠り…を三度昼と夜行き来するほど必要になるらしく、そうならない範囲で受けると…飛ばされる始末らしい…。
恐らく昨日も…少々頑張りすぎたと見受けられる…。
(…元々のケゥエの強さか…何と言いますかナニカ根本的に違うのではないでしょうかとイレンカ抱いてしまいますが…観るかぎりでは…キンナ=ピリカメノコ です。とっても…♪ ちょっとエシカルンしてしまいました…♪ 恥ずかしいですが嬉しかったですねぇ…♪)
「あら!やぁっとお目覚めですかぁ~? お~じさま♪」
目配せしながらイラムモッカでミチヒメはそう言った。
「残るモノも逃げ無事払い果せた。もう大丈夫であろう」
ウガヤがそう言って槍を納めた。
「この音で寝てられるのはたしかに大物かもね」
アビヒコも半分呆れながらもイラムモッカにそう言った。
「この刻のヤチのねおきの悪さはすっごいからね♪」
「あはは…まぁ、しっかりモコロしないとってムカツヒメさまにも言われていますからね…」
「モコロたりないと…“なる”って…そう聞いたわ…」
キクリもクシナダの説明をエシカルンしながら言った。
「そっか…たいへんなんだね…」
ミヅチもある程度理解したらしくラム=アサムからのイレンカでそう言った。
カムイキリサム=コラムヌカラを経て二人ともまた生長した様である。
「うん…この前は驚かせてごめんなさいね!」
二人は微笑みながら大丈夫だと頷いて応えた。
「…左様であったか…其方のそれは…イワン=モシリ=モコロ=ウンであったか…」
納得が行った様にウガヤはそう言った。
「ウガヤ兄…それは…?」
「“空”行使えしモノ…そのチカラ御せる刻まで消耗激しく永きモコロ必要とせん…この様に伝え聞く」
納得した表情でヤチホコが応える。
「あ、では僕がこのチカラキチンと使いこなせることが出来ましたら…」
「うむ、今の様なモコロ、必要なくなるであろう」
軽くアスケウコム作りながらヤチホコは再度応える。
「…また一つ頑張りたい理由が出来ましたね♪」
「空のトゥムを使えるだけでも大した事です…正しく御しきれれば必ずやカムイに近づくことになるでしょう」
オオトシもその様にイタクをつなげた。
彼はウガヤとは全く趣の違うオッカィポである。
スサ=パセ=ルーガルと呼ばれしハヤスサノヲの長兄として生まれ育ち、ヤマトゥㇺ=モシリ任されし若きモシリ=コロ=クルである。
トゥム、ヌプルともに使いこなし属性では“火”のトゥムを得手とする。人格者であり誰に対しても分け隔てなく優しい。今のナ・ラでもっとも次なるカムイに近しきと皆に称されているのが彼である。八大竜王が一柱の三女たるクシナダの血を強く受けて現世に降りて来た為か、幼少より浮世離れ、緋徒離れしており、スサノヲにもその才を認められナ・ラ全体の事も意宇国貴と共に任されている程である。
父同様の手法にて平和的に天船降りし山森囲む地の国を拓き若くしてオアシパ=クルと呼ばれ崇められていた。
しなやかな長身、端正な顔立ち、知性と品位ある立ち振る舞い…およそメノコならば放っておけない存在であった。
ミチヒメも例外ではなく、ミチの如きウガヤに対し、ユポの様に、そして一人のヲノコとして慕っていた。
「オオトシさまがそう言われるのなら…ヤチホコくん、やはりカトゥ=ヌカㇻね♪」
ミチヒメは微笑みながら目配せをしてそう言いつつ横目にオオトシに視線を向けると、オオトシは優しく微笑み返してきた。
その表情を見たミチヒメは思わず頬を赤らめてしまった。
…実はミチヒメのカムイキリサム=コラムヌカラの目的は…純粋に腕を試したいイレンカもあったが…サンガをするオオトシに久々会う為であった…。
そういう訳で“願いは(叶ったので)ありません”とのイタクになったのである。
ミチヒメが俯きながらももう一度オオトシを見つめると…心なしか少し頬を赤らめて視線をそらした様に観えた。
(…ええ? オオトシさまが…? ま、まっさかね~。アスカンネ=ピリカ…ペケㇾ=ケゥトゥㇺと言えば…な方だもん、見間違いよね…)
鋭い洞察眼を持つミチヒメはその一瞬の表情の変化を見逃さなかったが、にわかには信じられず…示指で頭を掻きながら気のせいかもしれないと思いなおしてしまった…。
「ここにいるのは素晴らしい可能性を秘めた次代のルーガルとなりうる方ばかりですからね…」
オオトシはノカン=クル達を見回して優しくそう言った。
「うむ…。まだまだ磨かねばならぬが、皆いずれモシリにとってキンナ=イコロ=タㇰの如き存在となるであろう」
ウガヤも確信を以てそう言った。
その様に話をしている内に次の目的地である王子に授乳せし大地が見えてきた。
「やた! 待ちわびていました~♪ いざクスターナへ!」
クスターナが見えてきました♪
用語説明ですm(__)m
テンリ・タグ=ピタカ=スㇳ=クスル:天の山(ウイグル語)+南+根元の方+通る道→「天山麓通りし道」としました。
テンリ・タグ=マㇳナゥ=スㇳ=クスル:天の山(ウイグル語)+北+根元の方+通る道→「天山の北通りし道」としました。
ムン=トゥム=クスル:草+(土・水・草むら・森林の)中+通る+道→「草原通りし道」としました。
6/5修正です
ウェンルイ=モシリ=ヤㇲケ=”シルトゥ”:ひどく激しく+世界+割れる+動く→「苛烈なる世界の裂動」としました。実はこれこの物語では凄く重要な出来事だったりして(^-^;
モシリ=キタイ:世界+屋根→「世界の屋根」=現地の言葉で「パミール」です。
カムイワッカ:北海道に実在する「湯の滝」と呼ばれる温泉が流れる川の事を本来は言いますが、ピンとくる名称だと思いましたので「温泉」としました♪
クスターナ:(王子の為の)大地の+乳房→「王子に授乳せし大地」としました。
※12/17改訂ですm(__)m
・イコロ=タㇰ:宝+玉→「宝の玉」としました。
参考までに。
(如意)宝珠:仏教の言葉で、民衆の願いを成就してくれる不思議な珠として説かれている仏の徳の象徴です。→「シ=イコロ=タㇰ」ですm(__)m
キンナ=イコロ=タㇰ:輝く+宝+玉(珠)→「輝ける宝珠」としました。
ラマトゥ=タㇰ:たましい+玉→「勾玉」としました。
シンナ=モシリ:別の、変わる+世界→「別の世界」としました。
フナラ=エカムケ:探す、探る+予知する、察知する→「探知」としました。
オタラ于ス=トゥニンハラム:砂+潜る+ミミズ+トカゲ→「潜砂蚓易龍」としました。
ミミズは蚯蚓もしくは蚓、「易」の字は元々トカゲを顕すモノです。
※于(ワ行のウ:wu)古来は別音でしたので表記もこの様に違うカタカナを使っていました。
それを踏襲していますm(__)m
…文字表記でもWの音が入っている感じを出したかったのです(^-^;
スワンヌ:急降下する、滑空する、飛ぶ。 もしかしたら「スワヌ」かもしれません(suwanu)…。
デモ見たら何となくこう読んでしまいましたので(^-^;
キンナ=ピリカメノコ:輝く、きらびやか+美しい、キレイ+女の子→「輝く程の美少女」としました。
おかーさんのタギリ同様…当代一の美女を名乗れるポテンシャルです♪
美女の称号と言えば…。
イラムモッカ:冗談を言う いたずらする からかう…ここより「いたずらっぽく」「冗談半分」としました。
イワン=モシリ=モコロ=ウン:六層界の地獄+眠り込む→「黄泉の眠り」としました。
仏教ですと人間界の下は四つですが、輪廻から抜けられない世界と言いますと…六道(天・人・修羅・餓鬼・畜生・地獄)で、もしかしたらこれを指し示していたりして…(^-^;
ヤマトゥㇺ=モシリ:陸の+船着き場+(土、森林の)中+クニ→「天船降りし山森囲む地の国」としました。…伝承の通りですね(笑)
カトゥ=ヌカㇻ:(~を)将来有望と見込む→(ミチヒメのセリフですので…)「とっても有望」としました(^-^;
ペケㇾ=ケゥトゥㇺ:清い心 きれいな精神→「高潔な精神」としました。