第35倭 注ぎ込まれしカムイ=ヘセ
ミケヒコを訪ねてトゥスクル=モシリに来てみると…
「ええ!ミケヒコここにいないのですか~?」
驚きと落胆を露わに叫ぶヤチホコに少し申し訳なさそうに丁重にムカツヒメは応えた。
「あの刻…南の…ヒムカ=モシリを治めに行った為…暫くは帰ってこないと思います…」
当然ヒメもいない。二人に頼もうと思っていたヤチホコは当てが外れたので…残念ではあるがイヅモ…オ・ウ=ナへ向かう事にした。
せっかくなのでムカツヒメに遠くガンダーラに存在するウパスクマ=エ=テメン=アンキについて聞いてみた。
「…今はそこにあるのですね…彼の聖塔は…」
「やはりおかあ…パセ=トゥスクルさまはご存じでしたか!」
「ふふ…ア=オマプなヤチホコや、良いのですよ母とお呼びになられても」
ヤチホコは少し照れくさそうにしながらも呼んでみた。
「…おかあさま…」
「ふふ…何用でございましょう、ヤチホコや」
「そばに行って…コテスケしたいです…」
ムカツヒメはヤチホコに振り向いて微笑みながら両の手を開く。
「さあおいでなさい…」
おずおずと近寄ってもたれ掛かる。とても柔らかな感触がヤチホコの顔を優しく受け止めてくれた。
「…彼の地へ…参る日が訪れたのですね…。この後…貴方の運命は大きく動き始めるでしょう…。今のまま授かりし生を謳歌されてもかまわないのですよ…」
ヤチホコには理解し難かったが、聖塔に行くと何かがはじまる…それだけは解った。そしてそれはかなり大変である事も…。
「…今の僕は…紡がれていく大きな流れの傍観者でしかありません…。己の意思で流れに入り…もしくは己のチカラで流れの先へ辿り着けるのでしたら…その様に歩んでみたいと…思います」
「左様でございますか…。やはりそちらの道を求み…向かわれるのですね…」
いつも以上に物々しい言い回しのムカツヒメに対しヤチホコは尋ねた。
「…そんなに大変なのでしょうか、塔に行った後の僕は…?」
ムカツヒメは…その類稀なるパセ=トゥスクルとしての能力で先々まで見据えヤチホコに伝えている様であった。
「…ええ…とっても…。この…世界全てを巻き込む程に…」
それを聞くとヤチホコは興奮してペンラムコトロのエサムペルイルイが止まらなくなった。
(そんなすごい事に…僕が関係できちゃうなんて…です♪)
正反対に暗く沈み物憂げな表情でムカツヒメは言葉を続けた。
「…悲しく…辛い事…艱難辛苦すべて受け入れ…超えてゆかねばなりません…このままの暮らし…今世はそれを望む事も叶うのですよ…?」
「…大丈夫です!きっと…その先にとっても良い状態が…待っている気がします!」
いつもの考え無しの楽天の様にいながら…何らかの確信と覚悟を観じさせる口調でヤチホコはそう応えた。
「…左様でございますか…。ア=オマプヤチホコや…貴方のこれからの旅路が幸多きモノとなります様にお祈り申し上げます…」
ムカツヒメはヤチホコをウコライェしたままカムイノミの神呪を唱える。
「…魔よ退け…!神威…馳せ参じ給へ…!破魔神来呪!」
その神呪と共に外界より暖かく優しいチカラがヤチホコに入り込んでくるのを観じた。
「…こ、これは…!」
「モシリに坐す数多のヤオヨロズよ…何卒我が子ヤチホコにチカラ貸し与え下さり給へ…!今世の旅路…無事全う出来る事叶え給へ…!」
ヌプルに疎いヤチホコでさえありありと観える程にムカツヒメのケゥエに凄まじき力が流入していく…!ムカツヒメはヤチホコの顎に手を添え顔を軽く上に向かせると…ゆっくり…優しくエコプヌレした…。
(…カムイ=ヘセ…!)
ヤチホコは急激にナニカが吹き込まれてくるのを観じた。
ラムハプル…トゥム=アスヌなそれは…ヤチホコのケゥエの隅々まで行き渡り浸透していく…。
それと同時に様々なナニカが脳裏をよぎる…。
「…スサよ…そのトゥスクルよ…それでも行かなければならないのだ…」
ヤチホコの口よりもれしそのイタクを聞いて珍しくムカツヒメが狼狽する。
「…もしや…ヤイ=コ=トゥイマの記憶が…?」
「…へ?わわ!お、おかあさま…か、顔がとても近いです…」
…近いも何も今まで密着していたのだが…どうやらカムイ=ヘセを吹き込まれた時点で記憶が
停止していたようである。
(…ケゥエ透されしカムイ=ヘセによる一時の事…でしょうか…?)
その様に思案しながらムカツヒメはヤチホコを観るが…どうやら先の言の自覚は全くなさそうであった。
「…オオトシ、キクリ、ミヅチによろしくね」
「あ、ハイ!彼らはきっと…出来ているでしょうからね!」
ムカツヒメは優しく微笑んで頷いた。
本当は一緒に寝たかったのだが…恥ずかしさが勝りムカツヒメの寝所を後にして自室で休む事にした。
独りムカツヒメは目を伏せ半眼になり瞑想を始めた…。
(…ヤチホコくん…やっぱりそっちを選びましたね…!)
(…ええ…。しかしそれこそが…我々すべてのモノの望むところでございます…)
(…楽しく過ごされるだけでも…因縁に向き合わなくても…生きて行けますのに…難多くともシ=パセ=アンペ=ソネプへの道を選ぶことこそ…きっと我々にレンカクス=ラム能わりし理由なのですわね…)
(…クシナダ…まさしくその通りでございます…。この多様性と危険性の中で尚善かれと歩まんと発するイレンカこそ…大いなる真理に通ずるものです…)
(…次代のトゥスクルは…?)
(今はミケヒコと共にヒムカ=モシリへ)
(…彼女は今…まさに…緋徒として…ウタラとしてのラムを目指す渦中におります…)
(…そのイレンカがラムに芽生えし刻こそ…初めて我らに連なるモノとなるでしょう…)
(…楽しみですね…♪)
(本当ですわ♪)
(タギリ…クシナダ…待ちましょう…。彼らが育ちさらなる先へと歩んでゆく事を…)
依存と自立を健やかに繰り返し始めましたかね…?
そして…吹き込まれしカムイ=ヘセとは…?
用語説明ですm(__)m
・カムイ=ヘセ:神(神威)+呼吸→「神威息吹」としました。
・ヤイ=コ=トゥイマ:「自分の過去」の意味から…「前世」としました。




