(改稿版)第28倭 目指す先に構えし猛宗像之大王
(あの方に、何としてもお会いして、これを献上いたしますわ)
皆と別れたミカヅチは、神聖城国より、独りひたすら南下し、倭の奴国のとある国を目指していた。
(下伽耶は……もう謝る民すらおりません。ですが、あの国は、皆様の住まう家等の損壊についても、償いをしないとなりませんわ)
両刃の剣の柄に座し、海上を滑る様に渡っていく。かなりの速度である。対岸へ上陸するすると剣から降りて大地に立つ。
「……たしか、この辺りだったはずですわ」
ミカヅチが記憶をたどり歩を進めていくと人影が観えてきた。
(……やはりワタシの接近……お気付きになられましたわね……)
腕を組み悠然と立ちはだかるは……神託啓示の国(イトムコカヌ=モシリ)の神官王、『特ニ浄キ神威誘ザ梛(シ=サンガ=コロ=クル)』であるミチヒメの兄、倭の奴のタカヒコであった。
「……お出迎えありがたく存じますわ。こちらから探す手間が省けましたわ」
「先の戦いでは、おれの不甲斐なさをみせる結果となり、民にも多大な被害を出させてしまった。すべてはそなたのいでたちに惑わされし事も含め、ひとえにおれの未熟故。しかるに、本日は何用であるか? 如何なソナタであろうとも単身で我が国攻め入るとは思い難がたいが……?」
「……お伝えしようともにわかには信じて頂けぬと思いますわ……。ワタシが是が非にも献上したくなりますよう、魂揺ゆさぶる素晴らしき勇敢さ、顕し下さりませ!」
そう言うとミカヅチは、氣力と霊力を同時発動させて融合し、『輝く根源のチカラ』纏いし例の状態へと変貌した。
「……凄まじくも素晴らしい! 二つ刻廻る前、我が国を攻めし刻、真なるチカラ隠したままであったか。つくづく己の未熟さに腹が立つ!」
「このチカラは……ワタシのモノではありませぬ。さるお方から賜たまわりしモノ。言いますれば……広き夜空に浮かび陽光(トカㇷ゚チュㇷ゚)を受け、優しく輝きを返す月光の如くですわ……。そうは言いましても、輝いているのもまた事実ですわ。アナタさまも等しく輝けなければ、一合で遥かな天にて瞬く事になりますわ。覚悟のほどはよろしくて?」
「かまわん! が、先に礼を言っておこう! 先の闘いのおかげで、ソナタと共に、同じ星の瞬く空を眺める事叶ったなり! むん!」
そう言うとタカヒコは氣力を全解放しはじめた。見る間に大きさも強さも練ねり上げられていく。
「素晴らしいですわ。氣力は明らかにワタシを上回っておりますわ。ですが、そのままでは、みずから星となりて天に昇るようなものですわ」
「世界に遍く数多の『精霊神』よ! 我と想念交わし、その利益以って『変成神威』させ給え!」
その呪と共に、タカヒコの背後に無数の霊体が浮かび上がり、次々に守護神としてタカヒコに宿る。その度に霊力が湧き出てくる。瞬く間に全身を覆いつくし際限なく拡散しながら吹き上がる。
「我が業、我が為すに非ず! 顕現! 『猛宗像之大王』!」
拡散放出されていた霊力が、急速にタカヒコに集束していき、等身大まで圧縮された瞬間、練り上げた氣力と融合していく!
融合された力は今までにない輝きを放つ! タカヒコは、『そのチカラ』を、強固な大地の鎧と化して纏い、仁王立ちに構える。
「猛りしも、禅定抱きて坐す大王さま――素晴らしいですわ! よくぞここまで自力で練り上げられましたわ!」
「おれ独りでは叶かなわぬ事。精霊神と化した民達の協力によって成なせるモノ。故に我が業、我が為すに非ず、だ!」
「その想念、そしてそのお姿こそ、極みに至る道へ歩みし証拠ですわ! さぁ! その状態でございましたら、ワタシにも不服などございませんこと。いざ! 参りますわ!」
「おう!」
ミカヅチはチカラを込めて己が相棒、『両刃の剣』を全力で薙払う。音を置去りにして空を裂き、鋭い三日月が空を切り裂いて、すさまじい速度でタカヒコに襲おそい掛かかる!
タカヒコは、身体がうしろ向きになるほど大きく振りかぶって、強烈に掌底を打ち出す。
超高圧縮された空気が砲弾と化して、ミカヅチの観えざる刃と真っ向から衝突し、何もかもが弾け跳ぶような、痛烈な破裂音と共に対消滅してしまった!
「固めし空放ちて我が刃打ち消すとは、流石ですわ! これならいかがなさりますかしら? いやぁ~! 猛御雷!」
ミカヅチは持てるトゥムを全て解放し、己が剣伝わらせ上空へと舞い上がり、空中でとんぼを切って加速させ、打ち下ろしの斬撃を放った!
「今のおれに只の氣力など効かぬ!」
タカヒコは微動だにせず仁王立ちに構えたまま、己の身体で受け止めた。
「ホンモノですわね! ならば…………次は真なるチカラで参りますわ!」
そう言うとミカヅチは剣を天にかざし己の風と水を激しく猛らせる。見る間に雲が立ち込める。天を仰ぎミカヅチは、裂帛の気合を放ち叫ぶ!
「いやぁぁぁっ! 曇天に住まう雷ノ神威に申します! その大いなるチカラ、わが剣にお授けくださいませ!」
轟音と共にミカヅチの剣めがけ、すさまじい稲妻が落ちてくる。乾いた破裂音を放つ輝く光に、己のチカラを混ぜ合わせた!
「――参りますわ! 神之如威力! 『猛御雷」ッ!!!」
先程以上のはるか上空へ跳躍し雷光迸る剣を、大上段から全力で振り下ろしてきた!
「大地の精霊よ! すべてを遮る防楯を顕し給え! 神之如威力! 『深山神威』!」
タカヒコが両拳を内に向け天へ翳し呪を唱えると、両腕に巨大な岩の楯が出現した!
「それがただの岩塊でしたら、稲の如く刈り取りましてよ!」
ミカヅチは躊躇せず全力で剣を振り下ろした! 凄まじい衝突音と共に、津波の様に波打つ衝撃波が放出され、木も岩もすべて吹き飛んでしまった。
「凄まじき剣撃! 斯様な剣筋は、祖父ハヤスサノヲ以来なり!」
驚き称賛を顕すも、タカヒコはほぼ無傷で凌いでいた。
「ほ、ほほ。この技でさえ…………傷すらを負わぬのでしたら、今のワタシにアナタさまを倒す術はございませんわ……」
そう言ってミカヅチはゆっくりと剣を下ろした。
「では、降参すると言うのであるな?」
「ほほ、そうでございますわ、参りましたわ」
(まだまだ余力有りと観えるが、何かの策か…………?)
タカヒコは警戒しながら様子を伺う。
(今回のこのモノ、ミカヅチからは、悪想念は全く観じぬ。むしろ此度は尋常の『比武』であった…………)
「ワタシに勝ったのですから、報酬として…………このチカラ、お受け取り下さいませ!」
ミカヅチは己の持てる全ての権能を両手に凝縮させていき、それは稲妻を纏う光球に変貌した!
「こ、これを、両手で抱え、お持ち下さいまし…………」
言われるままに両手を差し出す。するとミカヅチは、微笑みながら光球をゆっくりとタカヒコの両手に乗せた。触れた途端衝撃が身体を貫く!
「ぬぐぉ!」
身体は仰け反り、両腕は理不尽なチカラによってあらぬ方に曲がる。傍目には、神話の記述の通りに、ミカヅチに両腕をへし折られているかの如く観えたであろう。
「『究極付与権能(ラムハプル=オピッタマェ)』! ワタシの全て、お受け取り下さいまし!」
力無くよろめきながらも、優しく静かにミカヅチは光球から手を離す。みずらがほどけ、精悍さと険しさの表立った顔立ちが、穏やかさと愛らしさを醸し出し、その中性的で細くしなやかな肢体はそのままに、女性的な丸みを帯びていく。力無く座り込んだその様は、まさしくヒメと呼ぶにふさわしいモノであった。
「これでワタシには、もう普通の民同様の氣力や霊力しかございません。今の状態でアナタさまを拝見いたしますと…………いかに私が民達に絶望を与え続けてきた存在なのか、それがありありと観じとれますわ! さぁ! 国を滅ぼした重罪人、正しき想念のもと、跡形もなく消し去ってくださいまし!」
そう言うと、ミカヅチ…………今はもう『ミカツヒメ』に戻った彼女は、目を閉じ両手を広げて天を仰ぎ横たわった。その姿は、迷いも恐れも後悔も一切観じず、為すべき事を為した刻の様な、晴れやかな表情と佇まいであった。
(う、美しい…………。こやつ、真にメノコであったか。年の頃はおれとさほど変わらぬ、これは…………!)
タカヒコはミカツヒメに歩み寄り、片膝をつくと優しくそっと頬を撫でる。
「おれの…………負けだ。オマエは、スゴイ奴だ。そして神懸かり的に美しい…………」
先の向津日霊女以来の、胸の高鳴りをタカヒコは感じた。一目惚れしてしまった事がありありと出ているだろうと思いながらも、そんな己の醜態がどうでも良くなる程の美しき乙女であった。
「……ワタシの事、お気に召されましたのなら、どうぞお望みのままにして下さりまし…………」
そっと目を開き、ミカツヒメはタカヒコを見つめそう言うと、再び目を閉じた。
タカヒコの鼓動は最高潮に高鳴り、のぼせた様な表情で、眼前の無抵抗な美しき乙女を思うがままにしたい衝動に囚われそうになった。
「もう、目的は果たしましたわ。後はこの身がどうなろうとも、その果てに『輪を廻る』事があろうとも、一向に構いませんわ…………。さぁ」
今の彼女はタカヒコの思いひとつでどうとでもなる存在である。
だが、タカヒコは、心の奥底より湧き上がる激しい衝動に必死で抗っていた。
「オマエ、いや、ソナタが、欲しくてたまらぬ! しかし…………今は契ちぎる事かなわぬ!」
「何故? ワタシはお望みのままにと申し上げてらっしゃいますのに!」
「想念交わし通じ合え。慈しみなくして契る事なかれ」
「それは一体…………?」
「奇しくもソナタに敗れし刻、傷ついた身体癒す為、向津日霊女様の元へ伺った際、治療…………等の際に賜った言の葉だ」
「そんな事! ワタシはすでにアナタさまのモノ。どう扱あつかおうとご自由になされれば」
その言の葉を聞いてタカヒコは、意を決っした表情で言う。
「では…………自由にさせてもらう! むん!」
タカヒコは気合と共に、先の光球を引き裂いていく! 元の一割ほどの小さな光球を手に己の胸元に、魂にかざす。すると何の抵抗もなくすぅっと身体に入っていった。残りの殆どを、再度両の手を翳し、想念を籠めて光球と化す。そのままミカツヒメの胸元より魂へと挿入していく。
「ナ、何故この様な! あぁ、入ってきますわ…………ワタシの奥まで!」
戸惑いと抵抗はあれど、挿入されし光球と、そこに宿るチカラを受け入れ、ミカツヒメは己の奥深く、魂に刻み付けた。
全身がまばゆく輝き、先のミカヅチの刻同様、精気溢れる状態となった。
「こ、これは? 変成男子 せずとも…………氣力が御せますわ?」
「そなたが研鑽の果てに手にしたチカラ。御せぬ道理はなかろう」
おかしな事をとばかりに笑みを浮かべながらタカヒコは言った。
「しかし、あの復讐を誓った刻以来…………ヲノコになりませんとチカラを揮えませんでしたわ?」
「それも……己が想念で造りし縛りであろう」
「ワタシの…………?」
「あぁ。 そなたのチカラの一部をもらった故、そこに宿りし想いも一緒に受け取った。故、委細承知した!」
「――っ!」
はからずもミカツヒメは、消し去りたい忌いまわしき過去を知られてしまい、恥辱と絶望感により力無く項垂れてしまった。
「そう、ですわ…………。ワタシ、メノコとしての価値などないのですわ」
「その様な事は決っしてない!」
強い口調でミカツヒメの言葉を遮るようにタカヒコは言った。
「そなたは素晴らしきメノコだ! その上、おれ自身のみではかなわない位に強い! 剣を携たずさえた向津日霊女さまの如く! おれは、そんな強さと美しさを併せ持つソナタに…………惚れこんでしてしまった。だから、所有や支配ではなく、愛し合いたい。その心、想念、癒やす事出来る刻まで待つ故、共に歩んでゆかぬか?おれのヒメとして!」
その言の葉聞いた瞬間、ミカツヒメの両目から止めどなく涙が溢あふれ出た。タカヒコはそっと近寄り、少し照てれくさそうに肩に手をかけ優しく抱き寄よせた。
「ワタシは、アナタさまの国を襲いし大罪人! それでも…………このような事が許されてよろしいのでありましょうか?」
「かまわぬ、と言えばウソになるな。良き想い抱けずに厳しく当たるモノも多くいるだろう。すべて受け入れて、受け止めた上で生きていくんだ! 『輪を廻る』よりも辛き中、それでも前に歩め! おれは常にソナタの傍らで支えてやる!」
「タカヒコさま…………。これはもう、『かしこまりましたわ、仰おおせのままに』としか、お返しのしようがありませんわ」
泣き笑いでそう伝えるミカツヒメは、正に神がかり的な美しさであった。
タカヒコはたまらなくなり、反射的に身体を引き寄せ優しく見つめる。ミカツヒメは優しく微笑んでそっと目を伏せた。
(ひとつずつ、重ねあっていこう…………。我がヒメよ、ソナタの罪も、想いの苦しみも、共に受け止めていこう!)
「やぁっと怒りと恨みに囚われし、只の『修羅』を抜け、真なるアスラ、『生命生氣の善神』の境涯へ昇って来たのう! 待ち焦がれていたぞぃ」
口唇重ね合う寸前、完全に無防備だった二人は、不意を突つかれ驚きの拍子に飛び退のいてしまった。
声のした方に視線を移すと――何とそれは、ミカヅチの愛剣であった。
「ワシはフツノミタマ。ミカヅチの想念と境涯が『修羅』から昇れるまで、自神に封をかけ、只の剣と化しておったのじゃ」
「お、御師匠さま! いなくなられたのではなかったのですね!」
「ミカヅチ、お主にかけていた封は、ワシがそばにいなくては弾かれてしまうからのう。それ位、あの刻のお主の『悪想念』は強烈じゃった! 元々は、『正しく怒る闘神』の想念じゃったとしても、囚われ支配されてしまっては、修羅と成り果ててしまうんじゃ。きちんと戻ってこれるか心配で離れられん想いもあったわい……」
「…………皆伝の際、賜りし剣とばかり思いこんでおりましたわ」
「あの刻遣いし剣は、修業したあの山の大岩に刺さしておるわい。実はワシの分御魂。故に今のお主なれば、己を何倍にも高めてくれるであろう」
そこまで話すと、剣の形が崩れゆっくりと威厳ある髭を携えた神威に変わっていく。
「本当に…………おひさしゅうございますわ」
「うむ。良きモノとも出逢いて何より! タカヒコ、いや、ワシのひ孫、宗像之王よ、ミカヅチことミカツヒメ、頼んだぞよ!」
「あ! フツノミタマさま…………そうか! 祖父、ハヤスサノヲさまの!」
「いかにも。あの刻のワッパが立派になりよってからに」
――思い出した。幼少の頃に一度会っている。母タギリと、父意宇国貴と、祖父のスサノヲと…………生まれたばかりの妹のミチヒメと共に。
「た、確か、ミチヒメが生まれし刻に!」
「そうじゃ。素晴らしきヒメが生まれたり、そう聞き及び、足を運んだのじゃ」
ミチヒメは……確かに幼少の頃より類稀たぐいまれなるチカラを発していた。誰からか霊力を受け取ると、その強さに応じ、己の中に眠る莫大な氣力を遣うことが出来た。その強さは、正に『真なる神威』と呼ばれるモノであった。
(……あの頃から……モノが違ちがっていたよな……)
「忌憚なく申し上げますと、今のタカヒコさまは、あるいはミチヒメさんよりも上手ですわ!」
ミカツヒメが微笑みながらそう言った。
「彼女はまわりから霊力を貰えなければ、只の少女ですわ。しかも限界を超えし、先のアナタさまのような状態は…………百数えるほどしか、身体が耐たえられませんわ。それでも、驚くべき強さでございましたのもまた事実」
「一生懸命の研鑽の果てにこそ、真の強さはあるのじゃ。宗像之王よ、今のそなたの様にじゃ」
その言の葉を聞き、胸中の痞えが、水泡の様に消え去って軽くなるのを感じた。
「努々忘れるせぬ様胸中に刻み、更なる高みを目指します。我が業を為してくれるヤオヨロズと共に!」
「それでこそ我がひ孫じゃ! どれ、ちょいと待つのじゃ…………ぬん!」
フツノミタマが手を翳し集中する。しばらくすると空中に両刃の剣が出現した。それは修業せし山にて待っていた、本来のミカヅチの剣であった。
「受け取るが良い。今のそなたの想念ならば、必ずや生命宿りし剣となり、共に歩みてしかと助けてくれるじゃろう」
「これは――! この剣と共に戦うソナタは、おれより強いかもしれぬな! 頼もしき限り!」
タカヒコのその言の葉に、ミカツヒメは一礼して微笑んで応える。
「ゆとりが生まれた様ですわね。己が事で手一杯のモノは、他者を認め称賛など出来ませぬ。 更に頼もしきヲノコとなられて、本にうれしゅうございます」
そう言われたタカヒコは、少し照れくさそうにしながらも、蟠りを払拭出来た、突き抜け透き通る、蒼天の様な晴れやかな顔つきになっていた。
「さぁ、共に帰ろう我が国へ!」
「どれ、それならばワシも同行させてもらうかのう?」
「本当でございますか? 是が非にも足を運んで頂きまして、ご指導の程よろしくお頼み申し上げますわ!」
「ホッホッホ! ぬしの剣技、更なる高みへと、まだまだ磨き甲斐がありそうじゃわい」
二人と一神は、足取りも軽やかに『神託啓示の国』へ向かっていった。
ちょっと必要がありまして……書き直した版です。内容は同じ話ですが、現在の『詩片』の文体で書いてみました(^-^;
可読性は向上し、話の重厚さも少し増したと思いますが、いかがでしょうか?




