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第26倭 カムイ=トゥスでアン=フスコトイ

意識の戻らないミチヒメを…

「あ…まだミチヒメが…ヤイヌパ(意識いしきが戻る)していないです…」



 ヤチホコの言葉に視線(しせん)を移すと…力無く横たわって微動(びどう)だにしない姿(すがた)のミチヒメが見えた。


「…ムリもないトラ。マッカチ(小娘)にはちょっちキツイ状態(じょうたい)トラ」


以前(いぜん)もそうでしたね…きっともう少ししましたら…」


発汗(はっかん)()()き、血の(めぐ)(おさ)まれば(じき)目覚めるであろう」


一同少々(いちどうしょうしょう)待機希望(たいききぼう)


 ミチヒメから分離(ぶんり)した神獣(しんじゅう)たちの言葉を受けしばらく目覚(めざ)めるのを待つことにした。


(…しかし何と言いますか…キンラ=ピリカ=レカ(艶やかで美しい)な姿ですね…)


(…同感…観ていると…いつもよりもずっとエサムペルイルイ(ドキドキする)…)


 ヤチホコとアビヒコがミチヒメに見惚(みと)れながらお互いにそうエゥコピヌピヌ(ないしょばなし)している所に対しキツめの口調(くちょう)()()みが入った。


「こら!そこ二人!変な目でみちゃダメ!」


 二人とも(おどろ)いて(いきお)いよく振り向くと…声の主はスセリであった。


「す、すみません…でもあまりにキレイで…」


「…わかるケド…ね…でもミチヒメちゃんはそんなつもりじゃなかったとボクは思う!だからダメ!」


 自分以外の存在を呼び込み受け入れる刻…自我(じが)が強いとうまくいかない為、カムイ=トゥス(神降ろし)可能な状態へと強制的(きょうせいてき)ヌプル=イタラ(恍惚状態)にさせられていたのであった。

 所謂コヤイユトゥルヌ(トランス状態)の事である。

 情動(じょうどう)や記憶、自律神経(じりつしんけい)活動等を司る部位を含む“本能(ほんのう)()”とも呼ばれる大脳辺縁系(だいのうへんえんけい)を、相互(そうご)結合(けつごう)している意欲(いよく)連動(れんどう)・機能する報酬系(ほうしゅうけい)側坐核(そくざかく)と共に活性化させ、“理性(りせい)の座”とも言われる大脳新皮質(だいのうしんひしつ)前頭葉(ぜんとうよう)、特に…我々ヒトをヒトたらしめ、思考(しこう)創造(そうぞう)(にな)い、動作の一時記憶(いちじきおく)長期記憶保持(ちょうききおくほじ)許容困難(きょようこんなん)社会的応答(しゃかいてきおうとう)無効化と抑圧(むこうかとよくあつ)、現在の行動からより良い報酬獲得(ほうしゅうかくとく)の為の結果の推測(すいそく)認知(にんち)とそれに(もと)づく意思決定(いしけってい)、辺縁系からの信号に応答し実行する高次(こうじ)な情動等に関係する前頭前野(ぜんとうぜんや)抑制(よくせい)し辺縁系と連動・協調する部分のみを強烈(きょうれつ)活性化(かっせいか)させた状態(じょうたい)である。

 ウブ=イキネイペカ(五芒封印)(はな)ち終えるまでこの状態であった為反動として長時間の不応期(ふおうき)に入り一過性意識(いっかせいいしき)消失発作(しょうしつほっさ)所謂失神(いわゆるしっしん))を起こしたのである。


「…う…ぅん…」


 …しばらくしてその声と共に…全身の紅潮(こうちょう)もおさまり、心拍数(しんぱくすう)血圧共(けつあつとも)に正常値に戻ったと()え、ミチヒメはゆっくりと身体を起こし目覚めた。


「…ぅんと…ど~やらうまくいった…のかな?」


「あぁ…おかげでな!…ありがとう」


 ルースはその様に真摯(しんし)に礼を述べた。


「よかった!…こ~なったトキって…いっつも何にも覚えていないのよね~だから安心しました♪」


(…あれは…覚えていない方が幸せかもしれませんね…)


 ヤチホコは心の中でそう思った。


「いずれ自在に使えるようになるトラ!」


「そうですよ♪その刻こそ…」


「其方の真なるチカラ…」


没問題(メイウェンティ)能力発揮(のうりょくはっき)可能」


「うん…。それまでも…それからも…みんな、ご指導よろしくです♪」


 四体の神獣たちの弁に対しミチヒメが応える。


「しっかしねぇ…この…何とも言えない脱力感(だつりょくかん)…トゥムはまだまだあるのにね~?不思議だよね…?」


 エシカルン(思い出す)したヘカチ(少年)二人は赤面して(うつむ)く。


「…ははは…。さ、一先(ひとま)パセ=コル=モシリ(高句麗)へ向かおう」


 頭を一本指で掻き困り笑いしながらルースはその様に言った。


 モシリに到着し国内城(クゥンネソォン)の王の間にて国祖王(クッチョワン)に事の顛末(てんまつ)を伝えた。

 その後今後の協力と不可侵条約(ふかしんじょうやく)締結(ていけつ)調印(ちょういん)を交わし一同ルースへ帰還(きかん)する。

 流石に一同疲労困憊(ひろうこんぱい)だった為か…帰宅後アマソトキ(寝床)に着くなり泥の様に眠りに(いざな)われてしまった…。


 皆寝静まり静寂の中…観るともなく明かり越しに透かし軽く揺らしながらグラスを眺めるモノが…ルースであった…。


「…主よ…(あかつき)の…母なる…カムイ=アイヌコロ(親愛なる)…アシュナンよ…」


 (ひと)(つぶや)くルースをそっと背後から抱きすくめるは…姿変わりし(シャン)であった…。


「…シネレプ(偽物)…とは言え…かなり動揺(どうよう)されたようですね…。…アン()に留まる事も叶いましたでしょうに…」


「言わないでくれ。それは…全ての生きとし生けるモノの為出来ぬ選択。…()()とされたからこそ…キミに()えた…。」


「…彼女の姿をそのまま宿した…?」


「それは…正直それもある…が、悠久(ゆうきゅう)(とき)を…生きとし生けるモノの為…一人歩むその姿に…エサムペサク(心を奪われる)したからさ…」


 ルースの言葉を聞いてもう一人の…(シャン)…?は満足げに嬉しそうに微笑んでから言った。


「そう言えば不思議な事が…皆さん遠目とは言いましてもわたくしにウネノ(そっくり)な“主”を前にして何も(かん)じられなかったのでしょうか…?」


 その問いに対し笑いながらルースが応える。


「姿形がいくらウネノとは言え…性格が…ラマトゥ(たましい)の気配があまりに違い過ぎて結びつかなかったのだろう。それほど(ひど)粗悪(そあく)複製(ふくせい)であった…ありゃ無いだろうと言う程の、な」


(…最後の…イタク(言の葉)だけは…だが…な…)


 少し思案(しあん)しながら(おだ)やかにルースへ返す。


「…ラムハプル=モシリ(自然の)=コロ=クル(盟主)として造られしモノだそうですね…。それ故に…レンカクス=ラム(自由意思)が不完全だったのでしょう…」


 感心して(うなずき)きながらルースも応える。


「あぁ…きっとそうだろう。真なるカムイであったならば…だが、それは…御使(みつか)いたちでは出来ぬ事」


「はい…。そう言いましても…御使いたる彼等を(あやつ)る事は並の存在ではできません…。…もしや…?」


「あぁ。…ヤツが()んでいる可能性も考えられる。…注意しておくとするか。」


「その方がよろしいかとわたくしも思います」


 ルースの伴侶(はんりょ)たる彼女は寄り添いながらその様に応え…優しく見つめながらそっと明かりを消した…。


 こちらは皆が寝静まっている一階のアマソトキ(寝床)…なにやら寝付けないのか身動ぎしているモノがいる…。


(…ダメだと分かっていますが…ミチヒメ…すごく艶やかで美しい(キンラ=ピリカ=レカ)でしたね…)


 疲労困憊(ひろうこんぱい)にもかかわらずまったく寝付けないヤチホコであった…。あの刻のミチヒメの様相(ようそう)は…それ程までに衝撃(しょうげき)的で魅惑(みわく)的であった…。


「…ヤチ…ねれないの?」


 横からスセリが声をかけてきた。


「あ、え、えぇと…だ、大丈夫です…!」


 完全に不意(ふい)を突かれ動揺(どうよう)(あら)わに背を向けて横になった。


「むー、おかしい!…ヤチ、何かくしているの!」


「い、いや、な、なんでもないですぅ…も、もう寝ましょう…」


 いつもと違い自分の方に向き直らない。


「…こっち向いてねないの…?」


 少し(さび)しそうな声でスセリは尋ねる。


(…向き直れるならとっくに向いています…。先程のミチヒメを思い出す(エシカルン)したせいで…こ、困りました…!)


「…じゃ背中にくっつこっ♪」


 そう言って背中からスセリは身を()せてきた。

 ヤチホコは背中に微かな、しかし確実に存在する心地良く柔らかな感触を感じた。


(…あ、あれ…今まで全く何ともないどころか…むしろ困るような感じがしていましたのに…?)


 ヤチホコはますます顔を合わせられなくなってしまった。

 恥ずかしさも感じ体を丸めているとスセリが心配そうに声をかけてきた。


「…メライケ(寒いの)?…これでどう?」


 スセリは足を絡めて抱きすくめてきた。ヤチホコは…自身のイレンカ(ヲモヒ)により…大脳新皮質(だいのうしんひしつ)前頭葉(ぜんとうよう)前頭前野(ぜんとうぜんや)に情報を送り…辺縁系と密に情報交換し…側坐核(そくざかく)へ投射されそこから腹側(ふくそく)淡蒼球(たんそうきゅう)視床背内側(ししょうはいないそく)(かく)~前頭前野とフィードバックし、視床腹内側核(ふくないそくかく)攻撃行動(こうげきこうどう)決定細胞(けっていさいぼう)(ぐん)抑制(よくせい)され、信号は迷走神経(めいそうしんけい)から脊髄神経(せきずいしんけい)を通り副交感神経(ふくこうかんしんけい)骨盤内蔵(こつばんないぞう)神経より信号が送られ局所的に一酸化窒素(いっさんかちっそ)が放出され、血管閉塞(けっかんへいそく)(にな)不随意性(ふずいいせい)平滑筋(へいかつきん)弛緩(しかん)と共に該当部位(がいとうぶい)に血液多量流入(たりょうりゅうにゅう)収縮時(しゅうしゅくじ)血圧付近(けつあつふきん)まで内圧上昇(ないあつじょうしょう)する。

 この状態(じょうたい)自覚(じかく)する事により今度は交感神経(こうかんしんけい)にも刺激(しげき)伝達(でんたつ)され心拍数(しんぱくすう)上昇(じょうしょう)顔面紅潮(がんめんこうちょう)なども見受(みう)けられ、ある種の状態を(てい)した。


「ス、スセリちゃん…ち、ちょっと…」


「ん?ちょっと、なぁに?」


「い、いやなんでもないです!お、おやすみなさい!(あたた)かいですね!」


 変調(へんちょう)をきたしたままヤチホコはその様に伝えて(なか)ば強引に眠りにつくことにした。


「う、うん…おやすみ♪」


(…どうしたのでしょうか僕…?触れてもくっついてもアトゥスパ(はだか)見ても…なんともなかったりむしろ見てはいけない…気まずいイレンカを(かん)じていたはずのスセリちゃんですのに…エサムペルイルイ(ドキドキする)がまったく止まりません…?)


 ラム()ケゥエ(身体)の反応もまったく(おさ)まらず…アン=フスコトイ(長い夜)を過ごす事となったヤチホコであった…。


…ヤチホコ、大変ですね…(^-^;


用語説明ですm(__)m


アン=フスコトイ:長い夜…夜+とても長い間→「長い夜」 としました

ヌプル=イタラ:霊力の意味として良く出てくるヌプルですが、「恍惚こうこつとする」という意味もあります。

そこに「状態の維持を表す」itaraイタラを接尾辞としてつけて、恍惚状態としました。

カムイ=トゥス:神降ろし トゥスだけで実はこの意味です♪ 見てわかりやすくするためにあえて神の意味であるカムイとつなげました。

カムイ=アイヌコロ:神を敬う→(高位存在に対して)親愛なる としました。

コヤイユトゥルヌ:昏睡状態になる 意識がもうろうとする→「トランス状態」としました。

キンラ=ピリカ=レカ:神がかり的な美しさだと思う→「艶やかで美しい」としました。


これらは僕の意訳です(^-^;


アン:天(シュメール語)

キ:地(シュメール語)


これらは普通にシュメール語で上記の意味です♪

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