第25倭 “主”を封じる究極のカムイノミ
皆が思案する中話し始めたのは…
「…アビヒコ…私とヤチホコくん…つなげられるか…?」
何かを考え抜いた表情でルースがアビヒコに尋ねる。
「え…?…ラムハプル=ヌプルの応用でフミの共有はたぶんできると思うよ?」
「なら話ははやい!ヤチホコくんは“空”のトゥムを解放してくれたまえ。ミチヒメちゃんはアビヒコからではなく四体の神獣達とチカラ合わせて四種のトゥムのイラムノエトゥッカを試みてくれたまえ」
「…とうさんは…?」
不思議そうな面持ちでアビヒコがルースに尋ねる。
「…ヤチホコくんと同期出来次第…私がカムイノミを行う!」
「えぇ~!と、とうさんが…?」
「発明家に不可能と言うイタクなどない♪…それにあの…いびつなマガイモノには一刻も早く退場願いたいからな!」
「…確かに少しでも早い方が良いのは確かだよね…わかった…じゃぁとうさん…行くよ!」
アビヒコが両手からぼんやりと輝く光を放ちそのままルースの肩に置く。
ヤチホコは言われた通り解封して空のトゥムを放つ。
透明に輝くトゥムが全身から吹き上がる。
「相変わらずスゴイチカラですけど…な、長くはもたなさそうですね…!」
「…ミチヒメちゃんは…?」
「…今まで全員同時はないケド…みんなお願い、チカラを貸して!」
「まかせるトラ!」
「大丈夫ですよ♪ラクにしていてくださいね♪」
「今の其方なら心配いらぬ!」
「発動可能確実!」
四体の神獣たちがミチヒメへそれぞれ自神のヌプルを注ぎ込む。
「あ、あぁ~!は、入ってくるぅ…よっつのゼンゼン違うヌプル…!」
ミチヒメは注ぎ込まれるチカラの感触に身をよじりながらそう言った。
「オマエは流れに身をまかせておくトラ!」
「そうです…ゆっくり…大丈夫ですからね…!」
「其方の…その深淵目指し…!」
「最奥部到達。流入開始」
「あ、あぁー!…っぁあぁ~!!」
ミチヒメは玄武の合図の後…β-エンドルフィンがμ受容体に作用しGABAニューロンを抑制させ大脳皮質へ投射を行う腹側被蓋野よりドーパミンが大量に遊離促進され多幸感を享受、疼痛軽減、ドーパミンよりノルアドレナリン生成、そこからさらにアドレナリン多量生成・分泌による心拍数、血圧上昇、瞳孔散大、闘争・逃走反応により更に疼痛軽減、下垂体前葉からのTSH分泌によりT₃T₄多量分泌、全身代謝活性化、大脳辺縁系を中心に異常興奮が計測され、骨盤底筋群を中心に8~13Hzの周波数で全身の律動的な収縮が起き…
その後視索上核および室傍核に局在する大細胞性神経分泌ニューロンの細胞体および樹状突起からオキシトシンを含有した小胞の開口放出による安心感、信頼感上昇に伴い…顔を含む全身の血管拡張と弛緩による皮膚の紅潮が見受けられた…。
現代医学的表現をするならばこの様な事がミチヒメに起きたと言える…。
ミチヒメは力無く項垂れ…表情は恍惚状態を呈し宙に浮いている…。
いつもの四体の姿はなくミチヒメの四肢より強く気配を感じる。
「…よし…。ヤチホコくんは…ミチヒメちゃんの所へ私を連れて行ってくれ。…そう…そのまま背後から支えていてくれたまえ…」
言われた通りにヤチホコはルースを背負いながらミチヒメの背後にまわりそっと肩に手を置いて支えようとした。
「~~~!」
その瞬間再度ミチヒメは全身を痙攣させ律動的収縮を起こした。
驚きと戸惑いがある中ヤチホコはより一層優しく手を添えて支え続けた。
「…いいぞ。…では…君たちのチカラを用いて神呪を発動させる。そのまま楽にしていてくれたまえ。」
「…そのチカラ…イレンカ…美味しそう…!」
突如として“主”がこちらへ向かって飛んできた。
「其方の相手はこちらであるぞ!ぬぅん!」
ウガヤのイペオプが龍と化し“主”めがけ跳んでいく。
気付くも一瞬遅れ“主”の肩口がはじけ飛ぶ。続く二撃目は完全に躱され…ゆるりと此方を向いたかと思うと…物凄い勢いで飛び掛かってきた!それを龍化槍で受け止める…!
(…完璧に受け止めねば…!我は只の一撃も喰らう事叶わぬ故…!)
ウガヤは自身の身にヌプルを纏わせられない為、“主”の攻撃受けし刻は…ケゥエは勿論…ヌプル=ケゥエも多大な損傷を受け致命的な状態になる。
一手読み誤れば詰みとなる攻防を…数十、数百と繰り返す…!
「それは悪手でございます…!」
攻撃を避けた背後に岩壁が!躱しきれない!
龍化槍で必死に受け止め続ける。四柱の御使いたちはただただ傍観している…。
まるで薇発条の切れたポイシオン=イノカが如くに…。
「アナタたちって正しいコトの味方じゃないの?ウガヤ兄何も悪くないし今すごく困ってる!」
残念ながらスセリのそのイタクにも御使いたちは微動だにしない…。
(…もしかして…動かない…じゃなくって…動けないの…?…さっき…“主”に…チカラあげちゃったから…?)
そうこうしている内にウガヤも槍のみで捌き切れなくなりケゥエに纏うハイヨクペの各部がはじけ飛んでいく…!
「ヤチ!ルースさん!はやく!ウガヤ兄もうもたないよ!」
「…!レラ ア ヤイカラ ペウプンチセ アン イサム
アンペ シ カムイ マゥェ ヘトゥク!」
強きイレンカ込めてルースが唱え始めると…空中に五つの光が浮かび始めた…!
「あ、あぁ…な、何か…こ、これ…も、もの凄くチカラを持っていかれます…!」
「大丈夫、死にゃせん!…もう少しもらうから…頑張りたまえ!トゥムを…チカラを限界まで練り上げて放つイレンカで!」
言われた通り限界まで練り上げ放出するとヤチホコはすさまじい脱力感に見舞われた。
「…あ…」
そう呟いたかと思うとヤチホコは大きくふらついて力無く項垂れ…それと同時に先の光が完全に具現化して五芒星と化した。
(…境涯足りずカムイ=マェとはならぬが…受肉して実体化している今のヤツなら効果を示すはず…!)
「…ポタラ=エウンアンペ=カムイイウェンテプ=ウブ=イキネイペカ!…消え去れ!このマガイモノ!」
ルースの掛け声と共に輝く五芒星が“主”の元目掛けて飛翔していく!
槍を弾かれた丸腰のウガヤへとどめの爪撃が振り下ろされる寸前、攻撃を阻む様に頭上より回転しながら降りかかり地面に激突した瞬間円柱状に光を放ち結界が発動した!
「こ、これは一体…動けま…せん…!」
「イワン=ラマトゥ=ストゥ=エイノンノイタク…!」
(…ケゥエが…消えていく…飢えも…ラムも…満たされて…)
「…ピリカ=シリ=シセイペレ…!」
結界の眩い輝きに優しく包まれて“主”と名乗りし存在は幸せそうに消えていく…。
(…あぁ…お元気そうですね…。私はいつも…貴方を…愛しき我が子…ヘレル…右手よ…)
そう最後に言の葉を遺し優しく微笑みながら…“主”は消え去った…。
(…何だって!?一部ホンモノだったって言うのか?…いや…浄化の際に感応道交した…か…?)
最後の声を聞いた際、ルースだけがその様にイレンカ巡らし動揺を露わにしていた…。
“主”の消え去りし場所に四つの光球が浮かび上がり御使いへと還っていく…。
一柱の御使いの目に輝きが戻る。周囲を見回し…こちらを見て話しかけてきた。
「…これは…一体…?…わたくし…今まで何をしていたのでしょうか…?」
「…御使い…さま…その筆頭…炎の化身…カムイ=ユカラさま…お話…きちんと…届きますわね…?」
「…えぇ…。どうやら何か夢をみていたようですね…」
そう言いながら残る三柱を見回す。…未だ“夢”の最中と観える為…そのまま静かにしておく事にしたようだ。
「…我々も先の大変動後…主と交信が取れなくなりまして…どの様にしていこうか話し合っていた刻に…どこからか訪ねてきた道化師なるモノにひとつ進言されまして…」
神の似姿と呼ばれし御使いはそう語り始めた。
道化師が言うには…
「主”が必要やったら…自らの手で理想の“主”を造りだせばええで…」
と…。
「その様に聞かされし後…四柱で共にチカラ合わせ…創造したのが先の“主”であったが…どうやら生み出しし刻で記憶が途切れてしまっていたようですね…」
どうやら“主”は道化師が彼らに伝えた創造の法を用い生み出したらしい…。
「…その呪法自体に洗脳の儀式が組み込まれていたんだろうな…!」
ルースは結果からその様に推測して伝えた。
「…その様な事とは露知らず…“主”と感応道交出来ぬ焦燥感より浅はかな振舞いをしてしまいました…」
カムイ=ユカラ…はその様に言った後自責の念に駆られ力無く項垂れていた。
「そんなに責める事も無いだろう。貴方達にこんな真似できる存在なんてごく限られているからな…!」
「…もし…主…もしくは近しい位階の存在から呪法を受け取ったのでしたら…先の道化師でも…可能と言う事…でしょうか…?」
素朴な疑問としてヤチホコは尋ねた。
「…!そう…そうだった! あの…ブラフマーも…誰かから…その能力を授かり…とミチヒメが言っていた!」
アビヒコが当時聞いたミチヒメの話を思い出してその様に言うと…
「そうだろうな。一介のウタラが創造のカムイを名乗るなどと言うのは正気の沙汰とはとても思えないからな…!ましてや名乗るだけの仕業が出来るなんてのは尚更ありえないからな!」
ルースはそう言葉を続けた後さらに思案していた。
ミカヅチをつかったパセ=コル=モシリにおけるオロチ族の暴走、下伽耶の滅亡、ランカー島のブラフマー…そして今回のシネレプ=シカントコロ=カムイ …全て何モノかの暗躍なしには為し得ない事ではないかと…。
「…此度の非礼は…いつの日か必ずお返しいたします…。今は…これにて…我らのモシリへ帰還させてもらいます…」
軽く一礼し、カムイ=ユカラは三柱の傍により…再度確認し…今は諦め、自神のチカラで皆と共に転移しようとした刻に声がかかった。
「イヨッタの御使いさま…ワタシのこのチカラ…お返しいたしますわ…」
ミカヅチはそう言って御使いに歩み寄った。
「…もう其方にチカラさずけし“主”も存在しておりません…故にわたくしには受け取る事も戻すこともかないません…其方の良き…正しきイレンカのもとに使われて下さい…」
「彼らが正気に戻りし刻…再び相見えましょう…我々は過ちを犯してしまいました…。救いも…チカラも…与えるのではなく…己が為すべき事を為し…自らのイレンカとチカラで手にしなければならないモノであると言う事を…ただ与えるだけでは…真の救いたり得ぬと…わたくしの胸に…ラマトゥに刻んでおきます…。ミカヅチ…そなたが此度チカラを得た事にもきっと大いなる因果に連なる意味があるはずです…。為すべき事を…広き見聞の果てに見出せるよう祈ります…。そこなウタラよ…。真なる智慧はいと素晴らしきなり…。全ての生きとし生けるモノの為に…」
そこまで言うと御使いたちは空の彼方に消えていってしまった…。
「…さぁ、一旦神聖城国へ戻ってからわが家へ帰ろう」
ルースがそう言うと皆一同に頷いて返事をした。
結果としては無事に“主”との対峙をやり過ごしましたね…♪
用語説明です
カムイ=ユカラ:直訳ですと神の英雄叙事詩…そしてユカラには「真似る」と言う意味もあるので…そこから「似姿」と意訳しました♪…もう誰の事か御分りですね♪
ウブ:五芒星(シュメール語です)
六根清浄懺悔罪障消滅:眼、耳、鼻、舌、身、意の6つの身体の構成要素の浄化と輪廻によりつくりて持って来たる罪障を反省しますので消滅してくださいの意味です。日々のお勤めや行の際に唱えます。
後生善処:本来は現世安穏後生善処(げんぜあんのん~)と唱えます。この世でも平和で安らかに…次なる生は今よりも良い処に生まれ変わりますように…と言う祈りの言葉です。供養の際に唱えます。
共に仏教用語です。ですのでアイヌ語の表記は…意味を踏まえて意訳して僕が造った言葉です(^-^;
そんな言葉がこの作品にはいろいろと出てきますがそれも楽しんでいただければと思いますm(__)m




