第24倭 主とのエトゥンナンカラ(出遭い)
平和に朝を迎えたあと…
「さすがウガヤ王、エカイ=チス越えて舞うカパラチリの如き早きお目覚めでございますわ♪」
トゥムも発せずゆるりとミカヅチはあらわれてそう挨拶してきた。
「そういう其方も…ペケレチカプ飛び去りし刻の如き支度のはやさであるな」
「信じて頂きありがたく存じます…して、この時間であるのでしたら皆何も召し上がられてはいまいと思いて…クンナノイペを持参いたしましたわ」
笑みを浮かべながらそう言ってミカヅチは包みを差し出した。
「…忝き事である。遠慮なく頂くとしよう。」
ウガヤは皆にも声をかけて起こして朝食をとらせる事にした。
「…昨日確か…祈れば…ってそう言っていたよな?」
ルースがミカヅチに問いかける。
「えぇ…どこにいようと一度エイタクエチウさえ致しますれば…顕れますわ」
「ふむ…。思うに昨日からの一連の流れは…あちらさんには筒抜けかもしれないな…。」
「…恐らくはルース殿の言う通りであろうな」
そのウガヤの言葉に驚いたヤチホコが言った。
「えぇ? ウガヤ兄…解っていて平然としていたのですか?」
言われたウガヤは珍しく微笑んで言葉を返してきた。
「仮にも相手はカムイ…。で、あるならば当然の事であろう。」
「そして…カムイともあろうモノに見得きり無しの尋常ならざる不意打ちはありえない…と?」
その言葉に大きく頷きながらウガヤは応えた。
「正にルース殿の言う通り」
「そ、そうですよね…真なるカムイでしたなら…僕たちなんてどうにでもなりますものね…」
納得しながらも苦笑いでヤチホコが言う。
「じゃぁ…わたしたちの出来る事って言ったら…」
「そう、万全の状態で善きイレンカを以て相見える事だけだな!」
「然り…!…皆…良いであるな?…ミカヅチよ…!」
ウガヤは皆を見回し確認しながらそう言った。
「…承知いたしましたわ。それでは…ご降臨願う事に致しますわ…」
ミカヅチは跪いて目を閉じ祈り始めた…。
「主よ…御使いよ…ミカヅチでございます…。
…いと深き大慈大悲を以ちて御正体なる神威之身体参拝の好機をお恵み賜え…!」
その様に唱えしばし黙祷していると…以前同様空が揺らめき四柱の御使いが顕れた。
御使いがとある場所を中心に回りチカラを送り始めるとやがてそれは一つの形を成していく…。
四色の光が混ざりうねりながら球状に収束した後に一柱の女性体の人影が浮かび上がってきた。
そこには…“主”と呼ばれし存在の姿があった。
(…我が敬虔なる使徒ミカヅチよ…いかがなさいましたか…?)
頭にに直接響く声で顕れしモノは語りかけてきた。
「はは。このモノ達が再度主にお目通りを懇願しておりますわ…」
(さようでございますか…。して…どのようなご用件でございましょう…?…ウガヤさんは…私の為にイレンカ集めて下さるようになられたのでしょうか…?)
「パセ=コル=モシリを救う案を持参致した…。故に他のモシリへの進軍は取りやめて頂きたく願う…!」
(救う案…でございますか…。あなた方はイレンカを集めてきてさえくれますれば…あとは私が救いますので…何もなさらなくてよいのです…私に全て委ねれば皆救われます…)
「この案を用いてウタラが幸せになれば…同様にイレンカ集めるは易き事と思うが…?」
(…それではイレンカの全てを頂くことは…出来ません…今でも全く足りません…もっと…もっとイレンカを…もっと…もっと…!)
そう語り返してきたかと思うと突然輝きを増し始めた。何やら身体の奥から主へ向かって吸い寄せられるような感触に見舞われた。
「…もしや…これは…チカラを…吸い取られし感触であるか…?」
「気のせいじゃない!ボクは半分は持っていかれた!」
悔しそうにスセリはそう叫んだ。
「確かに~私もすこぉしだけ…気のせいかもなくらいね!」
「…!ミ、ミカヅチ…さん…!どうしましたか?」
ヤチホコの声の先に一同視線を移すと苦しそうに跪くミカヅチの姿が目に入った。
「くぅ…。し…主よ…何ゆえに…?」
(足りません…もっと…もっと…もっと…もぉっとぉ…!)
「離散せよ!再度吸い取られるであるぞ!」
ウガヤの声に反応して一同は一斉に出来得る限りその場から離れた。
「ルースさんつかまってください!僕、逃げ足は速いです!」
距離を散り終えて一同は主を見据える。周囲の木々や草花が見る見るうちに枯れ果てていく…!
「…これでは…ポクナモシリ=カムイと呼びたるが自然であるな…!」
「幾らなんでも酷過ぎるだろコレ!出来損ないにも程がある!…御使いたちよ…オマエ達の造り出した“主”はシネレプもニセモノ…欠陥品だ!」
全員驚いてルースを見やる。
「ル、ルースさん…い、今のって…あの“主”は…シネレプで…御使いさんたちが…造られたの…ですか…?」
ヤチホコが驚きのあまりしどろもどろになりながら尋ねる。
「ああ。…分御魂による人造のカムイだろう。どちらかと言うと…自然の盟主に近い状態のな。…で、必要な分のイレンカが入ってこないと…ああなるんだろうな。…まさかとは思うが…このモシリの北の地が…あんなに荒れ果ててしまっているのも…コイツのせいなのか?」
一同その言葉を聞いてまたもや驚きを隠せない。
「お、お待ちくださいまして…。その様でありますなら…その様でありますなら…ワタシ達は…郭公の雛とは露知らず喜び勇みて子育てをする大葦切と同様でございますわ…!」
「…おそらく…な…」
歯切れ悪くも確信もってルースは応えた。
(あぁ…足りませんわ…御使いたちよもっとチカラを…)
四柱の御使いたちが一斉に手を翳す。光り輝く強いチカラが主に向かって流れ込んでいく…。
みるみる存在力を増していき完全に実体化した。
「さぁ…これで直接関わることが出来ます…私の救済を阻むのでしたら…宣教を妨げるモノとして…この手で排除いたしましょう…」
そう言い終えると音も無く眼前に詰め寄り無造作に腕を水平に振り払う。
ペウプンチセと呼べる程のレラ=ルイヤンペが巻き起こり一行を吹き飛ばそうと襲い掛かり、ヤチホコとルースが飲み込まれ上空に巻き上げられる!
「やぁっ!」
スセリは逆回転のウェンレラを生み出して相殺を図る。
二撃、三撃…重ねて発する内に徐々に勢いを弱めゆるやかに二人は降りてきた。
「スセリちゃんありがとう♪…僕らは一旦離れておきましょう!」
「そうだね!みんなのジャマにならないとこまで行っておくっ!」
「やれやれ…似て非なるにも程があるなこりゃ…!」
呆れながらルースがそう言うとヤチホコもそれに続いた。
「そうですね!すべてを創りしカムイとしてはあまりにお粗末で好戦的すぎますね…!」
「あぁ…本当にな!…周りからあんな無様なチカラの集め方する辺り…自然の盟主としても出来損ない…悪趣味な紛いモノだ」
賛同しながらも補足する様にウガヤが言う。
「然り…で、あるが、敵としてみたら脅威であるな…!チカラ奪いし能力は中々に危険と言える…!」
「同感です。話もつうじないしこれ以上チカラ奪われる前に倒した方が良いと思います」
アビヒコもウガヤの言に賛同しながらそう続けて言った。
「…優しそうな…ステキなカッケマッに観えるケド…」
スセリは主のその外観に対して何かを観じたのかそう言った。
「見た目はそ~でも…あのカミサマ…ラムがないもの!必要ならまわりの全てから奪いつくしちゃう!…そんなコト…絶対ほうっておけないよっ!」
スセリの言に対してミチヒメはその様に応えた。
「造りモノの造りモノたる所以だな。ラムを…その核心たるラマトゥを創りだす事は…真の創造主にさえできやしない!」
ルースの言に素直に驚いてスセリが尋ねる。
「そうなの?…ではボクたちそのモノとも言えるこのラマトゥ…いったいどこから来るの?」
「全ての存在はシ=パセ=アンペ=ソネプより別たれしカケラさ。」
「…シ=パセ=アンペ=ソネプ…ですか?」
ヤチホコも不思議そうにそう聞き返す。
「ああ。全てのラマトゥはシ=パセ=アンペ=ソネプより生まれ出ずる。いわばカムイ=オポイシオン のような存在だ」
(…|シ=パセ… アンペ… ソネプ…)
御使いの一柱が頭に直接響く声ならぬ声で呟き…少し苦しそうにしている…。
「極論で言えば…御使い達も…イリウタラな訳だな!」
「えぇ~!…でも…今のおはなしが本当でしたなら…そうなりますね…!」
驚きつつも納得してヤチホコ応えた。
「だからなのか、他に理由があるのか、御使い達はあれ程の存在力を示しながらも直接手を出してこない…!」
(直接手を出さず…四柱…四元素…チカラ集めて…!)
ミチヒメはそこまで考えて叫ぶ!
「あの刻のブラフマーと一緒!五つの属性のトゥムがそろえば…この“主”も封じることが出来るはず!」
「わたしはこの子たちにお願いしてよっつの属性…モシリ・ワッカ・アペ・レラのトゥムを出せる…ヤチホコくん!あとはあなたのその…“ニス”のトゥム!それだわ!」
「た、確かに五つの属性揃いますね…!しかしそれを使っていったいどうすれば良いのでしょうか…?」
あの…カムイキリサム=コラムヌカラの刻の様にセレマク=アカムを解封し、“空”のトゥムを解放する事は出来る、しかしそれをどの様に用いれば良いかヤチホコには皆目見当がつかない。
「…五芒のトゥム揃いし刻…あらゆる存在を封ずる神呪の星輝かん…その様にハヤスサノヲ…父君より聞き及んではいる…が、その術すべ までは聞かされてはおらぬ…」
ウガヤも以前の修行を思い出しながらその様に言った。
五芒…五つの属性はありそうですが…?
用語の説明です。
※この場合はカムイ=シ=パセ=アンペ=ソネプを指しています。
…シ=パセ=アンペ=ソネプ:全ての神話や宗教で指し示す究極の真理…
と理解してくれたらいいと思います(^-^;