第21倭 発明家と領主それぞれの顔
元気になった一行がルースに帰ると…
「はいはーい、僕が最初に開けます♪ルースさん、香さん、ただいまです~♪」
ヤチホコはそう言いながら勢いよく扉を開け中に入ろうとしたが…入れない様である。
ナニカが目の前にありまとわりついて先に進めない。
「あ、あれれ? ふぁ、ふぁいれ…まふぇん…?」
「ひゃっひゃっひゃ!大成功大成功♪ やはり期待通り引っかかってくれたなヤチホコくん♪」
ルースはそう言いながら無様な表情のヤチホコをみて大笑いした。
一旦離れて良く見ると…透明な膜が扉の枠一面に張られていた。
「こっこれってもしかして…!」
「おーとも!機材が届いたからな!この前こっそり貯めておいたカンナカムイ=マェで試しに造ってみたら二重に大成功だったワケだ♪ ひゃっひゃっひゃ♪」
「これもしウガヤさまが先頭だったらどうするつもりだったの?とうさん?」
アビヒコは自分たちが先頭でヤチホコが見事に引っかかった安堵と共にそう尋ねた。
「いやいや~神殿に寄った後の流れから絶対にアビヒコかヤチホコくんが最初と予想していたからな♪」
「どうだったかい?二人とも。…あそこの帰りのマッカチ方…キレーだったろ?」
ルースがヘカチ二人つかまえて聞くと…二人して大きく頷いていた。
「…トゥムやヌプルに長けるモノ程恩恵を受けるのだよあそこは…。そして…身体…いや、ラマトゥの奥からすっきり元気になる…そんなワケで沐浴後みたいにキレーになるって寸法さ♪」
それならもしかして…と、ヤチホコは姿見に映る自分を確かめるも変化はわからなかった。
しかしこの姿見はヤチホコの知るそれとは大きく違いかなり細やかに見えている気はする…。
「ひゃひゃひゃ♪あそこのカムイ、ヲノコだからな~♪…ん?っでもヤチホコくんは少し変わった…?いや、元々か?」
ルースのその言の通り、傍から見ると成程確かにヤチホコは美しい顔立ちをしている。
マッカチと見紛う銀色の長髪、透き通る白い肌、彫りが深く長いまつ毛を携えた二重瞼の紅の瞳、年の頃もあり、穏やかに話す際は柔らかながらもハリのある澄んだ高い声…言動と容姿が大きく乖離している故普段は気付きにくかったが…ピリカ=ワ=オケレなヘカチであった。
(…どことなく…アノ方に似ている気がする…。まぁ当然か、はは。)
その考えを打ち消す様に軽く首を横に振り、ルースはどんな事にもアノ方の残滓を追い求めてしまう自分を嗜め、気を取り直して言う。
「…ヤチホコくんはきちんとしていたら元々美しい顔立ちなんだろうな」
ちょっと嬉しそうに少しだけ照れくさそうにヤチホコは答える。
「え、あ、ありがとうございます♪…そうか…僕、キレーな顔立ちだったのですね…!」
普段自分の顔など日常的に確認できるほど銅鏡は普及していない。
そもそも銅鏡なのである程度しか把握できていなかった。
ヤチホコは少しすまし顔で皆に微笑んで見たり目配せしてみた。
…どうやらルースの言は正しい様である。全員何らかの反応が見て取れた。
一番反応したのは…一番間近で接しているはずのスセリであった。
(そうでしたか…。これはこれで嬉しいですね♪)
「…これで材料は揃ったであるな…!早速明日にでも向かうとしよう!」
「明日は私も同行しよう。説明が必要だと思うが…?」
「左様であるな。有事の際はこの槍に誓いて我が守る故…お願い致す…!」
「よし。じゃぁみんな明日に向けてゆっくり休んでくれたまえ。あーヤチホコくんは少しこちらで力を提供してから休んでくれ。」
「あ、は、はい!」
その後例によって皆香の料理を振る舞われ湯浴みの後床に就いた。
…明くる朝、団欒の間に行くとルースと香の姿はなかった…。
「領主の館で待つ ルース」
一言走り書きでその様に言伝があった。
(確かカムイ=チセの横に大きなチャシがありましたね…)
ヤチホコはその様に思って皆で準備して出向いた。
「…隣のカムイ=チセよりも大きいですね…!あ、領主の館と言う事は…」
そのヤチホコの言葉にアビヒコは頷いて応える。
「あぁそうだよ。こっちが本当のとうさんの住居…なんだけどほとんどあっちの万事屋にいるんだ…。ふたりとも贅沢には興味ないみたいでね…」
「思えば…この発展した都市の領主さまが…ルースさんでしたね…そんなエライ方だったと言う事をすっかり忘れていましたね…)」
本当に上に立つモノとはそうなんだろうとヤチホコは思った。
(…ウガヤ兄も…上伽耶をはじめとするこの地のモシリ=コロ=クルですのに一介の武人にしか見えません。ルースさんに至っては…ただのキロランなウタラにしか見えませんでしたが…思えばこの都市の目を見張るモノすべてがルースさんによって復元、もしくは発明されたモノですものね…)
自らウタラをヲモヒ、導き、善政を施す…飄々として軽薄そうに見えるが実は理想の君主である。
考えている内に扉の前に着いた。城門と言っても差し支えないほどの大きさである。
重々しい音を立てて扉を開くと…そこには二人の品のある立派なウタラがいた。
「…?あれれ?…ルースさんと香さんは?」
「ホント…。ん?あの二人は誰?」
ヤチホコとスセリはそれぞれにそう言いいながら二人を探している。
アビヒコとミチヒメはその様子を見てくすくすと笑っている。
「ヤチホコもスセリちゃんも…よく見てよ、そこにいるのが…とうさんと…」
「…えぇ~!!」
ヤチホコとスセリは二人同時に驚きの声をあげた。
「え、え、え~?今そこにいらっしゃるのはとても高貴な身分の方だと思いますよ…?」
「…横のカッケマッも…王妃さまのようだよ!」
アビヒコは笑いながら二人に答えた。
「ははは、そりゃふたりとも一応ここの領主とその奥さんだからさ…言ってしまえば王さまとお妃さまだよ♪」
「で、でもどちらも全くいつもとちがう方ですよ~!」
「…かあさんはたしかに本当に変化するけどね…。でもとうさんは…シッコトゥッカネ外して服装を整えただけだよ?」
(いやいやいや…変わりすぎです…)
確かに普段分厚い眼鏡で目は見えず、レキも伸ばし放題で顔も隠れていた。それをきちんとしたら…手本のような均整の取れた顔立ちであった。
香も普段とは顔立ちまで違って見える。
「たしかにこの刻のかあさんはまるで別人みたいだけど…かあさんには変わりないよ。トゥムやヌプルの気配も変わらないよ。大きさ、強さは増している気はするけどね。」
(…と言う事は…香さんの刻も探ると内在しているチカラを読み取れるのでしょうか…?存在力からしてまるで違う気もしますが…?)
疑問を浮かべ悩んでいるヤチホコに優しく話しかける声が。
「ふふふ、ヤチホコさん、どちらにしてもアビヒコの母には変わりありませんわ♪」
そう言いながら微笑むその姿は間違いなく王妃と言える気品あるモノであった。
「一つのモシリ のルーガルへの謁見故、平常通りで参る訳にはゆくまい…」
普段とは話し方まで違う。役者なら一流と言えよう。
「…久方ぶりにルース公としての貴殿の姿拝見いたしたであるな」
「普段の万事屋の方が気楽で好ましく思うであるがな、ははは」
ウガヤに言われ少し照れくさそうに苦笑いを浮かべながらルースはそう言った。
「然らばいざ行かん、皆、参ろう!」
街の外に出て門の前に停めてあるヤレパチプに乗り込み、皆トゥムを開放して速度を上げていく。
「これは…帆に風をうくるだけでは到底出せぬ速度であるな!」
ルースは甲板にて風を浴びながら感嘆の声をあげた。
「数刻程で着く故、ゆるりと過ごされよ」
「かたじけない」
「…日を追う毎に速さを増している。皆の成長、目を見張るモノである」
「…乗り手のトゥム如何によって際限なく速く進む船…これ程のモノを造れるとは驚嘆に値するな…」
「今でも僅かばかり存在せし製造者…そして動き止めし遺産を再度動かせる様にに出来る調整者の才を持つモノが手掛けると…全ての道具が我等のトゥムやヌプルに応えるようになると伝え聞く…!」
「…ウタラの手ではその様な事叶いませぬからな…。故に私は誰もが等しく使えるモノを造りだしている訳でありまする…!」
「誰でも等しく…そのラムや素晴らしきかな!…心なきモノの手に渡らぬ様にだけ用心が必要ですな」
「左様。すべて正しきイレンカの元に」
(…それが叶い難き事が緋徒でありウタラであるが…)
言葉の後にそう続けてイレンカを廻らせ一瞬天を仰ぎ…傍らの香を見やってから遠く前方を見据えた。
「…大丈夫でございますわ…。アナタの信じし“道”を歩めしモノも…ほら…」
「…そうであるな…。正しくも険しき道歩みし二神の末裔達…希望の御子等…」
「ええ。私達の愛息子も希望と可能性にあふれていますわ」
「歩み切れるならば、であるな」
「…はい」
程無くして一行はパセ=コル=モシリに到着した。
「目指すは…謁見の間でもある王の間であるな…」
そう思いながらルースはヤレパチプより降り立って城門を見据えた。
どの立場をとるかによって口調も話の内容も激変してしまうようですねルースさん…




