第19倭 帰還、露丝へ
寝息を立てていた香は…?
暫くすると香はゆっくりと目を開けて辺りを見回しルースを見つけ話しかける。
「…話、終わったんだね。ねね、嬉しかった?」
イラムモッカっぽく聞いてきた香に対し、ルースは少し照れくさそうに答えた。
「ま、まぁな。アイツは良いカッケマッだからな…」
「あら~じゃぁ香ちゃんイイ女じゃないの~?」
「そうではないが…マッネポは娘だ。イオシコッテには見えんよ」
笑いながらルースはそう答えた。
それを聞いて少し不満げに香は言う。
「まぁウヌにはかなわないけどさ…たまには香ちゃんもウ=ウェラマスくれていいのに♪」
ルースは思わず飲んでいたコーヒーを吹き出しそうになった。
「バ、バカ!ヤイプニも休み休み言え。確かにオマエと母さんは別の存在であり、個々に異なるラマトゥ持ちし存在だからそれも不可能ではないが…」
「ならいいじゃない♪」
起き上がって勢いよくコテムサイェしてきた。
つつましやかながら確かに存在する柔らかな感触が伝わってきた。
「…っと!…まぁ…これが母さん並になったらな♪」
「ム!ならないの知っていてまた言うか~!」
「はっはっは!オマエはオマエで素敵でイイ奴だよ♪」
そう言いながらルースは香の頭を少し荒っぽく撫でまわし自分の机に歩いていった。
途中ふと思い出したかの様にルースは振り向いて香に優しく伝えた。
「…アビヒコのヌカンヌカラ、いつもイヤイライケレ」
それを聞いて頬を赤らめ笑みを漏らしながら香は言う。
「もぅ~♪良いのよ♪…ある意味キョーダイみたいなモノだし♪」
「助かってるよ、本当にな」
「いや~※△◇…♪」
香はどうやら嬉しすぎて照れてしまい言葉にならない様である…。
「みんなは恐らくニサッタオヤシムくらいに戻ると思うからよろしくな。」
「りょーかい♪腕を振るって料理するからね♪」
「はは!楽しみだな♪」
少し刻を遡り…クンネ=スム湧く地にて…。
力なくヤチホコにもたれ掛かっていたアビヒコのケゥエに力が戻る。
ゆっくりと起き上がり色々と確認した後に喋りだした。
「…みんな、とうさんに伝えてきたよ!ぼくらはいったん戻って良いみたい。色々準備するウタラをこちらに派遣してくれるって!」
「うむ!良くぞ伝えてくれた!足労であった!…しからば一旦露丝へ戻るとしよう!」
ウガヤの言葉に一同大きく返事をし、ヤレパチプに乗り込む。
「さぁ…最大速度で帰還しよう…ぬぅん!」
ウガヤの声に続き全員全力でトゥムを高めた。それに呼応するように見る見るヤレパチプは速度を上げていく。一筋の空を射抜くアィエの様に、荒野を…街道を突き進み半日ほどで露丝に帰ってこれた。
「とうさんただいま!」
扉を勢いよく開け入ると…一階には誰もいない。いつもの机にもいない。どうやら二階の寝室にいる様だ。
「…アビヒコ…今はまだ アンケスである…。イレンカ急くのは解らぬでも無いが我々も休み朝を待とう」
「あ!これはぼくとしたことがイレンカ先走ってついうっかりしちゃいました…」
一同共感の笑みを浮かべていた。
「さ、じゃぁ一緒に…寝よ?」
ミチヒメがそう言いながら腕を搦めてきた。
「では我等も場所を拝借するであるか…」
ウガヤも広間に横たわった。
「ぼくらも寝よっかスセリちゃん」
「そーだね♪ ヤチ、こっちこっち♪」
柔らかい綿の敷き詰めてある所へ飛び込んでスセリは大の字に寝転がった。
「きもちいい~♪じゃぁオヤスミー!」
先のヤレパチプで全力でトゥムを放出したせいか全員横たわった瞬間に夢路へと誘われていった…。
…小気味好く鍋を使う音が鳴り響く。その合間にこれまた滑らかな旋律をまな板と包丁が奏でる。
「う~ん♪とぉってもいい匂いです♪」
香ばしい匂いにつられ一番に目を覚ましたのはヤチホコであった。
「あ!イランカラプテルースさん!へぇ~ルースさんもお料理上手なのですね♪」
「ま~な~。うちの父が料理人だったから見様見真似で自己流だが、味はウマいぞ♪」
「ヤチホコちゃん早上好♪もう少し待っててネ♡」
そう言いながら香が鍋を振ると見る間に炒めあがっていく。
「ここのアペフチカムイ、すごく強いですね!」
ヤチホコは感心してそう言うと二人は笑って答えた。
「これはカムイによるものではないんだよ♪
私が考案した道具で…火の素を風とともに細い所から噴出させる事により勢い良く燃える様にしたもので燃焼器と呼んでいるモノだ」
「へぇ~!」
ヤチホコはそんな事も出来るのかと感心しながら ポロ=スの下を覗いてみると…輪状に加工された鉄の管に開けられた小さな穴よりナニカが噴き出てそれが燃え強い火となり噴き出している。
「わわ!すっごいですね!これ、ここから出ているナニカが燃えているのでしょうか…?」
「ふふふ、先のクンネ=スムの仲間さ、明かりを灯すスムだ」
「スゴイです!…チカラなしでも出来るのですね!」
「我々はキミたちと違いトゥムもヌプルもごく僅かだからね、色々と工夫がいるのさ」
と言う事はこれは誰にでも使用可能と言う事…それはある意味自分たち緋徒やカムイに頼んでしてもらうよりも凄い事だとヤチホコは思った。
「どちらも価値があり素晴らしいと思っている。要は使うモノのイレンカ次第と言う事だな!」
「…イレンカ次第…確かにそうですよね!」
関心と納得のイレンカでヤチホコはそう応えた。
「色々と自由に考えられる中で善かれのイレンカを貫くのは中々に困難な道ではあるがな…!」
ルースのその言葉にふと頭の片隅をナニカがよぎる。少しだけ締め付けられるように痛む。
「…ムリして思い出そうとしない方が良い。刻が来れば自ずと心の内に湧き上がってくるだろう」
「…エシカ…ルン…?」
「あ、いやいやいや、気にしないでくれ。さ、もう出来るから皆を起こしてきてくれないか?」
「あ、は、はい、行ってきます」
ヤチホコは何か大切な事が頭によぎった気がしたが…皆を起こし美味しそうなクンナノイペを頂くことにした。
「かあさん相変わらず最高に美味しいよ♪」
「本当?良かった~♪」
「いつもながら料理の腕前は素晴らしいな♪…ここはまったくもってノカン=クルだけどな♪」
そう言いながらなだらかで緩やかに微かな曲線を描くエウコポヌプカを撫でまわした。
「…もうぅ~相変わらずエパタイなんだから~」
持っていたカスプでルースを小突く、小突く…ど突く!?
「ぐあ!やりすぎだろこれ!」
「アナタが言ってたじゃない!これは高貴な証だって!カムイに近しきモノ程性差はなくなる…って!」
「そ、それは確かに本当だ!ただ個人的な好みとしてはだな…もっとこう…ふっふっふ…♪…ふぐわっ!」
とうとう直接エセウヌレされています…うわぁ…イレンカこもっていてとても痛そうです…。
「…それを言うんじゃない!バカぁ!」
「す、すびばぜん…」
単なる痴話げんかではなく香は本当に悲しげな表情をしていた。
「香!すまない!ゴメン!本当に悪かった!ついつい口が滑ってしまって…」
「いいよ…。わかってる…それは仕方ないコト。でも…今の…香ちゃんのコトも…ちゃんと見て…愛してほしいな…」
理解と諦めを交えながらも切にイレンカを伝えているのを傍からも感じた…。
「…わかっている。…大切だというイレンカは常に抱いているよ」
「今は…それで…良いや。ありがとう♪」
割と日常的に行われてるのか、アビヒコは顔色一つ変えずに何か考えを巡らせていた。
(…そう言えば…トゥム=テクニマゥポする刻のかあさんは ケゥ が違ったような…?)
「ねぇかあさん、あの…気功治療する刻の状態なら…とうさんとても好きなんじゃないのかな?」
ルースは口からサムペが飛び出そうになって慌てながらもなんとか応えた。
「ぁあ、いやいや、ま、まぁその…確かにだな…」
「それなら…変わりましょうか?」
物静かでいながら今日一番の恐ろしさを観じさせる口調で香は言った。
「イエダイジョウブデス…」
「え、ええ?ぼく何かまずいこと聞いた?」
「いやいやいや、なんもさ、没問題!」
「大丈夫だよアビヒコ!あ、でも…アビヒコも…アノ姿のかあさんの方が…好き…?」
いつもの香らしからぬ妙な質問に対しアビヒコは即座に応えた。
「ええ?どちらにしたってかあさんには変わりないからどちらもおんなじくらい好きだよ♪」
それを聞いた香がどうだとばかりの表情で言う。
「アナタ!これが正しい観じ方の見本よ!」
「あ、ああ…そ、そーだな、そーだよな…肝に銘じておくよ…」
(…何となく少し気になりましたが…まぁるく収まって良かったです♪)
そう考えながらヤチホコは安心した。
「…例のクンネ=スム、届き次第試しに透明な布を造ってみようと思う。道具はすでに出来ている…!」
「では僕たちは…?」
「ヤチホコくんは後で少しだけ手伝ってもらう。なに君にしたら大したことじゃないはずだ。その刻にはまた呼ぶからそれまではここの散策でもして寛いだらどうかな?このシリは至る所で私の発明が使われていて面白いぞ♪」
その言葉を聞いたヤチホコ達は朝食を済ませた後皆で出かける事にした。
露丝を見物しに行くようですね♪