第17倭 チュプキ=ポソ=センカキ(日の光すり抜ける布)
露丝に戻ってきました…
「良く戻ってきたな、おおウガヤ王も御無事で…」
「?…とうさん…無事に済まないって思っていたの?」
苦笑しながら答えにくそうにルースは言った。
「い、いやぁ…国祖王はポロモシリとの関係を反故にする程愚かではないと思っていたが、ミカヅチと言うモノは大分好戦的なようだからな、話し合いも刃を交えてになるんじゃないかなってな…」
「それならそうと最初に言ってくれれば…!」
アビヒコはそう言ってルースに詰め寄った。
「いやまぁ…こっちにはウガヤ王いるし、カムイではないだろうから大丈夫かなってな」
困り笑いしながらもそう答えた。
「おじさん…出てきたわよ、カムイ!しかも五柱も!あげくの果てにミカヅチまでカムイっぽくなっちゃって!」
とたん表情が一変して真剣な目つきで聞き返してきた。
「…それはもしや…四柱の御使いと…まさか…主…か…?」
「ルース殿何故それが御分りになられるか?」
ウガヤが驚いてルースに尋ねた。
「では…背にラプを携えたモノ四体と…あとは女性体か…?」
「カムイでしょうから本当のところは解りませんが…見た目は長髪のピリカカッケマでした」
(…アノ方が…まっさか…な)
「…あの方…?…とうさん…主を知ってるの?」
どうやら口から洩れていたようだ。
「あ、いやぁ…朱さん? キレイな人ならぜひ一度拝見したい…い、いやではなくてだな…」
「もう、冗談はいいから教えて?おじさん…!」
「はは、すまんすまん。…それは本物であればまさにこの世界の創造主だな。四元素の御使いを従え顕れると聞く…」
「そ、それって戦うのなんてムボーでは…?」
ヤチホコが小さな声で呟いた。
「本物ならな。でも…おそらくニセモノだ!…もしかしたら御使いは本物かもしれないけどな」
「ニセモノ…であるならば本物の創造主よりは与し易いであるが…あの存在力…真の創造主たり得ぬとも並のモノではありませぬ…!」
ウガヤは率直に己の抱いた感想を伝えた。
「まーそーなんだろうな。…となると…戦うのは得策ではないな…。あぁそうか!目的と意義をなくしてしまえば!」
「それっていったいどういうこと?ルースさん?」
スセリは不思議そうな顔でルースに問いかけた。
「ふふん!つまり奴らは…自分たちの力で救った存在に崇めてもらってイレンカを集め…チカラを得たい訳だ。統治するカムイとして君臨したいのだろう。
だから…自分達で生きていければいいんだよ!ウタラの力でな!」
「そっか!あの荒れた土地に作物が実れば…!」
「とうさん、寒さは通さず光だけ通す布って…造れないかな…?」
(光だけ通す布…!ビニールハウス栽培!…確かに硝子はまだまだ小さいモノしか作れずしかもかなり高価…しかし…アレなら…今であっても…原油さえあれば…!そこからナフサを蒸留し、今の技術限界で加熱すればエチレンが生成可能…海水を…雷の力で分解するのがネックだが…それさえ出来てしまえば出来上がった気体に蜜蝋由来のエステルを溶かして混ぜながら生成すれば…透明でいてポリエチレンよりも遥かに丈夫なポリ塩化ビニルの布が造れる…!その上エステルの配合を変えればうまくいけば必要なモノすべてが造れる…!)
ルースは凄まじい勢いで思考を巡らせている様に見える…。
数瞬の間を置いて目を輝かせながら…しかし少し口調は重たげに話してきた。
「…風を通さない透明に限りなく近い布か…!面白そうだな!ひとつ造ってみるとするか…!ああ、キミ達にお願いしたい事があるんだが…」
そう言いながら何かを探す様に道具の山を漁っている。
「…あった…と言うかいたと言うか…♪…これを頼りにとあるモノを探してほしい。」
「とある…モノですか?」
「それは一体?どこにあるの?」
ヤチホコとスセリは口々に尋ねた。
「おじさんそれって…何かわからないケドこれを使って探してくればいいんだよね!ま~かせて♪」
ミチヒメはそう言って既に出かけるシピネを始めだした…。
「とうさん…もしかして…材料…?」
アビヒコのその言葉にルースは感嘆の声をあげた。
「おぉ!さすが我が息子!察しが良いな!そう、その通りだ!探してもらうモノは土の下にある…黒い…スムだ!」
「く、黒いスム!? とうさん造ってほしいのは透明の布だよ!…そんなモノ…むぐぐ!」
アビヒコは驚きのあまり反論しようとしたが途中で阻まれてしまった…。
「わっかりました!黒いスムですね!アビヒコ、行くよ!」
ミチヒメはアビヒコの口を抑えたままそう答え、手をつかむと勢いよく飛び出していった。
「…して…この道具…いかにして用いれば良いのであるかなルース殿?」
飛び出していった二人を呆れて口を開けたまま見やって固まっていたルースだったが、ウガヤの言で正気に戻り説明しだした。
「お、おぉ、そうだったな。なぁに簡単さ。動かしてさえおけば土の下に黒い油があれば勝手に騒ぎ出すから…持ち歩いて彷徨ってくれれば良いのさ♪私の見立てではアノ北の荒れた大地の下に相当量の油だまり…油田があると睨んでいる…!」
「承知いたした…!ではさっそっく行って参る」
「頼みましたぞ。おっとそうだ…」
ルースはヤチホコを手招きして呼んだ。
「ちょっと腕の環、見せてみ?」
「あ、は、はい。」
…あの神前比武の刻に一度だけ外れたが…それ以来試しても全く外れはしなかったのであった…。
「…よし。これでトゥムを開放してみてごらん?」
言われた通りにしてみると…
「何かいつもと違っ…うわわっ!」
いつもと全く違う質のトゥムが吹き上がる。
「こ、このカンジ…あの…ミカヅチにも似た様な…!」
「なるほど!こいつは素晴らしい!封をしている訳だ!「空」のトゥムの使い手だったのか!」
(これは…電気も…解決するかもな…!…果たしてこの力…どこまで…つかえるかだな…)
ルースはまたもやめまぐるしく思考した。
ヤチホコからはいつもと違い…あの比武の刻に一瞬見えた透明に輝く白いトゥムが迸っている。確信を以てルースはアビヒコに声をかけた。
「…アビヒコ…シネレプ=ウェン=カムイ…出してみてくれ!」
先を歩いていたアビヒコは声を聴き驚いて戻ってきた。
「…父さんなんて今言った?あんな危険なモノ…いつもだめって言ってるの父さんじゃ…!」
そこまで喋った刻、視界に入ったヤチホコを見て言葉を止めた。
「…なるほどね…!ヤチホコ…キミも只モノじゃなかったわけだ…!ただ言っておくけど…まだまだぼくが未熟なせいで一度出すと抑え効かないしヌプルか…その…「空」のトゥムじゃないと倒せないからね!」
そう言い終えるとアビヒコは集中し始めた…。
「エウン=オピッタ=アンペ=ケゥエ=マゥエ!ヘトゥク!もう一人のぼく!」
その呪文と共にアビヒコの身体から黒煙が立ち昇りナニカを形成していく。
立派な角を携えた巨躯を誇るモノが顕れた。
「な、ナニコレ!とんでもなく危険なのだけはワカる…!ヤチ!全力で行くよ!」
スセリが全力でトゥムを高めその状態で激しく打ち込んだ…はずだが…まったく手応えがない…!
「お嬢ちゃんダメなんだ…ソイツはただのトゥムじゃまったく効果ない。ヌプルか…もしくは…!」
「…今の…僕の…トゥム…ですね…!」
左手で剣を逆手に持ち大きく後ろに振りかぶり、高めたトゥムを伝わらせていく…。
そのトゥムの高まりを察知して先のナニカが、腕と思しき部位を最上段に振りかぶり打ち下ろして襲い掛かってきた!
「ヤチ、よけて!」
激しい衝突音と共にヤチホコは剣で受け止めた…!
「う、受け止めた!ボクの攻撃は当たらなかったのに…!」
その後幾度となく激しくぶつかり合い両上肢を切り落とした刻、動きが止まり…しばらくして背を向けたかと思うとその黒いナニカは煙のように消え去ってしまった…。
「ヤチホコくん!トゥムを鎮めたまえ!」
ルースのその声で終わった事に気付きトゥムを鎮めた。
「あ、あだだだだだ!け、ケゥエが…!」
ヤチホコは身体中の激痛と共にその場に崩れ落ちた。
「…おぉ!…何とか全身の腱は断裂しないで済んだ様だな!」
安堵の息を漏らしながらルースはそう言った。
「こ、…こうなるの…知っていたのですか…?あ、あだだ」
「いやいやいや…思った以上に軽くすんだよ♪見た目以上にかなり鍛えてもらてるな!これがヤチホコくん、キミの封印の理由であり…キミがカムイやそれに準ずる位階の存在達に一矢報いれる唯一の手段さ。本来なら自然と封が解ける位まで強くならないと危険だが…万一ミチヒメ達が持たなかった刻の切り札と言う訳だ。…オイシイ役回りだろ?」
身体中の痛みを感じながらヤチホコは苦笑いで頷いた…。
戦いのトゥムに気付き戻ってきていたウガヤが続けて言った。
「…我の付与霊呪や先のミチヒメのチカラの開放で至らぬ刻は…頼むやもしれぬ…!」
「は、はい…そもそも今回の捜索はそんな事にならなくて済むように…ですよね?」
「うむ、無用な争いを避ける為にも此度の油探しは重要であるな。いざ参ろう…!」
あらためて露丝を後にして北の地へ向かった。
また一つ、可能性を手に本題の油探しへ…




