第16倭 メル=ストゥ=マゥェ 緋徒(フィト)を超えし力
飛び出していったミカヅチの行き先は…
「ム!ミカヅチよ、どこへ行くであるか!」
国祖王も驚いてそう叫んだ。
「待ちなさい!お願いスザク!」
ミチヒメはスザクの力を借り高速飛翔して追いかけていく。
都市から少し離れた小高いヌプカの上にミカヅチは立っていた。
「…主よ!御使いよ!宣教の為…ペケレ=ロルンペの為ワタシに更なる力を与えたまえ…!」
「…させないわ!はぁっ!」
ミチヒメは高速飛翔したまま突撃していく。
(…ミカヅチ…敬虔なる使徒よ…あなたの願い…聞き入れましょう…私に準ずる力を授けます…さぁ…受け取りなさい…)
突如中空に浮かび上がり顕れた主がゆっくりと降りてきて手を差し伸べた。
触れられた瞬間…ミカヅチは激しく弾ける様に仰け反ってその場に膝をつき項垂れて沈黙した。
追いついたミチヒメは直前で攻撃を止めて様子を見た。
ミカヅチは小刻みに震え沈黙していたかと思いきや、瞬時に視界より消え去ってしまった。
「!?ミカヅチ!どこっ?まちなさ…!」
言いかけた刻に背後より首に伸びる手に気付いた。
「…ほほ、ほほほ、ほーっほっほ!すばらしいですわ!」
(何て迅さ!…まったく観じ取れなかった…!)
抜け出ようと思った刻には既に腕を搦め取られていた。
「…くっ!」
首からさらに蛇のようにしなやかにうねり伸びてきた腕がコッパラより服の中に入り確認するようにまとわりつきながら這いずり回る。
「ひゃ!ななな何するの!」
ミチヒメは悲鳴と共にそう声をあげながらも動きは完全に封じられていた。
しばし後音も無く軽やかに宙に浮き緩やかに後方に回転して降り立つ。
「…ほほ!絶望的な差はこれで感じてもらえたかしら?そうそう…こちらの方も絶望的な小ささですわ♪ほほほほ♪」
「むー!ぜっさん生長中可能性無限大のわたしのトットちゃんになんてコト言うのよぉ~!」
二年前と大差ないのは考えない様にしたようである…。
(それよりも…ミカヅチのこの動き…ケゥエの限界を超えた…あれはあの…御使いに匹敵する…!…まさかとは思うケド…さっきのでカムイに昇りつめた…?)
もし本当にそうならばミチヒメにはかなり分が悪い事になる。
彼女は内包する莫大なトゥムと体術による物理攻撃が専門である。
ヌプルの扱いは不得手である。だが、カムイ、もしくはそれに準ずるモノに対しては…ヌプルをトゥムと融合させし力か…「空」のトゥムを以て挑まねば攻撃がまったく届かないらしく、一方的となるらしい。
如何な強大な力といえど、先の猛御雷ならばミチヒメにもやりようはあった。
しかし…今のこのミカヅチは…。
見据える程に全身から冷たい汗が噴き出てくる。
(…このカンジ…間違いない…!)
「やりますわね…賢いメノコですわ♪…観じ取りましたわね…ほほっ…ワタシはよけませんので打ち込んでみては…?」
そう言いながらミカヅチは不敵な笑みを浮かべ構えもせずに目の前に立つ。
ミチヒメは奥歯を噛みしめ悔しさの中全力を以て立ち向かう。
「はぁ…っ!疾如白虎!徐如青龍!侵掠如朱雀!不動如玄武!」
あの刻同様四種の異なる力が光となり一つに収束して強い輝きを放つ!
「啊啊啊啊啊啊っ!!!獣王究極発勁!!!!」
(あの刻は御使いに止められたケド…今度は…!)
襲い掛かる強力な力の奔流に対しミカヅチは涼しい顔で悠然と構える。
ミチヒメは勢いよく前方へ跳躍しミカヅチの眼前で激しき震脚し同側の拳より打撃を放つ!
撃ち抜いたはずの拳にはまったく手ごたえを感じず…遥か先で轟音と共に着弾の衝撃が巻き起こる。
「ほほ、ほほほ、ほーっほっほ!…すばらしいですわ♪もはやミチヒメ、あなたとは次元が違うようですわ♡」
そう言いながらミカヅチに額を小突かれるも、その手を払おうと思った刻にはキサンラプを甘噛みされ、追い払おうにも手ごたえがない。
(これは…あの刻と一緒…あの…カムイと…!)
二年前の記憶が蘇る。あの刻とは違い自身のトゥムを自在に引き出す術と仲間を得てはいるが…この次元の存在に無力なのは一緒である…。
「ふう…参った!わたしだけで手におえる存在じゃなくなっちゃったみたい…」
「ほほ、観念しましたかしら?…それではとどめを刺してあげますわ…♪」
「アビヒコ!お願い!わたしに力を貸して!」
追いついてきたアビヒコは即座に返答する。
「まかせて!…ラムハプル=ヌプル!…いけぇっ!メル=ストゥ=マェ…エトゥッカ!」
アビヒコの掛け声と共にミチヒメに強いヌプルが流れ込み、得も言われぬ感覚が身体中に広がって駆け巡っていく…。
「あ、あぁ…観じる…入ってくるぅ…あぁっ…!」
身体中が輝き始め、ミチヒメは高揚感と恍惚感…ある種の快感に包まれていく…。
一際強く輝きを放った直後、今度はミカヅチの視界からミチヒメが消え去った…!
「!…そっちですわ!」
目にも止まらぬミチヒメを観じ取り追随する。
空中で衝突音が鳴り響き、衝撃で周囲に粉塵が舞い上がる!
「…ほほ…まさか受け止められるとは…」
視界が晴れてくるとミカヅチの斬撃を受け止めているミチヒメの姿が見えた。
(辛うじて…それも全力でだけどね…!)
「わたしだけではできない。でも…力を合わせれば出来る!」
やっと同じ土俵に立てただけで劣勢は全く変わっていなかったが、ミチヒメはあえて満面の笑みで自信たっぷりにそう言った。
「…ほほほ…ワタシも慢心は致しませぬ。アナタのその力…もし他にも出来るモノがいるのでしたら分が悪うなりますゆえ…。ここは一旦退かせて頂きますわ♪」
そう言ってまたもや皆の視界から消え去るとミチヒメの背後に回りこみ、気付く間も無く今度は両手をコッパラより入れられて両方弄られて弄ばれた…。
「~!!こ、このエパタ~イ!」
振り払おうとするも掠るのがやっとで捉えきれず、見やった刻には既に間合いの遥か外であった…。
「…やはり侮れませんわ…。掠らせる気もありませんでしたからの…。又相見える事でしょう!その刻までに首を洗っておくと良いですわ♪…そのエウコポヌプカはどうしようもないでしょうけど…ほーっほっほ!」
高笑いしながらエプスと共に去っていった。
トゥムが観じられなくなるのを確認した瞬間、力が抜けてミチヒメは崩れ落ちる様に膝をついた。
「はぁっはぁっ…。やっぱりこのチカラ…ムリがありすぎるみたい。ものすっごく疲れる…。あ、危なかったぁ~」
ミチヒメはしゃがみこんだまま安堵のイレンカでその様に言った。
「まがりなりにもぶっつけで成功してよかったよね…!今までもめったに出来たことなかったからね!」
アビヒコも安堵の笑みを浮かべその場に座り込んだ。
「…よもやミカヅチがあの様になろうとはな…」
ウガヤも戦闘態勢を解いてそう言った。
(…もはや僕たちまったくついていけませんでしたね…世界が違いました…)
(…そーだね…。悔しいケドボクも何もできなかった…)
ヤチホコとスセリはそう話し合って互いに消沈していた。
「気にやむ事ないよ。ぼくらの方がはやく鍛錬はじめただけだから」
アビヒコはそう言って二人を慰めた。
「ありがとう…。でも…さっきのミチヒメの…そしてミカヅチの力…あれはもしかして…?」
「…そう。あれが…カムイへの入り口…メル=ストゥ=マェ…光子力だよ」
アビヒコはそう答え、まず…トゥムとヌプルを本来は自身によってイラムノ=エトゥッカした上でそれをウカムレする事によってはじめて出来るモノであり…アノ段階でもすごいのに…真なる力…カムイ=マェに至りし刻は…天を裂き大地を割ると教わったとのことです…。
「…ふわぁ…まさに…カムイ…!」」
「…だよね!ぼくたち緋徒は…そこまで高められるんだね!」
「そ~よ~♪きっとあなたたちなら出来るようになるなる♪ま~わたしもまだまだエトゥッカするだけでせーいっぱいだし、それもアビヒコのヌプルなしではまだまだ…」
「本当はオレタチのヌプルで出来るトラ!」
「ミチヒメが我らと真に協調できれば…」
「トゥムに私達のヌプルを上乗せしてウカムレさせられれば…」
「盤石のキロルエトゥッカとなる」
突如ミチヒメの周りにいる不思議なモノ達…精霊がしゃべりだした。
「わっ!キミたちしゃべれるんだ!」
「しかも僕らよりも物知りっぽいですね♪」
ぷに!っと、白いチャペの様なモノから前足で叩かれた。
「知ってるも何もこのビャッコさまはなぁ…!」
「やめておけ、この姿では威厳も何もありはせぬ」
「そーですよぉ、ビャッコ、今はア=オマプチャペちゃんだし♪」
「恥の上塗りになる為静観希望…」
「あは、あははは…まぁそ~ね~…」
一本指で頭を掻きながらミチヒメは困り笑いを浮かべて言った。
「うぬぬぬ~!オイ!ミチヒメ!オレサマにトゥムよこせ!」
「えぇ~もうあんまりチカラ残って…」
「ノコッテル分でいいからハヤクヨコセ~!!!」
そう言いながらビャッコと呼ばれし白いチャペ?はミチヒメの腕に噛みついてきた。
「あたた!はいはい、了解です御師匠さま…はぁ!」
ちょこんとその場に座ったビャッコと称するチャペにミチヒメは両手をかざしトゥムを放つ。
それはぼんやりと光を放ちビャッコの周囲を覆っていき…全身を包んだかとおもいきや、突如風が吹き始め、瞬く間にペウプンチセとなり中心からナニカが顕れた。
「う、うわわ~!」
出てきたのはヤチホコを遥かに超える体躯のキムンペ=クル…いや…キムンペ=カムイであった。
「はーっはっはっ!どーだヘカチ コゾー!これがオレサマの本当の姿、キムンペカムイ=ルーガルビャッコさまよ!恐れ入ったかぁ!」
長い体毛を棚引かせしなやかで立派な身体つき、まさに虎のカムイと呼ぶべき存在であった。
「まだまだミチヒメが未熟だから本来の力には遠く及ばないが、どーだ!スゴイだろ♪」
目を丸くさせて何度も頷いてヤチホコは応えた。
「なぁーに、わかりゃぁ良いんだよ♪」
ビャッコは満足げにそう言った。
(…この強さ…すがた…もしかして…)
「あ、あの…ビャッコさまってもしかして…ラムハプル=モシリ=コロ=クルさま…なの?」
さらにご満悦な面持ちでそう尋ねてきたスセリに応える。
「おぉ!そうだぜ!…こっちのマッカチちゃんはさらにモノ分かりが良いな!オレサマは…レラのキムンペカムイ=ルーガルさまだ!」
「やっぱり…!でもそうだとすると…二つ大きなギモンが…。なぜ普通にお話しできるかと…どうして自由に好きな所へ行けるの?」
「スセリ。オマエ中々聡い。レンカクス=ラムは本来オレタチは持たないモノ。しかしいつの頃からか…レンカクス=ラムもつものが顕れ…増えていく中…オレ達はひょんなことからモシリへの呪縛がなくなって…こーして自由に出来るんだぜ♪」
「左様である。故にミチヒメと出会い…本懐を達成できたのである」
セイリュウと呼ばれしポントコロカムイ?はその様に話した。
「本懐?」
「一年ほど前だが、我々をこのような姿にしたモノ…それらに操られしモノによるモシリの侵略をこのミチヒメと共に防ぐことが出来たのである」
「あー…まぁ…ね、カンジンな所、実はわたしなぁんにも覚えていないんだけどね~」
少しばつの悪そうな表情をして、一本指で頭を掻きながら困り笑いを浮かべミチヒメはそう答えた。
「いえいえミチヒメさん、あなたのお力なくしてはさしものラーマさまも偉業を成し遂げられませんでしたわよ!」
チカッポの様なモノがそう囀るように言う。
「あの刻の莫大なトゥムの放出により、ラーマ様はカムイ=マェ行使可能となった。ウタラとして生誕したラーマ様には持ちえぬモノ…まさにカムイ=トゥム!」
「やだやだやめてよもぉ~!本人はアノ刻以外でまったく出せたことないんだから」
「それも当然ですよ。今のミチヒメさんの境涯でラーマさまと言う力の受け皿なしにアノチカラ解放したら…ケゥエが耐えきれなくて四散してしまいますからね♪」
にこやかに先のチカッポが恐ろしい事を言った。
それを聞いてヤチホコとスセリは驚いてミチヒメを見やった。
(…ふつうの…いえ…アリキンネ=オマプピリカメノコにしか見えませんのに…)
(…使いこなせるようになったら…並の修行ではとてもおいつけない!)
「ま~ま~二人とも、わたしのであって…わたしのじゃないチカラなの。なんでかは解らないけど…ここに眠っているから…正しく使いこなせるようにみんなに稽古つけてもらってるのよ♪…コタンを…モシリを滅ぼしたモノが…カムイだったから…最初は憎くさえ思って使おうとも思えなかったけど…でも今は…この…カムイのチカラも含めて全部がわたしだって思えてる!」
「そーだぜ♪己を認めてこそ強くなれるってもんよ!」
「…自身への絶対の信こそが悟性なり」
ウガヤがそう意味深な事を言った。
「ウガヤ兄…それはいったいどういうことです…?」
ヤチホコはそのまま素直に尋ねてみた。
「うむ…。以前ハヤスサノヲ様に指導賜った刻に頂いた言葉である。御言の葉によらば…総ての存在に最高の悟りに至る可能性が内在しているらしい。故に…己と…己に眠る無限の可能性を認識し、信じ、エトゥッカさせる事こそが究極に至る足掛かりである、と。」
「へぇ~。誰でも、どの様な存在でも…じゃぁ…生きとし生けるモノみんなですかね?」
「無論。それだけではなく…チス…ワッカ…そして緋徒に…ウタラによって造られし道具…タム等にも宿ると聞き及んでいる…」
「じゃ、じゃぁ…僕のイコロもイレンカ込めて信じて使えばより力を発揮してくれるのでしょうか…?」
「うむ、それは間違いなき事である。我のこのイペオプも間違いなく本来よりも強さに磨きがかかっておる…!」
そう言ってウガヤは己の槍を掲げて見せた。
(良く…わかりませんね…?)
「…そうであるか。まだ見えぬか。…アビヒコ…」
「はい。二人ともこっちに来て…」
アビヒコの傍に行くと後ろから頭に手を当てられた。
「ゆっくり目を閉じて…よし…今度はゆっくり目を開けてごらん?」
言われた通りにしてから槍を見ると…!
「え、えぇ!イペオプが…モイ=トコロカムイに!」
「その通りである。我もヌプルに疎い故、アビヒコの力なくば見えぬであるが…トゥムを詳細に観ずれば…概要はつかめる」
トゥムも極めるとその様な事まで観ずれるのか…!そう思いながらヤチホコは心底感心してウガヤを見やり、新たな可能性を前に胸が高鳴るのを感じた。
「まだまだ…強くなれるのですね…♪」
「うむ…。ヤチホコ…スセリ…そなた等はまだまだ前回のカムイキリサム=コラムヌカラにむけた修練でトゥムを使う事の入り口に立ったばかりであるからな…!」
「…大分強くなったつもりでしたが…」
ヤチホコは場都合が悪そうにそう言った。
「それも間違いではあらぬ。が、件のミカヅチ相手には…今しばらく修行がいるが…もっとも…」
そこまでウガヤが言うと横から割り込む声が。
「そう!でもそれはわたし達も一緒!今のままじゃ太刀打ちできない…!少なくてもあの状態で技を放てるようにならないと!」
「なら善は急げだね!練習しながら露丝に帰ろう!」
ミチヒメの言葉に続いてアビヒコもそう言った。
(…我もこの槍の真なる力…使いこなさぬと…!)
ウガヤも先のミカヅチには今のままでは攻撃が届かない事も解っていた。
自身にはヌプルが何故か全くないので…アビヒコにラムハプル=ヌプルしてもらったイペオプに己のトゥムを込め対応していた。
その力も完全に己のモノしなければ再びミカヅチが攻め入ってきた刻に勝てはしないであろう…そう思いながら露丝を目指し進んでいた。
「…僕らもせめて自分の身を守れるくらいには…!」
「うん…! アビヒコのあれ…出来たらいいな…!」
どの様にするか教えてもらいながら露丝を目指していた。
アビヒコのおとうさまにお会いして…あのやせた土地を救う為に。
そして…強大な力を得たミカヅチを相手にする為…。
すでに国祖王の元を離れ独断で主の元名の元にペケレ=ロルンペを行うと息巻いているらしい。止めねば多くの犠牲者が出る。
いつまた襲ってくるか解らない中、果たしてどこまで強くなれるのだろうか…
皆のイレンカをよそにウガヤは不安を過らせつつも向っていた。
ウガヤでさえも不安を抱く存在となったようですねミカヅチは…。
用語集ですm(__)m
イラムノ=エトゥッカ:同時発動(同時に、一緒に、出す)
ウカムレ:融合(重ね合わせる より)
ラムハプル=ヌプル:付与霊呪(惜しみなく(全ての)霊力を貴方に差し上げます)
メル=ストゥ=マェ:光子力…輝く根源の力(先の比武でオオトシが披露していました、トゥムとヌプルのウカムレ=エトゥッカ(融合発動)ですこの境涯のモノにはふつうの体術、トゥムによる物理攻撃は当たりません…)




