第15倭 ミカヅチの崇めしモノ達
皆を避難させてミカヅチとウガヤは相対します…!
言われた通り全員で離れた。この王の間は宮殿内で最も広く堅固な所である。
刃を交えるのにうってつけでもある。
ヤチホコ達は各々トゥムを高め戦闘の余波に巻き込まれないように身構えた。
「ラムハプル=ヌプルした方が…?」
「没問題。せずとも打ち漏らさぬ!」
「大きく出ましたわね…!ぼろぼろに負けて恥をかかせて差し上げますわっ♡ほほっ」
そう言ったミカヅチは目配せして笑みを浮かべたまま強烈に飛び込んできた!
鈍い金属音が幾重にも鳴り響き、生じた衝撃波が周囲の装飾品はもちろん柱や壁をも吹き飛ばしていく…!
「…ほほっすばらしいですわ♪まさかワタシと打ち合えるなんて…♪ですが…次は…ムリですわ♡…これでおしまいですわ!」
ミカヅチは最上段に構えた巨大なトゥケチャロマプにトゥムを込めていく…そして乾いた破裂音が鳴り始め次第に大きく低い音に変化していく…。
「こ、この音は…カムイフム…!」
「ほーほっほ!アナタの様なトゥムまかせのバカ力さんにコレは受け止められませんわ♡さぁ…ステキな断末魔をあげて逝って下さいまし!」
そう言うや否や大きく跳躍して上空から切りかかってきた!
「神之如威力!猛御雷!」
「カ、カムイ…!まさか…!ウガヤさま~!だめぇ!避けてぇ!」
一筋の閃光と共に音も無く石畳の床に巨大な亀裂が疾走る!!
一寸遅れて鳴り響く轟音と共に亀裂の延長線上の壁も天井も全てが裂けて崩れ落ちた。
「あ~ら避けるなんて無粋ですわ~♡イランマカ=ラメトコ=アイヌと言うならば尋常に受け止めて下さらないと…ほーっほっほ♪」
「ラムハプル=ヌプルを!トゥムだけでは…もしカムイ=マェなら絶対にムリです!」
アビヒコがそう叫ぶと静かに、しかし力強く手をかざし静止した。
「無用!このまま奴を撃ち伏せる!」
「カムイ=マェ使いしモノに対しあまりに無謀です!」
「心配無用!いざ…参る!」
ウガヤは身体中から吹き上がるトゥムを槍に伝わらせて凄まじい速さで突進していく。
「ほーっほっほ!アナタもイトムコカヌ=モシリの王と同じ様に私の餌食になると良いですわ!」
「神之如威力!猛御雷!」
「ぬぅん!全斬裂薙払撃!」
「ウガヤさま~!だ、だめぇ~!カムイ=マェはすべてを断ち切る力!絶対にかなわない!」
「ウガヤ兄ー!」
激しい音…衝突音!?互いの技が…武具がぶつかった音!
直後二人の間の真横の壁面に鋭利な形状の鋭い刃物で切られたような巨大な裂け目が現れた!
「…え?これって…ぶつかってる?受け止められてる??ど、ど~ゆ~事~???」
「…くぅっ!よぉく受け止めたわねぇ!褒めて差し上げますわ♪」
「…そなたの技の正体…見破ったなり!」
ウガヤは上方を指で示しその様に言い放った。
既に天井は崩落しそのすき間から黒く立ち込めた分厚い雲が見えている。
「…これを己がトゥムに依って造りし事は驚嘆に値するが…カンナカムイ=マェを行使してはいるが…空のトゥムでも…ましてやカムイ=マェではあらぬ…!水と風のトゥムを同時に練り上げカムイフム=ニスクルを呼び…雷神之力を行使したのであろう…!」
ミカヅチは一瞬悔しそうに唇の端を噛みしめるもすぐさま不敵な笑みを浮かべ言う。
「よくぞ…見抜きましたわ…褒めて差し上げますわ♪…ただ…カラクリを見抜いたからと言って…この威力…いつまで受け止めきれるかしら…?さぁ…参りますわ!」
轟音と共にカムイフムがミカヅチの剣に宿る。
乾いた破裂音をさせ激しく振動し揺らめきながら光を放つ剣を振りかざし上空に飛び上がる。
「くらいなさい!猛御雷!!」
「三度通じると思うか!ぬぅん!」
ウガヤも飛び上がり技の出懸でかかり目掛け撃ち抜く!
「全貫穿撃槍突!」
強烈な金属的衝突音と共に…弾かれたであろうミカヅチの剣が落ちてきて敷石に刺さるとともに二人も降りてきた。
「…まだ…続けるであるか…?」
喉元に槍を突き付けた状態でウガヤが問う。
「そうですわね…今回はこれでやめておきますわ…ワタシはね!」
ミカヅチはそう言うと高々と片手をあげて叫ぶ。
「主よ!その御使いよ!ワタシをお助け下さいませ!」
突然周囲の気配が…雰囲気が一変し…清浄なトゥム…キロルで満たされていく…。
すると音も無く上空に四体の存在が浮かび上がる様に顕れた。
それは光り輝く翼を携えた存在であった…。
「これが…御使い…?」
ウガヤは皆の前に素早く回り込み仁王立ちとなり御使いたちを見据える。
その表情は…先程までとうって変わり…焦燥感と恐怖を帯びている様であった…。
「其処なミカヅチとはまるで異なる…このモノ達…真なる…カムイである…!」
最大限の臨戦態勢のままウガヤは動向を伺っている。
そのうちの一体がゆっくりと動き始め…口を動かかす事無く…直接頭に響く声ならぬ声で語りかけてきた…。
(…我等が使徒ミカヅチよ…このモノ達は我が宣教の妨げとなるや否や?)
「ほほ、間違いなく仇為すものでございます」
「…宣教の趣旨は如何や?」
ウガヤは語りかけてきた御使いに話しかけた。
(…主の御名に於いて民を救い、主を敬い感謝するイレンカを思い出してもらうこと…)
「…しからば我は何の邪魔立てもせぬ…が、しかし、このモノ共の以前の振舞いの様に…他のモシリを己が私利私欲の為をもって侵略、蹂躙するのであるならば…全力を以て抗う所存である…!」
(…心得た…。ソナタとそなたの治めしモシリは任せる故…民を主の元に正しく導きたまえ…)
微妙にかみ合わない気がするが…聞きたい事を訪ねてみることにした。
「して…その主と呼ばれしモノ…御方は…何処に御座すであるか?」
四体の御使いたちは緩やかにある場所を中心に回り始めた…。
しばらくすると一段下に降り一列に並び始め…それと同時に彼らの上方に一つの存在が浮かんで顕れた…さながらカムイメノコの様にも見える。
(…御使いたちよご苦労様です…私が全てを創造し万物の主です…。いと小さき造られしモノよ…私からもモシリを平和に治めることを願います…そしてイノトゥ与えられし事に感謝を抱き日々を懸命に生きる様導き下さい…)
成る程桁違いの存在力である。しかもその属性は…気配からも神聖である事がありありと観じ取れる。その言の葉も真っ当で申し分ない…。
(…これは…間違いないであるか…。しかしでは何故ミカヅチ達の行動を許容するのであろうか…?)
(このモノ達は…私に民のイレンカを集め送り届けて下さっているのです…。そのイレンカを力に換え…皆の幸せの為の奇跡を行使しているのです…)
「…その為に…虐げられるウタラがいたとしてもであるか…?」
(…私に帰依し付き従うモノは全て救います…しかし差し伸べた手を払うモノは…残念な事です…)
口に出す前にイレンカを読まれかなり動揺したが、それ以上にミカヅチ達の行動に得心が逝かず、理に適うと思い難かった。そして万物の…という割に…万物を…救いも慈しみもしないようである…。
「…自分の恭順するモノだけを救う…カムイであるか…」
一柱のカムイならばごく自然だが、創造主、造物主を名乗るモノとしては不平等で公正さに欠けると思い、神聖な存在に変わりはないが、この世界の造り手ではない…ウガヤはそう判断した。
「真に全て創りし存在であるならば…不平等があるはずもなかろう!そなたはそう言う意味では…紛いモノである…!たとえ真なるカムイでありしとも…断じて全ての造物主ではない!」
その言葉を聞き…一柱の御使いが憐憫の表情でこちらを見やり語り掛けてきた…。
(…無知蒙昧は刻として幸いなるかな…)
「…無知…とな?」
(…主の本懐…その様なモノなど知らぬが幸いたらんや…)
「…知らぬ方が良いことがある…である…か?」
御使いと呼ばれし背にラプ携えしモノは静かに頷いた。
(…この主を…素直に敬虔に崇めていれば悩める事などなく幸多き生となるであろうに…)
御使いが意味深な言葉を伝えてきたのでウガヤは考え込みながらも応える。
「この…主…?…与えられたモノではなく己が手で掴み取らぬと満足できぬ性分であるのでな…!」
そこまで言うと主と呼ばれしモノが少し悲し気な面持ちで話し始めた。
(…残念です…貴方は良き使徒となり御使いたちと共にこの地に平和をもたらすために働いてもらえたでしょうに…)
「…使徒…については理解到らぬが…この地の平和への助力は惜しまぬ」
(…次に相まみえし刻は…良い返答を期待しております…我らのもたらす平和に仇為す事無き様に…)
そう伝え終えると…主と呼ばれしモノは御使いたちと共に光の中に消えていった…。
(…仇為すとされたならば…このイノトゥを賭してイレンカを示さねばならぬか…)
彼らの消え去りし中空を眺めながらウガヤはその様に決意していた。
静かに槍を下ろし国祖王に歩み寄り話しかける。
「…真にこのモシリ…幸せになっているのであるか?」
ウガヤの言が鋭く胸に突き刺さる感触を感じながらもそれをかき消すように首を振るい応える。
「も…もちろんであるとも。作物の取れる土地も手に入り、今まで不毛であった土地も…主の御力によって作物の取れる地へと変わりつつあるのでな…!」
「主の御力及ぶ光の結界の中は…それは暖かくトイオルンペもすくすくと育つのである…!」
「…して…それはこのパセ=コル=モシリの全てのウタラを十分に賄いきれる規模であるか…?」
またもやウガヤの言が胸に刺さるも国祖王は返答する。
「…とてもそこまではまだまだ至らぬのが現状ではあるな…故、一層のウタラのイレンカ集めぬと…」
「…もしも…主にたよらないで同じこと出来るとしたら…どう御思いになられるでしょうか…?」
おずおずと進言してきたのはアビヒコである。
「もしそれが真に可能であるならば…オロチ族に賛同して主を崇める必要もなく…他のモシリの土地も必要なくなるであるな…!ここパセ=コル=モシリは…広さだけは十分にあるのでな!しかし見ての通り荒涼としたモノである…が、これを使えるとなれば…!」
「少し刻を頂きたいです…。それから…このトイオルンペを試してみてください…!」
アビヒコは父より預かりしモノを取り出した。
「これは…?」
「これは…キナ=エマゥリと、現地でパパと呼ばれるモノで、やせた土地でも実をつけてくれるモノです。ここの土地でも芽吹いて実をつけてくれるか試してみてください」
「パパ…!偉大なる名を冠すとな…?…ふむ…これらが育ちウタラ養えるならば問題は解決するであるな…。早速試すとしよう!」
国祖王がそう言うと奥から兵が出てきて丁重に預かり去っていった。
「そなたの言う通りこれが芽吹いてくれると良いであるな…」
「そうですね…!このままではだめな時の為に…一つ道具をつくって準備をしておきたいのですが…それまで…各モシリへの布教と言う名の侵攻、止めてもらっても良いでしょうか…?」
アビヒコがその様に進言すると…すぐさま横から反論の声が。
「何をおっしゃりますの!こうしている間にも我がモシリのウタラは飢えと戦っていますわ!」
捲くし立てる様にミカヅチが言ってきた。
「…とうさんに頼んできますので…数日お待ちください…!」
「…ルース殿であるか…!確かに交易の要たる自由都市露丝の君主たるそなたの父ならば…一時の間ひとつのモシリ賄いきれるだけの食料を集めることも可能であるな…!」
ウガヤが納得した様にそう言うと、国祖王も驚きながら続けて言った。
「…なんと、そなたルース公のご子息であったか!重ねての非礼、詫びる故…一つ水に流してくれまいか?」
「…すぐさま簡単にとはいきませんけど…これからのこのモシリ…オロチ族のあり方と振舞いによりますね。」
「…左様であったな…。…其処なミカヅチにまかせきりで内情をきちんと把握していなかった余の責でもあるな…すまぬな…。今のやり方では…ロルンペもなくなりはせぬし真の解決たりえぬ事は余でもわかる。ミカヅチ…かまわぬであるな?」
ミカヅチは悔しさを満面に浮かべ、まったくもって納得いかない面持ちでこちらを睨み付けて言う。
「…主の元にタカラピリカ=モシリをつくる方が良いに決まっていますわ!ワタシは…正しい…そうに決まっていますわ!」
そう言い放つとトゥケチャロマプに乗って飛び去って行ってしまった…。
ミカヅチはいずこへ…?
用語説明ですm(__)m
神之如威力:カムイ=アン=マェ…訳しますと「神の如き威力」です。
ゆえにミカヅチの言っている事もウソではなく、ウガヤに受け止められたわけです(^-^;