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第13倭 万事屋露丝(よろずやルース)へ

アビヒコの生家、そして両親…?

 向かう先…露丝(ルース)はここ、楽浪郡(ローランジュン)のすぐそばに存在している。

 皆が乗るヤレパチプ大型万能船ならすぐである。

 都市の入り口でヤレパチプ(大型万能船)を泊め、中へ入りアビヒコに従い歩いていく。


「さぁ!中に入って。ここだよ…!」


 万事屋露丝(ルース)と書かれた看板の下をくぐり中へ進むと…一人のマッカチ(少女)…?が…?


(…アビヒコの…お姉ちゃん…かな?)


 ヤチホコはそう思いながら話しかけてみた。


「あ、こんにちは!僕たちはアビヒコの…」


「うん!聞いている。(シャン)って呼んで♪…良く来たね!さぁこちらへ♪」


 少女はにこやかに応対して奥の部屋に案内してくれた。

 大きめの円卓には大皿に乗ったとても美味しそうな料理が並んでいた。


「かあさん、実はとても料理が上手なんだ、一緒に食べよう!」


 一同頷いて一礼した後、順次手を付けていった。


(確かにどれもこれもとてもおいしいです…♪)


 皆暫く夢中で食べた後、ハッとしてスセリが言う。


「ちょ、ちょっとまってこの人が…おかあさん…?…えぇ~!!」


「何だよ~!それならクシナダさまはさらにビックリじゃないか~!」


 アビヒコは笑いながらそう言った。確かにそのとおりであるとスセリも思った。

 しかしせいぜいミチヒメと同じ頃にしか見えぬその佇まい。

 長い髪を横で束ね下ろしている。

 見たコトない生地の肌の露出の多い衣をまとっている。

 薄手の為か…なだらかな丘陵に存在するポントノンヌミ(小さな円柱状の突起)が透けて見え、ヤチホコは目のやり場に困っているようである…。


(本当におかあさま…なのでしょうけど…むむむ…♪)


 ヤチホコは…自分の養母(イレスハポ)クシナダを思えば何らおかしくはない事…そう己に言い聞かせた。


(あ…!…と言う事はもしかして…)


「…アビヒコ…まさか君のおかあさまも…別の姿があったりします…?」


 その言葉にアビヒコ以外の面々も一斉に振り向いた。


「ええ…そうよ…。この姿の時は…何の力もないただのウタラ()だから…」


 少しだけ消沈気味にアビヒコの母は答えた。


「…かあさんは道行く困ったウタラを助けていたんだよ」


「…そのためにアビヒコ…あの刻…」


 さらに沈み気味の口調になった香に向かってアビヒコは力強く言った。


「…今のぼくを見てよ!あの刻…アレがあったからこそ…ミチヒメに出会い、自分を御せる様になったんだよ!」


 決して強がりではなく、本心からのイレンカ(ヲモヒ)でアビヒコは香にそう伝えた。


「あの刻…とうさんが隣国に旅立って少しした後に僕の半身が暴走したんだ…。かあさんが再度封印しようとしたけど…何モノかに街が襲撃されて…みんなの治療に追われてしまって手が離せなくなって…そんな中ミチヒメたちが敵を追い払ってくれて…声をかけてくれたあの刻…本当に助かったと思ったよ…!」


 どうやらアビヒコのおとうさま不在時に街を襲撃されて、おかあさまは負傷者の治療に追われてしまって暴走するアビヒコに再度封印を仕切れなかった様です…。そこに顕れたミチヒメに付き従う四聖獣たちに助けてもらって、そのまま修業をつけてもらったそうです…。


(きっとそこで…色々励みにしながら頑張ったのでしょうね…♪)


 ヤチホコは色々納得した表情で何度も頷きながらヲモヒ巡らせていた。


「かあさん…まだまだ不安定だけど…自分の力で…制御できてるよ」


「…頑張ったんだね…ありがとう…」


「うん…!」


 香たちは自分たちのせいで我が子を苦しませ、暴走を抑えてあげられないことをずっと悔やんでいたようだったが、今のアビヒコの言でいくらか心が救われたようである。

 その時玄関の扉が開き賑やかそうに誰かがっ入ってきた。


「いやいや~すまないね~すっかり遅くなってしまって…まっさかあそこであっちが来るとはな~!」


 そう話してきたモノは…気を使われてなくざんばらに伸びた髪、目には不思議な透き通る眼帯?をしていて、白い着流しとも外套とも言える様な衣を羽織っている。


「…とうさんまた賭け事してきたの?しかも…!」


「イヤイヤイヤイヤ~ちゃんと念の為伏線張っておいたからな…ほらっ♪」


 包みを広げると大量の金貨が!


「…え、えぇ~!!!」


「全く予想外のヤツが来たから法外な配当がついてな~♪」


「これ…一生暮らせるくらいなんじゃ…!」


「ま~何か発明したらすぐ消えるかもしれんがなっはははっ♪」


 アビヒコのおとうさまはいつも何やら珍妙なモノを生み出しているとは聞き及んでいます…。

 何でもそろう、ないモノは新たに造ってそろえちゃう万事屋ルースと…。


 ミチヒメ達の纏う見慣れない色鮮やかな衣もルースさんが修復・復元された古に存在していた特殊なアットゥスカラペ(織り機)を用いたモノと聞いています…。

 太古の昔に喪われた様々なカムイホッパイコロ(神威之遺産)を復元したり刻にはなんと改良したりして様々な暮らしに役立つものを創りだして皆に貢献されているとのことです…!


「ま~私…たちは緋徒が…ウタラが…好きなのでね♪な?」


「そう!頑張って生きてる緋徒やウタラはステキよね♪」


(…なんでしょう…?ものすごく広い…全世界中の…そう含まれて言っている気がします…?)


 ヤチホコはそう感じて咄嗟に口をついて言葉が出てしまった。


「…オロチ族も…ですか…?」


 それを聞いて一同一瞬固まるも、ルースはすぐさま言葉を続けた。


「…ああ。そうだよ…。

 …何モノかに(すが)り、頼り、惑わされる…それもまた愛すべきモノ…。その一面的には愚かと取れるところも…自由なヲモヒ…イレンカある故の結果さ。だからこそ…変わる事も…出来る…!そして…過ちを犯す危険あれど心の自由なくばシ=パセ=ア(大いな)ンペ=ソネプ(る真理)へ到る事は叶わない…。何度過ちを繰り返せども…少しずつであろうとも…自由なるイレンカの元による決断の故の行動ならば…輪を超えて緩やかに螺旋を描き上っていく…。すべての事象に意味がある…他者のイノトゥを奪いし事でさえ…因果によって遥かな先へと知らずのうちに導かれ紡がれていく…。」


 いきなり豹変したかのごとく達観した言葉を述べたルースに対して呆気にとられていたが、熟考の末ミチヒメは言った。


「…わたし…オロチ達…ミカヅチ…やっぱり許せないです…!」


「今はそれでいいのさ。そのヲモヒも大切。それも自由なイレンカなしには感じる事さえできない事だからね…」


 ルースは優しく静かに応えた。


下伽耶(アラカヤ)を…わたしのコタンを滅ぼして皆を奪った彼らはとても憎い…でも…確かに…憎んでも…イェイモンタサ(仇討ち)しても…皆が還ってくる訳じゃない…それも…わかってはいるの…」


「そうだろうね…。いつかその様に真にヲモヒ廻らせることが出来たら…ミチヒメ…君のラム()も解放されるだろう…」


「はい…ありがとうルースさん」


「きっと今は皆ヤオヨロズとなり陰ながら我々の暮らしを支えてくれているだろうからね…」


 ルースにそう言われゆっくりと目を閉じる。しばらくしてから目を開けて笑みを浮かべながらミチヒメは言った。


「そう…きっとそうだよね…!…みんな!いつもありがとう!」


 迷いない大きな声でそう言うミチヒメは…何かの(わだかま)りを振り切れたように見えた。

 すると周りの木々や椅子が揺れ動き、ミチヒメに応えたかのように観じられた。

 イノトゥ終わりし後、すべての存在は精霊となりて世界の全ての事象の構成に助力することになる。それを彼らは「ヤオヨロズ(精霊神)」と呼んでいる。この状態での奉仕を終えると本格的にこの世を去り幽世(かくりよ)に逝くらしい。そしてまた(めぐ)り生まれてくる…。幾度となく繰り返され行われる営み。

 そう…この世界はそう言った我々の認識では通常観えざるモノの力、作用が働いている。

 地、水、火、風、空の五大元素のラムハプル=モシリ=(自然の)コロ=クル(盟主)、カムイを筆頭に大小さまざまんな精霊…ヤオヨロズは関与している。生を受けヤオヨロズとなり天へ還りまた生まれ来る…これを常なるこの世の理と皆認識しているのである。

 連綿と永続的に太古より続いてきたと…そう伝えられてきていた…。


「…輪を…超えしモノとならんやいなや…」


 突然ルースがその様に言葉をこぼすと驚いてアビヒコは尋ねた。


「…と、とうさん…?」


「うん?なんか言ったっけか今…?」


「…いや…なんでもないよ…」


「よし!さぁこれでいいだろう。ある程度装備を整えておけば万一何かあっても損失は少ないからな♪」


 一行は今晩はここ万事屋(よろずや)露丝(ルース)に泊めてもらい明日出発する様である。


(しかし…ミチヒメだけでなく…アビヒコもすごいですね…!あんなことを乗り越えてきているなんて…)


 アマソトキ(寝床)についてその様に考えていると不意に声なき声が聞こえてきた。


(…そなたが乗り越えるべき過去と…試練はその比ではないぞ…)


「…どなたです!」


 返事はなかった…。幻聴?いや確かにヲモヒこもった言葉であった…。


(僕の…過去…?割と平凡に育った気がしますが…そして…試練…?)


 さっぱりわからなかったが…幸せそうに横で寝息を立てているスセリを見て…わからないことを考えるのはやめて休む事にした…。


(輪を超えし…。廻るイノトゥの…輪の事…かな…?)


 窓の外の瞬く星々を眺めながらアビヒコがヲモヒ巡らせていると横から優しく良い香りが漂ってきた。


「…何を考えてたのかな…?…わたしのコトかな~♪」


 少し冗談めいて聞いてきたのはミチヒメだった。


「え!?い、今は…ちがうよ…!」


「あら?そうなの?…ふふっじゃぁなぁに?」


 興味深そうな表情で身体をまげて下から見つめられた。

 思わず頬が熱を帯びるのを感じる。


(…誰でもなるって…ミチヒメにこんな顔で見つめられたらさ…!)


 アビヒコはそう思いながら目のやり場に困る無防備な胸元をなるべく見ないようにしながら答えた。


「さ、さっきのとうさんの口から出た言葉…廻る輪を超えるって…どんなことなのかな…って」


「あ!さっきのね!お父さま覚えていないみたいだったね」


「うん…。たまにああいうカンジでとうさんらしからぬことを言うんだよね…。そしてそのどれもが…真理の核心をついている…そういうカンジがすごくするんだ…!」


「確かにそ~ね~。この”輪”が…自然の摂理ではなく…誰かによるものだとしたら…さっきの言葉もすごく納得できるよね…」


「っ!誰かによるモノ…!」


「ま~それこそ…万物の創造主たるカミサマかもだけどね♪」


 そう言うとくるりと背を向けて柔らかそうなアマソトキに飛び込んだ。


「さ~!ねよねよ~明日は本番だよ~♪」


「あ、う、うん! あ、でも…一緒には…」


「もぅ~なぁに言ってるのよ♪いつものとおりお姉さんが優しくしてあ・げ・る♡」


 こちらのイレンカは知っているはずなのに…。

 小さく幼い自分は残念ながらまだそういう舞台にすら立てていないのだなと悟り…諦めて同衾(どうきん)できる幸せを享受(きょうじゅ)することにした…。


(…ぼくもうれしいけど…少し…恥ずかしくなってきてもいるんだけどなぁ…)


「う…ん…ほら首ださないようにね♪」


(!!こっちむいたら…はだけてるよミチヒメ…!…寝れなくなるから目を瞑らないと…!)


 それぞれの夜がゆっくりと更けていった…。


次はいよいよ北の高句麗へ…!

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