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第12倭 パセ=コル=モシリのオロチ族

起きて向かうは…

 いつもより少し遅めの目覚めの後、クンナノイペ(朝食)を摂りながら今後の事を話していた。

 この島…のモシリ(クニ)たちを自在に行き来する為には大国・漢(ポロ=モシリ)の許可証が必要らしくこの地の統括を任されている楽浪郡(ローランジュン)にて手続きをするらしい。

 その後近隣にある都市にて準備を整えて向かうようである。

 昨日のミチヒメの話より、ミカヅチはどうやら北の強国、パセ=コル=モシリ(高句麗)に住まうオロチ族と手を組んでいるようである。


 そこまで聞いた時にミチヒメが強く反応した。


パセ=コル=モシリ(高句麗)に住まう部族…オロチ! それはあの刻わたし達のお義母さまたちのモシリを襲い…滅ぼした…あの…! しかしなんで今…?」


「…いかにも(くだん)のオロチである…。奴等は再びその獰猛さを振るい数多のモシリを蹂躙して回っていると聞き及んでいる…」


 二人とも事実は認識しているが腑に落ちない様子である…。

 何らかの疑問を感じているようで、今回各地を襲撃していることが想定外らしい…。


「詳しい事情はよく知りませんが…生きる為、を超えている気はします…」


 ヤチホコは二人に対しその様に言った。


「足るを…知らしめたはずであったが…」


 ウガヤはそう言いながら思案していた。


「…前はね…遥か西に住まうカムイ…ラーヴァナ達を後ろ盾にしていたんだよね…。でも…彼らは…彼らの首謀者も含めてみんな…わたしとラーマさま達とで降伏、納得させてきたはずなの!」


 ミチヒメは以前の旅による結果からあり得ないと思っているようである。


「…別なるモノがオロチを…操っているやもしれぬ…!」


「たしかにオロチたちにとって掲げる象徴なんてなんでもいいわよね! みんなでまとまって戦う理由にさえなればいいのだから」


 ミチヒメも納得行った様にそう応えた。

 しかし一つ不思議なのは下伽耶(アラカヤ)の刻と違い、戦わぬモノ、降伏するモノは生きて捕虜となっている所だろう。今までのオロチからはそれはありえない事であったが…?

 そもそも彼らオロチ族は何故ほかのモシリに攻め入るのだろうか…?

 冷涼な気候でいて痩せた土地の為か?自分たちの価値観や領土拡大か…?

 理由はわからないけどその振る舞いには賛同しがたい。


(お父さまの…スサの一族が…この地の暮らしも改善してきたと聞いたはずですが…?)


 ヤチホコは以前聞いた話と照らし合わせ疑問がさらに深まるばかりではあった。

 確実に解るのは…今あのミカヅチ率いるオロチのしている事は…良くない!


「そうです! 僕らでミカヅチたちに何故するのか理由を聞きに行ってみましょう♪」


 ヤチホコのその発言に少し意表を突かれた表情をしてウガヤは応えた。


「…成る程…戦いにではなく…聞きに…か…! ふむ…その様な考えはなかったであるな…。…うむ! ヤチホコ、スセリ…(あらた)めてそなた等のこの地においてすべてのモシリへ自在に行き交う為の許可の書状、取り付けに参ろう…!」


 ウガヤはそう話すとすっと立ち上がり、その場を去りヤレパチプ(万能大型船)の準備に取り掛かった。ヤチホコ等もクンナノイペ(朝食)を済ませシピネ(身支度)を整えて一行は上伽耶(ウガヤ)の北方にある楽浪郡(ローランジュン)の領主の元へ向かうことにした。


 かなりの距離ではあるがウガヤのトゥムのおかげか、思った以上に早く到着した。

 城壁に囲まれた都の中央部にウガヤの居城よりもさらに大きい建造物が(そび)え立つのが伺える。

 領主の居城であろうその巨大な建物に一行は向かっていく。

 長大な通路の奥、一際大きな広間に通され、その最奥(さいおう)最上段に座するモノより声をかけられた。


「よくぞ参られた、さ、こちらへ」


 座から立ち上がり料理の並ぶ円卓へ降りてきた。


「領主殿、お気遣い痛み入ります」


 深々と頭を下げウガヤはそう言った。


「なんの恐れ多い将軍殿! ささ、許可の証は出来ておる故、食しながら現状をお聞かせ願えまいか?」


「承知いたした。実は…」


 ウガヤは近況を領主へ伝えた。ミカヅチがまたしてもオロチ族を扇動して各モシリを攻めていると。


「…一度撤退した奴らがまたしても…であるか。」


 ウガヤは軽く頷いて続けた。


「不思議なのは先の様に無差別な殺戮は行っていないと言う事。」


「前回…オロチ族のあがめるモノ…ラーヴァナ達はわたしたちが正気に戻して改心させたはず! だから、今はまた違うモノが…ミカヅチと共にオロチ族を操っているんじゃないかなって思っています」


 ウガヤの弁に頷きながらミチヒメもそう続けて述べた。


「いずれにせよ彼奴等のモシリへ行くのならば相応の装備を手配してしかるべき。…露丝(ルース)へ向かい整えて行くが良いかと思われまする」


 領主崔理(チェリ)はウガヤへその様に進言した。


「…やっぱり露丝(ルース)…行くんだね…」


 アビヒコは気まずそうに言うと…


「なぁに~? 久々のおうち嬉しくないの?」


「うん…父さんも母さんもあの刻の事悔やんでいてちょっと気まずいというか…」


「それだったらなおさら…もう平気だよ! を見せてあげないと♪」


「…そっか…そうだね! よし! 案内するよ。自由都市露丝(ルース)は…ぼくの故郷で…これから向かうのがぼくの家…万事屋ルースさ…!」


「あ、アビヒコの生家ってそこだったんですね!」


「うん、そう。露丝で育ち、一年前に…ちょうど父さんも母さんも手が離せなくて暴走した刻にミチヒメと出会って助けてもらったんだ…!」


「いや~あの刻は大変だったよね…! でも、あれから自分で制御できるようになったもんね♪」


「トゥムの制御をウガヤさまに、ヌプルの制御をミチヒメのお供たちから教えてもらったからね」


「お供じゃなくて師匠だ!」


 小さな猫の様なモノがそう叫んでいた。


「わたしも二年前…同じように自分の力の事で困っていた…だからほっとけなかったんだよね!」


 まだごにょごにょ文句を言っている子猫? をそっと抱きかかえながらミチヒメはそう言った。


「二年前…ですか?」


「…うん…。下伽耶(アラカヤ)が襲撃された刻…わたし…何も出来なかったの…。

 相手もわたしと同じく…トゥムを振るいし…モノ達…だったのに…。わたし…わたしは自分ひとりじゃ…!」


 いつもと違い悲しみと無念を表情に出してミチヒメは静かにそう言った。


「…道日女(ミチヒメ)…」


「…で、あるが…」


「そのおかげで旅に出られたあなたに逢えて…」


 憂いの面持ちのミチヒメの周りに顕れた残りの精霊たちも口々にそう伝え、抱えられたまま子猫の様なそれ…ビャッコも続けて言った。


「んで、今こーしていられるんだトラ!」


 ミチヒメは先の旅路を振り返る…。

 悲しくつらい出来事が起こったことは消せない…。

 災厄後は己が生まれてきたことさえ許せなかった。

 力を持っていたのに誰一人救えなかった自分を呪いもした。

 絶望と自己嫌悪から這い上がり苦しみを乗り越えて歩んできた…。

 なにがあろうと前を向いて歩み今よりもっと自分を好きになってみせると誓った事を思い出していた…。

 ひとしきり考えをめぐらせた後…力強く笑みを浮かべ精霊たちをそっと抱きしめ…


「これからも…よろしくね♪ アビヒコも…ね♪」


 優しく見つめながら精霊たちにそう言った後、少しだけいたずらっぽく目配せしながらアビヒコにもそう言った。


「う、うん! まかせて!!」


 絶望の最中独り取り残されたミチヒメの悲しみの深さははかり知れない…。

 それでも一緒にいる中でその深い悲しみの傷を埋めていく事は出来る…と…。

 そのイレンカ(ヲモヒ)を込めて頬を真紅に紅潮させながらもアビヒコは力強く応えた。


(…ミチヒメ…故郷でそんなことがあったのですね…。ラーマさま…に同行した旅…と言うか大冒険…!僕たちと少ししか年は変わらないはずなのにこの途方もない差はその為だったのですね…!)


「…どーりでボクたちよりはるか先を行っているわけだね…!」


 ヤチホコとスセリは各々その様に反応を示していた。


アビヒコの生家にて準備するようですね…!


高句麗、楽浪郡と言った場所を舞台にするにあたり、

再度半島の歴史をおさらいしていたらここまで時間がかかってしまいました(^^;

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