第107倭 試練を超えしパンカリンパニ
しばらく錬を続けていた頃…
それからその様な日々を幾十度か繰り返し行いし頃、大日霊女からの声が届いた…。
(…ノカントゥスクルさん…二人の状態…いかがでしょうか…?)
「パセトゥスクルさま…! はい! 二人共すでに八卦すべての技遣える状態となっています。私と違い…発動した八卦の中ならどこにいてもチカラを行使出来ています!」
(…さすがですね…わたくし達の錬を易々と超えていきますね…)
「…思えばウガヤさまや…ゼストさんも八卦によってチカラを得られたのではないでしょうか?」
少し憂いを秘めた口調で大日霊女ことムカツヒメは応える。
(…あの二人には残念ながら不可能なのです…。ウガヤはそもそもシンノ=レンカイネが無く…ゼストさんは…純陀の造りしボーディ=サットヴァ=マニィでは…八卦によりモシリに遍くチカラを忖度なく透徹しましたら…その流れの強さで砕けてしまうでしょう…。彼らは…あの過酷な試練に挑むしかないのです…。それゆえにカンナさん…あなたのチカラも必要となりましょう…)
「…私もふたり相手に錬を重ねましたが…太極円を離れての行使は殆ど出来ていません…!」
(…そうですか…。行使可能な回数はいかがでしょうか…?)
「…なんとか拾陸まで…各弐回までは増やせました…!」
(…上出来です…! 錬の刻を鑑みればわたくしより錬り上がっています…自信を持たれて下さい…!)
「…そうなのですね…! ありがとうございます! あの二人を前にすると…自分の無力さを痛感するばかりでしたから…ありがたいです!」
(…あの二人は…刻に選ばれしモノ…いずれ並ぶモノ無い状態へと成り得る存在です…。そんなふたり相手に錬出来る事自体すごい事なのです…自分をもっと評価してあげて下さい…)
「ありがとうございます…! そうします!」
(…ケゥエも落ち着きましたので…そちらのシンナ・モシリへ参りましょう…)
「はい…! 二人に伝えておきます…!」
そう心の中で応えるとカンナは二人の元へと戻っていった。
「あ、おかあさまが…?」
「パセトゥスクルさまがくるってことは…この錬も仕上げに近いって言うことかな~♪」
「そう思います! 私も最後パセトゥスクルさま相手にコラㇺ・ヌカㇻしましたから!」
そう話していると上空に突如穴が開きムカツヒメが出て来た。さも石段の上でも歩いているかの如くゆっくりと歩いて降りてくる。その腕には赤子を抱いている様に観えた…。
「…ノカントゥスクル…いえ…カンナさん…二人をよくここまで導いて下さりましたね、お礼申し上げます…おかげでこの子も落ち着きました…」
「それはとても良きです! 大変でしたからね…」
ムカツヒメの感謝の言の葉に対しカンナそのように応えた。
「お久しぶりですおかあさま…! その子は…?」
「ヤチホコや…また一つ生長し素敵になりましたね…この子は…あなたの年の離れたアㇰとなります…」
「そうなのですね! どれどれ…う~ん…僕やスセリちゃんよりは…ミチヒメの方に少し似ていますかねぇ…?」
そのヤチホコの言の葉に反応してミチヒメも覗き込む。
「そ~なの? お久しぶりですパセトゥスクルさま! シホンみせて下さいね♪ あれ? この子…どこかで観たよ~なカンジ…?」
「同じケㇺリㇳに連なりしモノは…多少離れた形質が出る事もあると聞いております…そう言う事なのでしょう…」
「なるほどですね! そう言うモノでしたか…♪ あ、そう言えばさっきカンナさんをノカントゥスクルと呼ばれていましたが…?」
「…わたくしがこの子の為動けない間…トゥスクル=モシリの祭祀を新たなトゥスクルとして任命してお任せしていたのです…。その為のレです」
「あ、ノカントゥスクル…稚…日霊女と言う事ですね!」
「よくわかりましたねヤチホコや、その通りです。彼のモシリでニン・ルガルをしていた彼女は適任でよく務めて下さりました」
「…とんでもなきです! 私の方こそ何から何まで感謝しかありません!」
「そう言って頂けるとこちらもラムが軽くなります…。さあ…それでは最後の試練を施しましょう…カンナさん…あなたにも…です…!」
「…はい…!」
「僕うまくできますかね~?」
少し自信なさげにヤチホコが応えると
「ま~アレだけしたから…きっと大丈夫よ♪」
日々を振り返り自信をもってミチヒメが応える。
「…二人共…八卦のチカラ…すべてを同時に発動させてみましたか?」
少し慎重な面持ちでムカツヒメは二人に尋ねた。
「あ、それはまだしていませんね…」
「そ~ね~。わたしたちはまだ試したコトないです…」
「…八卦全方位を同時に宿す…それは一時的にですが…モシリの理と同化するという事です…すなわち…理を手にし刻…はからずも己がラマトゥがこれまでに歩みしクスルが観える…観えてしまう場合があるという事です…」
穏やかにしかしきちんと言の葉を届ける様にムカツヒメは言った。
「…と言う事は…ヤィコ・トゥィマの自分や…コヤイラムしている過去なんかも観える…そう言うことでしょうか?」
ゆっくり頷いてムカツヒメは応える。
「ヤチホコや…まさにその通りです…! ですので…当初は禁じておりました…ですが、あなた達は彼の道化師ジェスターに観せられしモノも乗り越えてきました…! 必ずや八卦の際に観えしモノも…乗り越えられると信じております…! そしてノカントゥスクル…いえカンナさん…薄々察しているかもしれませんが…貴女は過去を…過去の自身と直に対峙する事になるでしょう。それはともすれば過去の己に呑み込まれてしまう危うさもはらんでおります…。三人とも…それでも最後の…この試練、受けられますか…?」
「おかあさま…もちろんです…! 僕がヤィコ・トゥィマどうであったか…そしてコヤイラムしている過去で何があったか…何があったとしても…きっと迷わず歩んでみせます…!」
「…過去…! みんなは許してくれた…でも…わたしはまだ完全に受け入れ切れていない…! でも…だからこそ…やります!」
「私も…あのモノには負けません…! させて頂きます…!」
ムカツヒメは三人の言の葉を聞き暫し目を閉じて沈黙していたが…ゆっくりと目を開け、決意の表情と共に応える。
「…よろしいでしょう…。それでは…カンナさん…貴女から始めましょう…! 八卦発動した上で…すべての方位を同時に発動させてみて下さい…! 決して…負けない様…乗り超えられて下さい…!」
「…はい…! いきます! チ=オカイ…八卦発動!」
カンナは手際よく八卦を発動させた。
「それでは…そのまま乾から順にすべてのチカラを発してみて下さい…!」
「はい! 乾! 兌! 離! 震!」
「は、はんぶんでも…モノすっごいチカラ…!」
「反転し次陰の方位!」
「…巽! 坎! 艮! …あぅっ…!」
艮を発動させた処でカンナはよろめいて呻き声をあげた…!
「…ラムをしっかり保って下さい! 内なる陰に負けぬ様に!」
観るとカンナの半身が黒くなりかけている…!
「あ! カンナさん! のまれないで! 負けないで下さい!」
「ゼストさんのチカラに…ウォラムコテな緋徒と一緒に歩んでいくためにここまで頑張ったんでしょ? ゼッタイ負けちゃダメよ!」
「…ヤチホコさん…ミチヒメさん…ゼストさん…ゼストさん…ゼストさんの…為の…チカラ…!」
カンナの黒く染まった反対側の半身が輝きだして侵食を阻んだ!
「…いきます! 坤! 全八卦発動!」
太極より光が輝く柱となりて吹き上がる! そして凄まじい勢いで回転し始めた…!
「次元反転…! 刻が…戻り始めました…!」
ムカツヒメはいつになく険しい表情でそしてとても心配そうにそう伝えた。
「…もう…祈るしかありません…! オホㇿ・オカ! オピッタ=レンカ=ソンノ=エ=アスカィ(永久に健やかに諸々の願い叶え給え)…!」
ムカツヒメが目を閉じそう神呪を唱えると…身体から優しい光が溢れ出しカンナの発動させた八卦図を…太極を包み込んだ。その光を受けながらも太極に吹き上がる光の柱は白黒入り混じりながら激しく回転していて、中にいるであろうカンナはまったく観えなかった。
「…乗り超えられないと…どうなるのでしょうか…?」
ヤチホコは耐え切れずにムカツヒメへ尋ねた。
「…己が過去に過ち犯し刻のイレンカとなり…ヤィコ・トゥィマの業を繰り返すこととなるでしょう…」
「お、おかあさま…それでは僕の場合…モシリを…ウェンルイ=モシリ=ヤㇲケ=シルトゥの如く…滅してしまう…そう言う事になってしまうのでしょうか…!」
「わたくしのア=オマプなヤチホコや…今のあなたは…その健やかなるイレンカ喪わない限り決してその様な振る舞いはしないと…わたくしはそう確信しております…! 己への…己が内なるシンノ=レンカイネより湧き出ずる無限の可能性への絶対的信頼こそが…覚悟へ至るクスルとなりましょう…!」
「悟りを覚する…クスル…! …。…。…! わかりました…!」
「…じぶんをゼッタイ的に信じる…かぁ…。たぁ~しかに、ソレが出来ないと…わたしの中に眠るチカラも…今のよ~には遣えないわよね…! うん…! 今まで頑張ってきたわたし自身のコト…褒めてあげて信じてあげる…!」
「そうですよね! 僕たちも色々と…頑張りましたよね…今までの自分を…迷わず信じます!」
「そのイレンカ…決して喪わず保ち切って下さいね…!」
「は、はい!」
二人ともそう返事をして八卦図に向き直りカンナの行く末を見守った…。
「きっと…闘っているんだよね…」
「そう思います…。自分の中の…自分でも見たくない様な処…そう言うモノと…!」
「うん…。…。…。それも…自分…そう認められたらきっと…!」
「はい…! その刻こそ…乗り超えられる…そう思います…!」
ヤチホコ達はそう話し合い再度八卦図を見つめた。光の柱は先程と変わらず白黒入り混じりながら激しく明滅を繰り返し回転している。
「…まだ陰と陽が分かれたままの様ですね…」
「あの色が変わったりするのかな…?」
柱を見つめそれぞれに応えると
「…乗り超えし刻…二つは溶け合い一つの輝きにとなります…!」
ムカツヒメはそのように応えた。
「…じゃぁ今はまだ闘っている最中ってことね…!」
「その通りでございます…! ミチヒメさん…。あなたは…あなたのままでとてもすてきな存在です…。どうかその素晴らしき自分を…貫き徹して下さいね…!」
何らかのヲモヒを籠めてムカツヒメはミチヒメに応えた。
「…はい! もっちろんで~す♪」
そう応えるミチヒメを観てムカツヒメは優しく微笑んだ。
(…守る…エムス…成る…大切な…ウォラムコテ緋徒…の為に…!)
(奪い…屠り…斬り裂き…絶つ…! その為に生まれし存在こそが…妾なり…!)
(…違い…ます…! 守る為にこそ…コィキする…です…!)
(…守るべきモノをも…斬り裂きは…誰ぞ…?)
(…そう…です…! ヤィコ・トゥィマで…私がした事…消えない…消せないウェンプリです…! でも…だから…こそ…! 生きて…コィキし…守り…償うのです…!)
(…それで許されると…思うかえ…?)
(…わかりません…。でも…それでも…そうやって前を観て歩む以外…クスルはないと思います…! 許されるから…でも、懺悔…でも…ありません! 私が…今の私はそうしたい…だから行うのです…! 不殺を貫いた上で…緋徒を…ウタラを…守る…と!)
(…誰も褒めても…認めてもくれまいて? 妾たちの正体知りし刻には…!)
(…良きです…! 誰かにでも…償いでも…カムイの思し召しでもなき…ただ私から沸き上がるイレンカにて行うのみです…!)
(…なれば見事チ=コトゥイエするさまを観せてたもれ! そなたのそのイレンカ…コスムナタラするまで…静かに観むとせんじようぞ…)
「…あ! 色が…! 変わっていきます!」
「ホント! クンネが…アラフレに変わり…レタㇻと混ざり合っていく…! ピリカなパンカリンパニ…♪」
「本当ですね…とってもピリカな…カリンパニ※よりも淡い…ハプルな色ですね…♪」
我々で言う処の桜色…ソメイヨシノの花弁の色となり、渦巻く権能がゆっくりと止まっていく…。
「あ! カ、カンナさん! 髪の色が…!」
「わぁ~ピリカね~♪ 淡いカンジがカンナさんにピッタリね♪」
観ると優しく吹き上がる光の柱の色と同様の髪を携えたカンナが立っていた。
「…みなさん…ご心配かけましたが…大丈夫です…!」
そう応えたカンナからは…今までと違う何らかの力強さを観じた…。
カンナさん、乗り超えましたね♪
用語説明ですm(__)m
※桜について:我々のこの時代も桜と言えば山桜で、
淡い色のソメイヨシノ(現在の所謂桜)はまだ存在していませんでした。
・ノカントゥスクル:小さい、子供+巫女→「稚日霊女」としました。
・オホㇿ・オカ! オピッタ=レンカ=ソンノ=エ=アスカィ:ミケヒコの試練の最中スサノヲが発した神呪です。実は祈願の際の本物の呪文です(^-^;
・ウェンルイ=モシリ=ヤㇲケ=シルトゥ:既出。70倭辺りを参照下さい。
・パンカリンパニ:薄い、淡い+山桜 より。




