第11倭 上伽耶へ
海を渡り半島に入り北上していく…。
ミチヒメ達のヤレパチプに並走してロクンテゥを走らせる。
海を越え陸に乗り上げ、長閑な風景の中しばらく走り行くと何やら一つ長大な壁に囲まれたチャシいや…もっと巨大な城の様なモノが見えてきた。
「…久々に来ましたけど、変わらずいい所ですね~♪」
ヤチホコは吹き抜ける風の心地良さを感じ、景色を眺めながらそう言った。
「うん…ここは…アチャポ…ウガヤさまが守ってくださっているから…ね…」
頷きながらミチヒメは答えた。
開門してもらい領地の中へ入っていくと…アビヒコは本殿ではないあらぬ方向を指さしながら…
「あっちでウガヤさまが待っているから早く行こう」
そういうアビヒコに案内されて一行はウガヤの居城に入っていく。
先程より…正確には陸に上がり少し荒野を走り抜けたあたりからミチヒメは何やら元気なさそうにしていた。
(…あの…荒野になっていたさらに向こう側の方に…下伽耶が…ヲモヒ…かえしていたのでしょうか…?そしてその原因こそ…)
ヤチホコはらしからぬ静けさを醸し出しているミチヒメのうしろからそっと肩をたたいて話しかけた。
「もしかして…さっきの…ミカヅチたちが…?」
「…うん。アイツらが…わたしの故郷…下伽耶を滅ぼしたの…。だから…絶対に許さない! でも…わたし…わたしたち…その…親玉を…倒してきたはずなのに…?」
(確かにあの刻契約を交わしたはず…他のクニへの侵略はもうしない…と…)
ミチヒメの話では…再びミカヅチはパセ=コル=モシリに住まうオロチ族の軍と結託して侵略しまわっているらしい。
なんでも聖なる戦だと吹聴しながらだと聞く。
「…クニグニのウタラをロンヌしていて…ペケレ…ですって…そんなわけない!!!」
「…ミ、ミチヒメ…!」
「…ご、ごめんねヤチホコくん…でも…まだどうしてもどこかでホンネレできないの…! ましてや…あんな風に再びシカイェカイェしていたらなおさら…!」
ヤチホコはもっともな意見だと思い頷いて聞きながら思案していた。
(他のモノを傷つけたりして…ペケレ…ロルンぺ…として成り立つモノなのでしょうか…?)
思案しながらついていくとそこは鍛錬場であった…。
小さな小屋のようなチセ もある…。
(…ウガヤ兄はどこであってもウガヤ兄な様でですね…♪)
ウタラを守る為…武の道を極める為…それ以外事はとんと無頓着なイランマカ=ラメトコ=アイヌである。
功績に見合う住まいを賜れどもっぱらこの鍛錬場にいるらしい。
それどころか困ったウタラを居城にかくまったり住まわせたりしていると聞く。
「…久しいな! 元気そうであるが…何かあったようであるな…?」
こちらを見据え穏やかな口調でそう話しかけてきた。
「…実は…ミカヅチが…ヤチホコくんたちロクンテゥを襲っていて…! でも助けが来て…逃げられちゃったの…」
無念のイレンカありありな状態でミチヒメはそう伝えた。
ウガヤは少しだけ表情を変えたが…ミチヒメの方を向いて優しく伝えた。
「…良くぞ守ってくれたな!」
そういってかがんでミチヒメの頭を撫でた。
ミチヒメは少しだけ頬を赤らめ照れくさそうに、でも嬉しそうにしていた。
(…ウガヤ兄の前では単なるマッネポのようですね♪)
「…明日…領主殿から彼のモノ等に対し話があるとの事。ヤチホコ達も来ると良い。もちろんミチヒメ達は当然出頭する.…今日はゆっくり休むと良い…。ここは我には不釣り合いだが客人を迎え入れるには都合がいい。」
「た、確かにお城と見紛うほどです! ナ・ラにはこんな…チャシどころではない巨大な建物はありませんからね…♪」
謁見用の大広間にて接待を受けるも、ヤチホコ達にはすべてが初めてのモノばかりであり、驚いたり喜んだりしながら堪能していた。
その様子をウガヤもミチヒメも嬉しそうに眺めていた。
「わぁーっ! すっごい広い! こんなところでオススしていいの?」
その広さに驚きながらスセリはそう言った。
ミチヒメはにこやかに応える。
「もちのろん♪ さぁヤイフラィエしてトゥルサクにしてセセキワッカに入りましょ♪」
「うん♪」
その後も嬉しそうにはしゃぎながら話す声が聞こえてきていた…。
「…あちらはとてもウコンヌペッネにカチリケていますね…いいですね…♪」
その声を聴いてヤチホコは…壁のあちらこちらを見やっている…。
「…どこ探してもあちらの方をヘヘウパなんてできないからね…」
呆れたようにアビヒコはそう言った。
「…ヲノコも年ゆけばメノコのアトゥスパに興味ありて当然であるな…」
ウガヤは穏やかにそう言った。
「ですよねですよねウガヤ兄♪ どこからか見えるところありませんかね…?」
「…壁に穴はないが…入りたければあちらに一緒に行って来れば良いであろう?」
「あ♪ そう言われてみればそうでしたよね♪ …ではさっそく…♪」
そそくさと上がって隣の間へ移動すると…誰かがいる気配が。
「こんばんは~こっちにも入らせて下さ…あ、あれ?」
「あら? ヤチホコくん、こっちのセセキワッカにも入るの?」
そういう声の主は…すでに湯上りに着る汗を良く吸う衣を羽織っていた…。
(…トゥルサクも…速いのですね…)
「はっはぁ~ん♪ お年頃になってきたのねヤチホコくんも♪ また今度ね♪」
そう言って声の主…ミチヒメは軽く目配せしながら額に唇を軽く押し当てた。
(わ!わっ♪ 胸元がゆるいから…♡)
「くぉらヤチ! どこ見てんの! このエパタイ~!」
衣の隙間より覗くなだらかで慎ましやかな双丘に目を奪われ呆けている間にスセリからキツイ一撃が…。
「…そんなに見たいなら…ボクだって…」
「ふふっ♪ そ~よね~スセリちゃん♪ もう~イイヨマプカなんだから♡」
「ミ、ミチヒメちゃんったら~! ど、どうやら聞こえてないみたい…ほっ…」
安堵の域を突き胸をなでおろし、ミチヒメにそう言いながら横目にアムソを見やると…無様に伸びている一人のヲノコが…。
「…ありゃりゃ…スセリちゃん一人で運べる~?」
そこに一人またヲノコが。
「…あぁ、やっぱり…。スセリちゃん…ぼくが運ぶよ…よっと!」
そう言うとアビヒコはウェントゥムを噴き上げて変貌するとアムソに横たわるヤチホコを片手で担ぎ上げて歩いて行った。
「…あの刻は…チカラかなりあるんだね!」
「そぉよ~♪ アレをした時のアビヒコはけっこう頼れると思うよ♪」
「ホントだね♪」
聞こえてくる二人の声にまんざらでもない気分でアビヒコは運んでいった。
「ありがと! じゃぁ…おやすみ!」
「うん、このくらいはね…おやすみ…」
そう言ってアビヒコもミチヒメの待つトゥムプ へ戻っていった。
「…ぼく…今日ちゃんとできてたかな…?」
「うん…とても…ね♪ さぁ寝ましょ♪」
「うん…♪」
そう言うとミチヒメに抱かれてアビヒコは眠りについた。
明日は領主に会いに行く日…しかし今日は色々ありすぎたせいか…
四人とも緊張どころではなく泥のように深く眠りについた。
明日は領主の謁見です。