第99倭 カンナのクスル
瞬時に旅する門より跳んで向かいます
「こ、こんなこと出来るですねー! すごいですー!」
「一度ウパスクマ=エ=テメン=アンキ…塔と呼ばれる処へ足を運び入れたモノは使えるようになるらしいです♪」
「…塔! そこにも行ってみたいですー!」
「あ、思えば僕らと一緒でしたらすぐに入れますが…それで使えるようになるのでしょうかね?」
「…そーだと思うわ。ミチヒメやアビヒコを観るにつけ、五つの属性のトゥムで開門して中に入ったら全員出来るよーになると思うわ!」
「あれってちゃんとラムハプル=モシリ=コロ=クルと契約したモノのトゥムじゃないとだめだったよね? となると…」
「今この中でだとアぺとレラが足りないわ」
「そーですか…僕とカンナさんが出来たら入れたですね…」
「その辺も含めてムカツヒメさまに聞いてみましょ!」
「そうですね! ムカツヒメさま…おかあさまなら色々とご存じかもしれないですからね!」
「ムカツヒメさまはヤチホコさんのお母さんなのですね!」
「あ、はい! 僕とスセリちゃんと…ウガヤ兄とタギリ姉のおかあさまです♪」
「アタシ達やオオ兄様、アマムお兄ちゃんの母様がイヅモにいたクシナダよ」
「あ、そ~言えばアチャポもアビヒコとおんなじよ~に属性を他のモノのチカラで身に着けてたよね♪」
「ウガヤさん…?」
「わたし達のモシリのルーガルでもあってポロ=モシリの将軍でもあるんですよ♪ ケゥエとトゥムは…ゼストさんよりもさらに大きいかも!」
「その方もぜひ会いたいですねー! 今はどちらに?」
「今は遥かエチュㇷ゚ポㇰの果て…インペリウム=ローマで修行中よ。そこから遥かエマカㇲのモシリへとおもむいてヌプルなきモノがカムイとなる方法へ挑戦するらしいわ!」
「そんなことも出来るですかー!」
ゼストは驚いて尋ね返した。
「トゥムもヌプルもある緋徒ならフツーにアリキキノで努力したらカムイになれるわ…! でも、ヌプルなきモノ…つまりはシンノ=レンカイネがないモノは…それしか方法がないらしいわ!」
「…僕もヌプルは殆どないです…」
「ウガヤさまはまったくないんだ。だから必要な刻はぼくが付与していたんだ」
キクリに続きアビヒコもそう応えた。それを聞いてゼスト・リウスは出発の際のアマムの言の葉を思い出した…。
「ゼッポン。キミはヌプル=インカラだけでも出来る。外からラムハプル=ヌプルされればカムイエウンケゥエのチカラによりボクと同等になる。ヌプルのまったくないウガヤ王に比べれば簡単な事だ」
「そーなんですねー。そーでしたら…はやく身に着けてくるですー!」
(…ゼストさん…実は…ヌプル=インカラ…ワタシのチカラでございます…)
「…え? ソィヤさん…そーなんです…?」
(はい…さきの姿でラムハプルできるのはそれだけでしたので…観えませんと…万一ウェンイレンカ抱くエィキ・クルに出遭ってしまいましたら一方的になりますので…それを防ぐためにずっとお手伝いしていました…)
「ゼンゼン問題ないですー! 反対にウガヤさんにお逢いする理由が出来たですー!」
それを聞くとゼスト・リウスは落ち込むどころか先程以上の意欲を観せてにこやかに応え…どこまでも続く彼方の空を見据えた。
(…このモシリは果てしないですー♪ 楽しさとワクワクが止まりませんねー♪)
ヲモヒが顕れたのかゼストの顔には自然と笑みが浮かんていた。
「あ、その辺りも含めてムカツヒメさまに聞いてみると…良きです♪」
「ヤチホコさんたらっ…私の真似をして和ませようとして下さるなんて…とっても良きです♪」
カンナは嬉しそうな面持ちで優しくヤチホコを抱きすくめた。
「わ♪ カンナさん…とっても気持ちいいです…♪」
「今は完全にただのメノコですか…ら…!」
突如カンナは頭を抱え苦しみだした。
「…カ、カンナさん!? どうされました?」
「大丈夫ですかー!」
苦しむカンナに皆が駆け寄る。ヒメがそっとカンナに触れて観る。
「…。…。…! 混濁…! これは…ヤィコ=トゥィマの業が溢れ出してきて…呑み込まれ様としております…!」
「…僕がカンナさんのヤィコ=トゥィマに関係あると言っていました…さっき触れたのがキッカケとなってしまったのでしょうか…?」
「…う…くっ…タ…タアン=ラマトゥは…緋徒として…!」
うなされながらカンナがそう呟く。
「ナニカとせめぎ合っていると伺えます…カンナ殿へ…ヌプルを注ぎ…優位に立たせます…!」
そう言ってヒメは法衣を脱ぎ始めカンナと肌を合わせ念じ始めた。すると何かの影の様なものが観えたか思ったらすぐに消え、ゆっくりとカンナ=サㇻ=トゥィエムスは目を覚ました。
「…今の影…タㇺ…エムス…?」
ミチヒメは一瞬浮かんだ影を捉えてそう言った。
「…確かに…その影…レのとーりだわ…!」
キクリもそう応えた。
「カンナさんのレ…そんなイミでしたか…!」
ゼストは知らなかった様で驚いていた。
「…うん…み、みなさん…私は一体…?」
「…急にうなされて倒れたんだよ、大丈夫?」
アビヒコがそう話しかけた。
「そうでしたか…ご迷惑をおかけいたしました…」
「…ひとまず問題ないかと思われまするが…大丈夫でありましょうか?」
ヒメがそう話しかけて確認した。
「…ありがとうございます…! 私のトゥサレ…して下さったのですね!」
状況から悟りカンナはヒメに礼を述べた。
「…一部…エムス・ヤィカラを止めきれず申し訳ございませぬ…」
「…エムス…ヤィカラ…?」
特段変化を観じなかったカンナが不思議そうに自身をさすっていると…一部緋徒や一般民と思えぬ硬さを蝕知した。
「こ…この…アムニン…!」
衣をめくると…両前腕尺側…小指側が金属に置き換えられていた。
「…あのままでしたら…全身がエムスと化してしまいました故…半ば強制的にもう一方をポタラ致しました…」
「もう一方…あの刻顕れたあのモノ…あれは…もしかして…」
「左様でございます…。現状己がチカラを御せぬまま…アレにラム委ねれば…ヤィコ=トゥィマ同様の存在となり果てる事でしょう…」
「…それは…それだけは絶対避けないとダメです! その為にも…私が…全てにおいて強くなる必要があるという事ですね!」
「左様でございます…! ワラワは勿論…この先に御座すムカツヒメ殿もきっとご助力下さると存じます故…何卒精進されて下さりませ…」
「はい! 頑張ります!」
「落ち着いたよーだし、そろそろ…行く?」
キクリの言に一行は再度大日霊女たるムカツヒメ住まうヤ=マ=タイの神殿へと向かっていった。
「…よくぞ参られました…カンナさん…そしてゼストさん…わたくしがモシリ=イキリ=ナ・ラのパセ=トゥスクル…ムカツヒメです…。皆も…久方ぶりですね…逢うたびに見違える生長…素晴らしく思います…」
皆を前に開口一番ムカツヒメはそう言った。
「…まだ自己紹介していないですー?」
「…おそらく…私達がイヅモを出る前からご存じだった…そうではないかと思います…!」
「流石カンナさん…おっしゃる通りでございます…。もう少し言えば…彼のモシリにいらっしゃった刻より存じております…」
「あい変らず…アタシ達よりよっぽどカムイらしいわ…!」
キクリは感心を通り越して呆れる様に言った。
「…もちろんキクリ…あなた方が極めし刻は…すべてにおいてわたくしを超える存在となり得ます…」
「お久しぶりです! オオトシ兄からムカツヒメさまの処に寄って行った方が良いと聞いていましたので、直接クスターナではなくこちらへ足を運びました…!」
「オオトシもさすがですね…。先のカンナさんの状態や先々を見通したうえでのイタクだったのでしょう」
「…私にとってここでムカツヒメさまにお逢いする必要があった…そう言う事ですね…!」
「その通りでございます…。…わたくしも…今の貴女の様に…ウタラ同然なのですよカンナさん」
「え、ええ! 先の予見は類稀なるヌプルありませんと絶対に出来ないと思いますが…?」
「…おっしゃる通りでございます…。ですが、何も自身の内に莫大なチカラを宿していなくても良いのです…。モシリに遍くチカラを少し貸して頂けば十分なのです…」
「モシリに遍くチカラを…それはもしかしてシパセの…」
「ええ、その通りでございます。己がケゥエにモシリより賜りしカムイ=マェを徹す…カムイトゥス=マゥエでございます」
「カムイトゥス=マゥエ…確か聞く処によれば…そこに至るにはかなりの境涯に達する必要があるはずですが…?
「…誰しもが気付かぬ内に至っている刻もあるのです…。特に…トットとなりシオンを守りイレスする刻…知らずにその境涯の初歩に至っているのです…。他者のピリカを願い慈しむイレンカ…それこそが…すべての妙となるボーディチッタなのです」
「ボーディチッタ…。己の為ではなく…シオンにイレンカ抱くトット
の様に…」
「その通りでございます…そしてそれは彼のモシリにて貴女の行ってきた事でもあります…」
「あの刻の…みなさんへの…シオンへの…イレンカ…」
カンナは手を合わせ瞼を閉じて念じ始めた…。
(…ゼストさんの…チカラになって…守ってあげたいです…)
するとカンナは、ナニカが一瞬…それもごく僅かであるが…自分へ集まろうとした気配を観じた。
「…! 今のは…!」
「…やはりラムの素養はおありの様ですね…。いいえ…ボーディチッタに至る為、素養を彼のモシリにて学び身に着けてきたと言う事なのでしょう…」
「…あのモシリで…みなさんのトット…ニン・ルガルとしての振る舞いから…」
「…およそ全ての事象には意味がございます。一見無駄と思えるモノも振り返れば今の為になっていると…事あるたびに気付かれるでしょう…」
「…ムカツヒメさま…私をここにおいて下さらないでしょうか?」
「…己のクスル、観えましたか…?」
「はい! 今の私がすべきは…ゼストさんに足手まといでついて行く事ではなく…このモシリにてムカツヒメさまの元己を磨く事だと確信しました! よろしければ…是非ご教授下さい…!」
「…カンナさん…」
「わたくしは勿論かまいません。おそらくそれが歩むべきルなのでしょう…半ばで…暫し離れることがあるかもしれませんが…伝えられる限りをお教えいたしましょう…」
「…ありがとうございます! かならず…身に着けてみせます!」
「では…ウタラ同然の身でありながらカムイに至るチ=クス=ル…共に求道して参りましょう…!」
「はい! …ゼストさん…私…」
「よかったですー! ムカツヒメさまでしたらきっとカンナさんの望みをかなえてくれると思いますー♪」
「ありがとうございます…♪ 少しの間…さびしいですが…貴方のチカラになるが為と…私…頑張ります!」
「…僕もさびしいですー…、でも、カンナさんの頑張りに負けないようにソィヤさんと…あのチカラを…完全に遣いこなせるようになってくるですー!」
「とっても良きです♪ お互い…頑張りましょう!」
そう言ってカンナはゼストに思い切り抱きついた。自然と唇が重なり合う。しばし後…互いに離れがたそうにゆっくりと離れ…
「…では…気を付けて行って来て下さい!」
カンナは頬を紅潮させながらそう伝え、神殿を後にするゼストの背中を観えなくなるまで見送っていた。
カンナは己の進むべき道が観えた様ですね♪
用語説明ですm(__)m
・ヤ=マ=タイ:陸+船着き場+ここに+処→「港ありし都」としました。(25/0919改訂)
・エムス・ヤイカラ:剣+化ける、変化する、自分の姿を変える→「剣霊化」としました。
・カムイトゥス=マゥエ:神の+神降ろしする+威力→「神威感応道交巫」としました。
※感応道交:絶対的真理と己をシンクロさせること。仏教用語。
・ボーディチッタ:菩提心(サンスクリット語)より。
※菩提心:「一切衆生(生きとし生けるモノすべて)を救済し、幸せにする」心。
→仏になるための最終段階の菩薩行をすることにより「悟りを求める心」です。(仏教用語)
チ=クス=ル:私の+通る+道→「我らが進むべき道」としました。