第98倭 カムイ・コラㇺ・ヌカㇻ(神威之比武)後編
再度氣力を高めはじめたゼストを観て…
「ドーするトラ! アレはヤバいトラ!」
「…なら…おんなじ状態になっちゃえれば…! ヒメちゃん! わたしにもヌプルを!」
「…承知いたしました…。しかし、ワラワからヌプルを得るという事は…貴女の内に眠るカムイを呼び起こすこととなりますが…よろしゅうございましょうか?」
「…うん! わたしは…今のわたしを形造るぜんぶシ=エラマス! だから…今ならきっと…大丈夫!」
「かしこまりました…! よろしいでしょう…! 参ります…ワラワのヌプルをあなたの現状の限界まで注ぎ込みます…!」
ヒメは意を決してそう応えミチヒメへと霊力を注ぎ込んでいく…。
「…き、きたぁ! このカンジ…あの刻の…ウブ=イキネイペカをエトゥッカした刻のヤツ…アレの何倍も強いカンジ…!」
快感とも取れる感覚が身体中を駆け巡り恍惚の表情でその奔流に呑み込まれていく…!
(…ああ…く、くる…! 中から…つきあげて…あふれ出すように…!)
輝きを放ちながら変貌していく。全身を包み込んでいた四獣の衣が解け、最低限の部位を覆うのみとなった。
「…今はもって数合でしょうが…成られました…!」
ヒメがそう言って視線を送った先の存在は…今までとは明らかに存在力が変わっていた。
「…成ったわ…!」
「ミチヒメ…いつもと何かまったく雰囲気が違うような気がします…」
「…フフ、フハハ! それこそオレが追いかけるべき存在よ!」
「ミチヒメ…やはり貴女は私を大きく超えるチカラを宿していましたね…! 素晴らしくも凄まじい…!」
「む…。ミチヒメ、早急に終わらせろ、その姿…長くは危険だ!」
キクリ、ヤチホコ、ミケヒコ、オオトシが感嘆する中、アマムはミチヒメを観てその能力が現状の限界を遥かに超える事に気付いた。
「アマム殿のおっしゃられる通り…もって数合ですが…お試し下さりませ…貴女のシンノ=マゥエの一端を…!」
「わたしの…シンノ=マゥエ…? うん、わかったわ、行きます!」
ミチヒメはさらに能力を解放し高めていった。
「こ、これはあの刻の…父様の様だわ…!」
「恐らく正解だキクリ。内外から凄まじいチカラが集束している…!」
(…ゼストさん…これは…次が最後の打ち合いだと思いますわ…!)
「僕もそう思うです…! アマムさんの教えを…今の僕のチカラで極大化して…放つです…!」
ゼストは全力を全て右拳への勁道に集束させていく…。
「いくですー!」
ゼストは瞬動より例の螺旋勁を、今度は己の全力で極限加速して放った。大地を割り空を裂きうねる拳に竜巻の様に氣力を纏いミチヒメへ撃ち込まれていく!
「…まさに…カムイの…一撃…!」
アマムをしてそう言わしめる螺旋勁をなんとミチヒメは片手で受け止めようとしていた!
「ミチヒメ! それは無茶を超えて無謀です!」
珍しくオオトシが叫ぶも間に合わず被弾! 受け止めたかに観えたミチヒメは徐々に勁力に押されつつある…!
「真正面はダメだ! 化勁でいなせ!」
アマムも柄にもなく叫んだ。それ程ゼストの一撃は凄まじかった…! 瞬間ミチヒメの左前腕が手関節屈曲と共に回内したかの様に観えた。その直後ミチヒメの左後方の岩山より激しい破壊音が鳴り響いた! 岩山の消失具合からゼストの撃の凄まじさが伺えた。
「こ、これをそらすですかー!」
「…ホントは受け止めちゃおうと思ったケド…さすがに出来ませんでした…すっごい威力でしたよ!」
「あんな相手にカクニンとかタメシとか…超のつくエパタイだトラ!」
「一瞬化勁遅延刻…大打撃!」
白虎だけではなく玄武も心底心配したのか怒りを露わにしていた。
「確かに危うきではあった…が…」
「ミチヒメちゃんはキチンと受け流しましたわ…♪」
青龍と朱雀はミチヒメが出来る事を信じていたようである。
「なんとなくだけど…技の制度も上がっている気がしたんだよね、それで今ならこの段階の技を化勁出来ちゃうかな? そう思っちゃいました…もっと言えば…片手でば~んと受け止めてビシッとキメて魅せよ~♪ とか思っちゃったりしちゃいまして…」
指一本で頭を掻きながら困り笑いでミチヒメはそう応えた。
「オマエそれはちょっと…」
「過信しすぎです! もしもがあったらどうしていたのですか! 観ているこちらも気が気ではありません…!」
白虎を遮って何とオオトシがしかりつけた。
「オ、オオトシさまぁ…。ご、ごめんなさぁい…」
「…。ですが…その位の可能性を観じる状態…そう言う事…ですね?」
一呼吸置いてからオオトシは穏やかにそう尋ねた。
「…! ハ、ハイ! 観ていてください! 今度は…危なくないやり方で受けます!」
そう言って飛び戻り再びゼストに向き合った。
「…さすがです…! もう一回お願いですー!」
「ま~かせて! さぁど~ぞ!」
今度はきちんと構えを取りミチヒメはそう応えた。
「全力の限界の…その上へ…! 行くですー!」
(さっきより迅…!)
そう思った刻にはすでに眼前にゼストが!
「これが今の…全力のモィ・コトゥィエです!」
この猛威に対し今度は拳の外側に手を差し出した瞬間…ミチヒメは視界から消え去り、次の瞬間激しく回転しながらゼストの内側に顕れた!
「はぁっ!」
ミチヒメの掌底は完全にゼストを捉えた! 全身が波打つ様な激しい振動に見舞われてゼストはその場に崩れ落ちた。
「い、一体…どう…なっ…で…」
「ムリもないケゥエ=エイキの極みで放ったメル=ストゥ=マゥェ…いや…カムイ=マェに等しきチカラを受けたからな…」
「アマム兄! 今のは一体…?」
当然の事を伝えるかのごとく話すアマムに対しまったく理解出来なかったヤチホコが尋ねる。
「戦法は簡単だ。ミチヒメはゼッポンの拳の外より化勁した。彼の勁力をそのまま自身の回転力に変え、さらに自身の勁力を上乗せして放ったと言う訳だ」
アマムが言うにはミチヒメはゼストの拳の外側から螺旋勁を右前腕から全身を用いて威力を吸収し回転力に変え、そのまま独楽のように高速回転しながら背後よりゼストの内へと潜り込んだらしい。
「あの一瞬で…よくそれを勁として放てますよね…!」
「この迅さでとなるとボクでも困難だ」
「…さすがだ…! しかしこれならば…オレの剣の方が加減が効くぞ?」
「確かにそーだわ! 今のカンッペキに徹したもの!」
「あれは今のボクのレラじゃカンゼンに撃ち抜かれちゃうなぁ…!」
「ミチヒメ、素晴らしき技でした…。ゼストさんは…大丈夫でしょうか?」
先程から全く動く気配がない。気絶したのだろうか? オオトシが近寄って確認すると…息をしていない!
「…! ヒメさん、こちらへ!」
カンナ=サㇻ=トゥィエムスもその異変に気付く。
(…せっかく御力を頂いたのですが…回復まで賄いきれませんでした…!)
ソィヤ=イトゥンナㇷ゚は悲しげにそして悔し気にそう言った。
「…成る程…。チカラの総量から、本来ならば十分回復可能な状態故ラマトゥがケゥエから離れぬ…そういう訳でございましたか…」
ヒメは観ながらそう言ってゼストの横に膝をつき法衣を脱ぎ始めた。
「…先のミケヒコと違いすぐに回復すると思われます…!」
そう言ってゼストの身体に肌を合わせ付与快癒呪を発動させた。程無くゼストが身震いしたかと思うとゆっくりと目を開け勢い良く飛び起きた。
「…こ、これは…さっき僕の打撃をかわされて…? わわわっ!」
「…回復して何よりでございます…カㇺカを重ね合わせぬとトゥサレ出来ぬ故…失礼いたしました…」
「…僕を治してくれたんですね…ありがとうです…!」
(ああ…よかったです…ワタシがキチンとチカラを発揮できないばかりに…)
ソィヤは悔しそうにゼストに言った。
「そんな事無いですー! あなたのおかげで…僕はこうしてまた一つできなかったことへ挑戦出来ました! 今回は負けましたが…それ以上に良い経験となったですー!」
(ありがとうゼストさん…こちらでは…微力ですけど…また一緒にいさせてくださいね…♡)
「それだ。ソイツのチカラが足りないせいで本来のチカラが出ないのなら、そのソィヤ=イトゥンナㇷ゚の現状を改善すれば良い…!」
「おそらくワラワと同様…純陀エカシに憑代となるケゥエを造って頂ければ正しくヌプルを発揮できるかと存じます…」
「純陀…さん…ですー?」
「左様でございます。名工でございまして…ワラワも…そこのマニィも…アマム殿も…彼にケゥエを賜り今こうしていられるのです」
「そうよん♡ あのじいちゃまに頼めばソィヤちゃんもきっとマニィの様にゼストさんのお役に立てるわん♡」
(そうなのですね…! それが出来るのでしたらワタシとっても嬉しいです…)
「…私も…修行するか…その純陀さんのチカラで…ゼストさんのお役に立てるようになれるでしょうか?」
カンナも皆にそう尋ねてみた。その表情はとても真剣で切実なモノであった。
「カンナさん…カンナさんは…僕のそばにいてくれるだけで元気出るですよー!」
「…ありがとうゼストさん。それでも良きですが…観ているだけなのはやはり耐えられません!」
「カンナさん…」
「無論。ヤィコ=トゥィマのチカラ覚醒し遣いこなせればゼッポンの最高の助けとなる」
「…今は完全にウタラ同然の私が…至れるでしょうか?」
「できるとおもうよ! ミヅチもそーだったから!」
ミヅチは自身の現状に至る道程をカンナに説明した。
「…なるほどです! しかし今の私が…ラムハプル=イネ・シ・ルーガル方との契約なんて…可能なのでしょうか?」
「ミヅチみたいにチカラふやしてもらうモノをつくってもらったらいいとおもうよ♪」
「カンナさんボクもそう思う! あと出来るよーになりたい! って言う強いイレンカ。これがあれば出来ないを出来るにきっと変えられる!」
「ミヅチちゃん…スセリちゃん…とても良きイタクです! 私も諦めないで全力で頑張ってみます!」
「それが良い。アメノオハバリであったのならば、鍛える中、闘いの中で己に眠る才がきっと目覚める」
「私もそう思います。そして今回は…ウタラの平和だけではなく…元部下で伴侶の為…その強いイレンカ抱きし刻こそ正しきチカラは生まれ出ずるかと思います…!」
「アマムさん…オオトシさん…!」
「あ、それでは…イコロ=タㇰさがし…行きますかね♪」
「さぁんせ~い♪ わたしも責任取ってお手伝いしま~す!」
「じゃぁぼくも行こう。探索は得意だしね」
「もちろんマニィもアビヒコちゃんについていくわん♡」
「…ならアンタがスクナヒコナになれるよーにアタシとアンナも行くわ!」
「きぃちゃんいくならミヅチも~!」
「ボクも行きたいケド…アビヒコくんにヤチやミチヒメちゃん…そしてキクリちゃんもいるならきっといいモノ見つかると思うから…せっかくだしアマム兄やオオトシ兄にメル=ストゥ=マゥェのコツを教えてもらって…おとうさまの処へ行って修行してくる!」
「我もソの方ガ有意義と思エるゾ…!」
スセリの内なる羽毛と翼持ちし蛇神もそう賛同した。
「…では私とアマム…スセリは…待ちましょう…。ヒメさんはどうされますか?」
「ワラワがこのモシリにいれば…アビヒコやキクリと念話も出来、万一の場合スセリのトゥサレも出来る故…残りましょう」
「…ならばオレも残り、スセリの修行を手伝おう…!」
「ヒメちゃんミケヒコくんありがとう! じゃーヤチ…そっちはまかせたゾ!」
「あ、はい! 探すのはアレですが、みんなに何も起きないように守っておきます!」
「…ゼッポン…まずはそのモノ…ソィヤのチカラを引き出すことを考えろ。他はその後だ!」
「アマムさんありがとうですー! 必ず強くなって…アマムさんにも一手お願いするですー!」
「ああ。シセイペレする事、トゥムに見合うヌプルを得る事、見合うハィヨクペを得る事…最後に得るべきモノ…苦難あれどすべて手にして戻ると信じよう!」
「…最後…なんでしょー? わかりませんが一つずつ頑張るですー!」
「…カンナ…なるべくなら損失の無いチカラを得よ!」
「アマムさん…わかりました! そのイタク、ラマトゥに刻んでおきます!」
「みんないい? じゃぁオオトシさま…しばしの間おそばを離れ行って参ります…!」
「ミチヒメも気をつけて下さい…。万一抗いきれぬ状態に陥りし刻は…アビヒコやキクリにヒメさんへと連絡してもらって下さい…! 無茶な挑戦だけは控えて下さいね…!」
「…はい! ありがとオオトシさま♪」
ミチヒメは優しく笑みを浮かべてそう応えた。
「まずトゥスクル=モシリのヤ=マ=タイに立ち寄り、パセ=トゥスクルさまにお逢いすると良いでしょう」
「ムカツヒメさまの処ですね…わかりました、まず立ち寄っていきます!」
「きっとカンナさんの今後の参考となるでしょう…ではみなさん気を付けて行かれて下さい…!」
「はい!」
一同返事をしてイヅモ西の瞬時に旅する門より巫女ノ統治スルクニへと向かっていった。
求むるモノの為瞬時に旅する門へ…!
用語説明は確認してあった場合あげますm(__)m