第97倭 カムイ・コラㇺ・ヌカㇻ(神威之比武)前編
連れていかれたのは…
「…ここなら動いても大丈夫そうですねー♪」
森の奥に大きく開けた処があった。おそらく意図的に造られたと思しきその場所は地面もきれいに造成されていた。
「…ではまずトゥムを解放してみてください…!」
ゼスト・リウスは言われるまま全力で解放した。
「なかなかの大きさですね…」
「…ケゥエも解放したらもっといけるですー!」
「…! では…カムイエウンケゥエ状態で放ってみてください…!」
ゼスト・リウスは意識を集中させて解放していく。みるみる甲虫の様な装甲に覆われた姿へと変貌していく…。
「いくですー!」
放出される氣力が跳ね上がる! ゼスト・リウスの身体からは風とも炎ともとれるような揺らめくナニカが吹き出ている。
「さすがゼッポン…すばらしい! が、そのケゥエ…まだ未完成」
(…未完成…ですか…?)
「本当です! この大きさ…トゥムアスヌは…あの刻のミチヒメやウガヤ兄に匹敵すると思います…!」
「…ではまず無手でコラㇺ・ヌカㇻしましょう。…スセリ、頼みます」
「うん! じゃぁゼストさん、いっくよー! ふっはぁ!」
スセリは呼吸と共に氣力を解放し高めていく。それと共に周囲に自然に風が吹き始め小さな竜巻の様になっていく。
「…それは…なんかスゴそうですー♪」
「それでは…はじめて下さい…!」
「いっくよー! レラ・モィ=コトゥイエ!」
スセリは飛び込むように踏み込み、身体全身を遣いひねりを加えた軸足と反対側の拳へ竜巻状に風の氣力を纏わせて撃ち込んだ! するとゼスト・リウスは己が観じた氣力の大きさとまるで不釣り合いな衝撃を受けた…!
「…! こ、これは…?」
「へへ♪ 属性を帯びるとトゥムの質が上がって強くなるんだよ♪」
確かに単純な氣力は自分の半分にも満たないスセリが自分の全力の様な打撃を放ってきたのだから納得である。
「…これなら大丈夫ですねー! いきます! ウェンテ=ハィヨクぺ=キㇰ…!」
ゼスト・リウスの全力の一撃がスセリ目掛けて放たれた! すぐさま風を纏い竜巻の回転力で化勁して力をいなしながら接近した。
「エ=レラ・ホロカモィ=コトゥイエ!」
ゼスト・リウスに触れた状態から両掌開き手首を擦り合わせる様に激しく回転させて寸勁を撃ち込んだ!
「ぐ! い、今のはちょっと効いたですー! こちらも同時でいくですー!」
ゼスト・リウスは一瞬よろめくも左右の拳を同時に放つ。
「クィクィキㇰ!」
技の撃ち終わりに一瞬硬直したスセリの身体の前後から挟み込むように拳を繰り出した! 間一髪竜巻の防御を展開したが衝撃が貫通してきた。
「ぐっ! …こ、こっちは受けるとけっこうキツイね…!」
スセリはよろめいて後ずさり口元を拭って応えた。
「そのトゥムほとんど自動で出せるのですねー! すごいです!」
「…わったしのっ出番かな~♪ ゼストさんは加減まちがっても平気そ~だしね♪」
傍で観ていたミチヒメそう言って歩み出た。
「…そーみたい…! ゼストさんのこのがんじょーさは…!」
「…よろしいでしょう。交代、ミチヒメ、頼みます」
「ハイ! よ~し…じゃぁみんな、行くよ!」
そう言ってミチヒメは四獣から霊力を受け取り輝く根源のチカラを解放した。
「…カムイエウンケゥエだったら…メル=ストゥ=マゥェ…大丈夫よね?」
「問題ない。打撃は徹るし傷も負うが…即カリ・ラマトゥはない」
「…あの刻のミケヒコくんよりも…強くいってイイね!」
「大丈夫でしょう。まずないと思いますが…ゼスト・リウスさんの攻撃もそのカムイエウンケゥエの効能で徹りますので…そこは念頭に入れておいて下さい…!」
「ハイ! ありがとオオトシさま♪ 心配して下さったのですね♪」
「ええ、もちろんです…! ミチヒメに…両者ともに不要な怪我はして欲しくありませんので」
「…二人共準備は良いか?」
「大丈夫ですよーアマムさん!」
「ハイ! こっちも大丈夫です…!」
「…では、はじめられてください!」
その声を聴くや否やゼスト・リウスにはミチヒメはその場から消えた様に観え、次の瞬間眼前で強く大地を踏みしめる震脚音が聞こえ…そこで一瞬頭が真っ白になった。いくつかの音が重なり合い一つの重低音を形成して鳴り響いたと同時にゼスト・リウスは後方へ吹き飛ばされていた。自身の状態に気付いたゼスト・リウスは空中で回転しながら体勢を立て直して着地した。
「す、す、すっごいですー! こんな小さなメノコが僕をこんなに…ドーしてできるですー?」
「ただの体当たりなら重さを速さで増やしただけだが、ミチヒメはあえて直前で着地し震脚する事と同時にケゥエ=エイキにより極限加速、増幅させ勁として放ったからだ」
アマムの言う通りであった。ミチヒメは着地の際にまず左足で震脚しながら左沖捶、次に右足で更に前方に着地し震脚と共に頂肘、滑る様に身体を回転させ両脚震脚で靠撃と連続技で放った。
(…あのケゥエ=エイキは…部分的にはボク以上に極めているな…!)
アマムはゼスト・リウスに解説しながらそう思った。
「ええ!? 吹っ飛んで驚いているけど…ほとんど効いてないカンジ…?」
ゼスト・リウスの様子を見て驚きながらミチヒメは応えた。
「ケゥエの覚醒って…ものスゴ~い事なのね…! 攻めも…防ぐのも…技が無くても…これだけ出来ちゃうんだ…!」
「一応僕なりの攻防の技はあるんですけどね…」
「先のミチヒメの連撃に比べればただのチカラ押し同然だ」
「あちゃー、アマムさんあいかわらずキビシイですー!」
「…チカラの遣い方教えてやる。まずこう構え…」
見かねたアマムはゼスト・リウスに指導を始めた…。
「…で、同側の足でモシリを踏みしめ…そこから沸き上がるチカラを螺旋状に腕に運び…放つ…!」
「アマムさんありがとうですー! …やってみるですー!」
そう言うとゼストは急激に氣力を高めていく。
「これは…おい! ミチヒメ! アレ…行くトラ!」
ビャッコがいち早く気づいてミチヒメに話しかける。
「え? あのゼストさんの…そんなに危ないの?」
「あれは…恐らくこちらの障壁を易々と貫通すると思いますわ!」
そう朱雀も続ける。
「基本の勁法…モィ・コトゥィエでの一撃と思われる…が…」
「氣力強大及聖仙之色身体依着弾時被害甚大…!」
青龍と玄武もそう伝えてきた。
「キレーに流して取り込んじゃえば…」
「…オマエ攻撃に比べて化勁とか全然トラ?」
呆れながら白虎に窘められた。
「…そ~でした…そ~ですよね~。はぁい…じゃぁ…みんな、全力行くよ! いっけぇ~! はぁ~!」
四獣はその言の葉に応じ姿を変えていき…ゼスト・リウスに負けないくらい高めた氣力を吹き上げはじめた。
「…ふぅう…! さあゼストさん…いつでもど~ぞ!」
「…こちらも錬り上がりました…いきます!」
そう言うとゼストは身体中を脱力させ弛緩させていく…。両手が力無く垂れ下がった瞬間、ゼストは皆の視界から消えた!
「ッ! 来るトラ!」
「りょ~かい! 瞬動ね! やるぅ♪」
そう言いながらヌプル=インカラでゼストを追う。確かに高速で接近するナニカが観える。
「玄武!」「全防完盾…!」
瞬時に左前腕が円盾状に隆起した。
「…ふみしめ…らせん状に…放つ…!」
眼前に顕れたゼストが独り言と共に撃ち込んできた! その拳の途轍もない重量感にミチヒメは後方に受け止めた構えのまま十歩分以上押し戻された。
「…やるぅ…! 左手…かな~り効きましたよ!」
「身体操作完全時…被害大…!」
「…だね! まだ少しジンジンするもん! よぉし! 今度はこっちから行くよ! 疾如白虎! 徐如青龍! 侵掠如朱雀! 不動如玄武!」
ミチヒメは四獣の属性ごとに氣力を練り上げていく…。
「あんなことも出来るですかー!」
ゼストは驚きと関心で叫ぶようにそう言った。
「…ゼストさんも…全力で…ね…! いきます! 獣王究極発勁!」
(それは受けちゃダメですわ~!)
「ゼストさんそれはダメです! 避けて下さぁーい!」
カンナが叫ぶのと同時に別の声が重なっていた様だが、誰も気づけずにミチヒメの拳がゼストに炸裂した。激しい打突音と共に何かが砕ける様な音が聞こえた。
「…今度は吹き飛びませんでした…よ…!」
視界がひらけると…上肢帯ごとゼストの腕は無くなっていた…。
「いやぁー!ゼストさぁーん!」
よろめいて大地に片膝をつくゼストの元へカンナは駆け寄った。
「…! な…なんで…! カムイエウンケゥエじゃ…なかったの?」
「ヌプルが足りなさ過ぎて本来の何割も発揮できていない。だから蛹の姿なんだ…!」
「…さなぎ…僕まだ完全じゃない…ですか…?」
「ああ、まったくな。完全には程遠い。ヌプルと共に練り上げられていればキミの思った通り片手で止めていた」
(ワタシのせいなのです…! ワタシが…こちらのモシリにてまったくチカラを行使出来ない為なのです…!)
一瞬皆の頭に声の様なモノが聞こえてきたが、あまりに小さ過ぎて誰も聞き取れなかった。
「…どうやら他にもどなたかいらっしゃる様です…が、存在力が小さすぎて聞き取り切れませぬ…」
唯一微かに聞こえたヒメがそう応えた。
「え、じゃぁぼくが小さくなって聞いてみるよ」
アビヒコはスクナヒコナに変化し、ヒメの手の中で探知し始めた。
「…。…。…! いた! これは見つけられないね…!」
「…? ソィヤ…? イトゥンナㇷ゚…?」
(まさしくその通りです…。ワタシはソィヤ=イトゥンナㇷ゚です…ゼストさんのカムイエウンケゥエのラムハプル=クルです…)
「…確かにただのソィヤじゃなさそうだね…その姿でしゃべれるのもフシギだもんね」
(…本来みなさまの様な姿なのですが…こちらでは…ヌプルもトゥムも足りなく…この状態でしかウセレ、エウン出来ませんでした…)
「なるほど。じゃぁぼくがチカラをあげるよ。ラムハプル=ヌプル!」
「…。…。…! そ、そんな…!」
その言の葉と共にアビヒコは元に戻ってしまった。
「ぼ、ぼくのヌプル…全部持ってかれちゃった…!」
(…すみません…それでもまだこちらで本来の姿となるには…足りません…)
「…成程…これは並ならぬ許容量でございます…! ワラワが…遍くヌプルも併せて注いでみましょう…!」
そう言うとヒメは自身の霊力に加え世界に遍くモノも収束させてソィヤ=イトゥンナㇷ゚に注ぎ始めた…。
(あぁ! これならきっと…戻れます!)
ソィヤはそう応えた後輝き始めた。それは瞬く間に大きくなり衝撃と共に閃光を放ちナニカが顕れた。
「…そ、その姿は…ボ…僕の…ア…××××…さん…?」
「…はい♡ お待たせいたしまししてすみませんでした…。こちらのヒメさま方のご助力により…一時的にでしたらチカラお貸しする事叶います…♪」
よろめきながらも目に輝きを宿してゼストは立ち上がる。
「…ア…ソィヤさん…よろしくですー!」
「はい! カムイエウンケゥエ…エトゥッカぁ!」
ソィヤは音もなく宙に舞いゼストを背後から抱きすくめて重なった瞬間、薄氷が割れる刻の様な、乾いた音が鳴り響くと共にゼストの身体に亀裂が入っていく…。内側に向かって何かが凝縮していくのを傍目にも強く観じられ…臨界点に達した刻、大きな器が砕ける様な音が響き渡った!
「…脱皮…! 完成したなゼッポン!」
白く美しい衣から筋骨隆々な褐色の身体を覗かせる。深い菫色の瞳と同色の髪を棚引かせ頭上には二本の立派な角を携えていた。
「…ア、アムニンも治っちゃっている…!」
「カムイエウンケゥエならば当然。それはトゥムやヌプルが実のケゥエを持つに等しい。チカラさえあれば…いくらでも再生できる」
「このカンジ…あの刻…いえ…それ以上ですー!」
(その通りです♪ ワタシを大きく超えるチカラを頂いた為…今のアナタは限りなくカムイに近いですわ♡)
笑みを浮かべて頷き、ミチヒメの方へ振り向いて話しかける。
「もう一手…お願いするですー!」
そう言ってゼストは気勢を高めていく…!
「ちょ! アイツウカムレ=エトゥッカ出来てるトラ!」
「これは…アマム殿やキクリ殿のチカラに限りなく近しき…!」
「神威之色身体之権能故境涯不至然準拠神威…!」
「あれは…受け止めたら今度はミチヒメちゃんがゼストさんの二の舞となりますわ!」
「うん…わかる…! あれってホンキ出した刻の…みんなと同じよ~な強力なチカラ…観じるもんね!」
「…いくですー!」
ミチヒメと四獣は驚愕と同時に宙へはじけ飛んだ。一瞬遅れてミチヒメを大きく通り過ぎた処にゼストは顕れた。
「あ、あららー。拳を打つ前にぶつかっちゃいましたねー! 迅さが違い過ぎてフミがついてこないですー!」
(ワタシがフミのお手伝いをいたしますわ♡)
ソィヤはそう言うと、ゼストの目と耳、そして肌に広がって重なった。
「ありがとですー! これなら思った通りに動けますねー♪」
空中で体勢を整えてミチヒメがおりてきた。
「…チカラに技が…ケゥエ=エイキが全くついて行っていないみたいね…。あ、危なかったぁ…キチンと拳に伝えられていたら…!」
ミチヒメは冷たい汗が背筋に走った。
「同等光子力故、明白体格差致命的…!」
険しい声色で玄武はそう言った。
「今のミチヒメちゃんと並ぶ大きさのチカラと言うだけでもすごいのに…」
「まっこう勝負なら…負けるトラ!」
「交差で迎え撃たねば敗北は必至と観える…」
「四獣の弁は正解。次撃当たれば…カリ・ラマトゥするぞミチヒメ?」
「…これほどのマネ出来る相手ならばオレが出ても良いと思うが?」
アマムの言にミケヒコが続けた。
「いえ…。流石にアメノホアカリノミコトとなられたミケヒコの剣撃を受けたら如何にゼストさんと言えど危ないでしょう」
オオトシがミケヒコにそう返した。
「でもシ=パセ=カムイとなってさらに覚醒しないと得られないカムイエウンケゥエ持ちでしょ? 並の技は効きそうにないと思うわ…!」
「キクリの言う通りでございます。今の彼はその存在力を大きく揺るがす力で攻撃されない限り…倒れませぬ…。ワラワにはその様に観えます…!」
「…恐るべしはカムイエウンケゥエですね…! さすが…イノトゥを賭してまで皆を救いたいと願って得たチカラですよね…!」
「…己のイノトゥを賭して…? まて…ゼッポン、なぜカムイと成れない? 他者を慈しみ…守る為…逆境にくじけぬ諦めない強きイレンカ…。すでにラムの素養は備わっている」
「そうですねー。実は僕もそう思うんですけど、なれませんねー?」
「…境涯が…足りないようですが…どうやら例の九千九度を終えずに覚醒した模様ですね。恐らくソィヤ=イトゥンナㇷ゚さんに境涯にかかわらずカムイエウンケゥエに至らしめるチカラがあると思われます…!」
「ふむ。ならばメル=ストゥ=マゥェも自力で儘ならぬゼッポンの現状に納得がいく。あの九千九度のカリ・ラマトゥを超えぬとヌプルは自在とならないからな…!」
「そ、そーだったんですねー! あと何回カリ・ラマトゥすれば僕は…アマムさんやカンナさんのようになれるでしょー?」
「ワラワが観てみましょう…。…。…。…! 只今…九千八度…です…!」
「九千八度…! あ、あと一回! じゃぁこの場でカリ・ラマトゥすればいいですねー♪」
「彼のモシリと違い、ここでは一度カリ・ラマトゥすれば…ヤオヨロズとなりてモシリの構成を手伝い…次にシセイペレ出来るは…三百の季節廻るまで待たねばなりませぬ…!」
「…イノトゥの大切さと…重さ…ゼンゼン違うです…! なら…このままで極めていくですー!」
ゼスト・リウスは再び己を高めはじめた。
感覚対応状態で放つようですね…!
用語説明ですm(__)m
・カムイエウンケゥエ:神の+現れる、顔に表す+身体→「神威之色身体」としました。
・レラ・モィ=コトゥイエ:風+淵、淀み、渦巻き+自分の意思を通す→「風渦発勁」としました。
・エ=レラ・ホロカモィ=コトゥイエ:いっしょに+風+渦+自分の意思を通す≒発勁より。
・クィクィキㇰ:噛む、噛み砕く+打つ、殴る→「噛砕撃」としました。
・沖捶:中段突き
・頂肘:肘打全般
・モィ・コトゥィエ:渦巻く+発勁→「螺旋勁」としました。
・アスカンネ=ケゥエ:清潔、きれいだ+身体→「聖仙之色身体」としました。
・色身=実体(仏教用語です実体のある世界=色界:色究竟天=有頂天までを言う。住するはシヴァこと大自在天)
・上肢帯:医学用語。上肢を体幹と連結させるモノ。鎖骨と肩甲骨とそれらに付随する筋からなる。
・ソィヤ=イトゥンナㇷ゚:蜂+蟻→「アリバチ」としました。(実在の昆虫です)




