第96倭 ナ・ラのカムイ=チセへ集いしモノ
ロクンテゥへ願い出てナ・ラへと向かう二人
「ナ・ラのイヅモへお願いいたします…!」
そうカンナが帆掛け舟に話しかけると…ぼんやりと明滅しゆっくりと船首の向きを変えて進み始めた…。
「…あとは乗り手のトゥム次第で迅さが変わると言っていましたね…どれどれ…はぁっ!」
ゼスト・リウスは氣力を解放して帆柱に手を当てた。するとチカラを吸い取られるような感覚と共に急激に速度が上がった!
「きゃぁっ!」
「ー! カンナさん大丈夫ですー?」
「だ、大丈夫です! でも今度は迅さ上げる刻は教えてください…!」
「ごめんです…では、もう一段上げてみるです!」
ゼスト・リウスはさらに氣力を帆柱へと籠めていく…。するとおよそ小舟とは思えぬ速度で海上を滑るように走りはじめた!
「すごいです! …もしかしてこのロクンテゥ…アトゥイの上に浮いていませんか?」
「本当ですねー! 良くわかりませんがすごいですー♪」
驚きの声を上げる二人を乗せて帆掛け舟は北東へひた走る。途中激しい風雨に見舞われるも、大事なく航海していった。
「…カンナさん! モシリが観えてきたですー!」
「本当ですか? …。…。…。まったく観えません…?」
「この迅さなら…トカㇷ゚チュㇷ゚=カムイが真上に来る頃にオヤンですー♪」
何度目を凝らして観ても…カンナにはまるで陸地が観えなかった…。
「…目もまるで観え方が違うのですね…!」
現状一般民同様のカンナはその差に心底驚いていた。概ね問題なく天候にも恵まれ無事にここまで進みどうやら眼前に目的の大地が観えてきているらしい。
「…レラが心地良きです♪」
「本当ですねー♪」
二人は自然と寄り添って座り心地良く吹き抜けていく風を堪能していた。
「…オヤンです…わわ! このまま走れるですかー!」
帆掛け舟は上陸した後、事も無げに少し浮いた状態のまま走っていく。また海上を滑走し、しばらくして再度陸地を進んでいく。
「しかしこのロクンテゥ、どうして行先に勝手に進んでくれるのでしょーかねー?」
「…おそらくですが…このモシリすべての絵図が入っているのではと思います…!」
「そ、それはとんでもないですねー! でもそうだとすると話しかけてお願いするだけで迷わず進むのも納得ですー!」
「きっと…カムイホッパイコロ…なのだと思います…! 伝え聞くウェンルイ=モシリ=ヤㇲケ=シルトゥ以前に存在していた方々の手によるモノかと…そう思います…!」
「なるほどですー! それならどんな凄いしかけでも納得出来るですー♪」
そう話しながら進んでいると一艘の帆掛け舟が並走してきた。
「二人ともお久しぶりです♪ そしてようこそこちらのモシリへ! です♪」
「ヤチホコさん!」
「カンナ…アメさんもお元気で何より♪ ゼストさんは…ふんいきダイブかわったね!」
「お久しぶりです! どうぞスセリちゃん達のイタクで“カンナ=サㇻ=トゥィエムス”…“カンナ”と呼んでください!」
「スセリちゃんもお久しぶりですー♪ お二人とも…今観じられるトゥムが…本当の強さだったですか…!」
ゼスト・リウスが驚きと関心を示してそう応えると、笑みを浮かべ風に乗りスセリが飛んできた。
「…あれからさらにガンバッて、こうやって属性のトゥムもつかえるよーになったんだよ!」
「…素晴らしいですー! 思えばアチラで僕たちはそれも出来ませんでしたねー!」
「でしたね…! あ、そうです…二人が良く知っている方も…イヅモで待っていますよ♪」
「そうそう♪ だからアリキキノで行こ!」
そう言うとスセリはゼスト・リウス達の帆掛け舟の上で氣力を高めはじめた。
「すごいですー! 僕も負けてられないですねー!」
ゼスト・リウスもさらに氣力を練り上げ始めた。二人に呼応するように帆掛け舟の速度は際限なく上がっていく。
「あ、こ、これは置いていかれない様にこちらもアリキキノでいきますね! …ふっ…はぁ!」
そう言うとヤチホコは透明に輝く氣力を放出し始めた。
「これで…前方のマゥマゥエをどかしながら…!」
その瞬間更に速度が伸びてゆく。
「あ! ならこっちもトゥィエ・ヤサ・ノタㇰの応用で…やっ!」
「…後ろはレラ=ホロカ=モィの応用で!」
前方に真空を発生させ抵抗をなくし後方で空気を竜巻状に勢い良く吹き出す。同時にスセリはカンナの周りにゆるく風を纏わせた。
「…! こ、これなら私も苦しくないです! ありがとうスセリちゃん!」
「カンナさんはホントこっちではただのウタラのよーなんだね! 苦しかったらすぐ言ってね!」
「…トゥムの遣いこなし方が僕とはゼンゼンちがうですー!」
「へへ♪ だいーぶ修行したからね!」
驚くゼスト・リウスに対し少し得意げにスセリは応えた。
「そしてヤチホコさんは…僕たち二人分に匹敵するトゥムを練り上げられるですか…?」
「ヤチはね、うまいコト自分の前のマゥマゥエをゼンブどかしちゃうから…すいすいすすめる…そー言ってたよ!」
「…ニスの…トゥムのチカラですね! すばらしきです!」
カンナはそう推測して感心していた。
「あんまり遣える緋徒いないみたい! ボクも…ヤチの他には知らないしね! それと…ボクたちがあっち行くトキは、気を付けて使わなくしていたけど…こっちではあっちのイタク、使えないんだね! むこーで言ってたよーにトゥムをエ…とか、ヌプルをス…って言えないもんね!」
「恐らくあそことこちらのモシリは…互いの干渉があってはダメなのだと思います! そして…こちらのイタクはどちらでも使え、あちらの…私達のイタクはこちらで使えない事から…ポン=イトゥンナㇷ゚=モシリはこのモシリの後に生まれていて…時間軸も違うのだと思います!」
「…ホントオオトシ兄やアマム兄みたいだね、カンナさん♪」
スセリはカンナの並ならぬ頭の冴えの健在さを改めて観じた。
「アマムさん…? オオトシお兄さんは今イヅモにいるですかー?」
「うん、ふたりともイヅモにいるよ♪」
「ここに来る前に…とてもトゥムアスヌな方と戦った刻…オオトシさんはその方よりも強いと聞いたです!」
「確かにすっごい強いケド…今はアマム兄やキクリちゃんのほーがカムイになれたぶん強いと思うよ!」
「…すごいです…! こっちのモシリの強さは…本当に際限ないですねー!」
「そーね…そーだね! しちゃダメや出来ないがないぶんそーかもしれないね!」
「ボクも…ほら♪」
そう言ってスセリが袖をまくり上げると、そこには爬虫類を思わせる鱗がびっしりと生えていた。
「…スセリちゃんそれは一体…?」
「…レラ=ルーガルさまと…ウカムレしたの。…ボク…属性のチカラなくて…ヌプルも遣えなくて…。だからこれは…ボクの更なる強さの証だよ♪」
その身体を受け入れて笑みを浮かべられるスセリに、真なる心の強さを二人とも観じた様である。
「イレンカ…そしてラムの強き事…とっても良きです♪」
「へへ♪ だってこーでもしないとみんなに置いてかれちゃうからね♪」
期待感と高揚感とそれを上回る戦慄がゼスト・リウスの身体から沸き上がった。
(…モシリは…こんなにすごく…広かったのですね…!)
「あ、こちらです! みんな着きましたよ!」
ヤチホコの声に促され観てみると、集落の中でも一際大きな建物が…恐らく神殿と思しきモノがそこにあった。
「…ここにみんな集まっています。さぁど~ぞです♪」
二人は少し緊張の面持ちで中へ入っていった。いくつかの部屋に区切られていて中央に大きな広間がありそこに皆集まっているらしい。
「…参られた様です…」
ヤチホコ達が神殿に近づいた刻にヒメはそう皆に告げていた。しばらくすると足音が聞こえてきた。扉が開き中へ入ってきたのは…ウガヤばりの体躯を誇る青年と、ムカツヒメの様な気品と美しさを兼ね備えた女性であった。
「…みなさんはじめましてですー! はるかエコィカの…ヴァジュラさんたちに教えてもらってきました…ゼスト・リウスです!」
「同じく参りましたカンナ=サㇻ=トゥィエムスと申します」
「なるほどですね…! よろしくお願いいたします。私はオオトシ、この中の年長者です。以後お見知りおき下さい」
長身で端正な顔立ちでいながらしなやかさと強さを観じる体つきをした青年であった。
「やあゼッポン! 久々だな! アメもあれ以来か」
そう言ったのは美しい純白の長髪を携えキクリと同様の耳を携えた青年であった。
「え…? その呼び方はもしかして…!」
「してもしなくてもボクだ。マタ=チロンヌㇷ゚…アマムと呼んでくれ」
「さっきのアマムさんはあなたでしたかー! 久しぶりですー! しかしなんでアマムさんは前と同じく僕のことを呼べるですー?」
「当然。ボクが考えたイタクだからこちらでも問題ない。そちらもコロ=クルとならばこちらにもあるので呼べる」
「成る程です! でも私の事もこちらのイタクでカンナと呼んでください…!」
「了解。…哥哥、この二人…彼がゼッポンことゼスト・リウス。彼女はカンナ=サㇻ=トゥィエムス…もう一つのイタクではアメノオハバリとも」
「…! アメノ…オハバリ…ですか…!」
「ああ。内在するラマトゥもそのレの通り、だ」
「…やはり…ただのウタラではありませんか…!」
「そう言う事だ。今後の鍵となる可能性もある」
「…よろしいです…それならば猶更手の届く処にいて頂いた方が…」
「ああ。タアン=ラマトゥ、覚醒に至るか不確定だが、その方が良い」
「わかりました…。これも…導きの一端…でしょうか…?」
「その辺りはムカツヒメ様にでも聞いてみると良い」
「そうですね…」
「あら~皆さまお集まりですわね♪ そちらのお二方…はじめまして…アタクシ…クシナダと申します♪」
声の方をと足元を観ると…年端も行かぬ幼女がそう話しかけてきていた。
「はじめまして…ゼスト・リウスですー!」
「私はカンナです…! そのお姿…擬態ですね…!」
「あら! ただのウタラに観えますのに良くぞ見抜きましたわ♪」
そう言うとクシナダは見る見るうちに変貌していき美しい少女の姿となった。
「あら…この姿でもアタクシの方が幼く観えてしまいますわ…♪ こう観えてかなり永き刻を歩んできておりますのに…」
「…それも解ります…! 並外れた…ラムハプル=モシリ=コロ=クルとしての御力…。まさにラムハプル=イネ・シ・ルーガルに連なるお方だと思います!」
「ヌプル=インカラにて観れるのですね…! それも中々に深き処まで…ヒメ…キクリ…その次にくる程の観え方ですわ♪」
「…ヤィコ=トゥィマ…エカンナイ=ストゥ=シ=カムイに仕え戦いしモノでございます…」
「…! 覚えて…いいえエシカルン出来ているのですね…!」
「はい…。漠然とではありますが…。おそらく…ヤチホコさんが…我がシュメールカムイであったと思います…!」
「…それは確か…前のお別れの刻も言っていましたよね…! 僕が…カンナさんの…エン…だったのだと…!」
「はい…。私は…ヤチホコさん…貴方の傍で…共にあり…命のままに動いて参りました! それが他者のイノトゥを奪う事であっても…です…!」
「…そう…でしたか…。しかしですね…僕が観せられたヤィコ=トゥィマの中にカンナさんのようなステキな方…いらっしゃいませんでしたが…?」
「…私のシンノ=レを…その意味を…よく考えて頂ければきっとエシカルン出来るかと思います」
「あ…それも…はっきりと口に出せない事…なのですね…!」
「はい…。本人の自覚のないエシカルン出来ていないヤィコ=トゥィマは…お伝えしたくても出来ないのです…!」
「そうなのですね! じゃぁ僕がエシカルンすればわかりますね♪」
「その刻は…今度は…楽しくお力添え出来ると思います!」
カンナは表情に一瞬陰りを観せたがすぐ微笑んでそう応えた。
「そうそう僕たちがこちらに伺ったのは他でもなく…」
「メル=ストゥ=マゥェの修得の為だろ? あの刻ちゃんとやっておけば良かったなゼッポン♪」
「その通りですー…。ですので、アマムさん、オオトシさん、僕を鍛えてほしいですー!」
「もちろん。カムイエウンケゥエと巨大なトゥムを持つエィキ・クルがメル=ストゥ=マゥェを身に着けたらどうなるかすごく興味深い!」
「私たちは須らく求道者であり修行者であります…! 喜んで一緒に修行いたしましょう」
「あ、そう言えばゼストさん…アマム兄もなのですが…今ここには…メル=ストゥ=マゥェを超えてカムイに至っている方もいますので…ラムシリネまで修行できると思います♪」
ヤチホコにそう言われて辺りを見回して驚きながらゼスト・リウスは応える。
「…ほ、本当ですねー! アマムさんと…そちらのおふたりも…緋徒の境涯を超えているですー!」
「二人とも初めまして! オオ兄様と…お兄…アマム兄様のマチㇼぺ…キクリよ。アタシも手伝ってあげるわ…!」
「…オレも皆の助けがあって今に至る…。当代のホアカリ…ミケヒコだ。修行の相手ならば協力は惜しまん!」
「ま~ま~…最初からカムイのふたり相手にしちゃったらそれこそまたまたカリ・ラマトゥしちゃうから…最初はわたしがお相手するね♪ ミチヒメです、よろしくね♪」
「…みなさんまだお若いのに…とんでもない錬り上がり方ですー! よろしくですー!」
「…まずは状態の確認をしてみましょう。属性のトゥムもまだな様ですので、適正も観ながら契約もして参りましょう…!」
「わかりましたー! ありがとうですー!」
「では…外に出てついてきて下さい」
ゼスト・リウスとカンナは皆と一緒にオオトシの後をついて行った。
己を磨く錬の始まりですね♪




