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第93倭 彼のモシリより来たれりモノ達

海を越えてきたのは…

「…ここは…どこでしょー?」


 海を越えてかなりの間飛翔し辿り着いた地で、彼の世界で絶屯と呼ばれしシンノ=パセは辺りを見回した。成る程不思議な巨大な植物が鬱蒼(うっそう)と生い茂っている。巨樹巨草の森をしばらく歩いてゆくと…巨大蛇が(あらわ)れた! それはかつてあの世界にいたモノとはまるでかけ離れた大きさであった。 彼から()たそれは…我々から観た大地統べる女王(モシリ=ニン・ルガル)たる女媧(ニュゥワァ)本神を超える程であった。


「…これは…試しにお手合わせしてもらいますねー!」


 シンノ=パセは意識を集中させて氣力(トゥム)を練り上げようとした。するとどこからともなく莫大(ばくだい)氣力(トゥム)が自身へと流れ込んできた。間違いなく己の許容を超える量で身体が破裂しそうな感覚に(おそ)われた瞬間、全身がうねる様に脈打つように(うごめ)くのを(かん)じた。


「…まだまだ()り上げられそうですー!」


 更に氣力を高めていく…!…。…。…。限界まで高め終えて目を開くと…先ほどの巨大蛇は消え去っていた…。辺りを探せども全く見当たらないどころか、気配すら感知でき…いや…ごく(わず)かであるが…観じる…下…足元…! …‼ 驚くべき事に巨大蛇は面影が微塵(みじん)も無い程に縮んでシンノ=パセの足元でうねっていた…。


「…まさかキミがさっきの大蛇さんですかね…?」


 そう言いながらよくよく辺りを見回すと…樹々も草も物凄く小さくなった気がする…いやこれは…


「僕が…大きくなったんですねー…!」


 振り返ると海の向こうに今まで暮らしていた大陸…いや…島も観えた。


「…あのアトゥイ()も…こんなにせまく…あのポンモシリ()も…今までこんな物凄く小さなモシリ(世界)にいた…そう言う事でしたかー…」


 もはや小蛇と呼ぶべきそれを優しくひと撫でして、シンノ=パセは己の姿を確認してみた…。先ほど大量の氣力を吸収した際に姿が変貌(へんぼう)した様である。甲虫の外殻の様であった手や足は通常のモノ達と変わらない状態になっていた。頭部を触ってみると…以前は明確に存在していた触角が髪の奥に僅かな痕跡として手に触れた。これならば大柄な緋徒(フィト)にしか観えないだろう。


「…ころ…アミㇷ゚()は…とりあえずはこれで…良きですー…」


 そう言うと氣力を具現化(ぐげんか)させて作った衣を(まと)い同様に形成した帯を締め村落と思しき方向へと歩いて行った。


アマソトキ(寝床)と…イペ(食事)をいただけないでしょうかー?」


 シンノ=パセは村落(コタン)のとある(チセ)の門をたたきそう(たず)ねた。


「うん? ほぉ~どっから来たのか知らんが…えらい立派なケゥエ(身体)だな兄ちゃん。明日の仕事を手伝うならイペとアマソトキを用意してやろう。どうだい?」


「たすかりますー。明日は何をするのですー?」


「ああ、あっちのポンモシリへ行って()を切って運んでくるのさ」


「お安いご用ですー♪ まかせてくださいー!」


チパ=チパ(期待する)してるぜ! ま、しっかり食って休んどきな!」


 そう言ってその家の主は食事を用意してくれた。


「美味しいですー! こんな味、はじめてですー!」


「ただのアマム()の炊き込みだが、口にあったようなら良かった! 好きなだけ食ってくれ!」


 シンノ=パセは心行くまで腹ごしらえをさせてもらい、貸し与えられた寝床につくと変貌の反動か泥のように眠ってしまった…。


「…アメ…さん…」


「…おう、起きてくれ! クンナノ()だぜ!」


 目を開けると…(つぶや)き求めたモノではなく昨日の家主がいた。


(…アメさんが観えた気がしたのですが…? タカラ(夢に観る)したモノでしたね…)


 シンノ=パセは気を取り直し朝食を済ませた後家主について舟に同乗し…彼らの世界のあるハルマヘラへと向かっていった。


(出てきたばかりでまた戻るとはです…)


 しかし皆と同様の縮尺になりあらためて観てみると…あまりにも近くて驚きを隠せなかった。程無くハルマヘラに到着し皆それぞれ作業に取り掛かり始めた。


「なにをしたらいいですー?」


「おお! じゃぁこれつかってチャチャ(鋸で切る)してくれ! その後みんなで運ぶからな!」


「わかりましたー。何本くらいですー?」


「そうさなぁ…全体でニ十本くらいだから…三本もチャチャしてくれれば十分だが、やったことはあるかい?」


「いえいえー。でも大丈夫ですー」


「そうかい。倒す刻は誰もいないのを確認してから頼むぜ!」


「わかりましたー」


 シンノ=パセは快く返事を返し森を観る。


「…すみませんが必要な分だけ頂きますー」


 そう断りを入れて祈りを捧げ己が手に氣力を集中し始める。みるみる強さが跳ね上がり氣力の刃が形成された。それを森に向け数回振ったかの様に観えた後…目的の本数の木が次々と倒れていく…!


「…今日の分ニ十本切り終わりましたー!」


 少し大きな声で家主やその仲間たちに話しかけた。


「な、なんだって⁉ そんなバカな…! …‼ こ、こ、こ、これ…オマエがやったのか?」


「そうですー。アマソトキとイペのお礼に皆さんの分もしておきましたー」


「…成る程…アンタ…エィキ・クル(権能の遣い手)さんか…! でなきゃこりゃいくら熟練(じゅくれん)でも無理だもんな!」


「…エィキ・クル(権能の遣い手)…? そーです、トゥム(氣力)ヌプル(霊力)(つか)えますー。みなさんは遣えないのですか?」


「そんなひょいひょいいてたまるかい! そこそこのコタン=コロ=クル(村の長)モシリ=コロ=クル(クニを治めしモノ)ルーガル()…そしてラムハプル=モシリ(自然の)=コロ=クル(盟主)くらいだろ!」


 シンノ=パセはまたもや家主のその言の葉(イタク)を聞いて今まで自分のいた世界との相違を観じた。


(…あそこは殆どのモノが遣えていましたねー…。こちらではめずらしいのですね…)


「おい! こっちこい! すっげ~ピリカメノコ(美女)がいたぞ!」


 仲間が興奮気味(こうふんぎみ)に家主に呼びかかけた。


「なんだ? どこからか迷い込んだか? …コィヤンケ(漂着)したのか?」


「とにかくすっごいんだわ! まーこいや!」


「…女性が見つかったのですー?」


「ああ、それもすっごいピリカメノコらしいぜ。ま、行ってみよーや」


 そう言う家主の後をシンノ=パセもついていく。


「…あの…やめて…下さい…」


 観ると一人の女性が一糸纏わぬ姿で男衆(おとこし)に囲まれていた。顔が長い髪に(かく)されていて今一つ確認できないが、確かにそのしなやかな肢体からも美人であることは想像に(かた)くない。


「たっまんねぇなぁ~♪ オラぁもう…!」


「待っとけ! コイツはイホクシ()に出したらとんでもない高値になるからその儲けで好きなだけ楽しめばいい」


「わしゃぁ儲けよりこのメノコ(おなご)がええなぁ~!」


「じさまアンタその年でまだそんなこと言うか?」


 中心格らしき男がその老人をはじめいきり立つまわりのモノを抑えていた。


「…一生遊んで暮らせるからちぃとガマンせいや」


 そう言って一同を制止してその男…親方が歩み寄った。


「なぁに…おとなしくついて来てくれりゃ…アミㇷ゚()イペ(食事)もちゃんとあてがうからよ…」


「…私はどこかに売られてしまうのですか?」


「まーそーだが、アンタほどのモノを買ってくのはちっとやそっとのお方じゃないから悪いよーにはされないと思うぜ?」


「…私も皆さんと一緒に仕事をしてアミㇷ゚やイペのお礼をする訳にはいかないのでしょうか…?」


「…悪いケド…アンタ…オレらのそばにいる方が危ないと思うぜ? あんまりにピリカメノコ(べっぴん)さん過ぎてみんなもう参っちまってるくらいだからな…!」


「おう、親方、そんなになのかい?」


 そう言って家主は親方に話しかけた。


「おう来たか。とんでもない上玉だ。間違いなく大陸のお偉いさんの目に留まる。何だか(たたず)まいにも品があるしなぁ」


「へぇ~。どら…ちょいと顔を見せてくれや…っと…!」


 家主は顔を拝もうとそっと髪をかき上げた。


「…あ、あ…アメさん!」


「っ! そ、その声は…!」


 アメ、と呼ばれた女性は一目散にシンノ=パセの元へ駆け寄ってきた。


「あ、会いたかったです! 追いかけて出てきたのは良かったのですが…ケゥエ(身体)にあうアミㇷ゚()もなく…このモシリでの私は本当に何のチカラもないのをニタィ()をさ迷い歩きながら痛感していた(ところ)です」


「な、なんでい、あんちゃんの知り合いか!」


「…知り合いなんかではないです…僕の…このモシリで一番大切な存在ですー!」


 シンノ=パセはそう言うとアメを抱え上げた。


「あんまり上手ではないですが…とりあえずこれでいいですー」


 そう言いながら氣力を具現化した衣でアメの体を(おお)った。


「さすが…シンノさん…あ、あら…あちらでの名前が…呼べません…?」


「アメさんは…アメは…こちらにもあるイタク(言の葉)だったからですかねー? 普通に呼べますねー!」


 そうこうしている二人に親方が歩み寄ってきた。


「ここらでは…ポンモシリ()の外からコィヤンケ(漂着)したモノは…例えメノコ(おなご)であってもすべて見つけたヤツの財産なんだわ…。だからニィちゃん…その(フィト)をこちらに返してくれんかね?」


 力ずくで来ないのはシンノの体躯(たいく)を観ての事だろう。


「えー。それでしたら今よりもずっと前に僕はアメさんを見つけていますよー? その決まりなら僕の財産という事になりますねー」


「なるほどな、一理ある。しかし、こちらには取得も婚姻も届け出はないぞ?」


「それはここと別の…モシリでですねー」


「ここではここのイレンカ(決まり)でやってもらわないとオレ等も困る」


「…困りましたねー。ではどーしたら良いですー?」


「このピリカメノコ(べっぴん)さんに見合うだけのモノを支払ってくれれば一向にかまわんぜ?」


「それはどのくらいですー?」


「そうさなあ…。最低でイペ(食料)を十の季節分ってとこか」


「ここではそれはどーやったら稼げますー?」


「…オマエさんならきっとトゥムコロクル(闘士)としてコラㇺ・ヌカㇻ(比武)するのが一番じゃないか? そのケゥエ(ガタイ)だし…さっきの()の切り方…かなりトゥム遣えるんだろ?」


「まーたしかに…僕も余計に誰かを傷つけるのは好みませんので…それで良いですー」


「…よし…じゃぁ…一旦このピリカメノコさんはウチのコロ=クル(領主)に目通しする形で連れて行くからな」


「…わかりましたー。ただですね、アメさんの身に少しでも何かありましたら…僕は全力で連れ戻します…!」


 親方の脳裏に…アメを連れていく選択はもしかしたら最大の過ちかもしれないとのヲモヒが()ぎったが、命も受けていたし二重に儲かることを考え頭の片隅へと追いやった。


(…大丈夫…いくらなんでもあのお方達には勝てまいて…大きさも…そのトゥムアスヌ(力強さ)もまさに人智を超えてやがるからな…)


「…それでは私はいったん囚われの身となるのですね…」


「ああ。すまないが大人しくついてきてくれんかね?」


 一瞬シンノを見やると、申し訳なさそうな面持ちで頭を下げたので、その気持ちを汲んで今は大人しくしておく事にした。


「わかりました! それではコラムヌカラ=ミンタ(比武台)ラへ行きましょう!」


 一行は木材とアメを連れてテルナテへ戻っていった。

彼のモシリより出てきて二人はテルナテへと帰還する事に…。



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