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第10倭 洋上のヤイヨトゥリムコテ(悪い出来事を知らす前触れの声)

のんきに考え無しに好奇心で海に出たヤチホコたちでしたが…

(…あと少し…むにゃむにゃ…古代史はやはり面白いなぁ…)


「(…き…きて…おきて…)!ホプニ ハニ(起きて)!」


(…!?…あ、あの子は…こんな起こし方はしない…はず…?)


 ものすごい勢いで身体を激しく揺さぶられながらそう思った。

 次第に目が開いていく…・眼前には緊張した面持ちの女の子が!


「…。…!スセリちゃん!どうしたの?」


「後ろ見て!」


 その声に身体を勢いよく起こしながら飛び上がって反転して見やると…巨大なレパチプ(大型船)がすぐそばまで近づいていた。


(…これで気付かないなんて…!昨日本当にすべて使い果たしてしまっていたのですね…!)


 その巨大な船は止まろうとせずこちらに向かってくる。


アリキキノ=トゥム(僕らの全ての氣力)ユピウ(注入)! ニサプ=シカリ(急旋回)!」


 二人の全てのトゥム(氣力)を注ぎ全力で回避する。

 凄まじい勢いで眼前の海面に巨大なトゥケチャロマプ(両刃の剣)が天より降り注ぐ雷の如く轟音と共に落下し、衝撃で津波の如き波飛沫が起こった。


 ロクンテゥ(帆掛け舟)が大きく揺れ、必死でトゥムを発し転覆を抑える。

 剣の顕れるさまと対照的に…ゆるやかに音も無くその巨大なトゥケチャロマプの柄に白鷺の羽の如く舞い降り、腕組みしながらこちらを見据え不敵な笑みを浮かべながらゆっくり話し始めた。


「…一仕事の後の余興があった様ですの…ほほ、…これはこれはカワイイ贄ですの、ほほ♪」


 そのモノはヤチホコたちを舐め上げる様に見て不気味に微笑んでいる。

 端正な面持ち故に一層その残酷さと冷淡さが感じ取れる様な佇まいであった。

 最悪の危険を感じ取り、全力で逃げようとするもトゥケチャロマプに座したまま瞬時に回り込まれ…


「…これこれ…せっかくの楽しみよ、どこへ行くのじゃ、ほほ」


 ヤチホコは覚悟を決め、イチかバチか全力の一撃を放とうと内側から深く静かに出来る限りのトゥムを練り上げる。

 不敵な笑みを浮かべこちらをゆっくりと舐め上げるように見ながら言う。


「…そうそう…そうでなくてはの、ほほ」


 ハッキリ言って万が一もない!でも何かしなければ本当にゼロ!封環に手をかけ外そうとした刻…!


「スザク!そのまま!ビャッコ!全力でちょうだい!」


 遥かな上空より一筋眩い閃光が!


「はぁぁ!白虎雷爪斬(ビャッコライソウザン)!!!」


 轟音と共に眼前の海面が大きく裂けて爆ぜる。


「…いない…?…あ!ヤチホコあっち!」


 姿をとらえたスセリの声に目をやると…先程とは打って変わって険しい表情を浮かべながらもトゥケチャロマプに座してこちらを見据えていた。

 先の攻撃の主から強いイレンカ(ヲモヒ)のこもった言の葉が。


「…ミカヅチ!皆のカタキ!ここで討つ!」


 声の主を確認するや、不敵な笑みを浮かべなおしてミカヅチと呼ばれしモノは言った。


「…これはこれは…今は亡き下伽耶(アラカヤ)のヒメさまではないかえ、ほほ♪」


「…亡き…モノにしたのは…オマエ達じゃないかぁ!」


 傍で見ているヤチホコ達まで寒気のするような凄まじいトゥムが吹き上がり(ほとばし)る!

 己の知るそれとあまりにも懸け離れ過ぎていて気付けなかったけど…それはミチヒメであった。


(ぼ、僕の知るミチヒメとは…全く別人です!一体どうして…?)


 ヤチホコが驚いていると反対側より今度はあろうことかウェントゥム(魔闘氣)が吹き上がる。


「今度こそ逃がさないぞ!よくも…!」


 こちらも似ても似つかぬ気勢と気質であるが…アビヒコ…のようである…?


「青龍!玄武!みんな一緒にわたしを全力まで高めてっ!」


(な、な、何がなんだか全くわかりませんがこれは…イレスミチ(お義父さま)…いえ彼のスサノヲさまに匹敵するほどの強さではないでしょうか…?…さすがの彼もこれはどうにもならないかと思われます…!)


 ヤチホコはそう思いながら固唾をのんで見守っていた。


疾如(トクコト)白虎(ビャッコノゴトク)徐如(シズカナルコト)青龍(セイリュウノゴトク)侵掠如(シンリャクスルコト)朱雀(スザクノゴトク)不動如(ウゴカザルコト)玄武(ゲンブノゴトシ)!」


 四種の異なる力が光となり一つに収束して強い輝きを放っている!


啊啊啊啊啊啊(やぁぁあああ)っ!!!獣王(ジュウオウ)究極発勁(キュウキョクハッケイ)!!!!」


(…キムンペ=ルーガル=シ=パセ=ケゥエ=チ=コトゥイエ…!?)


 ヤチホコは信じられないとばかりに技の名を反芻していた。

 叫びながらミチヒメは大きく踏み込んで一撃を放った!

 その瞬間光に包まれて視界を失うのと同時に凄まじい轟音が鳴り響き水飛沫が激しく舞い上がった。

 しばらくして視界が晴れゆっくりと見えてきたのは…

 翼を携えたモノ?…が、ミチヒメの放った撃を片手で受け止め…優しく上空へいなした。


「…まだこのモノを失うわけにはゆかぬ…」


 ミカヅチ…は九死に一生を得た安堵の表情と屈辱に(まみ)れた表情を残し翼のモノと一緒に消え去っていった。


「~~~~!逃げられた!くやしい!!」


 ヤチホコたちは…眼前の脅威が去り難を逃れた事により正気に戻り、突然現れて自分たちを助けてくれた二人を見た。


「ふふっ…久しぶりねヤチホコくん…間に合ってよかったぁ♪」


 眼前に立ち四獣王(イネキムンペルーガル)の装いを解いたそれは確かにヤチホコの知るミチヒメであった。


「あ、ありがとう…しかしさっきの…本当に…ミチ…ヒメ…?」


 良く観ると武装を解いた彼女の周りにふよふよと何やら不思議なモノが浮かんで見える。


「…この子たちのチカラに助けられた今こそ、本当のわたしよ♪」


 確かに神前(カムイキリサム)比武(=コラムヌカラ)では互いの力以外は使えないとあった…!


「…そしてアビヒコ…?」


 先程のウェントゥム(魔闘氣)の正体はどうやらアビヒコだったようだ…。


「うん…ぼくは今の…カムイ=カミヤシ=ア(神魔並)ケ=ウク=アリキッパ(行励起)

 …これをしないとまともにトゥムもヌプルも使えないから…」


 変化した半身を元に戻しながらアビヒコはそう答えた。

 神前比武の刻、わずかに出せるヌプル(霊力)をミチヒメに渡し、その範囲で戦っていたとも。


「だから自分の力でひととおり出来るキミたちは結構スゴイよ♪」


「なんかまったくそういう気はしませんが褒められたので悪い気はしませんね♪」


 自覚はないながらもアビヒコの言葉を素直に受け入れているようであった。


「そして…何か…懐かしいカンジもあって…少し年上で…素敵なメノコ…♪」

 ヤチホコがそのようにミチヒメに対しヲモヒ募らせていると…

 …ヤチホコの隣と目の前から鋭いトゥムが発せられているのを感じた。

 隣のアビヒコはまたもや異形の姿に…。


「ふっふーん♪…お姉さんステキかしら?」


 軽く片方目配せしてミチヒメがイラムモッカ(いたずらっぽく言う)する。


「あは…スセリちゃーんもうイイヨマプカ(めんこい~)んだからぁ~♪」


 気付く間も無くきゅっと抱きしめられ耳元からその言の葉を聞く…。


(…とてつもなく…迅い…!)


 スセリは圧倒的な差を感じて我に還りトゥムを納めた。

 ミチヒメはアビヒコとスセリの頭を撫でながら言った。


「さぁ!アチャポ(叔父さま)の待つ上伽耶(ウガヤ)へ行きましょ~!」


 その掛け声とともに一行はクニの名を冠するウガヤ兄ことウガヤのもとへ向かった。

神前比武で岩石牢の中で使った本当の力がこれですね♪


用語解説です~m(__)mまずアイヌ語とそれを使った言葉からです。

アリキキノ:精一杯

トゥム:氣力

ヌプル:霊力

ユピウ:力を入れる=注入(意訳)

ニサプ:急に、突然に

シカリ:旋回する

トゥケチャロマプ:両刃の剣


イネ:四つの

キムンペ:(山の)獣、野獣

ケゥエ:からだ

チ=コトゥイエ:私の意思を透す=発勁

ウェン:悪い…より、ウェントゥム=魔の氣力…魔闘氣とさせていただきました

カムイ:神

カミヤシ:化け物、魔物

アスケ=ウク:手を取る

アリキッパ:精一杯(複数形)

神と魔が手を取り共に全力を発揮=神魔並行励起としました


カムイキリサム=コラムヌカラ

神の御前で度胸を試す=神前比武としています

イラムモッカ:冗談を言う

イイヨマプカ:かっわいい~♪、めんこい~♪

アチャ、アチャポ:親族の叔父とどちらも書いてありますが…どちらが間違いかわからないのでアチャは父、で使われたことを目にしたことがあるのでこうしました。


ルーガル:王…これはシュメール語です。


地名など

上伽耶:ウガヤ

下伽耶:アラカヤ

ともに昔朝鮮半島に存在した国です。一番日本よりです。加羅とも。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BC%BD%E8%80%B6

興味があればココなどを参照にどうぞですm(__)m

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