初対面だって恋をする
――――――――――ここはソーヤ大陸。魔王が大陸の侵略を企て、剣や魔法などが存在している、いわゆるファンタジー世界である。そんな大陸の、魔族も侵略を企てないであろう、辺境の森の街道で、その少年は歩いていた。
「♪♪♪♪♪」
少年が機嫌良さそうに鼻歌を口ずさんでいる。どうやら向かっている方向から考えて、森の方に向かっているのだろう。
その少年の名は、ロアと言った。今年で14歳の彼は、ヘイン村という田舎の小さな村で育った。8歳の時に親が行方不明となり、一人で村のはずれの山小屋に住んでいた。彼はお金がなく、自給自足の生活を余儀なくされていた。
おそらく、自給自足のため、山菜でも山に採りに行こうとしているのだろう。
少し歩いていると前方から、貧相な皮衣を着、フードを被っている不思議なオーラを纏った者が近づいて来ていた。
「こんな山中に一人でどうしたんだろう......?俺もだけど......」
ロアがそう思って不思議に思って首を傾げた瞬間、颯爽と風が吹き、その者のフードが着用者の顔を隠すのを辞めて、着用者のまるで絹の様な灰髪と、少女の顔を顕にした。
ロアはその少女の容貌を見て、目を見開き、感嘆の声を漏らした。
「え..かわいい......」
灰の色の髪に、輝きを放ち、透き通ったルビィ色の瞳。まるで天使、いや堕天使の様なその少女の姿を見て、ロアは少女に一目惚れをしてしまったのだ。
次の瞬間、本当に、いつの間にか少年は少女の正面に向かっていた。
少年は、清流の様に呟いた。
「好きです!」
ロアは真っ直ぐで正直な少年であった。
いや、不器用と言った方が正しいかもしれない。
ロアは思い立ったら行動するタイプ......の究極系だったのだ。
元々、友人も何もいなかったからかもしれない。
名前を聞いたりするのをかっ飛ばして、最初に好きと......。
これには酒場のナンパ男でも感服である。
「あ....え..!?」
少女は頬を赤らめて理解に苦しんでいた。
急に好きと言われたから?
いや、それだけではない。
少女は魔王だった。世界の諸悪の根源、魔王。恐れられたその魔王の名は、リアと言った。
リアは、好きと言われたのは初めてだったのだ。
しかも、名も知らぬ少年に。
「急に何を言ってるのだ!お主は!ワシは恐れ高き魔王じゃ!身の程をわきまえよ!」
魔王は冷静に答えた。と、自分では思っていた。
魔王だと言えば、相手も怖がって逃げるだろうと思ったのだ。
でも、そんなことは恋に落ちた少年の前では無意味だった。
いや、人間達が考えていた魔王の性の通り、リアが本当に悪の根源、強欲で無慈悲な魔王だったのなら、ロアにも効果があったかもしれない。だが、リアは魔王である以前に年頃の少女であったのだ。少女は自分の恥の感情を隠し切ることは出来なかった。魔王に相応しい様に、言葉の語尾に「じゃ」とか「のだ」とか言っているのも少しでも自分を大人っぽく、相応しい魔王っぽくしようとしていただけだった。
「じゃあ、貴方の元で僕も働くので、一緒に居させて下さい!料理とか出来ますよ!」
――――――――――――――――――――――――――――――――――「はあああああああ!!!!????」
ロアの言ったことがリアに理解出来るはずもなかった。だって魔王なのだ。皆怖がるはずだ。
それなのに.....。
「嫌じゃ!お前みたいな人間を雇えるわけあるか!」
リアはその華奢な身体から生えている魔族の羽根を使い、飛翔して逃げた。
でも、ロアは足が尋常じゃないくらい速かった。ロアからは逃げられない。
その後、リアはやっとの事で魔王城の玉座の間まで帰って来た。リアが安心したのも束の間、ロアは
自分の足で魔王城に着いてしまったのだ。
ロアはそのまま魔王城のトラップを掻い潜り、玉座の間に辿り着いた。
そこにはリアがいた。
「ここで働かせて下さい!」
「お主!なんで魔王城にまで来れて、はたまた中に入れるんじゃ!おかしいじゃろ!」
リアは純粋な疑問を投げ掛けた。だがロアの答えはリアの予想を大きく覆すものだった。
「あなたの事が好きだからです!」
リアは赤面した。まるで大衆の面前で恥ずべきことをしてしまったの様に。あるいはそれ以上に。
「......もう良い、勝手に働け!」
「はい!」
リアは少年の熱情に屈し、溜息をついた。
――――――――いや、熱情に屈したから、だけではない。リアはロアの価値について考えたからだ。
ロアは他種族と魔族の和解への架け橋になるかもしれない器だ。
魔王城を単独突破できる程の力。
それをもってすれば、人間の民も屈するかもしれぬと思ってのことだった。
「クックックッ......」
魔王は不敵な笑みを浮かべて、嗤っていた。........まあ、本当にその魔王の思惑が果たされるのかは、分からないが。
これは、魔王と少年の恋物語。
そして、世界を救うかもしれない物語。
これはその、出会いの物語である。