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「家にきませんか?」
冬乃先輩の言葉に舞い上がる。
あの憧れていた先輩に家に誘われる。そんなときめく展開を考えられただろうか。
浮かれた気持ちで後をついていく。
そんな台詞を言われて落ち着いてられる男子はそうそういないと思う。
彼女の歩調に合わせて出てしばらく歩き、ビル高さが段々と小さいものに変わっていく。
気づけば狭かった空は広がり続け邪魔する物は見当たらなくなっていた。
時間にして30分程度だったけれど、体感はものすごく早く感じていた。
更に数分、彼女に案内されて辿り着いた先に先輩の自宅があった。
「……ここなの」
先輩が指さした1件のアパート。
白かったであろう壁は黒ずみ、至る所にヒビが入っていた。
「ごめんね。こんなボロアパートで」
悲しげに微笑む先輩。
確かに知り合いにこういう場所に住んでいる人はいなかったが、全員が全員裕福な暮らしをしていたわけではないし。それがたまたま先輩だったということのだけだ。
そもそも長くはないけど、短くもない付き合いだ。彼女が裕福ではないことぐらい気づいていた。
「冬乃先輩と一緒なだけで俺はうれしいっすよ」
そう言って、彼女に笑ってみせる。
釣られるように「ありがとう」といつも笑顔で返してくれた。
あまりにも明け透けな態度だったため自分でも恥ずかしくて顔が熱かった。再会してからのこの流れ、少々というには大きすぎて、自分でも驚くほど大胆な台詞だったようにも思う。
カツンカツンと錆びた階段を登り、一番手前の部屋。201号室に鍵を差し込み「入って……」と案内された。
薄暗く部屋の中を歩くのには不安を覚えたが、俺の手は彼女の温かい手に包まれる。
カチっと天井に吊るされた明かりを灯すとようやく部屋の全貌が明らかになった。
忙しいのか敷きっぱなしになっていた布団の周りに脱ぎ捨てられた服や下着。壁の傍には籠がありその中にも衣類が積み上げられていた。
「恥ずかしいからあんまり見ないでね」
「あはーっ……」
まじまじと当たりを見回していた自分の行動に苦笑いを浮かべながら頬をかいた。
いくら舞い上がっていたとしてもアホだろ俺……。
「それでね、春人くん」
彼女にしては珍しく緊張した面持ち。
くりくりとした瞳は前髪に隠れ、ぷっくりとした小さい唇も震えている。
彼女の反応から俺にも緊張が移りそうだ。
「抱いてくれない?」