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翌日、いつもより1時間早く登校。
もちろん藤井さんたちに話を聞くためだ。
「おまたせ市ノ瀬くん」
「昨日の今日で悪いな」
「いいのよ。友達でしょ」
本当にいい友達を持ったと思う。
困った時に手を差し伸べてくれる友人。
恋人の冬乃もそうだが、智明と藤井さんという何者にも変えられない貴重な存在。
「それで、冬乃さんなんだけれど強姦未遂だったのよ。幸いね、機転が効いて逃げだせて、わたしに連絡が来たってところかしら」
予想はしていた。
自宅に破り捨てられていた衣服。
何か盗まれた形跡はなかったこと。
目的は冬乃だろう、と。
どうしようもないとはいえ、彼女の隣にいれなかった事が苦しい。
警察には連絡した。
ただし衣服のことは隠して。
あくまでも窃盗未遂かストーカー被害として扱われ、戸締まりの強化と何かあればすぐに連絡を下さいとだけ。
これだけで事件が終わるとは言い切れない。だからこそ被害者ですというアピールは大事だ。
「それでしばらくは家に泊まって、ホテルにでも移るらしいわ」
「あぁ、冬乃からそんな内容のメッセージが届いてたな」
「そうなのね。何時まで居てくれて構わないのだけど、それが心苦しいのかしらね? 24時間従業員のいるホテルは安全だからといって数日後には出ていくみたい」
言っていることはもっともだと。
「確かに大人が働いている場所なら大丈夫か」
「ええ、流石に無計画ならわたしも無理矢理にでも止めたでしょうね」
最近思い出して位置情報アプリを一日一回は見るようにしている。
居場所の把握ぐらいは出来ることに感謝。
「あと、一つ謝罪しておくわ」
「なに?」
「智明から聞いた話をそのまま冬乃さんに話してしまったの」
「?」
「お父さんと喧嘩した内容」
風俗嬢だから付き合うのをやめろって話か。
「どのみち話し合わなきゃいけなかっだろうし、遅かれ早かれだからなぁ」
それに関しては別に。
冬乃がどう思ったかは預かり知らぬところ。
自分を責めてなければいいが。
無理だろうなぁ。
優しい子だ。優しすぎて自分を追い込む。
「ところで智明は?」
ここまできて姿を見せていない藤井さんの彼氏。
俺ら以上にいつも寄り添っている二人の姿、片方いないのが珍しい。
「今、高橋先輩を監視してるわ」
「誰それ」
「……同じ学部の先輩よ? 本当に興味ない人は覚えてすらいないのね」
はて接点はあったのだろうか。
同じ学部というからないは遭遇する可能性はあるだろうけど、全然思い出せない。
この性格は短所だと自分でも思うのだが、改善の見込みがないので。
「覚えておいたほうがいいわよ」
「なして?」
「冬乃さんのストーカーよ。ほら夏休み前に彼女が出来たとか豪語してた丸メガネの冴えない男」
「……ま?」
無言で頷く藤井さん。
どんな奴だろう。
冬乃の客でストーカーになった男とは聞いていたが、同じ大学にいるとは驚きだ。
「目怖いわよ?」
「怒らないと思うか」
「……愚問だったわ」
「どういう奴?」
高橋遊。
一個上の先輩で二十歳。
親に医者を持ち金銭的に裕福な家庭で育つ。
だが医学部に入れなかったことで、親からは見捨てられ金だけを渡されて一人暮らし中。
というのはこの大学で同じ学部の人間のほとんどが知っている情報らしい。
ただ周りの評判は、とてもじゃないが良いものではなかった。
性格は傲慢、気に入らないことがあれば金で釣った友人を使い嫌がらせをする。
好みの女性には執拗につけ狙い、セクハラまがいのことをする。
それが明るみになればいじめが始まり、世間に広まるようなことがあれば金で解決。
そのせいで大学をやめた生徒が数人いるということだ。
とんだクズ野郎だった。
「…………はぁー。頭いてぇ」
冬乃も変なのに付け狙われたもんだ。
他人事じゃないだけに頭痛が酷い。
異変が起きたのは翌日。
日課になっている冬乃の居場所確認。
いつものホテルであんまり動きがない。
たまに食事に出掛けるために外に移動してるぐらい。
スマホから目を離し、学食に移動している時だった。
やたら視線を感じる。
しかも、なーんか嫌なじめっとした視線ばかりだ。
次の日にはカップルがこちらを見ながらひそひそと怪訝な顔を覗かせながら話をしているのが見えた。カップルだけではなく、講義室に入ると全員が一斉にこちらを向き嫌そうな顔をしていた。
行く場所行く場所で同様の視線。
更に翌日は膝にカレーをぶちまけられた。
これまでいじめられたことなどなかったが、こんな感覚なのかと。
確かにきついなこれ。
どこにいても見られている。
実害がないから無視できていたが、こう被害を被ると流石の俺でも思うところが出てくる。
いないものとして扱われるほうがいくらかマシだ。
幸い大学という環境のおかげで、付き合う人間を選べる。
小、中、高と閉じられた世界の環境ならば折れていたかもしれない。
俺の変わりにキレた智明のおかげで救われる気持ちもあった。




