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憧れの彼女  作者: 「」
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仕事の面接が終わり、その近くにある公園のベンチで休んでいると。



「……冬乃先輩?」



少し緊張したような震えた声で名前を呼ばれて驚いた。

誰だろう?

声のした方へ向くと。

どこかで見た顔がそこにあった。

地毛なのか綺麗な赤茶色の髪に、少し目つきが悪く怖そうにも見えるが私を見る瞳には優しさを含む。


あぁ、高校を卒業してから1年。

どこか大人びて見えた。

市ノ瀬春人。

彼の名前だ。

私の一個下の後輩。


中学は同じ委員でよく二人で仕事をしていた。私のほうが年上だけど、やっぱり彼は男の子で力仕事なんかはよく手伝ってくれた頼もしい男の子。

高校では委員というものに入る必要もなくて、少し疎遠になってしまったけれど何かあるたびに良く話しをしていた。

実は私の初恋の子。

地味で大人しい私はあまり男の子とは話す機会がなく、一番よくしてくれた彼に恋心を抱くのには時間は掛からなかった。

それに、多分。勘違いでなければ彼も私のことを想ってくれていたのではないかと感じていた。

最初は私についてくる可愛い男子だと思っていたけど、素直に好意を向けてくるのが純粋に嬉しかったのを思い出した。


だけど、私は想いを伝えることが出来なかったし、彼も気持ちを伝えて来ることはなかった。

高校を卒業し、勘違いだったのかなぁって。

でも再会した今日。彼を見ているとどうやら勘違いでもなかったみたい。

少し顔を赤らめて頬を掻いてるのがとても可愛い。



「えっと、春人くん」

「お久しぶりです」

「うん。そうだね久しぶり」

「どうしたんっすか、こんなところで」



言葉に詰まった。

何も言えなかった。言えるはずがない。

風俗で働くために面接を受けてきた。という事実。


12月の初めに母が倒れた。

幸いに命にかかわるような病ではなかった。栄養不良と過度な疲労によるものだった。

けれど、うちは裕福ではない。

私が幼い頃に父親が借金を抱えたまま蒸発。なんとか母が一人で稼いで私を育ててくれたが、資格もなく人との繋がりもない。パートをフルで働いても別のパートを増やし働いても、家計は回らなかった。私も高校からアルバイトを始めて全額家に納めていたが、所詮は高校生の収入。ボロアパートの家賃程度にしかならなかった。

卒業後は私も働いて家計の助けになるつもりだったけれど、母の強い勧めもあり大学へ進学した。

母が倒れてからは大学は休学し、それまで働いていたウェイトレスのアルバイトに加え清掃員の仕事も掛け持ちした。

収入がなくなり、入院費に重なり。立ち行きいかなくなってしまい。

体を売ることに決めた。


私にはどうすることも出来ない。どうすることも出来なかった。

明日には研修があり、そのまま。

私が普通の女の子としていられる最終日。――命日。




「家に来ませんか?」



思い出をください。

どうか、最後は素敵な男の子の傍で。

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