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憧れの彼女  作者: 「」
19/53

この3ヶ月は新人期間だった。

新人割が効いて私はあまり待機時間がないと思っていたが、新人のマークが解かれても客足は減ることなく常連は増えたし新規も途切れない。

お店用の携帯アドレスにも一日15件から多い日は30件以上きていた。

日給も安定しているしこのまま行けば来年は大学に戻れるとそう思っていたところに店長に声を掛けられた。



「なんですか? このあと準備があるんですが」



店長に対してこの態度は自分でもどうか思うが、あまり接点がないので怪訝な表情を浮かべてしまった。



「大した話じゃない。うちの系列で高級ソープのほうでいくつか急に空きが出来てね、上の連中にいい娘がいないかと相談を受けてね」

「……ソープですか」

「そうソープ。うちとやること変わらないからすんなりと慣れると思うけど」



私が返事に渋っていると、店長は腕組みをほどく。



「その気になれば君は結構稼げると思うよ? 今でも人気嬢だ。本番がないのにもかかわらずだ」

「はぁ」

「月100万を超えるし、大学の復学も早くなり来年以降の費用も短期間で稼げて仕事から足を洗うのも早くなるんじゃない」

「……」

「彼氏も早く普通の生活に戻ってくれるのを期待してるんじゃない? 仕事をやめるまでいつまでも交際できるとは限らない」



この大人は痛いところをついてくる。

彼氏の話を出されると困る。

彼は受け入れてくれているが、不安にさせていることは事実だ。



「お金を稼げるほうがメリットあるよ。そんなに彼氏が大事ならプレゼントとかで心を繋ぎ止めれる。まぁ考えといてよ。じゃあ僕もやることがあるから」



それだけを言って店長は個室から出ていった。

心では断われている。ただ理性と欲望の間で天秤が均衡を保てていない。

月にそれだけのお金が入れば貯金も多くなる。ほぼ毎日彼が食事や掃除をしてくれているが楽にさせてあげられる。

なにより魅力的なのは春人くんと、春人くんたち一緒に大学生活を送れること。

目標金額に達成するならば普通の女の子として彼らの隣に立つことが出来る。

だけど……。



「はぁ……」



やるせない気持ちがいっぱいになりため息をつくのだった。

店長室から出て、割り当てられた部屋へ指輪を弄りながら向かう。

今日を乗り切れば一週間休みを入れている。旅行だ。

楽しいことを想像しながら気分をなんとか切り替える。


メイクやヘアセットの確認をし、新規のお客ということで名前だけしか情報がない。

個室に備え付けれらた電話から連絡が来るのを素直に待つだけ。

しばらくして準備が整ったようで連絡が入った。

わかりやすいようにドアを開いたままにして、足元だけ薄く青でライトアップされた廊下を歩き、いつものドアの前に立つ。

今日の最初のお相手は私と同年代の男の子。

夏休みになったことで大学生が増えた。身なりからしてこの子も大学生かな。



「ご指名ありがとうございます。りおです」



いつもの私が乖離する。

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