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憧れの彼女  作者: 「」
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心臓がぎゅっと締め付けられる。

『冬乃』と、耳元で囁かれた名前がリフレインする。

でも彼がこうしたことをするのは珍しい。

何があったのか尋ねると、彼はちょっと苦笑いを浮かべながら思いの丈を語ってくれた。

そういえば風俗嬢はプレイベートでギクシャクしやすいって聞いたことがあった。今まで喧嘩もしたことがなかったから甘くみていたのかな。

彼も普通の男の子だ。いじけることだってある。

でも独占欲って……。

うれしいなぁー。



「馬鹿だなぁー、春人くん」



抱き合うような形で返し、彼の不安を拭うようにぎゅっと力を込める。

春人くんに仕事の内容なんて伝えることはしてこなかった。

それは単純に彼といるときは普通の女の子として見てほしかった、仕事のことを忘れて彼との時間を大事にしていること表れだ。



「私が仕事中に考えてることとかわかる?」

「いや、わからん」

「早く終わんないかなーっとか、夕飯どこに食べに行こうかなーとかばっかりだよ?」



これは恥ずかしくて彼には言えないことだが、接客中にされている時に目をつぶって春人くんがやっていることに置き換えて妄想に耽っていたりする。

早いお客さんと数回戦目だったりするときによくやる処世術。

個人的には添い寝を希望してくれたりした方がとてもありがたいのだけど、そうも言ってられない。嫌な顔をしてしまうとクレームを入れられてしまう。

新人の頃に必死すぎて3回目以降を断れなかったので、その辺は後悔しています。

はい。

リピートに繋がったので良ししましょう。


私の月給は大体平均70万程度。

昔では本当に考えられないほど金額だ。親の積み上げた借金の返済を入れても手元には30万以上は残る。

ちょっと自分にご褒美として散財したり、どうしても外食に頼り切りになって思った以上の貯金はできなかったけど。

真面目に努力はしてきた。彼と付き合っていなければ折れていたかもしれないほど、風俗の仕事は大変だった。

一人ひとりの接客の質をあげようとすると身体を張ることにも繋がり顎が痛くなったり、指や足だって痛める。

執拗に同じ箇所を攻めてくる人もいて、痛みとの戦いだった。

本番を強要してくる人もいて断るとクレームに繋がる。

水場の仕事で肌はれするし、男性の髭なども原因だったりする。


肌トラブルはケアしていくしかないのであれだけど。

それ以外はもう慣れていて、相手の考えていることを読み取り先回りすることでお客主体ではなく私が主導権を握る。

身体をこちらから密着させて触れさせないようにしたりとか。

とにかく色々とあるのだ。


恐怖を覚える出来事だって2度3度ではない。

でも、その度に彼の顔を浮かべてなんとかやってきたのだ。

仕事中は怪我にも繋がるのでお揃いのリングを外すことになるけど、いつも見える場所に置いて心の平穏を保ってきた。


間を置いて、私は彼に口づけをする。

それも本気のやつ。



「……んっ、今日から同棲するんだよ?」

「そうだね、ありがとう。もう大丈夫」



彼はそう言って私を抱きしめていた腕の力を抜き、そっと頭を撫でてくれた。

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