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王との謁見

なんか、俺だけ違うところに案内されたんですけど。


龍の形をした空車と呼ばれる乗り物を降りると、多くの衛兵らしき格好をした人たちが出迎えてくれた。

先ほどまで眠っていた隊長はその整った顔の瞼をこすりながら、一番偉そうな衛兵さんに抱えていた王子を引き渡す。

引き渡す時に何か喋っていたが、聞こえなかった。


ちなみに衛兵さんたち俺をみて、一瞬驚いた顔を浮かべたけどすぐに緊張感のある顔に戻る。

さすがプロ、おとぎ話の化け物ごときでは心を乱さないというわけか。


で、他の連中とともに移動していたんだけど、衛兵さんにみなさんが着替え終わるまでこちらにと言われて案内された場所。


周りの装飾品はキラキラと宝石や美術品らしきものが所狭しと目に優しくないものばかり並べられている。

絨毯の刺繍も金で編んであるんじゃないのか?これ。壁も一面に宝石がちりばめられてるし。

俺の鎧よりはるかに輝いている気がするもん!この部屋。

明らかに待合室じゃないでしょここ!


いいのこれ、俺みたいなのが踏み入れてもいい領域なの?

一応クッションの引かれた椅子もあったが、あまりの高級感に座るのがためらわれた。

あんなキラキラに輝く椅子初めて見たよ。

どれだけの贅を極めればこんな部屋作ろうとか思うんだろう。


俺は暇つぶしがてら部屋の備品を一つづつ見て回る。

俺の素人目ですら見てわかるほどの高級な品々。

こんだけあるなら一つくらいパクってもバレないんじゃないか?

この鎧で飲み込めばバレないと思うし。


だめだ!何を考えているんだ。愛と勇気にまみれた男がそんなことするんじゃない!

昔、万引きがバレてどれだけ母さんをなかせたのかおもいだせぇ!


心の中で葛藤しながら備品を見ているとそこに時計があった。

どうやらこの世界の時計も同じ作りらしく、1から12までかかれたものに長身と短針、あと秒針がくっついていた。

この世界も1日は24時間なのか?


となると今は午後4時頃ってことになるな。


ありったけの宝石が放つ光に目を潰されそうになりながらも今の時刻を確認する。


俺は鎧の中で軽く体を伸ばす。

鎧が手足のように動くから気づかなかったが、体の方はずっと動かないままでいたようだ。

伸ばした手足に血が巡っていくのがわかる、きもちいい!


変な気分である。

鎧のことだけではなく今の俺の現状全てが。


今俺はこの世界の言葉でしゃべっている。

言葉はこの体の持ち主の少年が覚えてくれていたので難なく喋れている。

記憶を思い出す限りだと本も結構読んでいたから読み書きも問題ないだろう。


見たこともない文字なのに見知った日本語のように知識がある。


この少年の思いは一体どこに行ってしまったのどろうか?

それとも俺はこの少年の意識と一つになってしまったのだろうか?


なんか前にもこんな自問自答していた気がする。

考えないようにしているが、つい頭のどこかで考えてしまっている。


「すみませんアンリーさん。お待たせしました」


ぼーっと時計を見ていると正礼装に着替えた隊長が迎えに来てくれた。

若いのにピシッとした燕尾服を見事着こなしており、幼さを残すその顔がかなり大人びて見える。


「考えたくないこと、考えていたからちょうど良かったよ。似合ってるね、隊長」


隊長に近づきながらそう言うと隊長もまんざらでもなさそうな顔でありがとうございますと微笑みかける。

俺が女だったらその場で明日押したくなるくらい爽やかスマイルであった。

隊長と二人で目に悪い部屋を出て長い廊下を歩く。


廊下には真っ赤なカーペットが引かれているが先ほどの部屋で鍛えられた俺の目には優しい色合いにすら感じる。


「てっきり、あの部屋に案内してくれた衛兵さん達が迎えに来てくれるもんだと思ってたんだけど?」


「衛兵?あぁ彼らはこの城の使用人ですよ。と言っても全員が爵位を継ぐ予定の貴族の令嬢にご子息ですけどね。その彼らにお願いされたんですよ。怖いから申し訳ないけど、あの鎧の御仁をよんできてほしいと」


本当にこの黄金の鎧を着た『世界の否定者』とやらは一体どんなことをやらかしたのか。

この謁見が終わって住むところとか見つけたら早々にルックライに本貸してもらお。


長い廊下を歩いているが一向に人に会わない。

ところどころにお掃除ロボットのようなものとはすれ違うが、これ意図的にみなさん隠れてるってわけ?


目的の場所らしきところに着いたのか巨大な扉の前にてレザンカをはじめとした護衛部隊が礼装に着替えて待っていた。


隊長と違い全員が礼服を着慣れていないのか落ち着かない様子。

正直あんまり似合っていない。

ルックライに至っては顔を隠していた長い前髪を無理やりかきあげられて、その綺麗な瞳があらわになっていた。


ゴッハムだけが西洋の騎士が着るような鎧に身を包んでいるが、俺とは違い兜は装着してなくて幼い顔がむき出しだった。

子供がコスプレしているようにしか見えない。


「お前らは隊長と違ってにあってないな」


鼻で笑いながらそう言ううと少しムットした顔のレザンカが言ってくる。

メガネを新しいものに付け替えたのか先ほどまで入っていたレンズのヒビは綺麗になくなっていた。


「着慣れていないのですよ、そこの隊長と違って我々は。庶民ですからね」


「ごめんごめん。特にゴッハムは違和感がすごいなぁと思ってつい口に出ちまった」


「僕はこれが通常の格好なんですけど!」


上目遣いで睨んでくるゴッハムの頭をなでる。

くしゃくしゃといきおいよく撫でると痛いといって振り払われてしまった。

周りにいる隊長をはじめとした全員がクスクスと笑っていた。


「では、みなさん行きますよ」


隊長がそう言って、腕につけているものを扉に近づけると王都入り口の時と同じように人一人分が通れるほどの大きさの穴が広がる。


隊長を先頭にレザンカ、グーデル、ルックライ、ゴッハムそして最後尾に俺という順番で入室する。


そこは先ほどの悪趣味な部屋とは全く違った。

確かに豪華なのだが、何か神聖さを感じるような作りである。

天窓から入る太陽の光が室内全体を暖かな光で照らしている。


広い空間のある部屋だがそこに置いてあるものは二つの巨大な椅子だけ。

そこには若々しい、金髪の青年とその隣の椅子に金髪の女性が座っていた。

どこか体調と似ている気もするが?

見ただけでわかるほどの高貴さ。


必要最低限の宝石を体にまとってはいるが彼らの存在感を引き立てるだけの役割を果たしている。

例え方がわからないほどに神々しい。

多分、うちの国で天皇を生で見るとこういう気分になるのではないだろうか?


二人の左脇には先ほどの使用人と同じ格好をした老人が立っていた。

きっと彼も高いくらいの人間なのだろう


隊長が俺たちの一歩前に出て俺を含めた舞台のみんなが横並びになる。

隊長が先にこうべを垂れると他のみんなも頭を下げたので俺も同じポーズをとる。


少しの沈黙が流れた後、金髪の青年が一言放つ。


「表をあげよ。シーグルス・フォウ・グレイシャークとその一向」


その言葉を受けて顔を上げる。

緊張のしすぎか、隊長の顔は分からないが、ゴッハム以外のみんなは顔がガチガチにこわばっていた。

特にルックライなんか今にも泣き出しそうな顔をしている。額からのあせもすごい。


「此度は災難であったな。シーグルス。『ビックバンボア』それも異常アブノーマル種との遭遇。護衛部隊もほぼ壊滅状態の中よくぞ、我息子を無事城まで送り届けてくれた。礼を言うぞ」


「もったいなきお言葉でございます陛下」


「討伐した『ビックバンボア』の死骸と殉職した騎士見習いの遺品は今第一騎士団が回収に向かっている。遺品は遺族に届けるようにと伝えてある」


「ありがとうございます陛下。これで死んでいった彼らも少しは報われることでしょう」


事後処理のように淡々と伝える王様。

隣で座っている王妃様も特に何もしゃべらずにただ座っていた。


この世界では命の価値はそこまで重くないのかもしれない。

俺のいた世界が重く身すぎているだけなのかもしれないが。


王様で言うところの部下が死んだっていうのにあまり悲しそうではなさそうである。

未来ある若者の死を簡単に受け入れてしまう。

そのことに対して少し不快に思うが仕方ない。


これが俺が生まれ変わった世界の常識なのだから。


その後も淡々と話は進む。


「それで、今回の『ビックバンボア』の異常アブノーマル種の出現について我が国の偵察部隊のミスかと思えばそうでもないようだ。このことは極秘ゆえ、省かせてもらう。すまぬな、確証がない事柄を公表して世間を騒がすわけにもいかないのでな」


国王がそう言うと皆が仕方いと言った空気を沈黙で語る。

一体何があったのだろうか?

まぁ、このに国の何かしらの異変が起きたところで俺に何かできるわけでもないが。


「此度は誠にご苦労であった。君たちにはもちろん死んでいったものたちもその家族にはきちんと報酬を用意しておこう。今日は城にてゆっくりと休め」


「ありがたき幸せにございます」


隊長がそう言うと立ち上がる。

するとその場にいた全員が立ち上がったので俺も立ち上がる。


来た道を剃って戻り、扉から出ようとする。

ばれないようにそっと王様が座っている玉座を見る。


他の面々はしっかりと前を向いていて気がつかなかったようだが、王様も王妃様も思っても見ない顔をしていた。


王様は悔しそうに歯を食いしばりながら拳を握りしめ、王妃様は声を殺して泣いていたのだ。


一体彼らはどういった感情でそのような顔をしているのか、俺はそれが気になった。

だから立ち止まった、音もなく全員が扉から出て行くのを確認してから。


「これからは、王や王妃への謁見ではなく、一個人として話をしませんか?」


俺がくるりと切り返す。

俺がそんな行動に出ると思わなかったのか、唯一近くにいた老人の使用人が王と王妃の前に出る。


「貴様!無礼なるぞ!この方々をどなたと心得る!」


腰に差してあった剣を引き抜いて俺に向ける。

やっぱりこの人の格好使用人じゃなく衛兵だろ。


「わかってますよ、おじいちゃん。この国の王様と王妃様でしょう?世間知らずな俺でもさすがにそれくらいはわかるよ。ちょっと気になっただけさ、何でそんな表情を浮かべるのかってね。不敬罪で殺すならどうぞご自由に。別に俺はこの国で働きたいとは思っているが別にこの国にこだわる必要はないから逃げますけど」


一応両手を上げて、攻撃はしないですよってポーズをとる。

おじいちゃん何そのボタン?

あんたも自爆テロをしたいって口なのかい?


「そんな苦虫つぶしたような顔しないでくださいよ、王様。何が悲しくて泣いているですか?王妃様。俺たちが出て行くまで寸とした顔だったじゃないか。お願いだから教えてくれよ。俺への報酬はそれでかまわないですから」


「何をふざけたことを言っている!『世界の否定者』が!『六王神話』の一角がなぜ見習い騎士たちを助けたのか不思議ではあったが、やはりこの国を滅ぼすためにあえて彼らを助けたのか!すべては王と王妃をこの場で亡き者にでもしようと!」


「もう良い、セバス。もうよいのだ。彼らが出て行くまで感情を殺しきれなかった私がいけないのだ」


王様がそう言って手でセバスとよばれた老人を下がらせる。

老人は何か言葉を言おうとしたがぐっと飲み込みその場に下がる。

ぶっ飛んだ想像力をお持ちで、前世での親友を思い出しちまうぜ。


「我が従者失礼を申した。『世界の否定者』殿。個人的に話がしたいそうだな。ココとは別の部屋に移動するとしよう」


ゆっくりと笑う王様。

その顔はよく見ればひどく疲れている男の微笑みであった。



作者の一言裏話

ぶっちゃけノリと勢いで書いているから思ったようにキャラが動かない

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