王都『ユメガアル』
王都、『ユメガアル』。
確か読んだ書物にそんなこと書いてあった気がするな。
世界2大魔法国家の一つ王国ドリイム。
数多くの人類史を発展させる魔法具や魔術魔法をつくり世界の発展に大きく貢献した歴史ある国。
王国が出来上がってから現代約1500年ほどの時が経っている。
『ドリイム王国』で魔法が使えないところに人は住んでいないと言われるほど人々の文化に魔道具が浸透している国である。
王都『ユメガアル』はそんな『ドリイム王国』の要であり、今もなお世界中のありとあれゆる魔法使いや魔道職人が切磋琢磨し文明を築き上げているのである。
なお世界でも珍しい他種族国家であるため他種族排他的主義者の方にはオススメしない。
この街に入ったものは他国でも類を見ないほどの幻想的な街の風景に心奪われることになるだろう。
俺の記憶にある本はボロボロで写真なんかもなかったが確かそんなことが書かれていた気がする。
俺たち一行は巨大な壁についている扉の前にて一度立ち尽くす。
見ただけでわかるほど分厚く、重厚感のある扉。
ところどころに傷が付いていて、歴史を感じさせられる。
他にも王都に入るのが目的な様々な人種が列を連なっていた。
動物のような耳の生えた人に、ずんぐりムックリした人、見目麗しいが耳が尖っている人。
すげー何回まされだけど俺本当に異世界に来たんだなぁって思う。
鎧の隙間から見える人間以外の種族に興奮する。
そんな周りからなぜか視線を感じるのだが、ほとんどのものが恐怖するような怯えるような目で俺たちをいや、俺を見ていた。
『世界の否定者』は一体おとぎ話の中でどれほどの悪行を行ったのか凄くきになるところである。
とりあえず敵意がない証として手を振ってみるもほとんどが蜘蛛の子を散らすかのごとく去って行った。
ショックを受けているとグーデルが優しく肩を叩いてくれた。
その優しさが今は心にくる。
ありがとう。
俺おかげ?というか俺たちは審査待ちらしき人たちの列を無視して一番前に横入りした。
罪悪感を覚えなくもないが俺が近付こうものならみんな列を離れていくんだもん。
遠巻きになんかこそこそ喋ってるけど何言われてるんだろう。
そして、隊長が腕につけていた端末みたいなものを巨大な扉に近づけると扉から触手のようなものが飛び出してきてその先端からレーザーのようなものが発射されて頭からつま先までスキャンする。
スキャンが終わったのかどこからともなく声が聞こえてくる。
『ショウニンシマシタ。シーグルスサマデアルコトヲカクニンオトオリクダサイ』
巨大な扉は成人男性が通れそうなほどの小さな穴が開いた。
なんつぅ近未来的な。
この世界、生贄とかの文化はまだあるくせに俺がいた科学が中心の世界より文明進んでいるんじゃないのか?
周りを見ると他の人たちも次々と開いた穴の中に進んでいく。
「スゲェな」
俺がそう呟くと隊長は誇らしげに言い放つ。
「これくらいはこの国ではたいしたコトないですよ。大体の門に本人認識魔法が付与されてますからね。外国から来たアンリーさんには珍しいかもしれませんが驚くのはこれからですよ」
王子を抱えたまま扉をくぐる隊長に続いて俺たちも扉をくぐる。
扉を抜けるとそこは夢のような世界だった。
ところどころに浮いている水晶のようなものには映像が流れておりそれを見る人々。空には箒のようなものや絨毯のに乗って跳ぶ人々、建物の作りもコンクリートのような物質でできていそうなビルの数々。
何より目を惹かれるのは入って正面にある巨大な噴水。
ただの噴水ではなく吹きだされた水がまるで生き物ごとく自由に動き回っている。
すげー、すげー!すげー!!
なにがすげーて、語彙力がすげーっていうくらいしかなくなるくらいすげー。
まさにファンタジー!アニメや特殊撮影の映像でもない、本当に今俺の眼の前で起きている現実!
テンションが上がる!前世で友人たちと行った某テーマパークなんかよりもすげぇ!
扉正面でも様々な人種がいたけどこの入り口付近ですでにとんでもない数の種族でごったかえしていた。
俺が立ち尽くしているとゴッハムが子供らしからぬ表情を浮かべる。
いや、子供じゃないんだが。
「鎧で顔は見えないけど、相当驚いているね。ここは世界中のありとあらゆる種族が魔法を持ち寄り研究し進化させる。っていってもここはこの王都の入り口にして最も栄えている町『フルム』。実は王族貴族が住んでいる中心街に行けば行くほど落ち着いた街並みになっていくよ」
「いや、でもほんとすげー。今すぐにでも観光したいくらいだ。なぁ、隊長おこずかいくれないか?俺一文無しなんだ。ここまで護衛した料金てコトで俺はここでバイバイってコトで」
「それはちょっと、あはは」
乾いた笑みを浮かべる隊長。
うずうずしすぎてやばい。
この後就職先の斡旋とか一回り下の子のこたちにお願いしようかと思ったけどもうどうでもいい!
今はこのファンタジーランドを見てまわりたい!遊びまわりたい!!
「年下からたからないでくださいアンリーさん。貴方への正当な報酬は城についてからしっかりと清算いたしますので今日のところは我慢してください。また後日私でよければ案内しますので」
ため息をつきながら割れたメガネをかけ直すレザンカ。
27歳にもなってこんな胸が踊るような経験するなんて思わなかったんだもん。
すげー異世界。
てっきり王道の中世のヨーロッパぐらいで文化が止まっていると思ってたけどそんなコトはない。
俺がいた世界で個人的にそれを飛ぶコトが自由になるなんて後何十年もかかると言われてるんだぞ。
乗ってみたいあの空飛ぶ箒!絨毯!
空を見上げていると一つ異様な生物をかたどった乗り物が空を飛んでいた。
一目見るだけで作り物とわかるがあれのモチーフは間違いなく龍だ。
蛇のような胴体をグネグネとくぐらせて、空をとんでいる。
この世界にも龍っているんだな。実在するのか空想上になのかさておき。
なんで俺はカメラを持っていないんだ!!!
前世ならスマートフォンで死ぬほど意味もなく連写しただろうに!
龍の乗り物を見上げていたがだんだんと龍の乗り物がこちらに近づいてきている気がする。
というか近づいていた。
「さっき連絡したばかりなのにやっぱり早いな、王国御用達の特急空車『セイリュウ』は」
隊長がそう呟くとほぼ同時に龍のカタチをかたどった乗り物は俺たちの少し上にて停止する。
そして髭の部分であるノズルが地面に着くと扉が開く。
よっぽど有名な龍の乗り物なのか、周りの人たちも騒いでいる。
どうやらエレベーターのようになっておりこれに乗ると車内に入れる仕組みのようだ。
「え、え?これぼ、ぼくたちも、のって、のってもいいの?隊長?」
「もちろん、すでに許可は取ってある。国王様も大臣もゆるしてくださった」
「まじか!こりゃあ孤児院のガキどもに自慢できるいい見上げ話になるぜ!」
「ぼくも、第二騎士団のみんなと彼女に自慢しちゃおうっと!」
全員が歓声を上げる中、隊長を先頭に龍の髭のエレベーターに入る。
ゆっくりと浮上していき、車内に入る。
中は広くなっており、昔一度だけ乗った高級リムジンのような作りになっている。
窓枠から外の景色も楽しめる。
恐る恐る席に着くとフカフカのソファーに全身が包み込まれる。
柔けぇ、人をダメにするクッションみたい。
鎧を着たままでも感じるほどの感触に心がとろけそうになる。
他のみんなも各々座る。
王族御用達というから使用人も一緒に乗っているのかと思ったがそういうコトはなく、中には誰も乗っていなかった。
全員が座ると同時に音もなく景色が動き始める。
動いているみたいだが揺れも何も感じなかった。
空からの景色には慣れているらしい俺以外の護衛はソファーの座りごこちや備え付けてあった冷蔵庫のドリンクを飲んだり各々(おのおの)自由にしていた。
俺も異世界の飲み物一体どんな味がするのか気になったが、この格好でどうやって飲食城と?
隊長も居眠り王子をそっとソファーの上に置き、深くため息をつく。
緊張の糸が溶けたのかすぐに眠りっけてしまった。
「イケメンがこんな無防備で寝ているのを見るとイタズラしたくならない?」
「すげーなる。この空車マジックペンとかねーのかな」
ゴッハムとグーデルがいたずらじみた顔で隊長の顔を覗き込む。
何かいたずらできるものがないかと車内を散策するがレザンカに注意されすわりなおす。
「『セイリュウ』なら『ドリイム城』まで10分ほどですね。その間は寝かしておきましょう。色々ありましたし」
しんみりとレザンカがそういうと全員無言で頷く。
俺は外の風景を楽しみながら尋ねた。
「これからお城に行くのはいいけど、部外者の俺が言って本当にいいの?怪しさ満点だぜ?この鎧」
「確かにこれから王に謁見する手前、脱いで欲しいところ欲しいところですが」
ちらりと俺のほうを見るレザンカ。
いやんエッチ。鎧を脱いでも残念ながら年頃の男の子が欲情できそうなパーツは何一つないけどな。
「別に構いませんよ。みたところそれも魔法道具みたいですし、脱げない事情もおありのようだ。先ほど隊長が入り口の門の前できちんとあなたのことも報告していたから大丈夫ですよ。多分」
「いつのまに!」
隊長そんな根回しをいつの間にしててくれたんだ。
優秀すぎるだろ。
上司に欲しいくらいだな。
「ありがたいな。できればこのまま、仕事の斡旋とかしてもらえるとありがたいと思ってて。鎧脱いだら多分仕事を斡旋とかじゃなくなるだろうし」
下手すればルックライやグーデルの住んでいる孤児院に送られる。
そんなのやだよ!精神年齢27歳なのに子供として生活していくなんて。
なんの罰ゲームだ!
「『ビックバンボア』を弱っていたとはいえその拳ひとつで殴り倒せるほどのあなたならいくらでも仕事はあると思いますけど。傭兵とか、冒険者とか」
傭兵に、冒険者。
やっぱりファンタジータイプの異世界。
そういう職業もあるのか。
でもそれっていうなれば日雇いの派遣会社だろ?
できることなら俺は安定した収入がある国家公務員の方がありがたい。
この歳の精神年齢だと冒険よりも安定が欲しい。
この歳で無職している時点であまり贅沢は言えないがせっかく掴んだチャンスだ。
己の意思で俺はこうしたいと思えることをしたい。
じゃないとせっかくのボーナスステージ、無駄になっちまうしな。
「傭兵も冒険者も俺の故郷にあるような仕事とは限らんしなぁ」
鎧の顔部分を傾けながら唸る俺。
レザンカはそんな俺を見てもう何も言ううまいとそっと視線を車外にうつす。
「わかりました。そろそろ見えてきましたよ、あれがこの国の城。『ドリイム城』です」
言われてそっちの方に視線を移す。
この王都の入り口の時のような賑わいは一切なく、周りには上品な屋敷が数多く存在する。
その中心にそびえ立つ巨大な城。
歴史を感じさせられるのだが、今建てたばかりではないのかというほど新品同然な輝きを放つ。
西洋の王族が住んでいそうな、城で色合いも派手にカラフルな色ではなく落ち着いたモダンないろあいである。
わまりには警備兵なのか箒で空を徘徊している鎧を着た騎士たちがいた。
某テーマパーク以外で見る初めての城。
やっぱり俺はワクワクが止まらなかった。
作者の一言裏話
「本当は龍型の空車の名前『カ○ドウ』にしようと思ったけどやっぱやめた。