必殺技は大声で叫べ!
うおぁら!
なんとか洞窟の壁を壊して外に出ることに成功。
一度脱いでから着ればいいとも思ったがめんどくさかったので横着した。
それにしてもすごいなこの鎧。
自由自在に動くし、巨大な鎧と言っても転生前の体とそんなに大きさがかわあらないおかげか動かす要領に不備はない。
むしろ、この転生後の子供の体の方が動かすの難しいくらいだ。
実は祭壇を降りている途中、何度も転びかけて死ぬかと思ったしな。
何よりこの破壊力、洞窟の壁を発泡スチロールを交わすがごとく粉砕できた。
腕の部分や足の部分に俺の肉体は詰まってないはずなのに殴った感触まで伝わってきた。
俺が洞窟から出るとさっきより王子様の方の部隊が押されているようである。
舞台の人間のほとんどが地に伏せている。
先ほど隊長と呼ばれた青年の男が王子様をまもるように抱きかかえ、それを守るように数人の護衛が取り囲んでいるだけである。
格好もボロボロで全員が満身創痍である。
ジリ貧というやつだ。
よくよく見れば護衛の子たち若い子ばっかりだな。
見るも無残な死に方した副隊長以外は。
イノシシの方も今まで受けたダメージで満身創痍ではあるが、なんとか立っている状況。
普通野生の獣ってここまで攻撃されたら逃げるものなんじゃないの?
一体この人間たちに何されたんだか。
「おい!なんだあれは!黄金の鎧?う、うそだろ?」
「ふざけんな、あんなおとぎ話の化け物までいるのかよこの森は!」
「おちつけ。あれはおとぎ話だ!もし本当にあの鎧がそうだとしても敵意は感じない。今は目の前の『ビックバンボア』に集中しろ!」
「ですが隊長!もうこの部隊は壊滅状態!私たちを殿として王子と一緒にお逃げください!」
「そんなことできるわけないだろう!」
「ですがこのままでは全滅は必至です!それでは死んでいった奴らが浮かばれません!」
俺の壁を壊すというかっこいい登場シーンは王子を守る青年たちには刺激が強かったらしい。
ひどい言われようであるが、この国のおとぎ話では俺が今きている黄金の鎧は一体どんなストーリーなのだろうか?
少しきになるな。この少年の持っている記憶の中にはないみたいだし、後で聞いてみよう。
良好な関係が築けたらだけどな!
俺が動き出すと王子の護衛の奴らは悲鳴をあげる。
イノシシも俺が動き出したと同時に王子たちに突進する。
護衛の若人たちも炎や水の塊を出したり弓矢で必死に応戦するがイノシシの突進する威力は落とせないでいる。
初めて見る魔法に興奮する余裕もなく、俺はイノシシと護衛たちの間に割って入った。
イノシシの全力の突進。
俺は全身全霊でそれを真正面から受け止める。
この巨大なイノシシの猪突猛進を吹き飛ばされることなく、微動だにもしなかった。
今俺が来ているこの鎧相当にすごいアイテムなんじゃないのか?
10トントラックほどの巨大な生物の突進を食らっても中に入っている俺には、これっぽっちもダメージはなかった。
それどころか、当たった時の振動すらなかった。
巨大なシェルターの中にいるかのような安心感。
だが、このイノシシに触れているという感触はあった。
一方のイノシシの方は突進の反動で身体中の流血している場所から血が噴水のように飛び散る。
護衛隊が放った魔法も背中であたった感触はあったがダメージはない。
興奮により痛みを感じないのか、本当に全くノオダメージなのか。
おそらく前者であろう。
俺なんかよりよっぽど興奮気味のイノシシは鼻息を荒くして激しく地面を蹴る。
蹴った地面は勢い良く土ボコリをあげるも、イノシシは微動だに前に進めない。
ほとんど瀕死状態だというのに元気な野郎だ。
俺は受け止めたイノシシの脳天に向かって思いっきり拳骨を落とした。
「ラーブパァンチ!」
せっかく異世界に来たんだから技名を叫びながらカッコ良く倒さないとな!
技名は俺の大好きなあのヒーローの必殺技を参考にさせれもらった。
俺が放った拳はそのままイノシシの脳天を貫き、先ほどまで爛々としていたイノシシの目はゆっくりとその生気がなくなり、うつろな目をして瞼をとじた。
俺は殴りつけた拳をゆっくりと開き、両手を合わせて合掌する。
現代日本で虫以外の生物を殺したことのない俺である。
親戚で死んだ人もおらず、はじめて目の当たりにする生物の死と自分が殺したという事実に心が嫌に冷めてくる。
人を助けるためとはいえ、命を奪ったものの責務として、心からの謝罪を。
俺が合唱をおえて、王子とその護衛たちを見る。
イノシシも倒したことだし少しぐらいは警戒も緩んでいるだろうと振り返ると護衛の若人たちはさっきよりも険しい顔つきでこちらを睨んでいた。
「最悪だ、あの『ビックバンボア』の成体それも異常種を、い、一撃で殺すなんて。次は自分たちだ。何秒くらい時間を稼げるかなぁ」
「おとぎ話の化け物は伊達じゃないってことか。ほら、隊長いきなって。王子とともに。『ビックバンボア』ならワンチャンあったかもしれないけど、さすがに俺たち四人は命を諦めなきゃだ」
「あーあ。僕、この仕事が終わったら結婚する予定だったのに。彼女に悪いことしちゃったな。隊長よかったら彼女に伝えといてくれる?僕がどれだけカッコ良く死んでいったのかを。彼女に」
「早く行ってください、隊長。あとはあなたの覚悟だけです」
一人一人が諦めた目で覚悟が決まった目で俺のほうを見てくる。
自分の人生最後の瞬間を王子を守るという自分の役目を全うするために、意思表示のごとく辞世の言葉を吐いた。
王子を抱えている隊長だけが困惑した顔でうろたえる。
隊長はその整った顔を王子を抱えている手とは逆方向でぶん殴った。
殴った次の瞬間、覚悟が決まった表情を浮かべ言い放つ。
「あぁ、お前たちのことは、いや、この部隊は俺の誇りだ。だからごめん、死んでくれ」
「「「「了解!!!!」」」」
隊長のその一言に全員がそう叫ぶ。
いいなぁ、そんな全力で人生を生きれるなんて。
俺もそんな風な人間になりたい。
そんな素晴らしい若人に言いたいことがある。
隊長が背を向けて走り去ろうとした瞬間に俺は声をかける。
「待て待て待て待て、助けてあげたのにそれはひどくない?普通ありがとうだろ。俺がどんなおとぎ話に出てくるが知らんが、見た目で鎧を判断しちゃいけないって親に教わらなかったのか?」
俺が言うと全員がフリーズする。
意思疎通ができないってなんで判断しちゃったんだろうな。
中身のない鎧じゃあるまいし。中身がなきゃ鎧なんて勝手にうごかねぇよ。よっぽどのホラーだよ!
逃げ去ろうとしていた隊長も足を止めてありえないといった表情を浮かべる。
「大体さっき、隊長さん?あんた俺から殺気を感じないとか言いながら、仲間たち殺されると思ったの?矛盾したない?はい答えて。わかりやすく、俺が傷つかない感じで答えて」
鎧の身時て人差し指で隊長を指す。
まさか自分に話が振られるとは思っていなかったのか隊長はびくんと肩を震わせる。
「えっと、殺意がないと感じたのはほ、ほんとです。でも、あの『ビックバンボア』を一撃でのしたその攻撃力。てっきり神話の時代から語り継がれているおとぎ話の邪神かと思いまして」
「その邪神様が何をしたのか知らないけど、違うから。むしろ愛と勇気にまみれた友達の化身だから。全く若い子にそんな風に思われるなんてお兄さんショックだよ。はいそこ、武器構えない。降ろして降ろして。友好的にいこうぜ」
フリーズしながらも構えた武器をこちらに向き続ける。
両手でおろすようにジェスチャーをする。
さっきイノシシと護衛の間に入った時その程度の攻撃は効かないってわかっているはずなんだけど、戦闘体制を解こうとしない。
むしろ、フリーズして動けないだけかもしれないが。
俺はゆっくりと歩きながら若人たちに近づく。
すこし警戒を強めてくるも攻撃してくる気配はなかった。
「まずはその王子様を安全なところに連れて行く?それとも死んじゃった君たちの友達の遺体、しっかり埋葬する?」
王子を抱えた隊長にそう聞くと無残に死にたいを晒している同胞たちに少し目を向けた。
命をかけて共に戦った戦友たち。
本来ならすぐに埋葬し、遺品などを回収したいのだろう。そんな表情を浮かべていた。
抱えていた王子をゆっくりと降ろして俺のほうをむく。
「まずは王子を安全なところまで送り届けます。まだ他にも脅威があるかもしれないので。それと勘違いした身で恐縮なのですが、私たちに同行してもらってもいいですか?」
決意に満ちた表情で俺にこうべを垂れる。
直角90度の綺麗なお辞儀である。
「私からもお願いします!勘違いしたことは謝罪しますのでどうか、王都に帰るまででいいので護衛をお願いできませんか!」
「「俺たちからもお願いします!!」」
残りの隊の子たちも頭を下げてくる。
偉いな、俺が彼らくらいの時なんてこんな素直に頭をさげるなんてしなかったよ。
俺はそっと隊長の頭に手をやる。
怖いはずなに得体の知れない鎧を着た俺が頭に手を乗せた時、隊長の方がびくりとふるえる。
「君は君たちはしっかりしているな。そして優しい。俺でよければ一緒にいかしてもらうよ」
鎧のでは硬く痛いかもしれなかったが、俺は隊長の頭をそっと撫でであげた。
隊長はうつむきながら、プルプルと小刻みに肩が揺れていた。
その目にはうっすらと涙を浮かべながら。