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なんのために生まれて、何をして生きたのか、答えられない人生

なんのために生まれて、何をして生きるのか、答えられないなんてそんなのは嫌だ。

昔、大好きだったアニメの歌詞でそんなことを歌っていた。


主人公のヒーローは誰かのために生まれて、誰かを救うような素晴らしいヒーローだった。

弱きを助け、困っているものに手を差し伸べ、悪を撃退する。

自分の生きる目的を原動力をしっかりと持って生きている。


周りのサブキャラも数多く登場しにたような、内容の話もあるけれど決して飽きることはない。


ありきたりで王道だが何年も何十年も日本という国の子供達の心を鷲掴みにしている。

素晴らしい作品だ。


未だに最終回を迎えることなく、続いている。


正義が勝つという当たり前な王道を何千話と続けているのだ。


俺もたまに見る。

現実逃避がてらに見る。

今年で22歳に成るというのに未だに見ている。

その度に、オープニングを聞くたびに、アニメを見を得るたびに思い知らされる。


俺はなんのために生まれて何をして生きているのか?

別に今の生活に不満があるわけじゃないい。

起きて飯食ってクソして大学行って授業行って勉強して友達とだべってバイトして家に帰って風呂入って寝る。


そこに情熱はなく、生きるために必要なルーチンワークをただ繰り返しているだけ。

周りが一生懸命、将来について生きる目的について考え、見据えて、行動に移す中俺は一人だけいつも通りを繰り返している。

やりたいこともなければ、なりたいこともない。

ただ時間の流れに見を任せて生きている。

死ぬ理由もないから生きている。


就職活動そろそろ本格的に動かなければ来年からニートになってしまう。

うちの家庭はある程度裕福で子供も俺しかいないから、両親は数年ぐらいならニートになるぐらいなら許してくれそうだが。


なぜこんな気持ちになるのかというと、それは約一ヶ月前に来たとある招待状のせいだろう。

そしてその招待状の宴会が今日の夕刻から始まる。


時計をちらりと見る。

俺はいそいそと着替えてある目的の場所に行く。

電車に揺られ、タクシーに乗り換えてホテルにたどり着く。


入り口に大人びてはいるが昔の面影がある、中学校時代のクラスメイトが受付として立っていた。

三年の時のクラスメイトと言ってもほとんど関わりはなく、俺が一方的に知っているというだけなのだが。

てっきり、受付は彼ではなく当時生徒会長だったやつがやると思っていたのだが。

卒業式の日も彼が幹事代表と説明を受けていたのだが今日は風邪でも引いたのだろうか?


今日は俺の中学の時の同窓会である。

本来なら欠席と伝えようと思っていたのだが、中学時代からの友人に説得させられて無理あり出席させられただけなのだが。


受付で名前を告げるが受付をしていたクラスメイトはこんなやついたっけ?みたいな顔をされた。

そりゃそうだ。

当時俺はほとんど学校にいきやしなかったんだからな。

グレていたわけでも引きこもりでも反抗期でもなかったんだが、今思えばあの頃から俺は擦れたやつになっていったんだと思う。


会場に入ると当時の面影を残しながらもスーツ姿の男性陣に化粧やドレスをまとい数段大人びた女性陣がキラキラしていて目に毒だった。

俺はウエルカムドリンクをもらうとそのまま壁の近くに移動し自分とはまるで関係ない世界を見ている気分になりながら、グラスの中のシャンパンを少し口に含む。


しゅわしゅわと口の中ではじける酸味がたまらない。


ぼーとしていると俺の隣に肩を並べて一人の男が立つ。

俺と似たような身長でスーツ姿がバッチリ似合っている男性。

唯一、中学時代の俺と友人である男。


「いきなり隣に立つなよ。びっくりするだろうが」


「少しも驚いていないくせに、死ね」


そういうと友人はゆっくりとグラスを傾けてシャンパンを口に含む。

死ねというもこいつの俺に対しての死ねは最早挨拶代わりみたいなものだ。

俺もそれを見てもう一口シャンパンを口にふくんだ。


「最近どうよ?執筆の調子は」


「順調じゃないからここに今日来た。何か良いネタがないものかと思ったんだけどね。思い切って異世界にでも転生してこようかな?で、現世に戻ってきてそれをネタに物語書いてやるさ」


「転生は想像の中だけにしとけ。未来のライトノベル作家がそんなんじゃあ、後先苦労するだろうぜ?」


「間違いなく、僕が異世界転生したらラスボスはお前だろうな」


「笑えないな。コンビニやインスタント食品ばかり食べているお前の健康を気にしてたまに飯を作ってくれる友人に対してラスボスだなんて。どちらかといえば夫婦だろ?もちろん、お前が女で」


「笑えない冗談だ」


「そうだな、もし転生したとしてもお前とだけは結婚しない。そんな笑えない冗談は置いといてお前就活はどうするんだ?このままライトノベル作家目指してフリーターでもすんの?」


「いや今年が最後のチャンスと決めている。どんな経験でも小説のネタにするさ。僕も22だ。今年の冬に何かしらの結果が出なければ潔く就職するさ。就職先は親のコネでなんとかなりそうだしね」


少し影のある顔を下に向け、グラスに残っていたシャンパンを一気に煽る。

やりたいことがあるって、なりたいものがあるってそれだけで羨ましいことなんだがな。

今、目の前にいるやつのほとんどが今年で就職する。

中には高校や専門学校を卒業して既に働いているやつだっている。

結婚して子供がいるやつもいる。


みんながみんな、自分の示した道を歩き始める中俺は一人取り残されている。

なんのために俺は生まれてきたのだろうか?何をして生きたいのだろうか?


あぁ、こういう気分になるからきたくなかったのにこいつが一人だと心細いからとか言うから。

お互いに中学ではボッチを極めていたもの同士、他につるむ相手がいないから一緒にいただけなのだが。

なんだかんだ、こいつと一緒にいるのは心地が良い。

だから、高校も、大学も同じところ選んだんだろうな。


さすがに就職先まで一緒ってのは勘弁だけどな。

お前はライトノベル作家に無事なってくれよ。お前の作品少なくとも俺は好きだからさ。


ただちょっと、ありきたりなんだよな。

主人公が異世界に行ってチートスキルもらって無双してハーレム作って世界救うってのは。

王道も良いけどデビューするならもうちょっと審査員の目に止まるような奇抜な物語のほうが良いんじゃないのか?


たわいもない会話を繰り広げていると、だいぶ人が集まりそろそろ開催の時刻も近づいてきた。

みたところ、俺たちの学年のほとんどのやつが参加しているみたいでざっと100人近い奴らが集まった。

教師たちも都合が合わなかったのか、クラスの担任を受け持っていた3人以外は見当たらない。


俺の恩師である教師は残念ながらこなかったようだ。


3人の周辺は人だかりができておりすっかり大人になった生徒たちに教師陣もテンションが上がっているようだ。


開会の時間ぴったりに、受付をしていた男がステージの上に立つ。

その欲には幹事役の奴らが数人と先生たちも並んで立っていた。

一人一人の短いスピーチが終わり、乾杯という号令を待っている時にそれは起きた。


「うごくな!動くんじゃねぇ!」


その男は急に壇上に上がると受付をしていた男の首に包丁の刃の部分を当てて叫ぶ。

漕ぎたいない格好でヒゲも生え散らかしており、いかにも臭ってきそうな汚い風貌。

初めは何かの演出だと思った。

なぜなら汚い男が堂々とフロアの中心を歩くのを誰も止めなかったからだ。


周りの同級生たちも同じことを思ったのかざわつき始めるも危機感がない。


包丁をあてられている、受付をしていた男以外は。


「お、落ち着こうじゃないか。」


「おちつけ?十分に落ち着いているさ。落ち着きすぎて、落ちるとこまで落ち切っただけだ。でも一人だと寂しいんでなぁ。一緒に来てくれるやつを募集中なんだわ」


ゆっくりと包丁を引くと受付をしていた男の首元から赤い液体が流れる。

ひぃぃと悲痛の声をあげる。

どうやら、演出でもなければ演技でもないようだ。


「どうこれ?小説のネタになりそうか?」


「ブラックなジョークだね。ここ彼の行動にもよるけど、僕が描きたいんはかっこいい主人公であってサイコパスな犯罪者じゃないんだよ」


包丁を持った男は何やらブツブツと呪禁のように念仏を唱える。

ここからだと内容までは聞き取れないがあの二人の間によほどの因縁があるのだろう。


壇上の女性、確か昔副会長をやっていた女が近づく。


「まって、おねがい!あのことは謝るから。その包丁は下において、今ならまだ罪は軽いから」


「うるせぇ、裏切りものの売女がぁぁぁ!軽いなぁ、やっぱりお前の言葉は軽すぎる。謝るから?罪が軽い?なんで俺がしたでお前が上のような口調なんだよ!チゲェだろ?その額を地面に埋まるほど下げて許しを乞うのはお前の方だろうが。お前らの方だろうが!ここにいる連中も全員そうなんだろ?こうなった俺を今心の中で嘲笑っているんだろ?なぁなぁなぁ?」


やばい薬でもやってるんじゃないのか?

目が正気じゃない。他の連中もそのこと気付き始めて悲鳴を上げ始める。


すぐに出口のある扉に行き逃げようと試みるがなぜか扉は開かない。

鍵がかかっている訳でもなさそうだが向こうから何かで突っ返させているのかもしれない。


悲鳴が飛び交う会場で包丁を持った男はゆっくりと受付にいた男を話した。

壇上にいた全員が受付の男のそばにより彼の首から流れる血液をハンカチなどで止血する。


「別にいいか?今更笑われるのも慣れたもんだ。最高の人生のはずだったのにたった一度の裏切りで全てを持っていかれた。俺が生きた証を。だがこのまま泣き寝入りして自殺するのも寂しいからな。だからお前ら」


そういうと包丁をもった男は自分の服を脱ぎ捨てる。

男の上半身には目一杯の爆弾が身体中に張り付いていた。

ドラマやアニメでしか見たことないような光景である。

痩せこけた顔にしては体型が太っていると思ったがそういういうことだったのか。


死ぬかもしれないというのに案外、冷静な自分におどろく。

周りは阿鼻叫喚で騒ぎまくりパニックだというのに。


「悔いがあるとすれば最後の晩餐はシャンパンか。できればパン一つと赤ワイン1杯がよかったな。俺はこう見えて信仰心の強いクリスチャンなんだ」


「無理やり人生に悔いなんて残そうとするなよ。それはキリスト教のやつだろう?よくわからないけど。だいたいあの爆弾みたいなものが本物かどうかわかんないし不発に終わるってオチもある。それに君は良いよな。死ぬ理由がないから生きてきただけの君にとっては都合の良い展開だ。」


「悔いなら他にもたくさんあるぜ?生きる理由も生まれた意味も見つけられず死ぬんだから」


俺は笑い、こいつは死ぬなら一人で死ねば良いのにとわらわなかった。

俺たちが好きな小説の一文みたいで少しかっこいい気さえした。


悔いってほど悔いじゃないけどできることならあのアニメの最終回見てから死にたかったがな。


「俺の自殺に付き合ってくれ」


包丁を振り回す狂人がその手とは逆の手でゆっくりと起爆スイッチのボタンを押す。


目の前が光に包まれてありえないほど強力な爆風が全身を包む。

こりゃ、即死だな。走馬灯のごとく駆け巡る思い出たちが俺の人生を俺に教えてくれる。


何にも答えられない、なんの熱意も意味のない人生だった。


生まれ変わるならどうか、次は答えられますように。

俺はなんのために生まれて、何をして生きるのか、胸張って答えられる人生を歩めますように。


消えゆく意識の中しんじてもいない神様に心からそう願った。


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