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第九話

 



 夢ってさ、大きければ大きいほどいいってよく言うじゃん?

 という事はさ、男の夢がいっぱい詰まっているおっぱいも、大きければ大きいと思うんだよね。

 まあこれは、あくまで持論だけど。


「おい黒崎~、さっきからチラチラ見てんじゃねえよー。どんだけ変態なんだし~」

「えっえ?いや、全然、見てないよ?」

「キョドリ過ぎだよ陰キャ、見てんのバレバレだっての」


 だってしょうがないじゃないか。

 目の前にそんなおっきいおっぱいがチラついていたら、どうしたって男の子の目は吸い寄せられちゃうって。


 五月も半ば。例年気温が高くなっている傾向にあるけれど、本日はいきなり25度を超えた暑さがやってきた。突然襲来した慣れない暑さで、背中のシャツが汗ばむ生徒も少なくない。大半の男子生徒は、上着を脱いでワイシャツ姿になっている。

 女子生徒も本当は脱ぎたいけど、我慢しているのかどうか分からないけど頑なに上着を脱ごうとしない。しかしスーパーギャルの安藤さんはそんなこと知ったことかと言わんばかりにカーディガンを脱いで腰に巻き付け、男子と同じようにワイシャツ姿になっているのだ。


 問 女子生徒がワイシャツになるとどうなるか?

 答 おっぱいが強調され、さらには下着ブラジャーまで透けて見えます。


 そうなんです。今まで上着に隠れていた胸が解放されるのです。

 安藤さんのおっぱいは割りと大きい方だし、その果実を優しく包む衣の色は漆黒に染まっている。

 ごめんなさい、男らしくなかったですね。

 はっきり言いましょう。エロいです。

 見たらいけない、女性に対して失礼極まりない行為だ。頭では分かっているのに、自分の意志とは相反し視線はそちらに吸い寄せられてしまう。まるでブラックホール級の引力並みの力がおっぱいに秘められているのだ。


 それも超美少女でエロくて可愛いくて大きい安藤さんのおっぱい。それに視線を寄越すなというのが土台無理な話だと思う。

 現に、安藤さんをチラ見しているのは僕だけではなく、陽キャだろうが陰キャだろうが関係なくこの教室にいる殆どの男子生徒が隙あらば彼女を見ていた。窓側一番後ろの席にいる僕だからこそ、把握できる。

 だってすっごく目が合うんだもん。


「あ、安藤さんは自覚した方がいいと思うよ」

「ほほー、あたしは何を自覚すればいいのかな~」

「見た目がね、エロいんだ」

「エロ……はぁ~~~!?聞き捨てならないし!おい陰キャ童貞、あたしのどこがエロいんだよ言ってみろ!!」


 自分がエロいと告げられ、顔を真っ赤にさせて僕に迫る安藤さん。

 ギャル恐いよぉ、調子に乗ってエロいなんて言わなければよかった。でも、そのおかげで安藤さんの谷間がチラっと見えてしまう。

 うん、やっぱりエロい。

 困っていると、珍しく七瀬さんと夢野さんが助け舟を出してくれた。


「黒崎の言う通り、今日の花はエロいよ」

「だよね~。女子みんな我慢してるのに~、ハナちんだけ堂々と脱いじゃってるし~。男子の注目の的だよ~」

「え、ええ!?マジ、ホント!?あたし今そんなにエロい感じなの!?」


 まさかギャル仲間の二人から言われると思わなかったんだろう。

 さらに顔を赤く染め、激しく動揺しながら両手で胸を隠す。

 なんだろう……普段自分からエロ行動を取っている安藤さんが恥ずかしそうにしてると、凄く可愛いぞ。こう、グッとくる。ギャップか?これがギャルギャップなのか?


「でも、ほら!今日暑くない?こんなん脱いじゃうでしょ!」

「それでもみんな我慢してんのよ」

「ハナちんは別にいんじゃな~い?歩くエロ魔人だし~、男子のいやらしい視線とか気にならないでしょ~。モモも脱ぎたいけど~男子が困っちゃうから我慢してるんだ~」

「あ、歩くエロ魔人って……」


 確かに一理ある。

 そして夢野さんの言葉は何一つ間違ってはいないだろう。彼女のおっぱいは戦略級の兵器だ。仮に今日、安藤さんのようにその姿を晒した場合、この教室にいる男子は全て前屈みになって授業どころではないだろう。下手したら、トイレに駆け込む者もいるかもしれない。

 そんな哀れな野郎共のプライドを守るために脱ぐのを我慢しているのだというのなら、我々は彼女に感謝しなければならない。彼女の優しさで、僕達は救われたのだから。


「もう分かったってば!着ればいいんでしょ着れば!!」


 やけくそ気味に吠えると、安藤さんは腰に巻き付けているカーディガンを乱暴に着る。

 あぁ……折角のおっぱいが……。

 落ち込んでいると、安藤さんは突然僕のほっぺたを両手でむぎゅっと挟んでくる。そしてジト目で睨んでくると、


「いい?勘違いしないでよ、あたしは別にエロ魔人なんかじゃないんだからね」

「ふぁ、ふぁふぁりました……」

「ホントに分かったの?」


 念押しなのかもう一度聞いてくる安藤さんに、僕は必至にコクコクと首を縦に振る。

 ようやく納得いってくれたようで、彼女は僕の頬をから手を離すと、自分の席に座って照れ臭そうに手足を組む。


(可愛ええやん)


 普段見せない子供のようにむくれる安藤さんを見て、不覚にもトキめいたてしまった。

 それにしても、園原さんといい安藤さんといい、最近の僕のほっぺたはモテモテじゃないか。


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