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第十六話

 


 ギャルってさ、勉強が出来ないとかの頭は悪いと思うんだけど、空気を読んだりその場の雰囲気を察知したりする能力は優れていたり、頭の回転はすごく速いと思うんだよね。

 それはテレビを見ていても、なんとなく感じてしまう。おバカタレントとかでギャルが出たりしているけど、彼女達は案外空気を読んで、多くは出しゃばらない。MCに振られたら全力でボケけてやべー奴だなと思われているかもしれないけど、案外それも計算づくなのだろう。


 だってそうじゃなきゃおかしい。

 初めはあんなにおバカで常識外れでハチャメチャなキャラだったのに、いつの間にか昼の報道番組に出演したりして、そこら辺にいるコメンテーターよりずっと的を射る発言をしているんだもの。

 ギャルはバカ。そういう固定概念に囚われ過ぎていると、いずれ痛い目に合うのだ。


 イケメンABがスーパーギャルの安藤花さんにフルボッコされ尻尾を巻いて逃げ去るという面白い一幕があった日の放課後。

 僕は夢野さんと七瀬さんに土下座していた。


「さ、最低な態度を取ってしまい……申し訳ありませんでした」

「え~何が~?モモ~何を謝られてるのかわかんな~い」


 夢野さん、そう言いながら僕の頭を足でぐりぐり踏み回すのはやめてくれませんか。だけど、わざわざ上履きを脱いで素足でやるところに若干の優しさがある。アカン、何かいけない扉が開きそうです。


「お前が謝ったところで、嬉しくもなんともないんだよ」

「うぅ……」


 七瀬さんにゲシゲシと蹴られる。夢野さんと違って彼女は上履きを履いたままだ。全然優しくない。しかしその遠慮のなさが、僕の愚かな罪を罰してくれているようで逆に救われる。七瀬さんは「つーかさ」と、不機嫌そうに続けて口を開いた。


「お前が私らにあんな態度を取ったのも、どうせ阿部と万代になんか言われたからでしょ?調子に乗るなとか、私達に関わるなとかさ。陰キャ如きが出しゃばるなって感じの」

「な、なんでそれを……」

「いや分かるでしょ。朝までは普通だったのにトイレから帰ってきてから急に様子がおかしいし、あいつ等はこっち見てニヤついてるしさ。何かない訳ないじゃん。花も桃も分かってたっしょ?」

「もっちで~す」

「当たり前っしょ」


 嘘でしょ?そんな初っ端から状況を把握していたの?もしかしてギャルって、頭の後ろにも目がついているのかな?360度見渡せられるのかな?なんて恐ろしいんだ……これじゃあ僕がなにか怪しいことをしていたらバレてしまうじゃないか。いや、しないけども。


「それに~その日の夜に急にラインきたしね~。露骨すぎ~。無視しようかと思ったんだけど、ちょっと探ったらすぐにゲロったよ~。『あの陰キャ、お前等のことウザいって言ってたぜw』とか送ってきたんだ~。面白すぎて笑い死にそうになっちゃった~」


 おいイケメン共、貴様等は影でそんなことをしていたのか。どんだけ必死なんだよ。少しぐらい間を空きなよ。そんなの僕でもお前等がなにかやっただろって感づくわ。もしかして彼等は、かなりアホな子なのだろうか。


「あたしがマジでムカついたのは、ちょっと言われただけであんたがあいつ等の言うことに従ったことなんだよね。あたし達より、あいつ等を取ったんだってムカついたの。あんたに関わるなって言われた時は、マジでオコだったんだから」

「ご、ごめん……」

「まぁでも、さっきのことで今回は許してあげるよ。陰キャのわりには頑張ったんじゃない?」


 そう言われて、僕は顔を上げる。安藤さん、夢野さん、七瀬さんの三ギャルは、面白そうに僕を見下ろしていた。


「ただし、今回だけだからね。次にあんな事言ったら、泣いて謝っても許さないから!」

「絶拒だよ~」

「わかったなら、返事」

「は、はい!」

「よし、じゃあスマホ出して」

「はい!え……え?」


 突然出せと言われ困惑しながらも、僕はポケットからスマホを取り出す。パスワードのロックを解除してから安藤さんに渡すと、彼女は目にも止まらぬタイピングでスマホを操作する。

 ギャルって、スマホの文字を打つ速度は世界一なんじゃないかなと思うんだよね……。


「はい、あたし達のライン入れておいたから。あっでも、あんたからはしてこないでね。あたし達が超絶暇になった時だけ、相手してあげるから」

「あ、ありがとうございます?」


 スマホを返して貰った僕は、友人欄を確認する。新しく『ハナ❀』『MOMO』『77』が追加されていていた。うわー!お母さん以外で初めて女性の友人が出来たぞ!(勝手に入っていた園田さんは除く)と内心で喜んでいると、安藤さんは僕にこう告げてきた。


「これからもイジるってあげるから、覚悟しときなさいよ」

「ちょ、ちょっとは加減して欲しいな~なんて……」

「「陰キャの癖に調子に乗るなー!」」


 三ギャルから一斉攻撃をくらってしまう。

 彼女達にイジられながら、僕はこう思っていた。

 もう何があっても、彼女達を裏切る真似はするまいと。

 あと、やっぱりギャルってパネエっすわ。





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