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第十一話

 


 テスト週間初日。

 安藤さん、夢野さん、七瀬さんの三ギャルに勉強を教えることになった僕は、早速放課後に勉強会を開くことにした。

 場所は教室。なんでこういうイベントに定番である図書室ではないのかというと、安藤さん達がうるさくして周りに迷惑をかける上に追い出される未来が目に見えるからだった。


 それと、その場にいる生徒達から怪訝な視線を送られてくるのも嫌だった。なんであんな陰キャが、三人の美少女ギャルに勉強を教えているんだ?どういう組み合わせ?脅されているのだろうか?あの陰キャ死なねーかな。

 もし僕が逆の立場だったら、絶対そう思う。二度見どころか三度見はしちゃうね。そんな感じの嫌な視線に晒されたくないのと、後は僕達席近いし移動する必要なくねって感じで勉強場所は教室になったのだ。


 安藤さんは僕の机に自分の机をくっつけ、夢野さんと七瀬さんは机を反転して僕達の机にくっつけ、合体して大きなテーブルを作って勉強している。

 勉強の方式は、彼女達がわからない所を随時僕が教えるって感じ。三ギャルに教えていると、ふと思ったことがある。


(この三人、よくこの学校受かったな)


 三人の頭のデキはお世辞にも良いとは言えなかった。うちの学校は特別進学校って訳でないけど、バカ校って訳でもない。それなりに出来ないと、受験に受かることは難しい筈だ。という事は、彼女達はかなり受験勉強を頑張ったのだろう。

 でも、急場凌ぎの受験勉強は記憶に残らない、しっかりと身についてないことが多い。だから入学して遊びほうけていると、今みたいに焦ることになってしまうんだ。


「ぐあ~もう無理~頭疲れた~!」

「モモも眠くなってきたぁ……」

「走りたくて身体がうずいてくるッ」

「まだ一時間もやってないけど……」


 集中が途切れてきたのか、安藤さん達は早くもダウンしてしまった。普段勉強してない人がいきなり勉強しようとしても、長続きすることはあまりない。好き嫌いも勿論あるけれど、脳が受け付けてくれないのだ。

 これは多分“慣れ”だろう。かけっこが苦手な人が突然早く走れることがないのと同じように、普段使っていない頭を突然使ってもすぐに集中力が失われてしまう。集中力を持続させるには、普段から少しでも勉強をして脳を鍛えなければならない。まぁ、これはあくまで持論だけど。


「三十分ぐらい休憩しようか」


 そう提案すると、三人は「えっ」と驚く。


「そんなに休んでいいの?」

「うん、いいよ」

「でもぉ~なんか勿体なくな~い?折角の勉強会なのに~」

「初日から無理したってあまり意味ないよ。無理して頭に詰め込んだって次の日には忘れてるから」

「でも、わざわざ教えて貰ってるのにな……」

「僕の事は気にしなくていいよ。自分の勉強もやってるし」


 そう告げると、安藤さん達は分かったと頷いて各々休憩を始める。トイレに行ったり、スマホをイジったり、身体をほぐしたりと、休憩の仕方はそれぞれだ。彼女達が休憩している中、僕はカリカリと自分の勉強を進めていた。

 十五分ぐらい経ったぐらいだろうか。休憩していた三人が、しきりに時計を見たり、そわそわしたり僕に何かを言おうとしている。我慢出来なかったのか、安藤さんが尋ねてきた。


「ねぇ……三十分て長くない?」

「そ、そう?ちゃんと休憩してからの方が、いいと思うんだけど」

「そうは言ってもさ~、休憩すんのも暇になってきたし、そろそろやってもいっかなって」

「安藤さんがそう思うなら、もうやってもいいと思うよ」


 勉強再開を促すと、安藤さんは「おけ」と短く返してシャーペンを握る。


「夢野さんと七瀬さんも、自分のタイミングで始めちゃっていいからね」

「は~い」

「わかった」


 そう伝えると、二人も勉強に戻る。どうやら三人とも、集中力は回復したようだ。

 休憩時間を三十分と、少し長めにとったのは理由がある。休憩時間を五分や十分と短めに設定すると、「えっそれだけ?」とか「休憩したらまた勉強か~」という風にストレスを感じてしまって、十分な休憩が取れない。さらには再開した後のモチベーションも下降気味になってしまうだろう。

 けど最初から長めに取っておけば、気持ちにゆとりが出来るし、「まだ始まらないの?」とか安藤さんが言ったように「三十分は長い」と思うだろう。“やらなきゃ”より“やりたい”っていう心理状態の方が、絶対に捗ると思うんだ。

 もう一つ細工したのは、僕が休憩せず勉強したこと。人間、誰かがやっているとほんの少しは「自分もやろう」という考えを抱く時もあるだろう。その心理を利用して彼女達を煽り、少しでもやる気効果を高めたのだ。まぁ、それが上手くいっているかどうかは僕にはわからないけど。


「ねえ、ここわかんない」

「~~~ッ!!?」


 隣にいる安藤さんが、僕に身体を寄せながら質問してくる。さらりとした金の上が僕の頬をそっと撫で、華奢な身体が僕の右肩に密着している。


(ふぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!)


 口には出すまいと、僕は心の中で絶叫した。

 なんて、なんて役得なんだろうか!!まさか陰キャオタクの僕が、ギャルではあるが女子高校生にくっつかれるなんて!!

 顔と身体が急速に熱くなっていくのを感じ、心臓がドキドキと破裂しそうなぐらい激しく鼓動している。安藤さんは別段意識なんてしていないのだろう。だけど陰キャオタク童貞である僕にとっては、たったこれだけでも意識してしまうのだ。


 アカン……惚れてまう。あ……その前に、息子がお元気になっちゃう。


「こ、これはね……こうするんだ」

「うわホントだ!こうなんのか!サンキュー黒崎!」


 教えてあげると、安藤さんは喜びながら問題を解いていく。

 あれ?何で離れないの?もう戻ってもいいんだよ?僕と君の肩がゴッチンコしてるよ?


「あたしもいい?」

「う、うん」

「ここなんだけどさ」

「~~~~ッ!!??」


 そう言って、目の前にいる七瀬さんは自分の教科書を僕の方に寄せ、少しだけ身を乗り出してきた。


(ぎょええええええええええええええ!!!)


 七瀬さんのうなじがすぐ目の前にあるよ!!なんてエロイんだ!!ただでさえエロイのに、日焼けてない白い部分も見えてしまい、余計エロく感じる。うなじなんて僕の人生において一度も注目したことがなかったけど、こんなにエロかったんだ!!うなじって!!


「こ、これは、あれすればいいんだよ」

「……そういうことか、助かった」


 新たな扉を開きそうになりながらも教えると、七瀬さんは元の位置に戻る。

 うなじって、あんなにエロいんだ。ボク知らなかった。


「ねえ陰キャく~ん、モモもわかんないだけど~」

「あっはい、今行きます」

「ここなんだけど~~」

「~~~~~ッ!!??」


 夢野さんとは距離が遠いので、僕は立ち上がると夢野さんの横に立ち、問題を見ようとする。


(びゃあああああああああああああああああああ!!!)


 た、谷間が見えおる!!それとピンク色のなにかがチラチラ見えおる!!立っているから、必然的に見下ろす形になってしまう。その際、夢野さんの強烈な巨乳から創生された溝が、どうしても見えてしまうのだ。

 役得なんてもんじゃない。これは地獄だ。このままでは、僕のマイサンが再びビックベンになってしまうじゃないか!!

 落ち着け、冷静に教えてあげるんだ。


「これははね、こう考えるんだよ」

「わ~お、そういうことだったのか~あざ~す」

「い、いえ」


 僕は自分の席に戻り、そっと腰を下ろす。

 はぁ~~~~と、心の中でため息を吐いた。こんなエロいの、いくら命があっても足りないよ。

 凄く疲れていると、三ギャルがにやにやしながら僕を見ていた。

 え?僕なにかした?


「どう、ドキドキした?童貞君」

「すごい面白い反応ありがと~」

「動揺しすぎでしょ」

「……」


 こ、こ、こいつら!確信犯だったんかい!!

 三人で、陰キャオタクの純情を弄んでいたのか!?ううくやじい~彼女達にまんまと弄ばれたのがくやじいよ~!!


「後、タってんのバレてっから」

「ご、ごめんなさい」


 顔を下げて謝ると、彼女達は笑顔で、


「「「しょうがないよ、陰キャオタク童貞には刺激が強かったもんね」」」


 ああ、陰キャ神様。

 恥ずかしくて死んでしまいたい僕を、どうか殺して下さい。

 心の中で、切実にそう思ったのだった。



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