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13 揺るがないクロの心


 昼休みが終わり、俺とクロはそれぞれの教室へと戻っていく。


 廊下には、まだ沢山の生徒達がいて雑談に盛り上がっていた。

 次の清掃開始を告げるチャイムが鳴るまでギリギリ話し込むのだろう。


 サッカーでいうところの、アディショナルタイムみたいだなと、意味不明な事を考えていると、不意にポケットの中のスマホがブルルと震えた。


 スマホを取り出し確認すると、クロからラインメッセージだった。


(クロ):ごめんね薙くん。 今日の放課後、15分ほど遅くなります。


 ······いつものねと思い返信する。


(薙):わかった。 図書室で時間潰しておきます。


入学当初から幾度となく発生するイベント


 ──告白タイム 。


 俺達が付き合う以前から、ちょくちょくとこういうことはあった。


 俺としては無視しとけばいいのにと思うのだが、呼び出しがあれば、クロは指定された場所へ行き、律儀に本人を目の前にして返事をする。


 ······真面目というか何と言うか。


 もう、彼氏となったいまの俺の気持ちとしては、本気で無視してほしいと思うのが本音······。


 ······醜い独占欲だとは分かっている。


 でもそれって仕方ないじゃないか?

 心が勝手にモヤモヤするし、苛つくんだから。

 もはやこれは、自分ではどうこうなる感情ではないのだから。


 終業のチャイムがなった。

 昼休みに受信したクロからのラインが授業の途中から気になり、内容が全く頭に入ってこなかった。


 そして、その気持ちは次第に不安へと高まり今にいたるわけなのだが──。


「あーーーーーっ!!! もうっ!!!!!!!」


 モヤる気持ちを、絶叫と共に(控えめな声で)雲散させた。とりあえず図書室いこっと······。


 図書室はB棟にある。

 俺のいる教室はA棟なので、図書室へ行くには渡り廊下を通らなくてはならない。俺はカバンを持ち教室を後にした。


 そういえば図書室って、マンガの本が置いていたっけか? あまり行かないから、何が置いてあるか全く分からん。


 まあ、あれだな、最近はネット小説も面白いと思うようになってきたし、この機会にラノベっていう手も有りかもなしれない。


 マンガから探すか、ラノベから探すか······フッ。


 そんなことを考えていると、自然と足取りも軽くなり歩くスピードも自然と速くなる。


 よし! あの渡り廊下を渡りきるまでに、どちらを先に探すか決定するぞ!


 マンガかラノベか。マンガ、ラノベ······。

 いや~、俺ってこんなにもオタクだったっけ?

 ───うん、それでも悪くないんだけどね。


 ─────────!?


 渡り廊下の中間地点に差し掛かったその時、右側の外、理科室の前で向かい合う男女二人の姿が目に入った。


 手前側にいる後ろ姿はクロ。

 相対するのは······!!!


 ───新田斗真!?


 芸能界、某人気グループのメンバーの一人。


 えっ!? マジ······?。

 よりにもよって告白の相手が、あいつだったのかよ············。


 いわずもがな、容姿はイケメンにして登校一のモテ男。そんな奴がクロに······告白!?


 奴に告白された女子は、必ずOKを出すと言う噂すらあるくらいだ··················。


 俺の中で最大限の警鐘が鳴り響く。

 同時に黒くドロッとしたものに胸を締め付けられる。


 ──あぁ、もうダメかもしれない······。


 そんな不安が過る刹那、足が震えだし、ガクリと膝がおれる。


 あぁ························。


 心臓の鼓動が激しく打ち付ける。


 そもそも、クロが告白されている所をこの目で見ること自体始めてだっていうのに、これは無いよ······。 終わった······。


 そんな絶望的な情景から、俺は逃れるようにこの場から立ち去ろうとした───。


 その時───。


 パチンッ!!!!!


 外から乾いた音が鳴り響く。


 なにかと思い、俺は音がした先に視線を向けた。


 そこにはワナワナと震えるクロと、左頬を手で押さえる新田の姿があった。


 ──一体、何が起きたんだ!?


 そう考えるも答えはでず、その後クロは何か一言を言い残し、その場から去っていった。

 残された新田は呆然と立ち尽くしていた。


 なに? なに? なに?

 告白中にビンタ?


 あまりの衝撃展開に思考が混乱する。

 何が何だか分からないまま、ひとまず俺はクロとの待ち合わせ場所へと急いだ。


 猛ダッシュで図書室へ駆け込み、そして目についた本を取り出す。

 睨む図書委員を横目に俺は適当な場所へと腰を下ろした。


 本のページを開きつつも、全く文字を読んでいない。何故なら、さきほどの情景があまりにも衝撃的すぎて、あの時のシーンが何度も何度も頭を過ぎるからである。


 ──結局あれって、クロは断ったという事でいいんだよな?


 本を眺めつつ虚空をさ迷っていると、不意に可愛い声音が俺の耳を撫でた。


「お待たせ、薙くん」


「あ!? お、おう」


 ビクッとなった俺の姿にクロはにっこり微笑えんだ。


「薙くん、何の本読んでるの? ──【がつ盛り! 彼氏が喜ぶおかず20選!】?  珍しい本読んでるんだね?」


 コテッと首を傾げながら不思議そうに俺を見つめるクロ。


「ち、ちがうんだ! こ、これは、その············あ、そうそう! 今度クロに作ってもらおうと思って、チェックしてたんだよ!」


「えっ!? そ、そうなんだ······。 うん。 じぁ、今度薙くんがリクエストした料理を作ってあげるね」


 勘違いとはいえ、料理のリクエストに答えてくれるなんてとっても嬉しい。ついさっきまで絶望に打ちひしがれていたというのに、······俺って案外チョロいよな······。


「うん、楽しみにしてる」


「じぁ、借りてくるね」


 本を渡すと、クロはそれを両手で受け取り、ニコリと微笑んだあと受付へと向かっていった。



 帰りの電車。

 今日もこの車輌には数人の客しか乗車していなかった。 まさに奇跡だ。

 今回もいつもの指定席を陣取り、右隣にはクロが『私の指定席』と言わんばかりに、体をピタリとくっつけて座っている。


 幼い頃から変わらない定位置。

 思春期となったいま、お互い恥ずかしさからもう少し離れると思いっていたのだが、以前と変わらない、いつも通りのスタイル。


 意外と思われるかもしれないが、全く恥ずかしはない。もっとも、付き合った今となれば、これが普通の恋人同士の座り方ではないだろうか。


 電車のスピードの加減で車輌が前に傾けば一緒になって前に傾き、後ろに傾けば一緒になって後ろに傾く。


 至極当然でなんて事ないことなんだけど、でも、それをクロと同じように共有しているんだと思うと何故か胸が踊る。

 たった、それだけのことなのに今は嬉しくて仕方がない。


 車窓から流れる見慣れた景色をぼーと眺めていると、不意にクロが少し拗ねるような口調で俺を名を呼んだ。


「ねぇ、薙くん······」


「ん?」


「さっき渡り廊下で見てたでしょ?」


「ん? んーっ!?  いや、あ、あれは図書室に向かおうとたまたま視界に入ったというか、見かけたというか───」


「うん、わかってる。 でも、変なところ見られちゃったな······」


「··················」


 気まずそうに話すクロに、俺は何と言えばいいのか分からず押し黙る。


「普通にお断りしてそれで終わるつもりだったんだけど············。 あの人、薙くんの事············。 ううん、何でもない! もう終わったことだしね」


 そう言うとクロは、スルッと俺の右腕に自分の左腕を絡ませ、そして頭をそっと肩に置き恥ずかしそうに呟いた。


「私、薙くんしか興味無いから······」


 ドクン!!

 と胸が激しく高鳴り、血液が沸騰したかのように熱くなる。

 まさに、俺が欲していた言葉をクロは今言ってくれた。 みるみると心が満たしていく······。


 こんなにもクロは俺のことを好きでいてくれるのに、さっきの告白場面で心がけ折れかけ、あまつさえ、新田がブタレタことに内心喜んでしまった自分が、とても浅ましく思ってしまった。


「─────っ!?」


 そんな自分に嫌気をさしていると、俺の右腕に絡めていたクロの左腕が、するすると下へと伸び、今度は俺の右手の隙間を埋め恋人繋ぎで握り合わせた。


「好きだよ、薙くん······」


 握りあった手をにぎにぎとさせ「えへへ」とはにかむクロ。 まるで「これからもずっと一緒だよ」という表情だった。

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