好きな人のために血に濡れた少年のお話
「貴女に絶対の忠誠を」
レオン。それがお嬢様からもらった俺の名前だ。
俺は自分の生まれを知らない。ただ、気付いた時にはスラムに居て、物を奪ったり盗んだりして生きていた。
そんなある日、お嬢様は突然スラムに舞い降りた。お嬢様は俺達スラムの住人に炊き出しを行ってくれた。まだ幼いのに天使みたいに可愛い人が、俺達のために何かをしてくれるなんて夢みたいだった。俺はただぼーっとその光景を見ていた。炊き出しの列に並ぶことすら忘れていた。
「貴方は食べないの?」
お嬢様はそう言って俺の汚い服の裾を掴んだ。そして食べ物を恵んでくれた。
「貴方のお名前は?…まあ、お名前がないの?それは不便ね。…じゃあ、レオン。レオンなんてどうかしら。ねえ、貴方もいいと思わない?」
ニコニコ笑って俺に名前をつけてくれたお嬢様。優しい方だなと思った。
「そうだわ!良いことを考えた!貴方、私の護衛になりなさい。そうすればもう明日の食べ物にも困ったりしないわ!」
お嬢様はそう言って小汚い俺を馬車に押し込み連れて帰り、父親である公爵様に直談判。結果俺はお嬢様の護衛になった。
ー…
「レオン!貴方のために花かんむりを作ってみたの!つけてあげるからこっちにいらっしゃい」
お嬢様は不恰好な花かんむりを自信満々に掲げてみせて、俺の頭にそっと乗せた。
「レオン。貴方は私の大切なお友達。いつまでも側にいてね?」
俺はいつまで貴女の側にいられるんだろう。それもわからないままに頷いてみせた。お嬢様は満足そうに笑って俺の頭を撫でる。この幸せがずっと続くような錯覚さえ覚えた。
ー…
「ダメです!革命軍があちらに!」
あれからどれほど月日が経っただろうか。この国も他の国同様に、とうとう革命が始まった。俺達の主人である公爵様や奥様、お嬢様は亡命を試みる。もし上手く隣国へ逃げ込めれば、隣国でも貴族として生きていけるらしい。お金にも余裕はある。俺達も、無事に隣国へたどり着けばこれからも頼りになる主人の元で雇ってもらえる。だが、その前に革命軍に殺されてしまえば元も子もない。俺達は主人を守ることだけを考える。
「…。わかった。お前ら、お嬢様を頼むぞ」
「レオン…?」
「レオン先輩、まさか一人で革命軍に突っ込む気ですか!?」
「お嬢様。俺はお嬢様の護衛になれて、この数年間すごく幸せでした。どうか、お元気で」
「…!レオン、待って!」
「それでは、ご機嫌よう」
「待って!私…っ!」
まだ貴方に好きだと言ってないだなんて、随分と自分に都合の良い幻聴。俺は有りっ丈の魔力をお嬢様からいただいたペンダントの宝石に込めて、爆破。
…ああ、お嬢様は無事に亡命出来ただろうか?今の爆破で俺は何人を殺しただろう。お嬢様、もう一度、一目、貴女の幸せな姿を…。
俺の意識は、そこで途絶えた。
ー…
「へー。自分諸共革命軍を爆破ねぇ。思い切ったことをする」
「あの公爵家は結局逃してしまいましたね」
「しかも革命軍にとっては結構な痛手を負ったしなぁ。あの家族は隣国で幸せにやってるみたいだし、悔しー」
「しかし、公爵家の一人娘はまだ彼を待っているそうですよ。大した絆ですね」
「本当に?そりゃあ、彼、男冥利に尽きるだろうね。まあ、管に繋がれた状態で会いにいけるわけないけど」
「…いっそ、かの公爵家と取引しますか?彼と金を交換、とか。あの一人娘、相当溺愛されてるそうですし結構巻き上げられるのでは?」
「あ、それいいねー。足元見た価格設定にしよう。そしたらあの家の財力も削れるし、嫌がらせにはなるもんね」
ー…
結局あの状況でギリギリ生きていた俺は、何故か五体満足の状態まで回復させられて隣国へ送られた。無事に隣国にたどり着き安定した暮らしを得られたお嬢様が俺を迎え入れてくれる。…が、第一声で怒られた。
「レオンの馬鹿!どれだけ貴方が高かったと思ってるの!うちの貯金の半分も取られたのよ!…まあ?革命軍はうちの貯金をもっと少ないと思っていたみたいで、ニタニタ笑っているのを悔しそうな表情で見つめてあげたらすぐにご機嫌になっていたけれどね。半分の貯金くらいはこの国の通信関連の新しい投資ですぐに取り戻せるしね。別に許してあげてもいいわよ」
「…お嬢様が相変わらずで安心しました」
「そう。…ん」
「?」
「許してあげる代わりに罰ゲーム!」
「何をしろと?」
「キスよ!キス!私達婚約したんだからそのくらいいいでしょ!」
「…え?」
婚約…?
「お父様にレオンと結婚させてくれなきゃ家を出るって脅して、レオンを引き取ってもらって婚約を成立させたの!これからはずっと側にいてもらうんだからね!」
…!?
「お、お嬢様?それはさすがに…」
「ついでに明日結婚式だから」
「!?」
「いつまでも側にいてね?」
…やられた。悔しい。でも嬉しい。これからも俺は、幸せなお嬢様をずっと側でお支え出来るらしい。俺は世界で一番幸せな護衛だと思う。