ヒーローは遅れてやってくる
あの子供を無視すればディカーに致命傷を与えられる。
今までの俺ならあの子供を見捨てることを選んでいた。なぜなら、非情にならなければメルフェスを倒せず、さらに犠牲者を生み出してしまうから。
見捨てたくなくても見捨てざる得ない。それしか選択できなかったのが今までの俺。
「……いや……背負い込む必要はもう……ないだろ!」
だが、今の俺は違う。アクセルをベタ踏みをし、グランドタンクは全速力で突き進む。
そして、ディカーを跳び越え、少女の前をドリフトで急停車。コックピット上部の扉を開け、外に出る。
それなりに高さはあるが日和っている時間はない。そのまま飛び降り、少女の前まで駆け寄る。
「こっちだ!!」
俺は有無を少女を脇に抱えると機体の側面に設置された梯子を登り、コックピットに向かう。
少女は恐怖で小刻みに震えている。しかし、逆に抵抗する気も暴れる余裕もないようでまた軽くもあり、運びやすかった。
そうして、全力で梯子を登り、コックピットに戻り、急いで機体を動かそうとした瞬間だ。
「来るか!!」
モニターの映像にディカーが放ったミサイルが迫る来る様子が映し出されていた。それは最早、スコールと言える程の量。
凄まじい爆発音と振動。まるでこの世の終わりだと思ってしまう程の恐怖が襲いかかる。
俺と違い、覚悟も決まっていない少女は頭を抱え、大号泣している。
あまりの振動に制御が安定しない。反撃する暇もない。
グランドタンクの装甲は硬い。しかし、絶え間ないミサイルを永遠に受けられる程の完璧な装甲ではない。
コックピットを危険を知らせる不愉快なアラームが響く。
モニターには無数に映し出される『Caution』の文字と中心に『Bailout』の文字。
今更わかりきった情報を提示して何がしたいんだと機械に苛つく。
今、俺にできることは何もない。悔しいことに。
回避もできなければ反撃もできない。このミサイルの中、外に出た瞬間、炭になるのは確定しているため脱出も不可能。
ただ、俺は待つしかなかった。
ディカーの攻撃が止むことを。
そして、もう一人の戦士が現れることを。
「お前は……いつ来るんだよ……!」
極限状態に追い込まれていた俺はかなり苛立ちが募っていた。
襲いかかるディカーに。
不甲斐ない自分に。
何より何も罪もない少女が巻き込まれ、苦しんでいることに。
俺が苦しむことなんてどうでもいい。死んだって仕方ない。それは覚悟ができているから納得ができる。
しかし、今泣く少女は違う。ただ、当たり前の日常を過ごしていたが、メルフェスという理不尽な悪意によって恐怖を与えられている。
そんなことに納得できるわけがない。
こんな悲しみはこの世界に存在する必要はない。
怒りが頂点に達する。
「俺は一人じゃないんだろ!! 一緒に戦うんだろ!! だったら、言ったことに責任持ってやがれ!! 来いよ!! 日登勇気!! じゃないと皆死んじまうだろ!! それでいいのか!!」
俺は感情の赴くままそう叫んだ。
その瞬間だ。
『いいわけ……ないだろ!!』
空から紅の流星が落ちる。
『チェンジ!! エクスヴァレッド!!』
空中で合体したエクスヴァレッドは脚を突き出し、落下の勢いを利用して、蹴りは決める。
蹴りはディカーの顔面にクリーンヒット。ディカーは勢いよく飛ばされ、地響きと共に地面へと叩きつけられる。
その対面には腰を落とし、どっしりと着地する紅の巨人。
それはエクスヴァレッドだ。
『大丈夫か! 甲太!!』
エクスヴァレッドから映像付きで通信が送られてくる。
画面に映る勇気はかなり必死に形相を浮かべていた。
「遅いんだよ……全く。もっと早くいてくれれば……いや、後悔しても仕方ないか……」
俺はその顔を見て、この上ない安心を覚え、笑った。




