戦闘、グランドタンク
「俺が狙いだとでも言うのか!」
巻き上げられた瓦礫に交じってグランドタンクも宙を舞う。
これは予想外だった。
街の中心に現れ、派手に暴れるものだと予測していた。その方が多くの人間を殺せると思っていたからだ。
さっきまで俺がいた場所は、街全域がよく見え、砲撃にはうってつけの場所だった。ディカーが現れた瞬間、砲撃を行い、足止め。その間にヴァレッドが駆け付け、戦闘が始める。
それが当初の作戦であったがディカーは街で暴れるよりもわざわざ離れた位置に陣取っていた俺に襲い掛かってきた。
まさか、こっちの作戦を理解していたのか?
俺の位置が砲撃に適し、必ず妨害を行っていることにも?
メルフェスにそんな高度の知能があるとでも?
今のところ、メルフェスに知能なんて確認されていない。ずっと戦ってきたがあいつらは如何にして人間を多く殺せるかどうかで行動していたはずだ。
「偶然であってほしいが!」
『甲太! 出てきたのか!』
落下しながらも機体の下部から姿勢制御バーニアから火を吹かし、空中で機体を安定させ、問題なく着地する。
着地地点は街の中心。ここ周辺はおそらく避難が済んでいるため、激しい戦闘が起きても問題はないはずだ。
その瞬間、切羽詰まった勇気から通信が入ってくる。
「あぁ! 予定通りとはいかないが問題ない。俺が足止めする! どのくらいで来れる!?」
『一分だ! いや……もっと速くだ!』
「わかった!」
たった一分……いや、数十秒耐えればいい。
モニターでディカーを確認する。
雨あられのように降ってくる瓦礫の最後尾。ディカーは一直線で迫ってくる。
落ち着け。こういう時は慌てたほうが負けだ。
一度、深呼吸を行い、余計な思考を取り除く。
「まずは回避だ」
頭の中はクリアになった。戸惑うことなく、ペダルを踏む。
機体は全速力で前進し、宙に浮くディカーの真下に潜り込む。
ディカーは動く機体を目で追う。いや、目で追うことしかできなかった。
俺は砲身を真上に向け、真下からディカーを砲撃する。
鳥のように翼も持たなければ、グランドタンクのように姿勢制御用のバーニアなんてものもない。だから、空中で回避行動なんてできはしない。
ディカーは必死になって体を捻り、出来る限りの回避行動を取るも焼け石に水。
弾丸はディカーに命中し、爆炎と黒煙に包まれる。それから数秒して、中からディカーが背中から、落下する。
ゆっくりと立ち上がろうとするディカーにミサイルの追撃を浴びせる。
ミサイルは全弾命中するものの大したダメージに至ってはおらず、スッと立ち上がりお返しと言わんばかりに角から倍以上の量のミサイルを放つ。
「対空機銃展開。このまま、後退して迎撃する」
機体側面に装備された、機銃で迫りくるミサイルを迎撃する。数発は命中し、空が灰色にするもあまりの数が多く、全てのミサイルを打ち落とすことはできない。残ったミサイルはグランドタンクの足で捌くしかない。
「グッ! 振動が!」
ミサイルはグランドタンクに命中こそしないが、付近の地面や建物に直撃し、爆発。その振動で機体が激しく揺れるがしっかり操縦桿を握り締め、堪える。
ここは耐えなくてはならない。こちらが回避に専念しているということは追撃は厳しいはずであり、攻め手にとってはこれ以上にない好機だろう。
現にディカーは跳躍しようと膝を曲げ始め、溜めの動作に入っている。
「そこを待っていた!」
激しい振動に襲われながら、ディカーに狙いを定める。照準が激しくぶれるが手動で無理矢理合わせる。
「直撃に拘るな! 足元を狙ってバランスを崩させればいい!」
冷静でいるため自分に言い聞かせる。
ジャンプする直前、足元に砲撃し、地盤を崩す。そうすればディカーは体勢を崩し、足を止めることができるはずだ。
だが、周囲の状況が悪すぎる。恐らく狙い通りの展開にはならないだろう。
だから、この砲撃に二門の内、一門だけで行う。決定打にならないかもしれないが、外して完全に終わるよりかはまだマシだ。
「放つ……!」
覚悟を決め、トリガーを引き、砲撃する。砲弾は山なりの放物線を描きながら、ディカーに向かう。
そして、砲弾が着弾する。
ディカーの目の前に。
「ガグッ!?」
着弾と同時に爆発が起き、地面が少しばかり亀裂が走る。
加えてディカーの強力な踏み込みもあり、コンクリートの地面に一気に壊れ、ディカーのバランスが崩れる。
しかし、バランスを崩しているにも関わらずディカーは無理矢理跳躍し、襲いかかる。
「そう来たなら!」
バランスを崩して上での跳躍に大した勢いはない。
撃ち落とすの容易だ。
俺は温存していた砲弾をディカーに放ち、命中。
ディカーはグランドタンクの目の前に落下する。
「よし! これなら……!」
ディカーの動きは完全に止められている。この流れであれば大きなダメージを受けることも被害もなく、ヴァレッドの到着まで保たせることはできる。
だが、物事というもののはそう簡単に上手くことはない。
「何? レーダーに反応?」
突如、レーダーにディカー以外の反応が映し出される。
ヴァレッドがもう到着しだかと思いきやそうではない。
では、一体何に反応しているのかとレーダーが反応する地点をモニターで拡大して確認する。
「何!? 何でこんな場所に人が残っているんだ!?」
モニター映ったもの。それ倒れるディカーの後ろ約五十メートル程後ろを子猫を抱えながら歩く少女の姿であった。




