上手くはいかない
一人暮らし始めました
俺はDATの一員となり、グランドタンクを任されることになった。
この事はゴルサップから了承を得た後、ちゃんとお袋にも伝えた。お袋は複雑な表情を浮かべたものの『私達の息子だもんね』と最後には俺の選択を受け入れて、送り出してくれた。
そうして、俺は高校進学と同時にエーオン島に移り住んだ。
学生として勉学に励む裏では厳しい訓練を受け、怪獣……いや、メルフェスの出現に備えた。
基礎体力作りの為のランニングや筋力トレーニング。シミュレーションに半日以上引きこもったこともある。そのあまりの厳しさに始めの方は毎日のように吐いたり、意識を失ったりした。
その様子を見かねた他の職員達は訓練を止めるべきだとゴルサップや白鳥に進言していた。
その優しさは嬉しかったが同時に余計なお世話だと不快にもなった。
きっとまだ子供だから手加減してくれと思っていたのだろう。
しかし、戦う以上、そこに子供も大人も関係ない。メルフェスは子供だから情けをかけて見逃してくれるわけがない。所詮は人間という括りでしかなく、人間であれば平等に殺す。
それに俺だって命をかけて戦う覚悟は決めているが決して無駄死にしたいわけじゃない。変に甘えて死ぬくらいなら苦しい思いをしてでも生きて、世界の平和を守りたいと思うのは当然だろ。
そんな覚悟を汲み取った周りの職員はそれから黙って見守ってくれるようになった。
それから四ヶ月後。訓練にも慣れてきた時に、俺は白鳥に格納庫呼び出された。その格納庫はグランドタンクの整備されている場所とは別の場所で島の奥深く、それもかなり厳重のロックがかけられていた。
ただでさえ、秘密主義のDATがここまで隠し遠そうとするなんて余程の物が眠っているんだろう。
その予想は当たっていた。
最深部には小さな格納庫になっており、その中心には見たこともないロボットの上半身が吊り下げられていた。
上半身と言っても肩だけしかない。腰から下はケーブルが垂れており、塗装もされておらず、灰色一色。いかにも制作途中といった様子だ。
「なぁ、これはなんだ?」
「こいつはヴァレッドだ。我々の……人類の切り札だ」
「切り札?」
博士が切り札と言わしめるものとはと注意深くヴァレッドを凝視した時だ。
ヴァレッドの瞳が光る。
「ハカセ……オハヨウゴザイマス」
「喋った!?」
まさかロボットが喋るとは思わず腰を抜かす。
「こいつには完全自律AIが搭載されている。しかし、まだ教育途中だがな」
「ということは……こいつは勝手に戦うということか?」
「そうだ。本来はヴァレッドがメインで戦い、甲太のグランドタンクが援護をすることが我々の想定しているものだ。だが、現状ヴァレッドは予測や分析能力は高いもののAI故に予測外のことには対応できないことに加えて生物特有の直感というものがない。戦闘において、直感や危険察知能力は必須だ。人間が乗り込まないとあまり戦力にならない」
なるほど。
どんなに高性能なAIでも所詮は物事の計算することしかできず、計算外のことは手を付けられないということか。
特に未知の塊であるメルフェスなんて予想外の事しかしてこないだろう。
「だから、パイロットである俺がこいつに乗ってみろと?」
「話が早くて助かる」
「気乗りはしないな……」
「わかっている。お前がグランドタンクに拘る理由は知っている。あくまで教育と研究だ。ヴァレッドが一日でも早く戦えるように人間の思考と反射を学んでもらうのだ」
俺はヴァレッドを見る。
別に我儘を言うつもりはない。世界の命運がかかっているんだ。子供じゃない。
だが、俺はこういうAIや自動制御みたいな機械の勝手な介入はあまり好きでじゃない。
私生活でも俺自身はこう動きたい、こうやりたいと思っているのにそれは違うと機械に否定されるのが癪に障る。
グランドタンクも最初はそうだった。わざと偏差撃ちをしようとした時に勝手に標準を修正されたりして、上手くいかないことが多く、今では補助を殆ど切って、マニュアルでやっているくらいだ。
そんな俺が完全自律型AIと上手くいくとは到底思えなかった。




