父の死
誤って別の作品にこの話を掲載してしまいました
大変、申し訳ありませんでした
親父が仕事に出てから既に一週間が経ったが帰宅することなく、ましてや連絡も来ない。それだけならいつものことだから心配はしない。自衛隊が出動するということは大きな災害が起きた場合でテレビやニュースで報道されるから意外と情報が手に入るというのもある。
でも、今回に関しては災害が起きたんて報道もない。ましてや訓練中に事故が起きたという話も聞かない。
いったい何が起きたのだろうと不安が募るばかり。
そんな嫌な日々が続いた一週間後、ようやく連絡をあった。
しかし、連絡が来たのは自衛隊病院から。
どうしてそんなところなのか。喉の気道を直接握り潰されているような息苦しさを覚えながら、俺とお袋は土砂降りの雨の中、一目散に病院に駆けつけた。
病院に到着すると医師の一人が親父の元に案内してくれた。医師の表情は非常に暗く、周りにいる看護師達も目を合わせないようにしている気がした。
そして、医師がある部屋の前で立ち止まる。その部屋の名前は安置室。
全身から血の気が引いた。お袋は飛び込むように部屋に入っては毛布がかけられ、寝かされている人の顔に乗せられた白い布を取る。それを見て、膝から崩れ落ちる。優しいお袋から発せられているとは思えない絶叫と嗚咽が悲惨な現実を突き付ける。
俺は恐る恐る近づく。
ベッドの上には寝ていたのは親父だった。でも、顔色に生気は全く感じられず、鬱陶しいと思っていたいびきも一切聞こえない。
何よりお袋がこれほど泣き叫んでいるのに親父は一向に目を開くことはない。
あぁ。親父は死んだんだ。ようやく現実の断片に触れられた気がした。
涙は流れなかった。お袋のように取り乱すこともなかった。あまりのショックに感情が追いつかなかっただけなのかもしれない。
それ以外の要因を考えると親父からずっといつ死ぬかわからないから覚悟をしてくれと言われていたから、無意識に別れの覚悟をしていたのかもしれない。
そしてだ。一番の理由は親父の表情だ。苦しい思いをして死んだにも関わらず、その表情は満足気で安心しきっていたから。きっと、最期まで自分の使命を全うして、全力で生きたんだろう。
悔いを残さず死ねたことが唯一の救いだと思ってしまったら、泣いて悲しむことが侮辱になってしまうと俺は感じてしまった。
そうして、無言の再開を終えた俺とお袋は霊安室から出る。お袋の精神はズタボロで看護師に連れられ、別の個室へ入っていた。
俺はお袋についていかず、薄暗い廊下の置かれた少し古めなベンチに腰掛ける。
そして、再び疑問を抱く。
どうして、親父は死んだのかと。
何が起きて、何が原因で親父が死んだのかが気がかりで仕方がなかった。
「君が兜山甲太か」
すると、野太い声が俺に向かってかけられる。
顔を上げるとそこにはサングラスを手に持った、筋骨隆々の肌黒い外国人が俺を見下ろしていた。
「あんた誰だ」
「ゴルサップ・ベインだ」
「……何の用だ」
「君の父親のおかげで沢山の人が救われた。本来ならば本人の伝えるべきだが代わりに君に礼と……謝罪を言いに来た」
その口振りは明らかに親父の死の真相を知っているようだ。
俺は居ても立っても居られず、立ち上がり、ゴルサップに詰め寄る。
「何が起きたんだ!! 人が死んでいるっていうのに何も情報がない!! テレビもネットでも災害が起きたなんてことも伝えられていない!! 何で親父は命を落とした!! その口振りならあんたは知っているんだろう!!」
捲し立てる俺を前にしてもゴルサップは気圧されることなく、堂々としている。
逆に俺を見定めるようにじっと見ている。
ゴルサップの瞳の奥には確固たる覚悟と意思があり、逆にこっちが気圧されそうになる。
「怪獣だ」
「ふざけたこと言ってんじゃねぇぞ!!」
凄みのある男から放たれた浮世離れした言葉に俺は怒りを覚える。
感情のあまり、ゴルサップの胸倉を掴む。体格のいいゴルサップを持ち上げることなんてできない。正直、やろうと思えばゴルサップは俺を振り解くことなんて容易だろう。
でも、それをしないならゴルサップなりの覚悟なんだろう。
「この世界には未曾有の危機が迫っている。メルフェスという未確認生命体が現れ、人類を甚大被害を出している」
「そんな話は聞いたことがないんだがな!」
「それはそうだ。我々が情報を統制し、戒厳令を出しているからな。混乱を防ぐためにな」
「信じられるのか!? そんなこと!!」
「私の言葉を信じなくても構わない。だが、これだけは信じて欲しい。君の父親は避難が遅れた人々を逃がす為、メルフェスに一人、勇敢に立ち向かった。そのおかげで多くの人々が救われた。君の父親は本当に素晴らしい人だ。救われた人も彼に心から感謝している」




