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鋼鉄の勇者 ヴァレッド  作者: 島下 遊姫
大地に聳える紅の城
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貫く想い

今日から水星の魔女二期や!!!

 夕暮れによって大地が紅に染まってくる様子をコックピットから呆然と眺める。

 時間が経つに連れ、不安が大きくなり、心が影に覆われていくような気がした。

 俺は四人の人間を救った。それでいいんだ。目の前で失われようとしている命を救わずして、何の為の力なんだ。間違ったことはしていない。 

 でも、救うことに精一杯でディカーを逃してしまった。

 頭の中で兜山甲太の言葉が嫌になるほど反響する。

 

『勇気。思い詰めても仕方がない。次現れた時に倒せばいい』


 暗い影を落としていることに気づいたヴァレッドが励ましの声をかけてくる。


「ありがとう。でも、そうじゃないんだ……」


『そうじゃないとは?』


「あの四人を救ったことを後悔するんじゃないかと思う自分がいて、嫌になるんだ」


 もし、再びディカーが現れ、俺がいた街みたいに破壊限りを尽くし、多数の犠牲者が出たら、俺は自分を貫ける自信があるのかわからなくなってしまった。

 そういう弱音があの四人の命を軽視しているみたいで許せない。

 命の価値は重い。かけがえのないものだ。だからこそ、平等で数えられるのかもしれない。

 そう考えるとあんだけ否定した兜山甲太の意見が正しく思えてくる。そういう信念を貫けない自分もまた許せないんだ。


「なぁ、ヴァレッド。お前ならあの時、どうしてた?」


 俺はヴァレッドに問う。


『私ならあの四人を見捨てて、ディカーを倒す。残念ながら甲太の言う通り、その方が合理的だからだ。しかし、その場合。勇気が戦う意味はどうなる?』


「えっ?」


『私が判断して、私が戦う。それでは君はただ私を動かすだけのただ部品でしかない。それなら君が私と戦う意味はない』


「厳しいこと……言うな」


 ヴァレッド


『勇気。君の選択が正しいのかは私もわからない。だが、四人の命を救った。街の被害は少なく、住民達の避難も間に合った。今ある結果だけなら救えたものの方が多い。もしものことを考えるのは正しいが考えすぎて、動けなくなるようでは意味がない』


 確かにそうだ。

 まだ、犠牲者は出ていない。なのに出る前提が動いていたら、動きは後手になって、本当にたくさんの命が奪われてしまう。

 違う。俺達の使命は一人でも多くの命の世界を救うことだ。


『心配しなくていい。勇気がもし考え過ぎてしまったら、私がアドバイスをする。その上で判断してくれ』


「目が覚めた。助かった」


『当然だ。私達は相棒(バディ)だからな』


 俺とヴァレッドはお互いに信頼を確かめ合う。

 互いにできないことをカバーし合う。それが俺達の戦い方だ。

 不安を吐き出し、心スッキリしたところで戦闘地域から少し離れた場所に設営された簡易基地に到着する。

 スタッフの誘導を頼りにゆっくりと確実に着陸をし、完了すると、コックピットから降りる。

 テントや車、そしてこちらも簡易的ではあるがブレイブジェッターを格納できる格納庫まで建ててあった。そんな感じでふと周りを見ていたその瞬間だ。同じタイミングで到着したグランドタンクから兜山甲太が飛び降り、鬼気迫る表情を浮かべながら全力疾走で迫ってくる。

 そして、目の前まで来るやいな、胸倉を掴みブレイブジェッターの外装に叩きつけてくる。


「何考えてんだ!! あの場面でディカーを倒さなければ被害が大きくなる!!」


「でも……!」


「お前のでもで失われる命を増えてたまるか!」


 その声色は酷く恐ろしいプレッシャーと怒りが混じり、普通ならビビって反論なんかできない。

 だが、兜山甲太に嫌味は感じない。兜山甲太も本気で戦い、世界を守るという使命を背負ったうえでの怒り。

 間違ってはいない。

 でも、俺の信念とは少しだけ逸れているだけ。臆することなんてない。寧ろ、正面から張り合わなければ説得も理解もできない。


「お前こそ何考えてんだ!! 救える命を見捨てるんなんて!!」


「そうしなければ救えない命が生まれるからだ!!」


「なんでお前ははじめから諦めてんだ!! 人の命を簡単に諦めるな!!」


「命だからだ! 幻想を追い求め、全てを失えば取り返しがつかない! お前だってわかるだろ! その上での判断だ!」


「幻想じゃねぇ! 現実だろ!」


「俺だって現実の話をしてる!!」


 お互い、信念を曲げることなく真正面からぶつかり合う。

 一歩も引かず、一ミリも曲げず、ただ殴り合うような言葉の押収。

 少なくとも建設的な話ではないし、きっと落とし所なんてない。あっても落とそうとはしない。

 終わらない言い争いの中、突然、全身に凍えるような冷たさが駆け巡る。


「二人共、落ち着け」


 全身から水が流れ落ち、水滴が乾いた地面に吸収されていく。

 ふと横を見ると二つのバケツを持った白鳥が俺達を呆れたように見ていた。


「つまらない言い争いはよせ。今やることは休息だ。いつディカーが現れても戦えるように英気を養え」


 白鳥の最もなことに俺達は何も言い返せない。

 すると、兜山甲太は一瞬、俺を睨みつけた後、足早にテントの中へと向かってしまった。

 そして、取り残された俺に今度は白鳥が話しかける。


「甲太のことは責めないでくれ。あいつの判断は正しくはないが間違ってもいない。それは君と同じだ。それに甲太なりの気を使っているんだ。そして……罪滅ぼしでもある」


「……どういう意味なんだ?」


 すると、白鳥は大きく息を吐き出し、重い事実を話し始める。


「……あいつはドリラと戦い、逃してしまった。そのことについてあいつは罪悪感を抱いている。救えなかった命と戦いに巻き込んでしまった君にな」

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