砲撃
鹿の頭に筋骨隆々の肉体はあまりにもアンバランスで気色が悪い。
あれが今回のターゲットであるメルフェス--ディカー。
ディカーに狙いを定め、落下しながらヒートキャノンを放つ。体制は安定しないこともあり、弾丸はディカーに命中することになく、手前で爆発し、土煙が舞う。
ダメージこそ与えられなかったが、注意を引くには十分だ。
ディカーは土煙を割きながら振り返ると金切り声に似た雄叫びを上げる。そして、攻撃してきた俺達を見つけると異様に姿勢のいい走りで迫ってくる。
『来るぞ!』
「見ればわかる!」
ディカーに下を取られる前にエクスヴァレッドが着地し、大地が沸き立つように震える。
そして、ディカーは拳を前に突き出しながら、突っ込んでくる。
エクスヴァレッドは右に動き、回避するとメルフェスは前につんのめり、早速体制を崩す。
単純な奴だ。見た目に関係して、馬鹿なのかと高を括ってしまった。
ディカーは両手を勢いよく、前に突き出し、大地に突き刺す。そして、勢い良く、脚を後ろに強く蹴り出す。
まるで弾丸のように早く、鋭い蹴り。まともに受ければただでは済まない。
俺は反射的にペダルを踏み、後ろに向け、ブーストを吹かす。まるで槍のような鋭い蹴りはエクスヴァレッドに触れる間際に伸び切る。
「この図体でこの反応速度!? 厄介だな!」
『距離を取って攻撃するぞ!』
「わかった!」
近接戦は不利と判断した俺達は距離を取り、射撃戦を行う。
腕部からアームドガトリングを展開し、弾をばらまく。
口径は九十ミリの弾丸は決して無視できない威力だ。先ずは回避に徹するものと俺は予測していた。
しかし、それは甘かった。
「バギュゥ!」
「何!?」
迫る弾丸に対し、ディカーは回避する素振りなど一切見せない。それどころか頭を前に突き出し、追撃の体制を取る。
一体何をするべきかと思った瞬間、ディカーは弾丸の雨の中を突っ走ってくる。しかし、弾丸はディカーの肉体に命中することなく、その自慢な角で弾丸を弾き、受け流されてしまう。
予想外の攻撃を前に後手になってしまい、迫るディカーに対応に遅れてしまい、気がついたらディカーは目前まで迫っていた。
だが、激突寸前のところでエクスヴァレッドがディカーの角を掴み、必死に抑える。
『しっかりしろ! 勇気! たかが弾を弾かれただけだ! 大したことではない!』
「そ、そうだな! 気を取り直し……うわっ!?」
頬を叩き、気を引き締めようとした時だ。
全身に浮遊感と下方向から強烈なGが感じる。
なんと、ディカーが馬鹿力で持ち上げ、エクスヴァレッドを投げ飛ばしたのだ。
こっちは抑えていたにも関わらず、それ以上のフィジカルで圧倒してくるとは流石に焦る。
そして、ディカーは宙に浮く俺達を睨み、膝をグッと曲げる。
『何をする気だ!?』
「……突っ込む気だ! ヴァレッド!! 回避するぞ!」
『間に合うか!?』
「間に合わせるぞ!」
空中で上手く身動きが取れないこの隙にその驚異的な脚力で跳躍し、角で突き刺すつもりなんだろう。
エクスヴァレッドの脚部からブースターを吹かし、距離を取ろうとするものの、ディカーの視線は切れず、完全にロックオンされている。
「避けられない!?」
『馬鹿か。なら、跳躍の溜めをしている今攻撃すればいいだろ』
額から汗が流れると同時にヴァレッドではない別の声が聞こえてくる。
そして、ほんの数秒後だ。ディカーの脇腹に砲弾が命中し、小さな爆発が起きる。




