戦地へ
謝ったところで何も変わらず、気まずい空気のまま格納庫へと到着する。
無言故に薄暗い無機質な壁に囲まれた廊下に冷たい足音が響き、余計に気不味さが増す。
こんな空間がさっさと終わってくれないかと強く願うが意外にも廊下が長く中々終わらない。
そんなことを思いながら十分近く歩くことでようやく格納庫に到着する。
格納庫は打って変わって出撃前の最終準備をしているためDATのスタッフが慌ただしく動いている。
鉄と鉄とぶつかる甲高い音やエンジン音。システム音やスタッフの切羽詰まった声が俺の気を引き締めさせる。
「ようやくか、二人共、今から出発する。乗り込んでくれ」
タブレットを見ながら周囲のスタッフに命令を飛ばしている中、俺達に気づいた白鳥はビークルに乗り込むよう命令する。
すると、兜山甲太は無言でさっさと自分のビークルの元に走り出していく。
俺も黙ってブレイブジェッターに向かう。その最中に見たこともないビークルが目に入った。
「あれがグランドタンク。あいつが乗るやつか」
兜山甲太の向かう先に黄土色の戦車あった。ただ、普通の戦車ではない。機体の上部には長い砲身が二つあり、さらに側面にはミサイルランチャーやガトリングガン等も装備されている。
如何にも重装備と言った佇まいだ。
戦力としては申し分ないのだが、一つ疑問が浮かんだ。
あれは戦車であり、ブレイブジェッターのように空中を飛行することはできないはずだ。いや、DATの技術力ならできないこともないのだろうか、見た感じ翼もなければブースターもない。
「なぁ、ヴァレッド。あれでどうやって出撃するんだ?」
『グランドタンクとマリンカイザーは飛行はできない。だから飛行支援機「リーン」。博士達はクツと呼ぶ物に乗せる』
「マリンカイザー? クツ?」
聞いたことのない単語が連続で耳に入り、思わず首を傾げる。
すると、タイミングよくグランドタンクが動き出す。それと同時にグランドタンクの前から赤く平べったい戦闘機がゆっくりと後退している。
「あれがリーンか?」
『そうだ』
「何というか……変な形をしているな」
戦闘機と言うがそのシルエットはかなり奇っ怪だ。
普通は機体後部にあるエンジンは大型の物が左右に一つずつ着いている。また、翼はかなり大型で先端にはプロペラが付いており、形状はオスプレイに近い。
機体の先端はコックピットになっており、そこに関しては普通ではあるが、一番の特徴は機体の中心だ。
ダンプカーのように空洞があり、如何にもそこに何かを入れられるようなわかりやすい設計になっている。
すると、リーンの後部が展開し、スロープになる。その上をグランドタンクが走り、リーンの中に綺麗に収まる。
「なぁ、あれってスピード出るのか? 流石にブレイブジェッターと随伴できそうにないけど……」
『あぁ、不可能だ。リーンはあくまで輸送機だ。速度はそこまで高くはないがそんなものは二の次。必要なのは輸送能力の高さ。グランドタンクなどを輸送できる他、補給物資や人員なども乗せることができる。それが役割だからな』
「なるほどな。必ずしも戦闘能力の高さが戦いの全てじゃないか」
戦闘はただ直接戦うだけではない。
戦う為の情報収集だったり、長く戦う為の補給物資。サポート面を含めて、初めて戦いを優位に進めることができる。
決して俺達だけでは戦うのは厳しいことなんだな。
そんなことを思い、気を改めながらブレイブジェッターに乗り込む。
計器やら目の前のパネルを確認し、出撃前の最終確認を自らの手で行う。
「異常なし。いつでも行ける」
『それなら私達から出撃する』
「了解!」
俺はレバーを前に出し、ブレイブジェッターは前にゆっくり進める。
視線の先には米兵の人が赤い誘導灯を下から上に向かって振って、合図を送ってくれているのでそれに合わせる。
ある程度進むと、米兵の動きが止まるので俺も一緒にレバーの動きを止める。
すると、床がゆっくりと上がっていき、カタパルトへと到着する。
太陽に照らされ、輝く海と晴れ渡る空が何とも言えない開放感を与えてくれる。
『勇気、出撃は私達のタイミングで行っていいそうだ。それと例の台詞、忘れるなよ?』
「わかったよ。しょうがない……日登勇気、ブレイブジェッター! 出る!」
ペダルを全力で踏み、エンジンの出力を上げる。
コックピット内でも轟々とエンジン音が聞こえてくる。
そして、ブレイブジェッターは鋼鉄の甲板を駆け、空へと飛ぶ。




