暇つぶし
今、パルデア地方に出張中です
人気のない大きな洋館のエントランスに俺はいた。
天井から大きなシャンデリアが吊るされているものの、広いエントランスを十分に照らすことはできず、薄暗く、不気味な雰囲気が漂っている。
背後にある観音開きの大きく、重い鉄製の扉は今は開かず、逃げ場を塞がれてしまい、異様な恐怖を抱く。そして、エントランスの側面には別の部屋に続く扉と中心には二階へと二つの螺旋階段。
某サバイバルホラーゲームのステージまんまの場所。
俺は身構える。
そんな場所にこれまた馴染みのあるゾンビがゾロゾロ現れ、問答無用に襲いかかる。
「それ! バン! ビューン!」
すると、隣からナナのはしゃぐ声が聞こえると同時に銃弾がゾンビに命中。HITのメッセージと共にゾンビは消滅。
「やったぁ! 倒せたぁ!」
ゾンビを倒して、過剰に喜ぶナナ。
しかし、喜ぶ暇を与えまいとゾンビは途切れなく、襲いかかる。
「にょわわわわ!?」
「滅茶苦茶楽しんでいるな」
俺はそんなことを呟きながら銃型のコントローラーの引き金を引く。ちゃんと照準はゾンビの頭部に合わせている。
これまたセオリーで頭部に攻撃すれば一撃でゾンビは倒れる。
それを何度も繰り返す。すると、あっという間に敵は全滅し、目の前に派手なエフェクトと共にゲームクリアの文字が現れる。
「もう、難しい! でも、楽しい!」
コントローラーを置き、VRヘッドを外すと、隣では興奮冷めやらぬナナがいる。
クレープを食べた後、俺達はゲームセンターに向かい、こうしてゲームをしている。
ナナ曰く、このゲームはまだ世には出ていないらしく、この島の人間が世界で一番早くプレイできるからお得らしい。
確かにそうなのだが、裏側を知る者として少し複雑な気持ちになる。
というのも若者が多いこととそもそも実験都市としての側面があることからこの島に参入する企業は研究、開発中の物であったり、完成した物を実際に運用、提供して、社会への影響や顧客の反応を確認したりしている。
だから、今やったゲームはわかりやすい。俺達は知らない内に所謂テスターとしてプレイし、このゲームをより良い物として世界中の人達に楽しんで貰うために少なからず貢献している。
最もこれをモルモット扱いされていると思ってしまう人もいるだろうが、それは個人に委ねられるだろう。
「あっ! ゆう君! 凄い数字! めっちゃ強いじゃん!」
「まぁ、こういうのは慣れているから」
そして、島にこういった最先端を積極的に触れられる理由がもう一つある。
それはDATのお溢れ、副産物だからだ。
特にこのゲームなんか俺がいつも訓練で使用しているシミュレーターを一般用にデチューンした物。慣れていることと普段使用しているものよりも難易度が著しく低いこともあって、高得点を出すことができた。
「あーあ! お腹空いた! 今度はたこ焼きを食べよう!」
「マジか……さっきなんか、ハンバーガー食ってだろう」
ゲームを終えるとナナはお腹を擦る。
その異常とも言える食欲に驚きを超えて、恐怖を覚える。
クレープを食べた後にはハンバーガーを片手にベトナム料理のフォーを頂き、さらにデザートとしてタピオカティーとレアチーズケーキを食べている。
普通なら胃がもたれて動けないだろうにナナは平然とし、それどころか少し動いただけで腹を空かせる。ナナの胃袋はブラックホールかなんかだと本気で考えてしまう。
「そんだけ食うと太るぞ」
「そうなの? でも、私は太ったことなんてないから大丈夫!」
すると、ナナは自信満々に胸を張る。
確かにこれだけ食べているのに太っているように見えない。お腹は出ていないし、手首も細くて太もももスラッとしていてスレンダーな体型だ。
身長がもう少しあればモデルとして活躍できそうなくらいだ。
ただ、小柄で細身な体型の中で胸の一点だけ出ている。きっと、普通の男性ならば凝視してしまうような立派な物だろう。
しかし、俺の場合はそんなことを気にしない。というより、気にする余裕なんてない。少しでも気を抜けばナナは勝手にどこかに行ってしまう気がするのだ。
犬の散歩で一瞬だけリードを離したら目にも止まらぬ速さで駆け出していくようなそんな感じ。
「じゃあ、お腹空かせようよ!」
またしてもナナは突拍子もないことを言い出すと同時に俺の手を掴む。
「見て欲しいところがあるんだ!」
「見て欲しいって……」
お腹を空かせると聞いて、軽い運動をするものと思っていた。
でも、そんな簡単なことをするつもりはナナにない様子であった。




